今回は、前回のアンケートで鬩ぎ合っていた凝光とモラクスの視点でお送りします。二大武神激突です。楽しんでいただけたら幸いです。
不吉な暗雲立ち込めていた天が割れる、という信じられない光景に。現実逃避のように、過去を思い返していた。
十年前。天権になって間もない若き私は、盗まれた国宝を取り戻したという実績を得て、璃月の民にどう信頼されていくかを考えていた。そんな折に、ファデュイの「落伍者」を引き連れたファトゥス第二位【博士】の襲撃に遭い、死を覚悟した私は、仮面を被った彼女に救われた。私は観察眼を培っていたから顔を隠してもすぐにわかった。数日前にあの儀式剣の発見者として会っていた彼女だと。そしてその正体が、当時はまだ噂程度で確証はなかったが復活したとされていた儀式剣の本来の持ち主たる塩華女帝ヘウリアだと思い至る。【博士】がその名を呼んだことで確信に至った。
そして私は目の前で起きた神話を目に焼き付けた。ヘウリアの友とされた稲妻で信仰されていたオロバシを人造魔神として復活させ操る【博士】に対して、塩華女帝は己の身を顧みずに冷酷なまでに無慈悲に圧倒した。塩華女帝なのか、と尋ねると彼女はそれを否定した上で、彼女の物である儀式剣を託してくれたのだ。そして私を強い人間だと、璃月にいてくれてよかったと、そうおっしゃってくれた。
光栄だった。まだ若輩者だった私を、認めてくれた。その期待と信頼に応えようと、この十年を璃月七星として恥ずかしくないように生きてきた。
なのに、これはなんだ。私は、悪い夢でも見ているのだろうか。側にいた璃月七星の秘書にして半仙でありあの二人と親交も厚い甘雨は、残酷な現実に脳がオーバーヒートを起こして耐えきれなくなったのか、卒倒してしまった。私もできることならそうしたい。だが、璃月七星として見届けなくてはならない。
半分麒麟、半分龍の姿をした岩王帝君が、殺意に満ちた塩華女帝の手にしたメイスの一撃を受け止め、虚空から岩石を落としてそれを塩華女帝が蹴りで破壊する。
璃月の民の信仰の対象である二神が、本気で殺し合っている。そんな信じられない光景が、璃月港の遥か上空で行われていた。
「やめて、ください……」
塩華女帝が襲撃してから押し黙っていた民衆の誰かが、声を上げる。それをきっかけに、次々と声が上がり始めた。
「鎮まりください…!どうか、どうか……!」
「なぜ、帝君と女帝が殺し合わねばならないのですか……?」
「おやめください…!」
「なにかの間違いです!どうか、話し合いを…!」
信じたくないと、どうか止めてくれと困惑や懇願の声が上がるが、上空のお二方に届いているのか否や。その鱗から岩の刃をいくつも生やして空中で8の字を描いて何度も体当たりを仕掛ける帝君に対し、空を蹴って避けながら塩の剣をいくつも生み出して突き刺していく女帝と、その戦いは苛烈さを増すばかりだ。
「……なぜ、こんなことになったのですか」
思わず零れたその言葉に、返答はなかった。
流石はヘウリアだと言わざるを得ない。この龍と麒麟を合わせた姿は戦闘に特化している。岩より強固な鱗、岩盤をも引き裂く爪と牙、空気の流れを読み取り相手の動きを先読み出来る髭、そして宙を自在に駆け抜ける長大な巨体。その全てが通じない。強固な鱗を容易く貫き、爪の一撃を容易く受け止め、動きを読めば直前になっておそらく山感から動きを変え、体格関係なく殴り飛ばす。ああ、お前にこそ武神の名はふさわしい。
『もっと俺に魅せてみろ!ヘウリア!!』
「こちとら最初から全力ですよ!!!」
