今回は、これまでのヘウリアの集大成です。楽しんでいただけたら幸いです。
「いったい何が起きているの!?」
璃月中で暴れていた亡くなったはずの仙衆夜叉の降魔大聖以外の4人が璃月港に突如現れて暴れ始めたかと思えばの魔神オセルの復活。慌てて群玉閣を向かわせたところに突然現れた巨大なスライム。それがオセルと戦い始めてもうパニックにもほどがあったのに、さらにスライムが見覚えのある白い装甲を身に纏って二足歩行のヴィシャップみたいな姿に変形して派手な格闘戦を繰り広げる始末。
「ねえ、凝光」
「はあ……なにかしら、
「あれ、塩華女帝の塩よね……」
「お願い、わかりきっていることは黙ってくれないかしら刻晴」
傍で兵士たちに指示を飛ばしていた刻晴も察してしまったらしく頭を抱えている。でも、まともな攻撃手段もいない今オセルを相手に頼れるのはあのスライムヴィシャップ(仮)のみ……。もう本当に一体どうなっているのやら。
「邪魔するぞ、璃月七星よ」
すると、窓から鶴の如き仙獣が入ってきた。警戒する兵士たちの前で悠然と佇むその鶴は私に向けて口を開く。
「お前が凝光だな。ヘウリアが評価している人間か。妾は留雲借風真君だ」
「仙人の……なぜ、ここに?」
「仙人だ人間だなどと言っている場合ではなくなったからな。妾が趣味で量産した帰終機*1を貸してやろう。共に璃月を守るのだ」
「それは、ありがたいですが……何故です?帝君を守ることができなかった私達を憎悪していてもおかしくないのに……」
「……それに関してはこちらにも責任がある故な。ふむ、来たか。遅いぞ、削月、理水、降魔大聖。そして……帰終」
そう言った留雲借風真君が視線を向けると、次々と理水畳山真君、削月築陽真君、降魔大聖が現れる。部下たちがどよめく中、最後に入ってきたのは見覚えのある少女。
「来たか。じゃないんだけど!?なに!?なんで、私の名前がついてるの!?」
「何故って、お前の翳狐からくりが設計基盤故だが?」
「恥ずかしいよ!?」
「え、往生堂の堂主…!?報告では行方を晦ましたって……」
「あ、桃ちゃんの肉体を借りてるだけの帰終だよ。よろしくね?」
「え、あ、帰終……帰終様!?」
刻晴が驚愕しているが、私はトップであるが故に容易に同じことができないから羨ましい。……とりあえず、できることはさせてもらおう。
グレメリーと共に独眼坊*2工場を脱出し、璃月港を目指す私達。かなり時間をロスした。まだ送仙儀式の準備をしている頃だろうか。急がないと、私は悪役になれない。
「いやあ、アビス教団が次に狙ってた「穢れた逆さ神像」のある遺跡に乗り込んでくるなんていきなりどうしたもんかと思ったけど、あてしが見張りについてきて正解だったねえ」
「いやほんとに。もしグレメリーがいなかったら今頃ドットーレに……考えるだけでぞっとします」
穢れた逆さ神像は璃月と稲妻の間の話で、置いてある場所もわかっているからできる裏技なのだが。そういやダインスレイヴ的に私ってどうなんだろ。神様嫌いだった気がする。
「でも、そんなに急いでどうしたん?話聞こか?」
「グレメリーあなた、過去の私から要らん口調まで学んだようですね……簡単です。私と鍾離の生存と猿芝居はいずれ仙人たちに露呈します。そもそも私は白亜として往生堂に籍があるから迷惑をかけてしまうし、戻ることもできません。最悪、フォンテーヌの往生堂支店のクリーヴたちや、スメールの大賢者であるシオンにもシワ寄せが来かねません」
「あや。思ったより考えてたんだ。モラクスと喧嘩始めたときはついに鬱憤を晴らしただけかと思ったよ」
「鬱憤はあれど私を戦えるまでに鍛えてくれた師匠であるモラクスを裏切るつもりはありませんよ」
「やはは。モラクスのやつ、まだ気持ち伝えてなかったんだぁ。あてしも眠ってたし帰終は死んだみたいだし焚き付ける奴がいなかったんかあな。いや、案外本人も無自覚かも?」
「何の話ですか?まあいいですけど……そこで考えました。既にデミ・オロバシやデミ・シトリウスの被害を受けてる璃月です。デミ・ヘウリアが現れてもおかしくはないのだと」
まあ私の考えが正しければ「デミ」を作る条件は、一度死亡が確認された魔神から生じる業障……例えばオロバシの遺骸があるヤシオリ島を蝕む呪いだったり、マハールッカデヴァータの生やした巨樹に封印されてたアトラスの力だったり、ヴィーことダスタリオの誰にも看取られることなく寂しく海を漂っていた干からびた死骸だったり、そういうのが必要だろうから多分私のデミは作れないとは思うけど。私の遺体は塩の華になって、それは未だに地中の塩もとい塩ヶ宮に安置されてたし。
