今回は炎夜叉と岩夜叉戦。楽しんでいただけたら幸いです。
「いやあ、珍しく焦った師匠がちっさな師匠で拙者たちを呼び出した時はびっくりしたでござるなあ」
「お尋ね者になったから弟子である俺達に迷惑がかかると言いながら、仕事を頼んでくるあたりが実に師匠だ」
沈玉の谷。東の
曰く、璃月中で異変が起きていて、その対処をしたいが自分は千岩軍に追われていてできないと。その後やってきた千岩軍にヘウリアがモラクスを襲った、白亜は指名手配になったなどと情報を聞いて混乱はしたが、まだ白亜に出会って一年しか経っていない二人からすれば、やることは単純だった。師匠が言うのだから、それを信じればよい。学びたいと言ったのは自分たちなのだから。
「数合わせとはいえ頼られるのは嬉しいでござるな!」
「認められた感じがしていいな!期待に応えるぞ、万葉!」
そう意気込んだ瞬間だった。ちょうど見えてきた遺瓏埠から巨大な火柱が上がったのだ。悲鳴が轟く中でその火柱から鳥の様な影が飛び出し、火柱の周りを旋回して琥珀の壁のようなものを展開して被害を防ごうと試みているようだが、すぐに罅割れさらなる爆発が轟く。
「千速。あれが例の異変で間違いないでござる」
「ああ。先に行くぞ、万葉!」
それを見るなり、二人の行動は早かった。万葉はすぐに駆け出して、風元素を駆使して舞い上がりながら悪路を跳躍して進み、千速はその場で地面を強く踏みつけると「S極」に調整した雷元素を付与。同時に踏みつけた草履の裏にも「S極」の雷元素を付与し、反発を利用して凄まじい速度で走り出した。着地するたびに地面と草履に同じ磁力を付与してさらに反発するのを繰り返し、五秒と経たずに遺瓏埠に到着。本来は舞台がある広場の中心にて炎の柱が立ち上り、その中心に頭を抱えて蹲った女性を見つけた。かつて業障による恐怖に支配され発狂したと『護法仙衆夜叉録』で語られる火鼠大将、応達である。
「応達!我だ、理水畳山真君だ!落ち着け、落ち着くのだ!!」
「あぁあ……あぁああぁああっ!!!」
赤とオレンジの鶴のような姿をした理水畳山真君が琥珀を広げて炎を押さようとするも、紅蓮のチャイナドレスの様な衣装を身に着け、深紅の髪が熱風で立ち上り、蹲った応達が泣き叫ぶたびに炎の勢いが強くなり、伸びてきた尻尾の様に振り回される炎が琥珀を粉砕して理水畳山真君を撃墜。そのまま襲いかからんとしたそれを、引き抜いた刀で斬り払う千速。
「あの鳥が師匠が言っていた仙人だとして。炎を操る、女……師匠によればかつてこの地を守っていた夜叉だという話だったが……いや、なんでもいいか。先達として、手合わせ願う…!」
愛刀を鞘に納め、鞘を手に大きく腰を沈みこませる千速。破壊を伴う炎を不規則にまき散らす応達。しかし凄まじい威力ではあるもののそれは、雷電将軍の様な洗練されたものではない。ならば付け入る隙はある。そう判断した千速は、その場で抜刀。刀身の先端に形成された雷元素の手裏剣が応達の目の前の地面に突き刺さると弾けて消え、千速は気にせず納刀して深く深く、前傾姿勢で沈み込んだ。
「藍硯!やっぱりだ、逃げ遅れた人がいたぜ!」
「うん、嘉明!そこの人!今すぐここから離れて!聞いてるー!?」
そこにやってきたのは、剣鞘鏢局*1に所属する輸送専門の用心棒「鏢師」の筆頭である巨大な獣面を手にした少年、
「ヘウリア様の、業障が……ッ、やだ、いやだぁああ!!」
発狂の叫びと共に、ネズミの尾の様に伸びた炎が幾重にも広がって周囲を攻撃。地面を融解させ建物を破壊していくそれを、藍硯は自身に風元素のシールドを纏って防いだり、風元素を纏った翦月輪で拡散させて防御。嘉明は獣面を被ってアクロバットな動きで回避していく中、すぐ傍で炎の尻尾が叩きつけられても反応することなく集中し続ける千速。それを認識したのか、六本も炎の尻尾を展開して、その全てを千速に殺到させる応達。
「危ない!」
「逃げるんだ、アンタ!」
「心配ご無用でござるよ」
藍硯と嘉明が手を伸ばして駆け付けようとするも、そこにふわりと舞い降りてきた万葉。抜刀して炎の尻尾を全て薙ぎ払うと、突風を起こして応達までの道を作り上げた。万葉は笑い、後退して道を開けると千速はそれを感知したのか微笑んだ。
「遅いぞ、万葉」