ヤスリのように表面を粗くした岩元素を纏った俺の体当たりを、両腕に塩の手甲を装着して受け止め、角を両手で掴んで空中で一本背負いを決めてくるヘウリア。俺の体当たりの勢いをそのまま利用されたそれに、俺は体勢を変えること叶わず璃月港傍の海面に激突。巨大な水柱を上げた。
「こんなんで、くたばったりしませんよね?」
『当たり前だ』
本来ならばこのまま沈んで死んだふりをするべきなのだろう。だがヘウリアはそれを忘れているのか*1、好戦的に挑発してきて。それに応えないわけにもいくまい。
『海上に出たのなら好都合だ。本気を出させてもらう!』
岩元素を周囲に凝縮し、今の俺の身の丈はある岩の槍を形成、そのうち1本を握って両手で構える。背中には岩元素でできた光背が浮かんでいた。それを見て、不敵に笑んで手甲のみを装着した両手を構えて腰を沈み込ませるヘウリア。
「私が避けたら津波で璃月港が沈みますよ?」
『ああ。だがお前ならば、そうはなるまい?』
「貴方は昔から私を買いかぶりすぎですよ*2」
睨み合いが終わったのは、一匹の魚が海上で跳ねた瞬間だった。隕石のごとく岩の槍を横に発射しながら、岩の槍を手にヘウリアに突進。質量と速度が伴った刺突を、ヘウリアは先端に拳を叩きつけることで粉砕。砕けた瞬間には俺は手放し、別の岩の槍を手にして今度は二刀流で乱舞を叩き込むも、ヘウリアは遊戯でも行ってるかのように涼しい顔で宙返りしたり、岩の槍に手を置いて足場にしてさらに跳躍したり、岩の槍に乗って駆け上って来た。これには思わず笑みがこぼれる。
『これも凌ぐか……!』
「いくら武神でも、普段慣れない大きな身体で振るわれる攻撃なんぞ怖くありませんよ!」
そう言いながら駆け上って来たヘウリアは、俺の眼前に飛び出すと両手を合わせてダブルスレッジハンマーを俺の角に叩きつけてきた。一瞬目が眩むとともに、とてつもない衝撃が突き抜け、顔から海に向かって叩き落とされるも、海面ギリギリで踏みとどまり、岩元素を両手の間に収縮。それは拳大の巨岩となり、唸るような轟音と共に回転しながら上空のヘウリアに放たれる。
「がんせきほう*3みたいな技まで使えるとは、さすがですね!ですが……脚力は手の3〜4倍のパワーがあるらしいですよ?」
そう称賛しながら、塩で装甲を纏って武装した右足で蹴りつけて巨岩を粉砕するヘウリア。そのまま流れるように足を振るって装甲をパージ、パージと同時に複数の刃にした装甲を飛び道具として飛ばしてきたので、尻尾で防ぐと視界が隠れた一瞬の隙にヘウリアは雲隠れしてしまった。
『む、どこに……?』
「最強相手に正面から挑むのは愚策ですよ」
その声と共に、空から降り注ぐ塩の槍の雨。鱗を貫くことこそ叶わなかったが、顔を庇いながら視線を上にあげれば、上空を円形に駆け回るヘウリアがいて。器を手に次々と塩の槍を生成しては落下させてくる。建物ぐらいなら一撃で粉砕できるであろう威力だが、この体には通じない。なんのつもりだ……?
『そんなこけおどし…!』
「はっはっは!いやあ、そんな無駄なことすると思います?最古の魔神と言えども思いつきませんかね!!」
『なに……?』
仮面から露出した口から舌を少し出して悪役を思わせる笑い声と共に、鱗に当たって爆ぜる塩の槍に視線を向ける。……爆ぜる?待て。鱗に響く程には強度はあるはずだ。それがなぜ、当たった傍から砕け散って……?いや、そうか……!今ヘウリアが何もない場所を歩いているように見えるように、そこに存在する塩の粒を視認することは……!?
