今回から本格的に今作オリジナル設定が大暴れします。楽しんでいただけたら幸いです。
いずれ神をも超える力を手にするために、今日も今日とて暗躍する。女皇の目的のために必要なことだと適当な理由をつけて、各地で実験する日々は退屈そのもので。スメールの魔鱗病*1を患った少女に治療と称して魔神の残滓を注入する実験もひと段落したので、他のアプローチを試してみることにした。
七執政には手が出せないが、テイワット各地には魔神戦争の敗者である魔神達の遺物が眠っている。部下に命じてその回収をさせており、既に「茨の魔神」「蛇の魔神」「灰の魔神」を始めとした数多の遺物を回収できたのは僥倖で、既に実験も始めている。その中でも当時の状態のまま保管されている遺物がある。璃月の二大武神の一角、塩の魔神ヘウリアの墓所「塩ヶ宮」に眠るヘウリアが生前残したとされる二つの遺物。
部下に命令して見張らせていたら、塩の魔神らしき人物が海の上に現れて騒ぎになったどさくさに紛れて地下に侵入できた、と報告があった。稲妻の言葉で棚から牡丹餅、と言ったか。なんにしても素晴らしい。そう珍しく期待してたら、侵入した部下二人が何者かに敗れて千岩軍に捕まったという。千岩軍に忍び込ませた間者に命令して始末させファデュイから脱走した者たちということにして外交問題はどうにかなったが、遺物は二つともその二人が盗まれたことにされ行方不明になる始末だ。
しかし、その出来事は興味深い痕跡を残してくれた。まず、何と言っても侵入できた原因たる「海の上に現れた塩の魔神らしき人物」だ。現地民が接触しようとしたときには風に吹かれる様にして消えたらしく、神の奇跡だともされていたがとんでもない。
奇跡なぞありえない。何事にも必ず原因があるはずだ。
故に、当時の風の流れを計算し、吹き飛ばされた先を推測。その座標を部下に調べさせたら、「純度100%の塩の結晶」をいくつも発見したと報告を受けた。その価値は計り知れないものであり、最新鋭の塩業技術ですら故意に生み出すことは不可能だろう。そのような芸当ができるとすればただ一人、私は塩の魔神が復活したことを確信した。
七執政ではない魔神の身柄。これを手中に収めればどれだけの成果が得られるか。私は各地に分散させていた労力を璃月に集約させ、ヘウリアの身柄確保に全力を注ぐことにした。千岩軍の間者からヘウリアの遺物が璃月七星の年若い天権の手に渡り、さらにヘウリアらしき人物が岩王帝君に連れ去られたという情報を知り、まずは遺物の確保を計画。「落伍者」を集め、襲撃して奪取したまでは良かったのだが。
そこに現れたのは、想定していた岩王帝君や仙人たちではなかった。奇妙な見たこともない白い鬼の面で顔を隠した、奇妙な服装の人物。「真白空我真君」と名乗ったその者と、伝承で伝えられる雄姿が重なる。名と姿を偽ってこそいるが、500年以上魔神の研究をしてきた私にはわかる。塩の魔神ヘウリア。私が求めるべき「力」がそこにある。もしも相対した時のために奥の手も用意してある。確実に我が手中に収めてみせる。
私を挟んだ雷を纏ったハンマーを手にしたファデュイと、風を纏った手甲のファデュイが同時に振りかぶる。両手の間に塩を集束させて長い杖状に形成すると手甲のファデュイの顎をかち上げ、そのまま突き出してハンマーのファデュイの腹部を穿って、腕の力だけで突き飛ばす。
「ぐうっ!?」
「ぐあっ!?」
「バーベキューの時間だあ!」
「ブリンク!」
「つぅめたぁ~い!」
倒れた二人を巻き込む様に火炎放射を放つ銃持ちのファデュイ。さらに雷蛍術師と氷蛍術師が雷蛍と氷蛍を叩き込んできて、恐らく過負荷反応と溶解反応を引き起こそうとしてきた。たしかにそれは効果的だ。私に「塩の花弁」がなければ。炎が晴れ、無傷で姿を現した私にどよめくファデュイたち。
「な、なんで無傷なんだ……!?」
「傷つくのも傷つけるのも苦手でして。あ、それ。引き金を引かない方が」
「この、ふざけたやつめ……うおおおっ!?」
「「きゃあ!?」」
怖気づくことなくライフルを再び構える銃持ちのファデュイだったが、炎に紛れて銃口に塩を詰めておいたので暴発。あーあ、ちゃんと警告したのに。あ、でもなんか蛍術師二人も巻き込んでダウンしてくれた。ラッキー。
「隙あり!」
「モラk……師匠曰く、隙はあえて見せるもの、らしいですよ?」
「ぐああっ!?」
背後から透明になって姿を隠していたデットエージェントが飛び掛かってきたが、振り返りざまに杖を手に地面に叩きつけることで撃墜。隙があっても隙ありっていうのはダメだと思います。周囲で警戒していた連中も塩で形成した礫を不意打ちで頭にぶつけて気絶させておいたし、後は本命だ。と、凝光の背を踏みつけにして心底楽し気に嗤うドットーレに視線を向ける。
「フフフッ……やるじゃあないか。真白空我真君といったか。落伍者の中でも腕は立つ連中を集めたのだが、それがこうも簡単に倒されるとは。さすがは、二大武神……と褒めればいいだろうか。私が他人を褒めることなど滅多にないぞ」
「はて。なんのことでしょう?私は真白空我真君です。凝光から離れなさい」
「嫌だと言ったら?」
「無事ですむとは思わないでください」
杖を手に、ドットーレに一瞬で肉薄する。瞬間的に足裏から塩を噴出して一瞬だけ加速する小技だ。だけど油断するな、奴は腐っても執行官第二位「博士」だ。あの炎神と互角以上に戦える執行官第一位「隊長」に次ぐ実力があるのは確定してる。ゲームではひたすら面倒なだけの週ボスだったけど!あれは月髄の力を使った状態で、本来の実力ではないとわかっている。故に。
「ほう?」
「馬鹿正直に真っ直ぐ突っ込むとでも思いましたか?」
手をかかげ、恐らく氷の女皇から借りた力であろう氷柱を飛ばしてきたドットーレの一撃を、足元に塩の波を展開して、例えるなら回転寿司のようにあらかじめルートが決められた移動経路を置くことで、背後に回り込むことに成功。その後頭部目掛けてフルスイングする。ドットーレ相手なら多分罪悪感もなにもないはずだ。その頭、かち割ったらあ!
