塩の魔神のしょっぱい備忘録   作:放仮ごdz

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どうも、放仮ごです。累計100話記念回となります。100話を記念して、前回のアンケートで応募した中で一番票が入っていた「1年前の稲妻で国外追放された事件について」を書いたのですが……長くなったのでいくつかに分けることにしました。これが終わったら璃月編に入る予定です。

時系列は今より一年前。鎖国令及び目狩り令が敷かれて間もない稲妻での大事件。楽しんでいただけたら幸いです。


一年前の稲妻編【序】答えを知ってるのに馬鹿正直にやる必要はないよね

 モンドの龍災より約一年前。雷神の統治する国、稲妻にて鎖国令と目狩り令が発令された。御建鳴神主尊大御所様の乱心だと嘆く者もいた。最強の雷神の正気を疑う者もいた。だがしかし、その尽くが黙らされた。反論など認めない、しかして稲妻に不変の永遠……恒常楽土をもたらす事を約束した。

 

 雷電将軍の腹心たる九条裟羅率いる天領奉行が遂行し、奪われた神の目が稲妻城前に建造された千手百目神像へと集められていく。そんな中で、鎖国中なのにも関わらず、雷雲の上まで歩いてきて飛び込むことで侵入するという荒業で密入国を果たした者の名は。

 

 

「ふむ、思ったより簡単に侵入できましたね?いやはや、鎖国する前に何度か来てますがまさか行きの船が沈没するとは思いませんでした。空を歩く羽目になったじゃないですか」

 

 

 稲妻で一番空に近い、鳴神島の北に聳える影向山の山頂にある鳴神大社(なるかみおおやしろ)の屋根の上に優雅に降り立ったのは、往生堂の制服に身を包みその上から白い着流しを羽織った、真っ白い髪を肩まで伸ばした、海の様な蒼い瞳の女性。特に考えず普段着で来たヘウリアは稲妻を眼下に見下ろし、稲妻城に視線を向けた。

 

 

「はてさて、間に合ったかどうかが問題ですねえ」

 

「何に間に合ったというのじゃ?」

 

 

 ヘウリアの背後にいつの間にか立っていた桃色髪の巫女が口元を隠しながら訪ねる。自分に気取られず現れた巫女に、ヘウリアは笑みを浮かべながら振り返った。

 

 

「おや、こんにちは。良い天気ですね」

 

「それは皮肉か?この天気を見ながら言ってるのなら、大した節穴じゃ」

 

「おや、貴女からしたらいい天気なのでは?雷電将軍が大変元気な証拠でしょう。雷電影の眷属、八重神子さん?」

 

 

 そう皮肉に対してニコニコと返され、余裕の笑みが崩れる神子。

 

 

「……妾はともかく、影のことまで知っておるとは……さすがは生きる英雄譚とされる女傑、塩の魔神へウリアじゃのう?なんじゃ、妾は殺されるのか?」

 

「冗談じゃない。貴女を殺したらそれこそ雷電将軍が止まらなくなります。それに私、八重堂の娯楽小説には大変お世話になっておりまして。個人的には化けイタチに恋した絵を描くのが大好きな少年の、妖怪と人間の種族を超えた恋路*1をプレゼンしたいのですが如何でしょう?」

 

「ほほう?それは気になるの。今度、募集に出せば読んでやってもよい。まあ、この鎖国状態じゃ当分は無理じゃろうが」

 

「あ、それはやめときます。盗作になっちゃうので。今のアイデアからそれっぽいのを貴女に描いてもらえれば、と思いまして」

 

「ううむ。いや、しかし確かによいインスピレーションを得られた。礼を言うぞ、塩の魔神。ところで何しに来たのじゃ?影に見つかったら殺されるぞ?」

 

 

 冗談交じりながら事実を述べた問いかけに、ヘウリアは困った顔をした。

 

 

「いやあ、あははは……そうなったらクリーヴに怒鳴られるので勘弁してほしいですね。一つ聞きますが、楓原万葉という名に聞き覚えは?」

 

「楓原?それは、雷電五箇伝*2の一心伝の楓原家のことか?なぜお主はそれを知っているのかは知らぬが、生憎と存じてないな」

 

「そうですか……いや失礼。地道に探すこととします」

 

「待て。……お主は、影を殺してでも止めるつもりなのか?」

 

「はい?まさか。友達を殺すほど落ちぶれてはいませんよ。そもそも私じゃ勝てませんし、連戦連敗ですよ?それに、止めるのは私じゃありません。神の出る幕じゃ、ないでしょう?」

 

