一応続きも考えてますが、とりあえず短編で。楽しんでいただけたら幸いです。
※魔神戦争の時代に間違いがあったので修正しました
塩の魔神のしょっぱい備忘録
諸君、塩の魔神【ヘウリア】をご存じだろうか。新世代オープンワールド型RPG「GenshinImpact」または「原神」の舞台テイワット大陸にかつて存在していた魔神と呼ばれる強大な力を有した存在の一人、なのだが。
このヘウリア。原神に登場する数多の魔神の中でもトップクラスに不遇と言っていいマイナーキャラなのである。まず、登場するのは名前とどういう存在だったか、という話を断片的に語るだけで、本人は未登場。ビジュアルどころか声すら不明。そんで明かされてる情報も、まあ不遇といっていい。
まずヘウリアの力を宿した聖遺物として出てきたのが、無限に塩を生成する容器と、挿した地から塩を溢れさせる定規。……塩の価値を考えれば莫大な富を得れるかもしれないが、まあパッとしない。なんで定規。
争いを嫌う穏やかで心優しい性格であり、
璃月の各地を転々とし、他の神々に無数の譲歩をして逃避行することで"平和"を維持していたものの、逃げ場を失って地下深くの「地中の塩」と後に呼ばれる璃月の辺境に追い込まれ、小さな都市を作った。この都市は数世紀にわたって存続したが、その最後の王がヘウリアの優しさでは魔神戦争を乗り越えられないとして、彼女がこれ以上苦しまないようにと、王の手で……自分の愛する民の手で殺害された。
しかし、その死に際に無秩序に漏出した魔神としての力がその場にいた民全てを塩の像に変えてしまい、誰も救われない末路を迎えた非業の魔神。それがヘウリアだ。魔神戦争の勝者の一人である岩神のキャラクエでこれらが明かされたのだが、そのあとの二つ目のキャラクエの方が色んな意味で濃かったため、原神プレイヤーでも覚えているか微妙なところだろう。
さて、なんでこんなことを今更思い出したかというと。
「ヘウリア様?如何されましたか?」
無垢な顔でこちらを見上げる神官の様な……いや実際に神官である女性に、大丈夫だと笑顔で応える。見上げれば、岩の天井が見えて。周りを見れば、精巧な石細工の都市が広がっている。
「スゥ………」
思わず深呼吸。うん、間違いない。私はそのヘウリアに転生してしまったらしい。
それは、恐らく魔神戦争の余波で起きたのであろう地震発生の対処に追われていた時だった。天井の岩が崩落して、その一つが私の頭にぶつかったのである。その結果、気を失った私は眠っていた前世の記憶を引き出すこととなり。今の私が、後に地中の塩と呼ばれる場所にて都市を作った数年後のヘウリアだと自覚する。
転生前は日本に住んでいて、原神プレイヤーだったというのは覚えているのだが、男だったか女だったかも、なんで転生したのか、死んだのか生きているのかも思い出せない。自分に冠するパーソナリティ情報が一切思い出せなかった。その代わりに思い出したのが、ヘウリアに対する記憶だった。
いやまあ、私が原神のキャラクターだと自覚したとしても、これまで百年ぐらいの間、ヘウリアとして民を愛して生きてきたのは変わらないのだけど。
……そうかあ、私あと数世紀たったら民の手で死ぬのかあ。いや人間換算から見たら長生きなんだけどさ?結末が決まっていると悲しくなるなあ。しかも、それで民を巻き込んで心中みたいなことになるのは本当に嫌だ。
「……いや、私が何もしてこなかったから、制御できなかった力が暴発して周りを巻き込んだ可能性が微レ存……?」
「ヘウリア様?」
「なら強くなれば力を制御して私以外が死ぬこともなくなるのでは……?」
神官の女性……名前は確か、
……岩の魔神モラクスに封印された渦の魔神オセルとか、力を失った竈の魔神マルコシアスとか茸の魔神ビフロンスとかはあのテイワットでも生きてた気がするから必ずしも死ぬ必要はないと思うが、本来の歴史通り死ぬべきだろう。だがしかし、前世の私ならともかくこの私はもう既にこの地に根付いて民を大切に思っている。ならやることはひとつだ。立ち上がり、出口に向かって駆けだす。
