累計100話記念回の続きです。「序」の次は「破」だよね。とりあえずアンケートは続行したまま、試しに「名前を呼ばない」で万葉の親友を書いてみました。これ次第で最終結果決めたいところ。楽しんでいただけたら幸いです。
その男は、かねてよりある願いを持っていた。自らの刀は、かの最強の名を欲しいままにする雷電将軍が達した武の極みたる絶技「無想の一太刀」を通用するのか否や。それは、テイワットの武人としての願いの極致だった。
「その一太刀、手が届かなくもない。いつの日か、雷霆に相対する者が地上に現れる」
そう親友に語る男は、それを確かめる機会を窺っていた。その願いゆえに手に入れた「神の目」は、奇しくも雷電将軍と同じ雷元素であった。しかして「無想の一太刀」は神罰が下るときにしか見られないのだという。過去にはスメールで乱発されたと言うが、悪い冗談であって欲しい。
そして何の前触れもなく、目狩り令が発令された。親友と共に追手から逃げながら、これはチャンスだと思った。故に、親友と逸れて追い詰められた折に、申し出たのだ。稲妻幕府の治安維持を司る「天領奉行」の大将にして目狩り令の執行者、九条裟羅との「御前試合」*1を。勝てば、雷電将軍への謁見への権利を得て、負ければ雷電将軍の手で殺される。そんな、どう転んでも彼の願いを叶えられる、戦いを。
「はあ、はあ……」
その日、少年と青年の中間ぐらいの人物が稲妻城下町を駆け抜けていた。彼の名は楓原万葉。一心伝の末裔であり、現在は放浪して幕府から逃げる身でありながら、稲妻城の天守閣を目指す理由。それは、二手に分かれて逃げた後で合流するはずの彼の親友が御前試合を申し込んだと風の噂で聞いたからだ。
「妙でござる、兵の姿を一人も見ない……」
本来ならば稲妻の中心なだけあり兵が跋扈し、隠れながら目指さねばならなかった道中、兵を一人たりとも見ないことに首をかしげる万葉。何の因果か同時刻、とある鬼の有する神の目を奪おうとした兵が得体のしれない存在に返り討ちにされ、大将たる九条裟羅も御前試合から逃げることなどありえないため、残りの兵がその応援に行って出払っていたのである。
故に、稲妻城の目の前まで素通りで万葉は辿り着くことができた。そこで見たのは、烏天狗の血筋を引く稲妻幕府が誇る大将たる九条裟羅の放つ矢の尽くを斬り捨てる侍と、それを冷徹なまなざしで見下ろす雷電将軍の姿。
「どうした、九条御大将?得意の矢は俺には一つたりとも当たっておらぬぞ!」
「雷電将軍が見ている……これ以上、無様は晒さぬ!常道を恢弘せしは、永遠なる鳴神なり!」
「っ…!」
橙色の羽織を羽織り青い襟巻を付けた侍と相対した九条裟羅の元素爆発「煌煌千道鎮式」が放たれる。咄嗟に回避した侍のいた位置に紫電が着弾し、さらにそこから十字に分裂するように連続した落雷を引き起こされて侍を追い詰める。それに対し、侍は汗を一筋垂らしてそれを確認していると、門の影からこちらを窺う親友の姿を確認し。不敵に笑むと、地面に突き刺さっていた矢の一本に飛びつくとそれを自身と九条裟羅の間に放り投げると落雷が落ちる中を直進。そんな彼に落雷が迫るが、空中の矢が避雷針となって引き寄せ頭上で爆ぜ、そのまま手にした刀を振りかぶる。
「なんだと…!?」
「負けてもいい、などと考えていた己が愚かだった!俺は侍故、真正面から押し通る!!」
翼を広げ、距離を取りながら三本の矢を一気に番えて放つ九条裟羅に、咄嗟に左手で拾い上げた砂利を投げつける侍。目つぶしとなったそれにより隠された隙を突き、神の目を発動。雷元素により自身の身体能力を底上げし、たまらず着地した九条裟羅の背後を取り、刀を振りかぶっていた。思わず拳を握って勝利を確信した万葉の視界に、それが映り顔面蒼白となる。
「
「……謝罪しよう。お前は強い、だが私は負けられないんだ」
瞬間、雷元素を纏って軌道が操作された一本の矢が凄まじい勢いで侍の目の前、九条裟羅との間に着弾。目つぶしを受けた際に、頭上に向けて放っていた一矢だった。時間差で落ちてきて地面に着弾した其れは激しく放電。電撃で痺れ、視界も閃光で塞がれ、止まってしまい防御体勢をとることもできない彼の腹部に蹴りが突き刺さり、蹴り飛ばされる。雷元素で極限まで強化されたその一撃に侍は血反吐を吐きながら吹き飛び、城壁に叩きつけられ崩れ落ちる。誰の目から見ても、勝負ありだった。
「ご苦労、九条裟羅。貴女は下がっていなさい」
「はっ!痛み入ります」
九条裟羅を下げた雷電将軍が歩み寄る。御前試合の絶対の決まり。敗者は、神罰を受ける。それが実行されようとしていた。万葉は咄嗟に刀を手に飛び込もうとする。しかし、足が動かない。雷電将軍の放つ圧が、本能的な死を直感させていた。邪魔をしたならば殺すと、己の存在を把握したうえで無言で告げていた。
「彼女をあそこまで追い詰めたその武、賞賛に値します。しかしながら、決まりは決まり。本来ならば神の目の剥奪のみでしたが……その命も奪わねばなりません。なにか、残す言葉はありますか。友人が見えている様ですが」
