今回は本編時間軸に入ってから音沙汰無かった客卿の幕間。楽しんでいただけたら幸いです。
ヘウリアが目覚めてから、10年。平和な世になった時に復活させる、という契約*1に基づいて、ヘウリアの亡骸の塩の花に埋まっていた“アレ”を埋め込んだからか、ヘウリアは今も磨耗することなくテイワットを謳歌している。原理こそわからないが、あれがあの形をしていたのは偶然ではないと思う。彼女こそ、この激動の時代を見守る者なのかもしれないな。
だが、何処に行くにしても塩華女帝の名を聞くたびに苦い顔をしているのを知っている。彼女は蘇った直後に自分が没後にそう呼ばれていると聞いた時、本当に不服そうな顔をしたのを覚えている。俺と並び立つのが嫌なのかと思えば、民を守れなかった自分なんかにその資格がないからだという。そんなことはない、とは思う。彼女がいなければオセルと跋掣により璃月は今頃海の底であったし、弟子入りした時ならともかく数々の魔神と相対して生き残った彼女の武勇を疑う者など誰もいない。
だがしかし、その名が重みであるというのならば。彼女が苦しむ理由となるのなら、俺は……。
「白亜さん、今日10周年だからってフォンテーヌ支店でイベントやったみたいだけど、本店の堂主たる私を呼ばないなんてひどくない?ねえ、鍾離さん」
「ほぼ別の店になっているからだろうな。俺は頼まれてもフォンテーヌまで行く気はないがな」
「ああ、海産物が怖いんだっけ。いつまで経っても見た目も趣向も変わらないねえ」
「ふっ。日頃より努力してるからな」
「うっそだあ。鍾離さんも白亜さんもいくら何でも私が子供の頃から変わらなすぎるよー。仙人だと言われても信じるよ?」
「我々の様な年齢はさほど容姿は変わらないものだ。ふむ、仙人といえばそろそろ迎仙儀式の時期だったな。……一つ聞くが堂主よ。いつまでも神が人の営みに口出しすることは、煩わしく思ったことはあるか?」
本当に、気まぐれで聞いた問いかけだった。数年前に先代堂主が亡くなり、77代目堂主となった桃嬢。先代から雇用している俺とヘウリアが魔神だとは知らずに子供の頃から共に生きてきた少女。疑いこそすれど触れられたくないと察して茶化して決して踏み込まない優しさを持つ少女なら、答えを持っている気がした。
「別に思ったことないけど……迎仙儀式でお告げを受けるの、七星の人たちでしょ?私達庶民からしたらあんまり興味ないというか……いきなり何?変だよ、鍾離さん」
「いや……そうか。そうだな。もう、民には必要ないか……」
ここ数年、モラクスとして振る舞うのは、終ぞ年に一度の迎仙儀式のみとなってしまった。ただの往生堂の客卿、鍾離として生きる方が心地よいのもあるが、民は俺達など居なくても生きていけるのではないのかと思い始めたからだ。……10年前のアトラスの復活から本当にそうしていいのか不安になっていたが、やはり、長年考えてきた計画を実行に移すべきか。
「あれ、変だな。さっきまでそんなことなかったのに、死相が見えるよ鍾離さん。大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。むしろすっきりした。礼を言うぞ、桃嬢」
「もう、今は堂主なんだから昔の名前で呼ばないでよね!」
自室に戻り、箪笥に奥底に仕舞っていた、かつて帰終が作った鏡のような通信機を取り出す。これは対になる鏡と通信ができる代物で、かつてシトリウスとの戦争でヘウリアに救援を頼んだものを、帰終から受け継いだものだ。ヘウリアが没した時に遺していた対の鏡も共に保管していたが、先日なにやら覚悟を決めた顔をしていたヘウリアに託していた。
「ヘウリア。聞こえるか」
《「あれ、どうしたんです?モラクス。珍しいじゃないですか、これを使って連絡するだなんて」》
「少し、内密でな。今はモンドだったか。お前の分身が主催しているフォンテーヌ支店の催しに呼ばれなかったことを堂主が怒っていたぞ」
《「え、本業の葬儀屋してないのにも関わらず10年続いている支店の催しに呼ぶのは逆に失礼じゃないです…?」》
「俺もそう思ったのだがな。乙女心は複雑らしい。それでだ。近々、璃月に戻る予定はあるか?」
《「ああ、はい。実はですね、とある旅人と知り合いまして。彼女やその仲間と共に旅することにしましてね。迎仙儀式に間に合うように璃月に向かう予定です。どうも、貴方に聞きたいことがあるそうですよ?」》
「ほう。各国を転々としているお前が同行を申し出るとは珍しいな。どこの国の者だ?」
《「それは……異郷の旅人、としか?」》