「いやなに。逃げ遅れた子供がいたのでな。しかし、風の道は作ったでござるよ。例え、独りで神やそれに類する者たちに勝てずとも」
「ああ……二人ならば、届く……!俺と、お前なら…!」
瞬間。踏み込んだ地面と草履にS極を発生させて、瞬間的に加速する千速。同時に応達の前の地面に刺さった雷手裏剣がN極の磁場を発生させ、さらに万葉が展開した風元素の路がふわりと持ち上げ、垂直に吸い込まれる様に飛び込んでいく。応達もそれに気づいて次々と炎の尻尾を伸ばすも、それが扇状に広がり千速に殺到する前に、生じた隙間へと千速は飛び込み、鞘に納めた愛刀に手をかけていた。
「電磁抜刀!」
「アァアアアッ!!」
「
解き放たれるは鞘の中で磁場を発生させ、反発を利用して常人では不可能の速度で抜き放たれた、抜かれた瞬間には雷元素で長い刀身が形成されて凄まじいリーチを有した斬撃。それは、ヘウリアの知る神話に置いて野火に晒された窮地の英雄の命を救った剣の名。この場において最も適した剣の名に冠したその一撃は、応達を包み込んでいた炎を斬り捨てて消し飛ばし、応達の背後で草履を石畳に擦り付けて、摩擦で煙を上げながらも千速が着地。炎が消えて呆然としている応達が、千速に振り返る。
「……その剣。あの人を、思い出したよ。あなたは、つよいね」
「過去にこの地で名を馳せた夜叉の一人だと師匠よりお聞きした。本当に強かった一人だから、俺と親友の二人で事に当たれと忠告も受けた。その一人にそう言ってもらえて光栄だ」
「……ああ、もしかして。貴方の、師匠は……」
不安が消えたのか安らかな顔でボロボロと崩れて消滅していく応達を見届け、千速は愛刀を鞘に納めた。
「……いつか、将軍の一太刀にも」
同時刻。璃月港の西にあたる湿原地帯、
「おや、懐かしい顔だ。削月の」
「弥怒。……お前は、正気なのか?」
「ああ。僕は伐難を止めるために戦って相討ちしたにすぎない。他の三人がどうだかは知らないが、正気のはずだ」
「そうか。では聞こう。……なにがあった?何故、お前たちは蘇った?璃月の各地に別れてその姿をさらしたのは何が目的だ」
そう削月築陽真君が尋ねると、困った様に苦笑を浮かべた弥怒は、自身の首に浸けられた武骨な鉄の輪を指さす。それは、ルネウが付けていたものと同じものだった。
「……別に、なにも。僕らは【博士】と名乗る男の手で「首輪」をつけた状態で蘇った。彼曰く、璃月各地の僕らの遺物に賞金をかけることでかき集めて、残留する元素を利用した、だったかな。デミ夜叉と呼んでいたよ。最も、僕以外の三人は正気ではなかったが」
「やはり
「僕も正気を失ったふりをすることで様子を窺ったところ、【博士】が僕らに命じたのはただ一つ。「姿を晒せ」それだけだ。何が目的かはわからないが……あれが邪悪なのは理解できた。だから僕は何が起きても被害が出ない様に誰もいないここで姿を隠すことなく黄昏ていた。そこに君が来たというわけだ」
「璃月のためならば自己を犠牲とするのは夜叉たちの悪い癖であるぞ、弥怒よ。ヘウリアの悪影響を受け過ぎだ。我等に助けを求めてもよかったではないか。我等なら、帝君なら……!」
そう義憤にかられる削月築陽真君に、弥怒は真面目な顔を向ける。
「……ここを通った商人が話していたのを聞いたよ。帝君が塩華女帝……つまりヘウリア殿に襲われてお隠れになったと。それは本当か?」
「……我等も先刻聞いたばかりだ。だが、それはヘウリアの偽物の仕業だと考えている。そうだ、聞かせてくれ。お前たちが蘇った時、他に何か聞かなかったか?ヘウリアの偽物について……」
「ヘウリアの偽物……それは、私のことでしょうか?」
男二人の会話に挿しこまれる第三者の声が聞こえた。両者ともに聞き覚えのある声に、振り返る。そこには、真白空我真君の面を被った、何故かびしょ濡れの白髪に白い肌の女が宙に立っていた。
「あなたは……その声。僕が作ったその衣装。間違えはしない、ヘウリア殿か……」
「お前、が……ヘウリアの偽物か!なぜ帝君に手をかけた!!」
「命令だから、とでも言えばいいですかね。しかし、各地で夜叉が出たというから見に来てみれば……これはどういうことですかね?」
瞬間、仮面の女に鉤爪のついたロープが次々と殺到。仮面の女は軽々と空中を跳ねて回避するも、次は雷元素や水元素の砲弾が次々と放たれ、追い詰められていく。呆気にとられる削月築陽真君の横で、弥怒は何かに気づいたようだった。