「この私が、馬鹿正直になにも用意せず来ると思ったか?」
「があっ!?」
炸裂する寸前、背後から衝撃。予想だにしない一撃に仮面の下で目を白黒させ、杖を手放してしまいながらも踏みとどまり、振り返り、驚愕する。全長12mはあるだろうか。蜷局を巻き、その尻尾を伸ばしてこちらに一撃を与えてきたのだとわかる、全身筋肉に由来する膂力。闇夜に映える白い鱗に、鼻の上に小さい角が存在する、その姿を私は知っている。かつての姿より圧倒的に小さくはあるが、それでも大蛇と称される大きさを誇る、それは。
「まさか、オロバシ……?」
「ほう。そういえば海祇島にも塩の魔神が訪れたという伝説があったな。そうか、お前たちが友人だったか」
凝光を蹴り飛ばし、胸に手を添えてボウアンドスクレープ*2を行うドットーレを守る様に、オロバシのようななにかがドットーレに巻き付いてこちらを威嚇する。その目は、かつての優しさが一切感じられない真っ赤なものでまるで魔物のそれだ。
「ヤシオリ島に残った骨から採取した細胞から培養した、私の発明品「人造魔神」が一つ「デミ・オロバシ」だ。サイズこそ悠久の時を生きたかの蛇神を再現できなかったが、素晴らしいものだろう。今はまだ人格は再現できていないが、研究を進めて行けばゆくゆくは完全再現まで……」
「っ!」
反射的に右手に形成して投げつけた塩の手裏剣が、着弾点に身を動かしたデミ・オロバシの鱗に当たって弾かれる。モラクスの隕石や雷電将軍の夢想の一太刀以外は寄せ付けなかった堅牢な防御力は健在か。厄介な。
「無礼な。人の話は最後まで聞いていけ」
隠しきれない喜悦を口元ににじませたドットーレが右手をかざすと、デミ・オロバシがその身体を大きく捩って空中から噛みついて襲い掛かる。咄嗟に取り出した槍で突こうとするも、螺旋を描く様に槍を中心にして避けられ、腕を噛みつかれて、脅威の怪力で振り回され、次々と建物に叩きつけられる。オロバシと直接戦ったことはないけど、岩神雷神の武神二人から一度は生き延びた実力は伊達じゃないか。
「ああ、殺すなよデミ・オロバシ。彼女は貴重なサンプルだ」
「お前という男は、どこまでも……!」
知った気になっていた。前世で原神をプレイして、この男の所業で感情を揺さぶられ、最悪のキャラだと確信していてなお。私はこの男の悪辣さを甘く見ていた。この男の頭脳と思考ならありえないことではないとわかっていたはずなのに。まさか、魔神の培養までするとは。この男の口ぶりからオロバシだけでないことがわかる。私達、正しい死を迎えたはずの魔神達の尊厳を平気で踏みにじり、あまつさえ研究対象としか見ていないとは。
「私の友人を愚弄した罪は重いですよ……お前は殺すぞ、ドットーレェ!」
「お前ほどの魔神に殺意を向けられるとは光栄だ、ヘウリア!」
振り回されながら、初めて心の底から抱いた殺意を向けると笑みを浮かべながら歓迎の意を示すドットーレ。この舐め腐った外道を今すぐ殺す。そのために、デミ・オロバシをどうにかしなければならない。そう思った矢先、私を噛みついたまま振り回し、かと思えば空中に吐き捨てて、尻尾によるスイングで地面に叩きつけてきた。
「ぐっ、ああっ…!?」
いきなりのことに反応しきれず、ダイレクトに胸部に尻尾を叩きつけられ地面に埋められ、仮面は半壊して衝撃でへし折れた左腕が石畳を転がっていく。この身が岩塩ゴーレムでなければ頭から血を流していただろうな。代わりに塞がっていた胸部の傷口からまた塩が溢れている気がするが。
「ほう?その身は生身ではなく、石膏像の様なものなのか…?興味深い。だがその傷ではもはや動けまい。デミ・オロバシよ。奴を飲み込め。岩王帝君が介入する前に帰還するぞ」
そうドットーレが指示を飛ばし、デミ・オロバシが私を舐めまわすように顔を近づけてくる。……ああ、ようやく隙ができた。
「強固な鱗も、口の内側にはないでしょう…?」
「ギッ、ギャアアッ!?」
瞬時に形成した片手剣を、デミ・オロバシが私を丸呑みにしようと開けて近づけていた大口の上顎に突き刺した。脳天まで突き刺し、一応生き物ではあるのか活動を停止したデミ・オロバシを片手剣ごと投げ捨て、私の左腕を拾いに行っていたドットーレに向けて、駆け出す。デミ・オロバシの血に濡れて、石畳で滑りながらも、一歩ずつ確実に踏みしめて、右拳を握りしめて肉薄する。その間、一秒に満たず。凡人が反応できる速度ではない。
「なっ……!?」
「し、ねええっ!!」
全力の殺意を込めた、塩を纏って
