アグネスタキオンは走る。
グラウンドを駆け回るのが目的では無い。さすがにあれほど大量のウマ娘の中に飛び込んでは包囲されてしまう。
カフェたちも後ろから迫ってきている。止まることはできない。
行き先は正門か、裏門に限られる。
そして状況を告げる、勝手に放送室に入り込んだステイゴールドの声がスピーカーから響き渡る。
『アグネスタキオン、正面突破だぁ!正門に向かって突撃する、しかしそこにいるのはシンボリルドルフ!
生徒会長、学園最強のウマ娘!真正面から突っ込んでいくのかアグネスタキオン!』
迫り来るタキオンを見据え、シンボリルドルフは不敵に笑った。
「タキオン、君の才能は常々買っていたのだが……わざわざこの私を相手に選ぶとは、勝てる自信があると思っていいのかね?」
立ちはだかるルドルフの勇姿を見やると、タキオンは狂気じみた笑みを浮かべた。
「もちろんさ会長!まだ私の実験は始まってもいないのだからねえ!」
二人の笑みが交わる。完成された自信と、未知に向かう狂気。そのどちらもが、相手を認め、求め、向かい合う。
「冬夏青青……ならば超えてみるがいい、この、皇帝シンボリルドルフをッ!」
「ああ超えさせてもらうよ、可能性の先に行くために!」
荘子の一節を引用してタキオンの信念を認めるルドルフ。その先に向かって駆けるタキオン。
二人はレースのように併走した。これだけ勢いがついたウマ娘を正面から止めては大怪我は免れない。互角の速さで走りつつ、横から取り押さえて少しずつスピードを緩めて、最終的に止めるしかなかった。
ルドルフはわずかにタキオンの後ろについて、両手で捕まえる体勢に移る。
タキオンはそのプレッシャーを背後に受けて、まだだ、まだ来ない、と思いながら駆け続ける。
だが、さすがにシンボリルドルフに追われながら余裕でいられるはずもなかった。
そのプレッシャーが、爆発的に増大する。恐怖。萎縮。絶望感。捕まる。逃げ切れない。
ルドルフの体が巨大になって、今にも掴みかかろうかとする光景がタキオンの脳裏に浮かぶ。
だが、まだここで捕まるわけにはいかない!
タキオンもまた、己の力を全開にしてルドルフを引き離しにかかり……
「そこまでです」
タキオンの白衣の袖が、不意に横から掴み取られた。
そして、タキオンは満面の笑みを浮かべて背後を振り返った。
予想の通り、期待の通り、温和な微笑みを浮かべた駿川たづなが袖を握っている。
タキオンの袖が突然外れた。掴まれたら袖だけが外せるように、前もって細工しておいたのだ。
「えっ?」
走りながら不意を突かれたたづなは、わずかに口を広げる。
そこにタキオンが持つ試験管が突き込まれ、中の液体がたづなの喉に流れ混む。
「あーっはっはっはっ!ようやく!実験開始だ!!」
タキオンは心の底から楽しそうに哄笑した。