「やは。あー、つまり?存在しない偽物に全部押し付けちゃえーってこと?」
「そのとおり。だから私は分身を作ったのです、二人のへウリアが同じ場所に存在していたのだと示すために」
モラクスを海に落として璃月港から逃げる際に、分身に弓矢で私を撃たせたのはその布石だ。少し頭が回る人がそれを知れば、偽物がいると確信されるはずだ。まあドットーレ自ら関わってくるのは誤算だったけど。スメールの初登場まで大人しくしておいてくれませんかね。そんなことを会話しながら、璃月港を見下ろせる天衡山まで来た私たちが目撃したのは、信じられない光景だった。
「なんですか、あれは!?」
「やはは、派手だねぇ」
璃月港で暴れる浮舎、伐難、応達、弥怒の夜叉たち。沖合には復活した渦の魔神オセル。それに立ち向かうのは、ヴィーと分身の私が合体したのだろう白と紫のゴジラ。殴り、蹴り、噛みつき、尻尾を叩きつけ、放射熱線のつもりなのか高圧水流を吐き出して暴れ放題。さらに群玉閣が複製帰終機と足場を展開して仙人たちが弾幕を叩きつけ、あと何故か桃ちゃんが槍を振り回して大爆発を叩き込んでいた。粉塵爆発……?なんで?
ま、まあそこまではいい。ドットーレの介入で展開が早くなったのだろう。問題は。
「くっ……鎮まれ、黒きヘウリア……!」
「ハアハハアッ!いくらモラクスでも聞けない相談だあ!!」
璃月港の真横、地図で言うなら南の崖の上でドラゴンボール張りの戦いをモラクスと繰り広げているあの黒い私としか形容できないあれはなんなんですかね。本当に知らないんだけど。
「何か知ってます?グレメリー」
「やはは……あてしは何も言えないかなあ。私が解釈違いで燃やした記憶があるような無いような」
「一人称戻ってますよ。……いや、考えてみれば当然でした」
私も一度死んだのだ。私だけ業障がないなんて、ありえない。温厚だったオロバシですらあの規模の呪いを引き起こしてるんだ。なら例え王たちを塩像にしなかったとしても、業障が現れたとしても……そこで、ある事実に行きついてしまった。考えてみれば、おかしなところはいくつもある。なぜ、各地で倒したはずの夜叉が復活したのか。あの黒い私は何なのか。そして、なんで。それを、グレメリーが、モラクスたちが隠していたのか。
理由は、少し考えれば簡単だった。ごく単純なことだ。あれは、私が無責任に死んだ故に生まれた悪魔だ。私が背負った業だ。
おそらくは私の業障のせいで、伐難は、弥怒は、応達は……そして、三人を失った負担を補おうと奮闘していた浮舎まで死んで、そして今悪魔の手先として操られている。その大元は。ああ、大元は。私の業障が彼らを殺して、そして今なお彼らを縛っているんだ。
「全部だ!全部滅ぼせ、オセル!私が憎いんだろ!?私がいた痕跡なんて消してしまえ!全部飲み込め!そうすれば、そう、すればぁ!なにも、失わなくて、すむっ!!」
「なに……この、気配は……!?」
モラクスが黒きヘウリアと呼んだあの私がモラクスを黒い塩の杭で吹き飛ばしながら慟哭の声を上げると同時に、異変が起きた。海面が泡立ち、オセルによく似た巨大な影が姿を現した。オセルの五つには及ばないものの、うねる三つの頭を有する巨大で禍々しい青藍色とでも呼ぶべき深海の様な体色の海蛇。オセルの妻、「渦の余威」
「……そんな、それはダメです」
私の知る原作に置いて。オセルと跋掣が同時に現れることはなかった。遥か過去に私がモラクスたちと共に戦ったことはあるが、現代においてそれはありえないはずだった。オセルは璃月の民と仙人たちの奮闘で倒され、その復讐としてあとから跋掣が現れ、申鶴を含めた人間だけの力で撃退する。そういう、流れだ。なのに、同時だなんて。無理だ。勝ち目がない。私が加勢しようにも、今の私にかつての規模を操れる力はない。生き返って大きく弱体化した私では、オセルと跋掣を構成する塩を固めることはもはやできない。本当に、璃月港が海の底に沈んでしまう。
ドットーレが言っていた通り、私は過去にオセルを殺せた。モラクスに封印させたのは、未来で復活したオセルを倒す流れを守りたかったから。だけど、私が殺さなかったせいで、そしてあの黒い私の破滅願望から、オセルは目覚めてしまった。あのとき殺さずにただただ邪魔し続けた私への怒りから、オセルと跋掣が同時に揃ってしまった。これをどうにかするなんて、不可能だ。