『いつの間に……!?』
「敵にも塩を送りましょう!総ての人間に塩!!*4」
気付いた時には遅かった。爆ぜた塩の槍を構成していた塩が周囲の空中に滞空し、ヘウリアの合図とともに俺の体を塩の像にして固めてしまった。自重から落下しながらも塩の外装を崩そうとするも、絶妙に隙間を作ることで崩すことができない。完全に身動きが封じられたか……。
『だが、甘いぞヘウリア…!』
周囲に岩元素を固めて小さな隕石を作り、自らに当てることで塩を崩そうと試みる。しかしそれは、上空で立ち止まったヘウリアが掲げた手から放たれた塩の散弾により形成した傍から破壊されてしまった。
「ソルトスプラッシュ。……させるとでも?」
『……ここまでとはな』*5
完全に詰みまで追い込まれたことに、心からの賞賛を送る。うむ。ヘウリアの本気は予想以上だった。あとは俺がこれから脱出するだけだな!はっはっはっは!!………………どうやってだろうか。思わず塩の下で冷や汗が流れる。割と本気を出しているのだがびくともしない。外からの破壊は妨害される。う、うむ?
「ここでくたばりなさい、モラクス!!」
俺の返事をとどめを撃つ合図と受け取ったのか、ヘウリアがその手に器を構え、頭上に掲げると器の塩が渦を巻き、大気を巻き込んで巨大な竜巻を作り上げていく。ろくな防御体勢も取れない中でヘウリアの恐らく本気で繰り出すであろう一撃を耐えれるだろうか。10年前のアトラスを葬ったヘウリアの分身の一撃を思いだし、背筋に寒気が走る。
「岩盤をもぶち抜く螺旋を描け!」
渦を逆手に持ち、渦を巻く竜巻の下側を掲げた状態で俺に向けて振りかぶるヘウリア。竜巻を握ってこちらに向けて加速する様は神話の様相だが、相対する側としたらたまったものではなかった。
「ギガぁ!“渦塩”!ブレイクゥウウウウっ!!!」
『ぐ、ぬ、うおおおおおおおおっ!?』
師である俺だからこそ手加減無用だと確信しているのだろう、本当に遠慮の欠片もない天変地異が如き塩と風の渦が、俺の眼前まで迫ったヘウリアから叩きつけられた。凄まじい衝撃と共に、鋭い塩の刃による連撃が襲い掛かりゴリゴリゴリ!と嫌な音を響かせてなすすべなく海面に落ちていく。拘束され、飛ぶこともろくにできないこの身体では、どうしようも……この、身体では?
『ええい、ままよ!!』
海面に落ちて巨大な水柱を上げると同時、俺は人間の姿に変身して、半龍半麒麟の形で固まっていた塩の拘束から逃れて隙間から海中に脱出。同時に襲い掛かってきた水流も+した螺旋の連撃には、障壁を展開して防ぐもその勢いに負けて海中まで押されていく。だ、だめか……!?