「……違いないな。まあ待て、お主の格好では目立つぞ。鎖国令が出ている今、他国の服を着て出歩くのは捕まりに行くようなものじゃ」

 

 

 そのまま飛び降りようとしたヘウリアを呼び止め、手招きして本殿の中に案内する神子。少し経って出てくると、梅の花があしらわれた空色の浴衣と下駄に身を包んだヘウリアが出てきた。

 

 

「ふむ、懐かしい気分です。下にインナー着てないとあまりに心もとないですが」

 

「はいてないのもよいものじゃぞ?」

 

「そんなの小説の中だけで結構………え?」

 

「おいこら、ドン引きするでない。冗談じゃ。本当じゃぞ?」

 

「いえ、わかってますとも。確かに雷電将軍もはいているか微妙な服ですし、彼女が主人の貴女ならそんな性癖になっていたとしてもおかしくないです。そもそも貴女は狐だからまず履くのがおかしいんですかね?でも私に近づかないでください」

 

「わかっておらんではないか。これでも500年は生きて一般常識は身に着けているつもりじゃ」

 

「……あっ。ちょっと野暮用を思い出しました、失礼しますね」

 

「お、おい!待つのじゃ!?」

 

 

 神子との会話で何かを思い出したのか、雷禍*3で満ちた麓まで飛び降りるヘウリア。あまりにも濃い雷元素の影響で浮かんでいる足場を飛び移って下まで降りる、と同時に。

 

 

「場所はわかってるんで大元をぶっ叩きましょうかね」

 

 

 拳を握り、落下の勢いのままに雷禍の中心部である神櫻の根っこで塞がれた大穴をぶち抜くヘウリア。そこにあったのは、ヘウリアの知る「原神」のいわゆるサブクエである連続世界任務「神櫻大祓」の原因たるもの。「瘴気の腫瘍」と呼ばれる神櫻に根付く禍々しい腫瘍が侵入者を探知し、次々と落ち武者の亡霊を召喚していく。

 

 

「穢れを受けても平然としている、お前は何者だ」

 

「いやあ、あと一年もこんな状態にしておくとかどう考えても悪手でしょう。残りの雷櫻の方は旅人に任せてもいいでしょうけど、これはさすがに厄ネタ過ぎる」

 

「何者だ。名乗れ」

 

「ああ、ビリビリ来ますね……まあ傷つく傍から補充すれば問題ないんですけど。リジェネサイコー。……で、私が何者か、ですか。どうでもいいじゃないですか、だって、ねえ?」

 

 

 大太刀が抜かれ、斬りかかる亡霊武者たち。全方位を囲んで放たれた必殺の一撃全てが、ヘウリアに触れる前に弾かれる。いつの間にか翠玉の片手剣「磐岩結緑」がその手に握られていて。

 

 

「死人に口なし、言っても無駄でしょう?」

 

「ならば滅ぶがいい…!」

 

 

 赤い亡霊武者が、横薙ぎに振るった大太刀を、宙返りで回避し刀身の上に立つヘウリア。そこを見逃さず、叩き斬ろうと振りかぶった紫色の亡霊武者の首が飛ぶ。何が起きたのか理解できぬまま亡霊武者は崩れ落ち、しかして瘴気の腫瘍が不気味に輝いてまた生み出される。

 

 

「無限湧きとは面倒な。倒せば終わりじゃないんですか?」

 

「この島の各地に存在する霊地より集められし瘴気が我等の源。貴様を押し潰すなど訳ないことだ」

 

「あー、なるほど。浄化せずにそのまま突っ込んだから無理ゲーになってるんですね、なるほど」

 

 

 無尽蔵に生み出され地下空間を埋め尽くしていく亡霊武者の猛攻を片手間に対処しながら、呑気に納得するヘウリア。終いにはヘウリアに全員叩き斬られた亡霊武者の瘴気が集束し、雷電将軍と瓜二つの姿を形どってきた。

 

 

「最強の一太刀にて、貴様を滅してやろう」

 

「いやー、驚きました。ええ、本当に。……姿形を似せただけの猿真似で、無想の一太刀を再現しようなんて魂胆に驚きました。一朝一夕で真似できるようなものじゃないんですよ、あれは」

 

 

 大太刀を天高く掲げ、雷禍で満ちた雷元素を刀身に溜めていく雷電将軍の形をした瘴気に、わざとらしく拍手して軽蔑した視線を向けるヘウリア。この九年間、幾度も手合わせして、そのたびに受けてきた。そんなヘウリアだから言える言葉に、嗤い飛ばす雷電将軍の形をした瘴気。

 

 

「戯言を。ならば受けてみせろ、無想の一太刀……!」

 