黒きヘウリアが何を言っているのか、わかってしまう。私がいたことで原作から乖離した事実なんてなかったことになってほしい。それが歪んだ結果、全部を滅ぼそうという方針になったのだろう。全部消してリセットしたい、と。でも、ここは現実だ。ゲームじゃないのに。私は、私は何をして……。頭を抱え、かきむしる。視界が歪んでぼやけていく。ああ、だめだ。これはだめだ。
「あぁ、ぁぁぁ……」
「へ、ヘウリア?お、落ち着いて……」
歴史を変えたくなかった。だけど、愛してしまった民を死なせないために努力して。そんな、私の自己満足のためにいろいろやって。そして、王に殺されて満足して。ただただ、彼らが固まらない様にと踏ん張って。その結果、どうした?王は、私の民が、自刃したという。あの黒きヘウリアは、それを知ってしまったのだろう。自暴自棄になってしまったのだろう。ああ、私も理性がなければそうしたかった。恥知らずにも生き返って、目的も何もなかったのに、死する運命にあった人達を救うと決めた。また私は自己満足で、私の知る物語を歪めた。
クリーヴが生きていることで、アルレッキーノの覚悟や強さが変わっていたらどうしよう。
リネとリネットが
今も頑張っているフォンテーヌの悲劇を回避するシナリオがそもそも始まらないかもしれない。
スメールからアザールが追放されて、賢者の顔ぶれも変わって。スメールの物語がそもそも始まらなくて、放浪者も生まれなくて、どうやってドットーレに勝つんだ。
万葉の親友を助けてしまった。ここぞで万葉が二つの神の目を発動することができずに旅人が斬られる可能性の方が高くなってしまった。
そもそも私がよく考えずに武勇を示したせいで、塩華女帝なんて存在しない称号が璃月の歴史に刻まれてしまった。
どうしよう、どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしよう。
そして、こうなったのも。璃月を守護するはずの仙衆夜叉の四人が敵となって、オセルと跋掣が揃ってしまった。
すべては私が楽な道を選んだせいだ。責任を投げ捨てたせいだ。私のせいで。私のせいで、友人たちは破滅の道を……いや、そもそも旅人がここで命を落としたら他の国の問題も解決しないまま………。
「しっかりしてよ、ヘウリア!このままじゃ……あーもう、モラクス!あてしも加勢するからその黒いヘウリア倒して璃月港守るよ!!アビス教団の姫になったけど、ここはあてしのもう一つの故郷だかんね!!」
目の前が真っ暗になる。グレメリーが何か言っているけど、聞こえない。暗闇の中に私は蹲っている。ごめんなさい、私のせいだ。
目の前に、炎が灯った。
「しっかりしなさい!!!!!!」
懐かしい声と共に、殴り飛ばされ、我に返る。視線を前に向ければ、そこにいたのは胡桃。……いや、違う。この声は。この、気配は。
「帰終……?なん、で……」
「やっと会えたと思ったら、うじうじ悩んで!!そうだよ、私は帰終!貴方の大親友!!貴方のおかげで、私はここにいるの!桃ちゃんの体を借りて、こうして話せてる!!」
胡桃の体を借りてるらしい帰終に圧倒される。あああ、あ。彼女と、モラクスと。グレメリーと。伐難と。マルコシアスと。歌塵浪市やみんなと、璃月を開拓していった日々が、走馬燈の様によぎる。
「ごめんなさい、ごめんなさい……私のせいで、私達が作った璃月が滅びるんです……」
「謝っている暇があるなら前を見て!!目の前の光景が見えないの!?黒きヘウリアが元凶なのはわかったけど、ヘウリアはあなたでしょ!?モラクスと一緒に責任を果たせるのは貴女だけなんだよ!?」
「違う、それは違います……モラクスの隣には、あなたが、立つべきで……あなたの頭脳なら、こんな窮地なんとかできるでしょう……?」
それが、モラクスも。皆も、私も、望んでいて……。縋りつく様に願うが、胡桃の顔で帰終は。儚げに、笑った。
「そんなことないよ。私は弱かったから。モラクスを置いて逝ってしまった。私はモラクスを支えたかったけど、できなかったんだ。でも、あなたは違う。モラクスの教えを受けて、彼と肩を並べるほどに成長した。友達として誇らしかったんだよ。そして、私が死んだあとは貴女が彼を支えてくれると思ってた。……私より先に死んじゃうのは、ずるいよ」
「なにを、言って」