「ぐっおおおお……なんだ、この激痛はぁあああ……」
「私の必殺マジシリーズ、盛り塩パンチです。このまま地獄の苦しみを味わわせてやってもいいのでしょうが、その声を聞くだけで虫唾が走ります。死ね。お前はこの世に存在してはならない生き物だ」
「まて、私はただのだんぺッ!!!!??」
命乞いしようとしたその顔を、全身を振りかぶって叩き込んだ拳が突き刺さり、石畳に埋めた。断片なのは知ってるんですよ。ドットーレを殺しきることは現時点では不可能なのは理解している。だから殺した。ただただ殺した。初めて殺意のままに力を振るった。はあ、この仮面を被りながら、未確認生命体第42号に対する彼のような凶行に及んでしまった。そう自己嫌悪に陥りながら、ドットーレの死体から「定規」を回収する。
「……「空我」を名乗ったのは失敗だったかもしれませんね」
「あの、塩華女帝……ですよね?」
黄昏ていると、背後から声。頭から血を流した幼き凝光がそこにいた。憧れのヒーローにでも向けるような瞳を向けていた。これ、正体がバレてるやつだろうか。いや、今の私は真白空我真君だ。ゴリ押ししよう。
「違います」
「え、でも……」
「私は真白空我真君です。夜叉の……亜種とでも思ってください」
「え、でもあの男がヘウリアと……」
「真白空我真君です。いいですね?」
「あ、はい……とにかく、助けていただきありがとうございました……。その「定規」は、お返しいたします」
そう言ってくる凝光に、手にした「定規」を見る。……惜しくないかと言えば嘘になるが、一度託したし、なあ。一考したのち、私は「定規」を凝光に差し出した。
「私は塩華女帝ではないので預かれません。それに、これは「国宝」なのでしょう?今回のことで賊も懲りたでしょう。今度こそ、守り抜いてくれると信じています。……今の璃月に、貴女の様な強い人間がいることを好ましく思います。では」
そう言って落ちていた左腕を拾い、一跳躍で天衡山の頂上まで跳ぶ。早く戻らないと、甘雨に心配されるし、何故か姿を見せなかったモラクスにもバレ……あ。
「この腕、どうしましょう…?」
とりあえず、塩でくっつけるか。
「断片」がたくさんいるってことは、いくらでも博士をぶちのめせるってことだあ。断片作れるぐらいだから人造魔神ぐらい作ってても不思議じゃないと思うのだ。最後の一撃は某フィジギフとドブカスのあれみたいに一カメ二カメ三カメしてもらえると。
・人造魔神「デミ・オロバシ」
ヤシオリ島のオロバシの骨から採取した細胞からドットーレが培養した人造魔神が一体。サイズは映画「アナコンダ」を思い浮かべるとわかりやすい。全身筋肉による膂力と怪力が凶悪で、雷電将軍の夢想の一太刀を受けても傷つくだけだったヘウリアの肉体をへし折る戦果を挙げた。オロバシが「正しい死」を迎えたことを確認していたヘウリアからしたら地雷も地雷。
・盛り塩パンチ
「モブサイコ100」の登場人物、霊幻新隆の必殺技……とは名ばかりの、食塩を塗した拳でぶん殴る技。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
原作行く前にヘウリアに会ってほしい人物
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ドットーレェ!!(博士)
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判決を下す!(ディルック)
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吟遊野郎!(ウェンティ)
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荒瀧・唯我独尊・一斗(荒瀧一斗)
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俺が払うよ(タルタリヤ)
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グロシをかかげよ!(フリーナ)
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あらら~?(スカラマシュ)
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ハイドロポンプ(ヌヴィレット)