原作:「8番出口」となります。楽しんでいただけたら幸いです。
ご案内 Guide
異変を見逃さないこと Don't overlook any anomalies.
異変を見つけたら、すぐに引き返すこと If you find anomalies, turn around immediately.
異変が見つからなかったら、引き返さないこと If you don't find anomalies, do not turn back.
8番出口から外に出ること To go out from Exit 8.
――――――▼【■■■■■■8番出口】
そんな文章が書かれた案内板と、その横の大きな「0」の字を見やる。転生する前に、何度見ても新鮮味を帯びた光景だった。
「はあ、なーんでテイワットに8番出口があるんですかね?あ、いや厳密には箱庭みたいなものなんでしたっけ?」
8番出口。前世で死ぬ直前の1年ぐらい……いやもっと前からだっけ?に流行っていたホラーゲームである。簡単に言えば間違い探しで、駅の地下通路の様なある一定の同じ空間を何度も歩き、変なところがあれば引き返し、なければそのまま進む。正解ならば数字が進み、もし間違えれば例え7まで進んでいたとしてもリセットされまた最初から。そうして8番に存在する出口から脱出する。そんなシンプルながら奥深いゲームである。
では、なんで私がここにいるかというと。魔女「O」から招待されたのだ。いずれ旅人に譲る“ドール”の動作確認のために、魂の分割が可能な私にテストプレイしてほしいと。そこで理解する、これは私が転生するちょっと前ぐらいに実装された「原神」内の常設型創作交流コンテンツ「星々の幻境」だ。簡単に言えばゲームを作るゲームであり、私はなんか苦手で全く手を付けてなかったが、噂だけなら聞いたことがあった。他のゲームの再現も可能で、その中に8番出口もあるのだと。
「はえー、なんか雑と言うかなんというか。いわゆるベータ版なので仕方ないとは思いますが」
魔女「O」の同封した手紙によると、私が承諾した時点で私の意識は“ドール”に移されるとのこと。鏡がないから確認はできないが、今の私は多分“ドール”と呼ばれる旅人のアバターなのだろう。スカートだから女性型かな?……いや、最近のゲームは男性主人公でもスカート履いて女装できたりするからな……*1。油断ならんし、確認確認……ついてない、よし!いやまあどっちでもいいけどね。多分デフォルトの姿かな?カスタマイズとかする気は全然ないからいいけど。
「とりあえず、確認がてら進みますかー」
えーっと、向かって右側に3つ存在する扉が手前から「分電盤室」「従業員専用」「清掃員詰所」。見たことはあるものではあるが、配役とか役職がテイワットの誰かに置き換えられている広告ポスターが左側に6枚。順番に、「西風騎士団は君を待っている!」「ごはんの時間は万民堂!」「雷電将軍に転生してみた物語をお望みなら八重堂へ」「教令院体験ツアーご案内」「往生するほど美味しい!往生堂フォンテーヌ支店」「マリンスポーツにエクストリームスポーツ!大自然溢れるナタへぜひ挑戦を!」とある。なるほど、私の意識が反映されているらしい。往生堂フォンテーヌ支店とか原作にないもん。
「これがどう異変になるんですかねえ」
他には、「↑ 出口8」と表記された天井看板が上にあり、下には通路中央のやや左側に敷かれている点字ブロック。右側の壁にダクトが2つ、入り口の直ぐ右側の壁に「ドッカーン禁止」の張り紙、通路の入り口と出口に2箇所と通路なかほどに1箇所設置されている監視カメラのつもりらしい水晶玉、天井中央に等間隔で据え付けられている蛍光灯……ふむ、なるほど?テイワットのものだと思ったら前世の物体もあるし、いろいろ混ざってるな?
