今回は累計100話記念回最終話。一応「Q」は問いかけって意味。楽しんでいただけたら幸いです。
万葉とその親友を逃がした私は、愛槍「草薙の稲光」を構え直した雷電将軍と対峙する。どうやら影は引きこもっているつもりらしい。まあそっちの方がありがたいまである。間違いなく本体の方が強いし。いや、引きこもっててあまり戦ってない影より、前線に出ている雷電将軍の方が強いって影の伝説任務か何かで言及されてた気がする。どうなんだろ。まあいいや。
「下手な芝居は結構です。例え認識阻害がされていても、私の無想の一太刀をいなせる者など片手で足ります」
「おやおや、雷電将軍。貴方の知らない強者の可能性はないんですか?」
「ないですね。顔を隠すということはすなわち、正体が暴かれることを忌避するものだということ。さらに女。その条件に当てはまる者は一人しかいませんよ。ヘウリア」
「……ははは。影とばっかり戦ってたから、人形の貴女ならワンチャン騙せないかなあと思ったんですが。そう簡単にいくわけないですね。今度使うときは偽名も用意しておきましょう」
バレてるなら意味はない、と断じて狐面を外す。せっかくもらった浴衣を襤褸にしたくないので、脱ぎ去って取り出した白い羽織を身に着けて浪人の様な姿となり、狐面と浴衣は謎空間に仕舞った。見た目は……某大怪盗の孫の剣士みたいな恰好とでも言うべきだろうか。
「どうせ襤褸になるなら最初から着込まなければいいですね。さて、見逃してくれると嬉しいのですが」
「貴様……ヘウリア!雷電将軍が心を許す友人でありながら、信頼を裏切るのか!」
肩をすくめて問いかける私に、門扉を蹴り飛ばした九条裟羅が激昂する。頭から血を流す彼女とは顔見知りだ。ここ五年ぐらいは雷電将軍に招かれて稲妻城に何度も赴いていたのだから、側近である彼女とはよく会っていた。故に裏切りを許せないのだろう。しかし、それを手で制した雷電将軍は、静かに問いかけてきた。
「一応聞きましょう。何故、邪魔をするのですか。彼らは貴女と何も関係がないはずです。貴女は私の理想に理解を示してくれると思っていたのですが」
「理解、ですか。まあ、たしかに……人間の命は我等魔神と違い弱く儚く、短いのは理解してます。私も、この平穏な時代で出会った子供達と別れるのは嫌です。故に永遠を求めることはわかります」
「そう、貴女は理解を示してくれると思っていました。私の手を取りなさい、共に「永遠」を掴むのです」
そう、普段は冷徹な表情しか浮かべない顔に喜色を滲ませながら右手を差し出す雷電将軍。これは、外の彼女の意思かそれとも中の影の意思か。どちらでもいい。理解者だと思われていたのは意外だったが、まあ理解はできる。私は生かしたい人たちを結局死なせて、偶然が重なって生きている。今では人の親だ。死ねなくなった。死んでほしくなかった。だからわかる、だけど。私は、神の目を奪われた者たちの末路を知っている。願いや情熱、それを得る敬意である記憶の一切を失い、酷い時は人格障害や記憶障害に陥る。そんなこと、許していいわけがない。
「……理解はします、しますが。今の世を生きる若者たちの願いたる神の目を強奪するのは、さすがに擁護できません。誰かの犠牲をもとに至る「永遠」は、きっと虚しいですよ」
「そう、ですか。ならば、貴女は「永遠」の敵です。願わくば、牢の中で考え直してほしいものですが。私に次ぐ副将軍として迎える準備はできていますので」
「笑える冗談、ですね!」
これはいつもの試合ではない。殺し合いだ。両手に逆手持ちの鎌を形成し、跳躍して飛び込み首を狙う。しかしそれを、雷電将軍は紫電を纏った加速で私の背後を取り、蹴り飛ばしてきた。
「あがっ!?」
「冗談では、ないのですが」
天高く打ち上げられた私に、直角軌道でジグザグを描いて私が吹き飛んだ先に先回りし、手にした「草薙の稲光」が振るわれる。私は咄嗟に空中に塩の足場を展開して踏み込み、横に跳躍することで回避。鎌を投げつけて距離を取りながらソルトスプラッシュを放ち、その全てが涼しい顔で全弾防がれるのを目の当たりにする。
「……だから、私なんかとモラクスが二大武神だなんて冗談に思えるんですってば」
「謙遜を。貴女もやろうと思えばできるでしょう」
「買いかぶりすぎ、ですよ!」
空中の塩を踏み込んで、右腕の肘まで塩で覆った装甲を身に着け拳を叩き込む。雷電将軍は眉一つ動かさずに左手の平で受け止め、握りしめると脅威の握力で破壊。しかし破壊される直前に引っこ抜いていた私の裏拳が炸裂し、雷電将軍の体勢が揺らいだ。
「おや失敬。手癖が悪くて」
「……」
「あ、待ってください?無言で薙刀を掲げないでほし……ひゃあ!?」
すると無言の雷電将軍。すっ、と薙刀を天高く掲げたと思ったら、空から雷の槍が次々に振り注いできた。怒ってますねこれ!これにはたまらない、と頭上に塩をばら撒き盾として雷を防ぎながら距離を取り、雷元素の足場を蹴って踏み込んでくる雷電将軍に対し、後ろ手に塩の槍を握る。鉱石を粗削りしたかのような純白の槍。一説によると「槍を以て相手を傷つければそれは決して癒えない傷となって相手を苦しめ続ける」だそう。スメールでのアトラス戦で、私達が到着する前に奮戦していたシオンが編み出した技。その名は。
「ロンギヌスの
「…ほう?」
バチバチバチ!と、雷元素を纏った「草薙の稲光」と、ロンギヌスの塩槍が衝突し眩く輝く。先端から塩を放出して勢いを維持こそしているが、素の膂力でそれを抑え込んでいるのは冗談だと思いたい。ロケット噴射みたいなもんのはずなんですけどねえ!?