 

 そして、振り下ろされた巨大な雷元素の斬撃を。以前なら「塩の花弁」で受けていたそれを、ヘウリアは手にした「磐岩結緑」の剣身を塩でコーティングすると、一振りで打ち消してしまった。驚愕で固まった雷電将軍の形をした瘴気を蹴り飛ばし、その反動で跳躍して頭上の瘴気の腫瘍をぶった斬るヘウリア。

 

 

「私の塩は退魔の力があるそうで。浄化はできませんが、滅することはできますよ」

 

「ば、ばか、なあぁあああぁああっ!?」

 

「これから本人に喧嘩売ろうってんです。こんな偽物に臆する私じゃないですよ。残念でした」

 

 

 最後に悪足掻きで雷電将軍の形が崩れながらもヘウリアを斬りつけようと大太刀を振り上げる瘴気だったが、問答無用で斬り捨てられて消滅。瘴気が消え、元の綺麗な紫色に輝く空間へと戻ったのであった。そこに訪れる人影が一つ。狐面を被った巫女だった。

 

 

「驚きました、まさか瘴気の根源がこんな簡単に祓われるとは。名のある退魔の家の者なのでしょうか」

 

「ただの塩の魔神ですよ。塩をかけるしか能がないんですが、これ以上のさばらせておく気にもなれなかったので、勝手にさせていただきました。……少しは、貴女を救えましたかね」

 

「! 貴女は、どこまで……いえ、礼を言わせてください。狐斎宮の無念は晴らされました……私は「花散里」と申します。なにか、恩を返したいのですが……」

 

 

 神櫻に宿りし、かつての雷電影の友の一人である狐斎宮の残留思念が瘴気の影響で顕現した存在たる彼女に、ヘウリアは静かに首を横に振る。

 

 

「雷電影は私の友達でして。友達の友達は友っていうでしょう?だから礼は不要です」

 

「そうですか、彼女の……。友だというのなら猶更です。私も現世(うつしよ)を離れた人間ですので、貴女がどういう存在なのかはわかります。友として、少しでも力になりたいのです」

 

「……あー、どう見えます?」

 

「……その在り方は、歪に見えます。その秘密を他者に悟られたくない、と見ました。なので、これを……」

 

 

 もう既に頭部から消えかけて行っている花散里が自身の仮面を外して、顔も見えなくなっている状態で両手で抱え、祈りを込めたそれは光り輝き、ふよふよと浮いてヘウリアへと託される。

 

 

「ちょっとした認識阻害の(まじな)いをかけました。それで顔を隠せば、誰も貴女を正しく認識できなくなります」

 

「そんなにいいもの、もらえませんよ!?」

 

「どうか受け取ってください。そして、私の思いと共にどうか彼女を……ああ、できることならば。生きていた頃に、お会いし、たかった、です、ねぇ………」

 

 

 そう言いながら神櫻を見上げながら、消滅する花散里を見届け、ヘウリアは狐面を握りしめた手をわなわなと震わせる。

 

 

「……ただ、八重神子との会話で思い出しただけだったんですよ?気まぐれで、何時か旅人に助けられることがわかっていて、でも見過ごせなくて正しい流れを変えてしまった、私なんかに……わかりました。同じ、雷電影の友人として……できるだけのことはやりますよ。そう、せめて……無謀な剣士の命一つを助けるだけでも」

 

 

 そう決意を胸に、穴から飛び出し、着地と共に狐面を被るヘウリア。目指すは稲妻城下町だった。

*1
電撃文庫の「ほうかご百物語」

*2
雷電将軍が伝授した鍛造技法に由来する五つの鍛造流派。天目、経津、一心、百目、千手の五流派が存在し栄華を誇っていたものの、約100年前の国崩の事件でほとんど没落し現在は稲妻の鍛冶屋を務める天目伝と、末裔が生き残っている一心伝のみ残っている

*3
穢れた雷元素で満ちた空間。中にいると尋常ではないスリップダメージを受ける




花散里と友人だった理由。モンドにて使った長司の衣装は八重神子から手に入れたものとも明かされました。なお中核は滅したけど、各地のは残ってるのでヘウリアをナビゲートにして世界任務自体は残ります。

偽雷電将軍は、左道の真諦者の「ムソウノヒトタチィ」が元ネタ。今作では戦う機会があるか微妙である。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

次回、VS雷電将軍。万葉の友の名は……?

  • 布留辺千速(ちはやふる から)
  • 八國一秋(百人一首から)
  • 歌留多彩羽(いろはかるた から)
  • 名前なし(彼、などの二人称)
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