「ははっ……もったいない言葉だ。だが、俺の武を賞賛していただけたのならば、我が悲願を聞いてほしい。すなわち、俺の剣が、天をも割る無想の一太刀に届きうるや否か」
「……いいでしょう。結果は変わりません。刀を手に取りなさい。構えるまでは待ちます」
「ぜぇ、はぁ……ありがたい!」
よろめきながらも壁に背を預けながら立ち上がり、刀を手に、雷電将軍の前に立つ男は、万葉へと振り返り笑顔を浮かべる。その顔は、喜びと恐怖が入り混じった感情だった。
「万葉!親愛なる友よ!見ていろ!我が刀、無想の一太刀に相対せり!」
「だめでござる……!」
咄嗟に手を伸ばす万葉だったが、目が眩む極光が放たれ顔を背けるしかない。最後に見たのは、迫りくる極光に対して飛び込みながら刀を振るわんとする親友の姿だった。
―――――――――――――――――――――――静寂。
静寂に耐えきれず、目を開ける万葉。そこには、信じられない光景が広がっていた。城壁に大穴が開いて崩れ落ち、地面も一筋に抉られている。それだけでも、手加減したであろう一撃なのはわかった。ヤシオリ島の無想刃狭間とは規模があまりにも違いすぎるからだ。稲妻城にできるだけ被害を与えないようにしながらの神罰だったのだろう。しかしそれでも規格外の威力。消し炭すら残らない威力のそれはしかし。
「嫌な予感がして全力で来ましたが、ナイスタイミングでしたね」
「……え?え?俺、死んだはずでは……?」
万葉の親友を殺すこと叶わず、まだ健在で。狐面を被った梅の花の浴衣を身に着けた女が、雷電将軍との間に立っていた。
「……何者ですか」
「おや、認識阻害は効いている様ですね。どうも、趣味で人助けをしている者です」
「ふざけているのですか?呪いの類なのか、声もちゃんと認識できませんね」
「まあ、誰だっていいじゃないですか。通りすがりに死にそうだった彼を助けただけの私ですよ。あ、どうして彼が生きてるのかって?そりゃあ、だいぶ手加減しているようだったのでこれ幸いと受け止めて逸らしただけですよ」
そう言った女の腕は黒ずんでいる甲冑の様な白い装甲に包まれていたが、砂の様に崩れて素手が現れる。受け止めて逸らした、その言葉に万葉もその親友も、様子を窺っていた九条裟羅すら絶句する。そんな威力出ないことは、直に見てわかっている。しかし事実、彼に炸裂するはずだった無想の一太刀を受け止めて軌道を逸らしたが故に、生きている。雷電将軍は何かを思案してじっと見つめていた。
「無想の一太刀を一目見たい、でしたっけ。なんて傍迷惑な子供なんでしょうか。満足しました?」
「お、俺は子供では……それに、俺はまだやれた…!」
「やれませんよ。ただの人間が、あんなの受け止められて溜まりますか。せいぜい受け止めた様に見せかけてそのまま余波で消し炭ですよ。いいですか。貴方がそんな無謀をしようとすれば、親友の彼も危険にさらされることになるんですよ。侍って生き物が頑固なのはわかってはいますが、友と夢とどっちが大事ですか?」
「っ、それは……」
「はい、即答できない時点でだめです。貴方は大人しく、友達と一緒に稲妻を出なさい」
「うわっ!?」
雷電将軍から視線をずらさずにそう諭し、男を万葉の元まで押し飛ばす女。男は軽く突かれただけなのに関わらず宙を舞い、万葉に飛び込んでもみくちゃとなった。
「か、万葉……俺は、」
「馬鹿……本当に馬鹿でござる!逃げるでござるよ、今が好機と見たでござる!」
「させるか!」
そうはさせんとばかりに宙を舞い、風の翼で滑空しながら弓を構え二人を狙うのは九条裟羅。しかし、突如飛んできた門扉の直撃を受けて、なすすべなく一緒に吹き飛ばされてしまった。城門から無理矢理引っぺがして片手で投げつけた女の仕業だった。
「ぐはっ……」
「こっちの台詞です。大人しくしていてください、貴女優秀なんですから」
「……塩は使わなくて、よいのですか?」
「敵に塩を送れと?ははは、面白い冗談です」
そんな会話を聞きながら、万葉とその親友はその場を後にするしかなかった。その直後、雷雲に覆われた天が割れ、空で神話の如き戦いが繰り広げられるのを目にすることとなる。
次回、ヘウリア視点。なんでこの女、毎回過去でボス戦やってるのだろうか。
10年経ってるので練度も上がって、今では手加減されている無想の一太刀ならいなすことができるようになってます。戦闘センスがおかしい、とはモラクスの談。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
次回、VS雷電将軍。万葉の友の名は……?
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布留辺千速(ちはやふる から)
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八國一秋(百人一首から)
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歌留多彩羽(いろはかるた から)
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名前なし(彼、などの二人称)