「モラクスのところに行ってきます…!」
「え!?ヘウリア様!?何故モラクスに!?お待ちを!?」
「逃げるのはやめたのか?何用だ、ヘウリア」
「もう、せっかく久方ぶりに訪ねてくれたのにご挨拶よ。ごめんねヘウリア」
「ごきげんよう、モラクス。ハーゲントゥス。本日は素晴らしい提案をしにここに来ました」
一日歩いて辿り着いたのは、「帰終」と名乗る塵の魔神ハーゲントゥスが納める地上の都市。のちに魔神戦争を生き残り、この璃月を治める岩の魔神モラクスが現在の拠点としている都市である。モラクスを見る。白いフードに隠れているが、ゲームでもよく見た整った美青年の顔が剣呑にこちらを睨んでいる。ハーゲントゥスが小柄な少女の姿をしているから、その長身が極立っていた。
「提案?再び財を投げうって今度は我等の庇護を得ようということか?」
「いいえ。旧知の仲である貴方方二人はともかく、赤の他人である私はいずれ戦うことになる敵……しかし私は恥も外聞もなくしなければならないことがある」
「ほう。それは一体なんだ?今ここで決着をつけようということなら、受けて立つ」
愛用の長槍を手にするモラクスと狼狽えるハーゲントゥスの前で。私は地面に正座し、手を地面に揃えて頭を地面につくまで下げてこすりつける。前世、日本の伝統的文化の一つ。DO GE ZA である!私の前世の記憶で知る限り、モラクスは敵や「契約」を破った者に対しては無慈悲で容赦がなく、岩の如く常に冷静沈着で、公正で無情な神だ。しかしながら友から「義を選ぶが、仁も捨てない」ともされるその在り方は、最も信頼に値する人物だった。
「この通りです。私に、民を守る力だけでもご教授してもらえないでしょうか……!」
「は?」
「えぇ…?」
困惑する二人に私は語る。私は魔神戦争に勝つ気はないが、民の安全は第一だ。故に武神と称されるモラクスから最低限でもいいから武を学び、民を守りたい。そう土下座しながら告げたら、困惑から立ち直ったモラクスに顔を上げるように促された。
「まず確認させてくれ。ヘウリア。君は本当に、あのヘウリアか?戦いを避けて、逃げ続けることを選んでいたお前と今のお前が重ならない」
「少し考えを改めただけです。私は私のままですよ、モラクス」
「何が何でも生き残る、じゃなくて民を守りたい、だけなの?」
「弱いままでは民まで傷つけることになるのです、ハーゲントゥス」
「ふむ………いいだろう。では「契約」をしよう、ヘウリア」
その言葉に、真剣に向き直る。「契約」はモラクスが何よりも重んじるものだ。それを口に出したということは、これから語られることに嘘偽りもないことを示している。
「こちらから提示する「契約」はこうだ。“塩の魔神ヘウリアは俺、モラクスとハーゲントゥス及びその部下と民たちに決して手を出さない”。その代わり“俺はヘウリアの願いに協力を惜しまない”。これを破れば俺直々に岩喰いの刑に処し、全力を以てお前を叩き潰す。これでどうだろう」
「文句なしです。ありがとうございます、モラクス」
「では「契約」に則り……貧弱なお前を叩き直してやろう。ヘウリア」
「え。いきなり?ちょっ、まっ……」
「頑張ってね、ヘウリア。彼はすごく厳しいから気を付けて?」
笑顔で剣を投げてきて槍を構えるモラクスに、目の前に突き刺さった剣を手に取りながら冷や汗を流す。あ、スパルタだこの人。頼る人間違えたかも―――――――――
数世紀後。私は、最期の時を迎えようとしていた。民に囲まれ、剣を手にした王が私と向かい合う。この時のために、あんな厳しい修行に耐えてきたのだ。
「さあどうぞ!後ろからでも前からでもグサッと!サクッと!」
「笑顔で殺されに来ないでください!?」
両手を広げてウェルカムしてたらなんか王に怒られた。なんで?
優しいヘウリアが魔神戦争を続けたら絶対苦しむから覚悟を決めて介錯しようとしたら笑顔で歓迎された王の心を答えよ。
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