「そうか、僕たちは……彼女を誘き寄せるための、囮か……!」
「御明察だ。夜叉が散った各地に見張りを置き、釣れれば私自ら出向く。それだけの話だ。細かく命令する必要はない」
そこに紫色の渦が現れ、中から姿を現したのは仮面を付けた少年の様に見えるが邪悪な気配を漂わせた人物。【博士】の断片の一人が現れた。それを見て、怒気に身を震わせる仮面の女は、【博士】目掛けて空中を蹴って飛び込んだ。
「私の……っ、私の友人たちを貶めたのはお前だな!!ドットーレェ!!!!」
「ははは。演技が崩れているぞヘウリア!モラクスの死こそ想定外だが、迎仙儀式の時期ならばお前が来ると確信していた!そして私が姿を現せば!お前は、飛び込んできてくれるだろう?自らな」
そう両手を広げた【博士】の目の前に、紫色の渦が開く。仮面の女も異変に気付いて目の前に塩を固めて停止するも、弥怒が手にした法器から放った岩の砲弾が背中に直撃。
「なっ……なんで、弥怒……」
信じられない、と言った声色で嘆きながら塩の足場が崩れて紫色の渦に投げ出されてしまう仮面の女。削月築陽真君が信じられないとばかりに振り向くも、それを行った弥怒も困惑している様子だった。
「なっ……弥怒!?」
「なんでだ、これは……!?」
「残念だったな。その私の特性首輪はデミ魔神達の行動を制限するだけが目的ではない。脳の電気信号に雷元素の指向性により命令を与え、その意思関係なく簡単な指示を出すことができるのだ。「攻撃しろ」「ついてこい」のような単純な命令だけだがな」
そう嗤って、仮面の女が消えていった紫色の渦を閉じて別の渦を開き、その中に入っていく【博士】に強制的についていかせられていた弥怒を削月築陽真君は止めようとするも、反撃を受けて動けなくなってしまう。
「すまない、削月の……みんなに、このことを……」
「自我を残したことで思わぬ油断を誘えたのは予想外の収穫だった。やはり、見逃すことも時には利益になるものだ。安心するといい、業障でじっくりとお前の自我も消してやろう」
そう嘲笑いながら渦に消えていく【博士】と弥怒に。削月築陽真君は悔し気に震えることしかできなかった。
※この博士は原神セレベンツに出てきたあの個体をイメージ。ロープの罠は待機していたデットエージェントさんたちが頑張ってました。紫の渦は以前、デミ・オロバシの際に用いてたものです。
応達戦はヘウリアの弟子たる千速と万葉の参戦で勝利。しかし弥怒の方では、最悪の事態に。
夜叉たちの復活は、迎仙儀式にて来るであろうヘウリアを誘き寄せる餌でしたと。「私が神を撃ち落とす日」にて示唆されていた「最近宝盗団が増えた」という噂はこれに繋がるという話でした。
また、応達がヘウリアの業障に……だったことも判明。そう、魔神って死ぬと業障ができるんですよ。夜叉たちはその対処をするのが使命なのだから当然ですよね。じゃあ一度死んだヘウリアのは……?と。自称へウリアの偽物も博士の手に落ち。色々話が動いた回でした。
以下定型文になりますが、割と真面目に感想に飢えているのでどしどしいただけると本当に嬉しいです。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
ついにヘウリアを捕らえた博士。目的は……?
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ヘウリアの肉体
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ヘウリアの知識
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ヘウリアの精神
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ヘウリアの屈服
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ヘウリアと「友人」になりたい
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ヘウリア、お前は何を知っている?