結局、千岩軍にろくな指示を出すこともできないまま、いや出したところで動くことはなかっただろうと確信するほどの神話が如き戦いは、璃月の仙祖が海中に沈んでいったことで終幕を迎えた。天候すら変えた塩華女帝の一撃は、彼女の強大さを示していて。
「はあ、しぶとかったですねえ。ねえ、天権もそう思いません?」
帝君が沈んだのを確認してから、玉京台の縁に着地した仮面を被った魔神が、露出した口元だけ無邪気に笑んで朗らかな声色で呼びかけてきた。いまだに信じられない、だが。璃月七星の代表として、私は。
「……な、なぜ帝君、を、貴女が……帝君、は……」
絞り出した声が震えているのがわかる。だがそれを咎める者は誰もいない。むしろ労わるような視線すら感じる。すると、己の師に手をかけた仮面の女はこてっと首を傾げた。
「あれ、見てなかったんですか?モラクスなら。私が殺しましたよ。いやあ、すっきりしました!」
仮面をつけててもわかる程の清々しい笑み*6に、私は法器を召喚し、岩元素を凝縮する。ああ、あの時の、私が崇めた彼女は……もう、いない。それを合図に、千岩軍や刻晴が刃を突きつける。
「帝君を手にかけた罪で……塩華女帝、いやヘウリア!貴女を拘束します!」
「そうそう、そんな不相応な肩書きなんてゴミ箱にポイして私の名前を呼んでくださいよ。やれるものなら、どうぞ?」
そう言ってお辞儀をしたかと思えば、背中から倒れ込んで玉京台のある高所から飛び降りるヘウリア。あっ、と誰かもわからない声が上がる。しかしヘウリアは空中を歩行して璃月港から離れようとしていて。咄嗟に刻晴が雷元素の楔を投げ*7、それを追って瞬間移動して斬りかかるも、ヘウリアはあっさりと身を翻して回避、刻晴は風の翼を広げて滑空するしかない。神と違って、我々は自由に空を駆ることはできないのだから。
「待ちなさい!私達の神を奪っておきながら、導くことなく私達を見捨てるのか!!」
「神なんて信じてるぐらいなら自分を信じた方がいいですよー。神頼みなんていいことなにもありませんので!」
「そんなこと……」
「私なんかを信じてたんでしょう?それでどうなりました!」
刻晴の言葉に返すようにヘウリアが去り際に告げたその言葉は、私達にのしかかった。ああ、そうだ。帝君に匹敵しうるとわかっていながら、私達は彼女を信じて、放置して……その結果、帝君は……。
「それでは皆さま、ごきげんよう……おっと?」
すると、私達に向けて芝居がかったお辞儀をしていたヘウリアに、一筋の矢が突き刺さった。胸を貫いたのは矢ではなく、純白の槍で。ヘウリアはそれを受けても軽い声を上げただけで平然としている。
「……さすがに気付かれましたか。本物が来てしまったのでお暇します。ではではー」
「あ、待っ……」
呼び止める間もなく、ヘウリアは一跳躍と共に絶雲の間の方角に跳び去っていて。行き場を失った手を彷徨わせた私は、ふと矢が飛んできた方角を見やる。璃月港と海を一望できる丘、そこに……純白の、人物が立っている…?
「天権様、いかがいたしましょう?」
「我々は、どうすれば…」
そこに、千岩軍が不安げな顔で指示を求めてきた。……考えている暇はない。
「ヘウリアを、そして往生堂の従業員、白亜を指名手配するわ」
「え……なぜなのかはわかりかねますが、白亜殿なら、先ほど玉京台に入られるのを見ましたが……金髪の旅人と、飛行生物とメイドと一緒でした」
「なんですって?今すぐ玉京台を閉鎖しなさい!逃がさないで!」
往生堂の白亜をヘウリアと同一人物だと知っているのはこの場で私と甘雨だけだ。私の、……自分でも甘すぎると思う考えが正しければ、最悪の事態になる。だからせめて「ヘウリア」か「白亜」を捕らえねばならない。他国へ知れ渡る前に、絶対に。
ヘウリア渾身の悪役ムーブ。モラクス相手だからアトラス戦以上に本気かもしれない。最後の技はグレンラガンのギガドリルブレイクっぽい渦潮ならぬ渦を巻いた塩です。
甘雨は卒倒し、内心めちゃくちゃな七星コンビ。ヘウリアとモラクスはそれでも「璃月の民なら乗り越えてくれると信じているぞ!」なのが性質が悪い。
以下定型文になりますが、割と真面目に感想に飢えているのでどしどしいただけると本当に嬉しいです。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
次回の視点はヘウリア視点ができないので……
-
混乱だらけの旅人
-
いいものが見れてホクホクタルタル
-
夢であってほしい甘雨
-
海に沈んだ鍾離
-
またしても何も知らない胡桃