「なるほどなるほど。それで、おじさん役は……」
おじさん、とは8番出口に欠かせない人物である。少し剝げかけたサラリーマンの様な出で立ちの男性なのだが、彼も一緒に同じ通路を何度もすれ違うのだ。それは誰になるのかな、と思えば。空我のお面を被った真白空我真君がすたすたすたと歩いてきて、私に視線もむけずに歩き去っていった。
「……いや、十分怖いんですが今の異変じゃないんです?」
もう一人の自分とか怖すぎない?……あ、いや。もうシオンとかザルツとか増やしてたわ。なんでもない、たしかに適任だろう。
「私なんて、その辺のモブでいいんですよ。わかってますね、魔女「O」よ」
てく、てく、てく。と。歩いて歩いて。異変を探す。うーん、四肢のサイズとかバランスが違うから歩きにくい。これで壁男辺りが来たら逃げれるだろうか心配だ。とか思っていたら、いた。壁に埋まった人型、通称壁男。……なのだが、私の知るタイルの全身ストッキングおじさんとは違った。なんというか、人型が壁にめり込んでいるのはわかるのだけど、妙に白いというか。
「……まさ、か」
本来なら気付いた時点ですぐ逃げるのが定石。しかし、妙な違和感が気になり、その正体を探るべく近づいて、その正体に気づく。
『貴女は此処で死ぬべきだ』
『さあ、我々と共に参りましょう……』
バタン、バタン、バタン!と。壁男に……私を刺殺した王の形をした塩の像の正体に気付いた途端、扉が開いて次々と出てくる、ぎこちない動きの塩像たち。どれもこれも、見覚えのある顔だらけだ。ああ、これは。逃げることなんて、できないな……。
目覚める。いや、あれは無理だろう。私がヘウリアである限り、決して抗えない。またでないことを祈ろう。そう思って、廊下の曲がり角を曲がる。そこには、1人の少女が廊下の真ん中に佇んでいて。指をこちらに向けて、微笑んだ。
「……帰終。お言葉ですが、彼が愛せるのは貴女しかいませんよ」
親友はその言葉に苦笑し、私は背を向けてきた道を戻る。ああ、死人と会話できるなんて……異変、だなあ。
ポスターが徐々に大きくなる異変。
天上に顔の様なシミが浮かぶ異変。
蛍光灯がしっちゃかめっちゃかな異変。
張り紙がたくさんある……かと思えばその全てからボンボン爆弾が飛び出してくる異変。
どう見ても原始胎海にしか見えない洪水が廊下の先から溢れてくる異変。
むかつく笑顔のアザールが出てきたときは容赦なく拳を顔面に叩き込んでから引き返した。
これで七つ目。異変しかない。確か最後は異変のない通路に当たるまで、何度でも異変を見逃してはならない。そう思って、曲がり角を曲がる。誰も、いない。
「分電盤室」「従業員専用」「清掃員詰所」
「西風騎士団は君を待っている!」「ごはんの時間は万民堂!」「雷電将軍に転生してみた物語をお望みなら八重堂へ」「教令院体験ツアーご案内」「往生するほど美味しい!往生堂フォンテーヌ支店」「マリンスポーツにエクストリームスポーツ!大自然溢れるナタへぜひ挑戦を!」
「↑ 出口8」「ドッカーン禁止」
ふむ。なにも、異変はないように見える。これは、脱出できるのだろうか。運がいいことに最初から異変がない通路を引き当てた様だ。そう思い、通路の先を目指す。そこで、自分の手を見て、思いだす。
「ああ、そうでした。私自身が、テイワットにとっては異変でしたね」
片手剣を手に取り、自身の胸に突き刺す。血が溢れる。久しくの感覚。
▼【■■■■■■8番出口】
▼【■■■■■■8番出口】
▼【異変■■■■8番出口】
▼【異変しかない8番出口】
「ああ、失敗ね。迷い込んだ人間の精神性を反映させるとこうなっちゃうのね」
「オクタヴィアには調整する様に言っておかないといけないねえ」
『このまま旅人に与えたらとんでもないことになりそうだものね。魂を分割できる彼女にテストを頼んでよかったわ』
「異変しかないってことはつまり、どう足掻いても脱出できない、ってことだものね?」
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