「私は桃ちゃんの体を借りていても亡霊でしかないから。モラクスを支えらえるのは貴女しかいないんだ。そしてそれを、モラクスも望んでいる。孤独なモラクスの隣に立てるとしたら、ヘウリアしかいないよ」
そう言った帰終の気配が薄れていく。待って。駄目だ。おそらくこの帰終も、不完全な形で黒きヘウリアの業障に喚ばれたんだ。黒きヘウリアの近くにいることで、吸収されかけてるんだ。そんな状態で、ここにいるなんて自殺行為なのに……、
「――――ヘウリア。モラクスと、璃月を。お願いね」
胡桃から離れながらも笑顔で告げ、黒きヘウリアの方へ塵となって消えていく帰終に手を伸ばすが、空を切る。……ああ、帰終はもうそこにいないのだと。そう告げている様で。
いいのだろうか。私が、モラクスの隣に立つことを望んでも。
いいのだろうか。塩華女帝と呼んでくれた璃月の民に恥じない様に生きても。
倒れたところを受け止めた胡桃を山頂に寝かせ、顔を上げる。眼前で、オセルと跋掣が引き起こした巨大津波が璃月港を飲み込まんと迫っていた。あの規模だ。原作通りに申鶴が凍らせることができても、崩れ落ちた際の被害は計り知れない。
自然と、走り出していた。塩の粒を足場に、歩く。走る。走り出す。今の私が力及ばなくても、関係ない。やれることを全部やって。璃月港を守る。本当の、二大武神……塩華女帝に「変身」して見せる。
ああ。私が目指すべきは。日輪の如く輝いて、民の行く道を照らし、立ちはだかる障害を全て焼き払う彼女、炎神マーヴィカのように、強く……!!
「うおおおおおおおおおっ!!!!」
その瞬間、私の目の前に何かが落ちてきた。炎を纏った小さな流星だった。反射的に掴んだそれ……炎の神の目を。何も考えずに、掌に納めて握りしめる。神の目は、武器を通して元素を操ることができる。でもそれじゃあこの津波を止められない。だから私は。この、モラクスが造ってくれた自慢の肉体を、武器とする。
津波の中心で、極光が爆発する。凄まじい炎熱が津波を蒸発させ、何事かとこちらを睨むオセルと跋掣の眼前に浮かぶのは、掌に埋め込んで握りしめることで炎元素を全身に行き渡らせ、文字通り「変身」した私。
体内で炎元素が赤熱してひびのように全身から炎が漏れた、純白の装甲のようなライダースーツの様な鎧を身に着け、唯一露出している顔は右目が燃え盛る灼眼となり、髪はスキルを発動したマーヴィカのごとく燃え盛る灼髪となって海風に靡いていた。マーヴィカと、前世で見た映画のゴーストライダーを合わせた様な姿だ。
「オセル、跋掣。貴方たちが恨む敵は、ここにいます」
右手を掲げれば、その手に十字架の様な純白の大剣を握り、刀身に炎元素を溜めて放出。超加速した炎の斬撃を繰り出して、オセルと跋掣の放った水流を相殺する。力と共に自信がみなぎる。神の目を手に入れたことで、私は。異物ではなく、この世界の住人として胸を張って名乗れる。
「私は塩華女帝、ヘウリア。そして、今の私は……!「炎」のヘウリアだ!」
オセルと跋掣の同時出現+仙衆夜叉四人と、モラクスといい勝負できる強さの黒きヘウリアが同時に敵対するとかいう限りない悪夢の布陣、そんな闇の中でひときわ輝く灯火。
この世界の異物である、という前提にある自覚が自信を失わせていた、これまでのあまりにも自己評価の低いヘウリア。だけども帰終に背中を押されて、託されて。この世界の住人であるのだと覚悟を決め吹っ切れたとともに神の目を手にして覚醒。「炎」のヘウリアです。ヘウリアにマーヴィカとゴーストライダーをプラスしたみたいな見た目となります。
ある意味ここまでがヘウリアのプロローグ。さあ、ショータイムだ。
以下定型文になりますが、割と真面目に感想に飢えているのでどしどしいただけると本当に嬉しいです。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
炎のヘウリア、堂々登場!!
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待っていたぞ、この時を!
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気持ちは理解できる気もする
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ここまで長かった……
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神回