「これは……魔神の腕力に加えて、持ち手から供給され続ける塩を穂先から放出し続けて推進力を得ているみたいですが……その程度、ですか?」
「はははっ、冗談きついですよ」
瞬間、ロンギヌスの塩槍を形成していた塩が爆裂。必殺を狙った得物が爆発するという、武人である彼女には予想だにしない奇襲に目を見開き、吹き飛ばされる雷電将軍。
「得物を手放す武人などありえない、それが貴女の常識なんでしょうが……まず、前提条件が違うんですよね!そもそも私は、根っからの武人ではないんですよ!なので、こんな誇りもなにもないこともやってやりますよ?」
そう言って私は、雷電将軍が距離を取ったのをいいことに、自身の背後に塩を集束させていく。帰終とピンばあや曰く、私の造形センスはかなりのものらしい。モラクスも、彼の力をもってしても本物と見紛う再現度は不可能だという。だが私はできた。なんなら自他ともに芸術品ともされる武具を、あまり意識せずとも即座に造形することができる。
それで、思ったのだ。前世で見たアニメでよく似た能力を使う主人公がいたな、と。投影魔術と称されたその力は、曰く「ただ無限の剣を持ったところで、究極の一を持つ相手には対抗できない」。道理だ。例え私が雷電将軍の愛刀「夢想の一心」を完璧に複製し、振り方まで完全に模倣したところで「無想の一太刀」を放つことはできないだろう。だがしかし、こうも言っていた。
「馬鹿な……!?」
「驚くことはありません。これはすべて偽物です。しかし、先人は言いました。偽物が本物に敵わない道理なんてない。貴女の武が本物だというのなら、悉くを凌駕してその存在を叩き堕としてみせましょう」
私の背後、曇り空に無数に展開された剣、槍、レイピア、ヌンチャク、
「これほどの武具を一度に造形するとは……見事という他、ありませんね」
「お褒めの言葉ありがとうございます。まあ、手加減はしませんが?行くぞ雷電将軍、覚悟は十分ですか!」
「もちろん。――――ここからは、私がお相手しましょう」
おわっ。雷電影ご本人が出てきたか。まだ夢想の一心を抜くつもりはないようだが。その顔を見ればわかる。これを見て、恐怖ではなくワクワクが勝っている貴女はやっぱり、永遠に閉じこもるなんて似合わないですよ。ほら、見てくださいよ。下から私達を見上げている九条裟羅の絶望した顔を。普通はそう言う反応なんですって。貴女は「今」を楽しめるのだから。だから、せめて。
「ちょっとは考え直してくれると嬉しいんですけどね!即席名づけ!