一瞬考えこんでから、こてんと首を傾げるヘウリアが鏡に映る。それを見て、ああ。何か知っているんだな、と察する。一年前に稲妻に密入国して侍二人を連れだしたことを問い詰めた時と同じだ。何かを知っていて、隠そうとする。数千年前から変わらない、ヘウリアの悪癖だった。いつか、俺にだけでいいからその秘密を共有してほしいものだが。少し、残念に思う。
「ちょうどよかった。頼みがあるんだ」
《「はいはい、なんでしょう。モラクスの頼みですもの、なんでもしますよ」》
「ヘウリア、なんでもというのはやめろ。俺以外が聞いていたらどうする」
《「貴方にしか言いませんよこんなこと。あれ。どうしました、いきなり顔を背けて」》
無意識なのだろうが、その言葉に思わず顔を背けてしまう。今の顔を見られたら恥だ、となんとか取り繕って鏡に向き直る。
「なんでもない。それで、頼みと言うのは……迎仙儀式にて、俺を……岩王帝君を、民の眼前で殺してほしい」
それはつまり、彼女を慕う民の前で大罪を犯してほしいということにままならず。罵倒の一つでも受けるつもりだったが、ヘウリアはあっけらかんと頷いた。
《「いいですよー。あ、でも本気を出されたら勝てないんで程ほどに手加減してくださいね?派手派手に演出してやりましょう!」》
「……理由は聞かないのか?」
《「え、もしかして私にも言わずに適当に死んだふりするつもりだったんですか?それはさすがに無理がありますって。モラクスは演技下手なんですから」》
「い、いや俺を殺してくれと言っているんだぞ?」
《「凡人になるために殺すふりをしてほしいんでしょう?貴方ほどの神を殺せるのは、遺憾ながら同格とされている私しかいない、とそういうことでしょう?他国の七執政よりは、同じ国の存命の神でありながら七執政ではないためその座を狙ってもおかしくない私がやったとされるほうが自然ですし、いい案だと思いますよ?」》
その言葉に、ヘウリアは既に俺の思惑に気づいていたと察する。あちらから言わない辺り、俺から言い出すのを待っていたのだろう。ああ、まったく……敵わないな。
「……お前は巻き込まないつもりだった。俺と違って、白亜がヘウリアだと知っている人間が多いから」
《「いやいや。巻き込んでくれないと困ります。私はその為に生きていると実感できますし。その人間たちには、まあ適当に誤魔化しますよ。実はですね、誤魔化す案は思いついているんです。ボロが出たら不味いんでモラクスにも言えませんが」》
「それは、………心強いな。これは、璃月の民全てを裏切る行為だ。残されたお前が、七星やその秘書にも、仙人たちにも、間違いなく責められる、そんな大罪だ。それでも、俺の共犯者になってくれるか?」
《「あはは。何をいまさら。私が貴方の頼みを断ったことがありましたか?満足して死んだ私を生き返らせたんです。………運命共同体と言っても過言ではないのでは?共犯どころか主犯になってやりますよ。もしものときはフォンテーヌに逃亡すればいいですし?」》
今の間に、よくもヘウリアが死んだあとに王たちが自害したことをわざわざ生き返らせた上で教えてくれたな、という恨みが見えた。ああ、お前が望むなら。共に地獄だろうと踊って見せよう。
迎仙儀式にて、暗雲を突き破り舞い降りる俺に迫る白銀の流星。頬に直撃した一撃は、触れた瞬間に棘が生えた上で二段構えの衝撃を放ち、俺を天高くまで打ち上げた。困惑する玉京台の民たちの前に降り立った仮面の女は、両手を広げて歓喜の笑い声をあげた。
「あはははっ!岩王帝君!!ずっと、ずっと!その面、殴りたいと思ってたんですよ!!!」
待て。ただの奇襲にしては殺意たっぷりだったが、待てヘウリア。お前本気で俺への鬱憤を晴らしに来てるな?その台詞、演技じゃなくて本音だな?……やれやれ。困った友人だ、その殺し
※最後だけ時間軸進んで展開が先取りされてますが、次回から普通に元の時間軸に戻るのでご安心を。
ナヒーダとかグレメリーも相当だったけど、一番めんどくさいのはやっぱり古参のこの男なのだ。ヘウリアとの関係性があまりにも複雑すぎてあの世で帰終も嘆いてそう。ちなみにこの世界線だと仙人の一部が鍾離=帝君だと知っています。
次回、はたから見たら仮面夫婦。以下定型文になりますが、割と真面目に感想に飢えているのでどしどしいただけると本当に嬉しいです。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
モラクスとヘウリア、正直あり?(※ヘウリアはモラ帰派)
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あり
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なし