「雷光、置き去りにする。必滅の如し!」
一斉掃射。山をも粉砕するその猛撃を、雷電影は雷元素を纏って加速、その場から動かず薙刀一本で斬り伏せていく。しかし私もただの武具を射出しているわけじゃない。この技はまああまりにもド派手すぎる上に奥の手だから人前で出せず、たまにピンばあやに頼み込んで「洞天」を借りて調整していた。塩で形成されたそれらの原理は「塩の花弁」とほぼ同じだ。半自動的に「撃った傍から補充する」「私の命令で真っ直ぐ飛ぶ」「着弾まで形状を保つ」と
「今です!“再結晶”!!」
「なっ……!?」
「貴女の斬り弾いた武具だった塩は、空中に滞空!私の指示で再度その形を取り戻す!」
斬り弾かれ塩に崩れたそれらは雷電影の傍で滞空し、致命的なタイミングを見極め指示することで再びその形を取り戻したことで、振り抜いた腕に鎖が絡みつき、槍が腕と腕の間を通ってその動きを阻害。驚いた雷電将軍に、金剛杵が直撃し、雷元素が爆ぜて爆風が広がる。元素こそ纏ってないがシンプルな殺意の塊だ。さすがに殺したくはないのでそこでいったん攻撃を止めるが、効いていてほしい。
「………恐れ入りました。この程度で、攻撃を止める程に私が侮られているとは、ええ。その楽観的な思考に恐れ入りました――――――裁きの雷」
「っ!?」
瞬間、稲光が一筋に瞬く。それを視認した私が慌てて頭を下げたのと同時、私の背後に展開していた塩の武具が全て、真っ二つに破壊されてしまった。これほどの数を再結晶するのは、時間がかかる。ただの元素スキルで全部薙ぎ払うとか、ふざけてますね……。視線を向ければ、雷電影は「夢想の一心」を胸の谷間から引き抜いているところだった。
「先ほど簡単に逸らされて、少し頭に来ました。本気で振るわせていただきましょう」
「簡単ではないんですけどねえ……「一心浄土」に入れるつもりもないと」
「貴女に民の前で打ち勝つことで、「永遠」を確固たるものにします」
見下ろせば、稲妻城下町の民衆が私達を見上げていて。宵宮とか、神里兄妹、トーマに早柚、鹿野院平蔵の姿が見える。ほとんどが雷電将軍の威光に魅入られているようだが、今名前をあげた面子や一部の民衆は、私に羨望の視線を向けていた。ああ、もう。仕方ない。
「私、これでも神様なんですよ。もう民はいませんけどね。……信仰には答えないと、ですよね?」
「磐岩結緑」を取り出し、塩で細部までコーティング。両手剣程の長さの芸術品が如き純白の長剣へと変えると、右手で握ったそれを天高く掲げる。渦まくは塩の奔流。「定規」を持つシオンのそれとは原理が違うからあの時ほどの威力は出せないが、それでも。稲光を反射して希望の光を掲げることはできる……!
「永劫不変の「永遠」を稲妻の民に約束しましょう。―――稲光、即ち永遠なり」
「ならば私は―――汐風、即ち「平和」を謳う……!ここに、平穏齎す晩鐘を鳴らさん!」
そして、「無想の一太刀」と「晩鐘・塩撫」が激突し、稲妻城を中心に雷雲が割れ、青空が顔を出した。
その後、まあ普通に押し負けてしまった私だったが、何故か手心を加えられていてそんなに損傷はなかったため、不時着地点に塩人形を置いて本体はすたこらと逃走。途中、何故か幕府軍相手に大立ち回りしていた荒瀧一斗と荒瀧派、そしてどこかで見た気がする謎の巨女に加勢。騒ぎを引きつけてもらい、出島で立ち往生していた万葉とその親友を回収し、割れた雷雲から空に逃れた。これで雷電将軍の支配下からは完全に逃げ出したことになり、璃月港を目指す中、商談に来たのか弧雲閣に停泊していた死兆星号に突入。一波乱あったが、船長である北斗に二人を押し付けることに成功した。
「いやあ、疲れた疲れた。あんな強いのと二度と戦いたくないですねえ」
「あの……!どうすれば、貴女の様に……「無想の一太刀」と相対することができるだろうか!?」
「お、おい…!失礼でござろう!?」
北斗に後のことは任せて、弧雲閣の浜辺で寝っ転がって夜空を眺めていると、万葉とその親友がやってきた。親友くんはどうやら強くなりたいらしい。うーん、わからんでもない。私も死ぬためとはいえ強くなったしなあ。多分。きっと。メイビー。雷電将軍に敵わなかったし全然かもだけど。
「んー、簡単ですよ。神の目を手に入れた時と同じです。願いを抱きなさい。願いを「星」とするのです。あの夜空に輝く星に手が届くまでひたすらにがんばるのです。近道なんてありませんよ、鍛錬するべしです」
「で、では……俺を、弟子にしてくれ!」
「ええ……クロリンデ以来何人も私に弟子入り頼んできますけど、私教えるの下手ですよ?」
「貴女がいいんだ!」
「ならば、拙者も!」
「……死兆星号が璃月港にいる間だけですよ?」
翌朝、グロッキー状態の侍二人が死兆星号に送り届けられたのは、別の話。
この後、逃がしたという事実を広めるわけにはいかないから「国外追放」に泣く泣く変えた模様。雷電影は本気で副将軍にするつもりでした。
本気モードへウリア。無限の剣製や王の財宝を再現しましたが、彼女の脳内での「本気の戦い」がどうしてもUBW最終戦になる模様。「晩鐘・塩撫」は完全にオリジナル技です。超強い「塩撫」。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
次回、璃月編突入!まず目指すのは……
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