今回はリオセスリ(18歳)視点の話。公爵になって間もない彼となります。タルタリヤ事件で10年前になったわけだけど、ちょうどいい時間軸で逆に助かってるまである。楽しんでいただけたら幸いです。
公爵の爵位をいただき、囚人から管理人へとランクアップして三ヶ月。改革も進めてようやく他の囚人から管理人として認められてきたある日のことだった。
「知っているぞ!メロピデ要塞は治安が極めて悪い、管理者や力ある囚人の横暴な圧政により死亡者も珍しくない地獄だと!おい貴様!わしを誰だと……」
「生憎と水の上のことはさっぱりだ。だがお前が金持ちだろうが貴族だろうが関係ない。
「野垂れ死ぬだけだった薄汚い子供を引き取って、その見返りに金儲けに役立てさせたことの何が悪い!?わしはなにも悪いことなどしておらん!事実無根だ!」
「なあ、新入りさん。いくら温厚な俺にも地雷ってやつはあるんだよ。俺にとってそれは、「力なき者を人として見ることなく食い物にする連中」だ。あんまり度が過ぎると俺は囚人に戻ることも辞さない。不慮の事故で死にたくないだろう?」
「は、はい……」
新入りの元お貴族様が秩序を乱したので、締め上げて立ち場を理解させた上で看守に引き渡して生産エリアに送らせる。俺を引き取った夫婦の様なクズは何時まで経ってもいなくならないらしい。悲しいことだ。
「公爵、お仕事お疲れ様。ちょっと古いけど新聞が差し入れられていたわよ」
「まだ公爵の呼び名に慣れなくて誰のことかと思ったよ、看護師長。あんた経由で差し入れってことは最高裁判官殿かな?」
「それは秘密よ?」
ニコニコ笑顔のシグウィン看護師長が持ってきた新聞を手に取り、内容に目を移す。それは、約一週間前の新聞で。ヌヴィレット最高裁判官自ら出向いた事件の顛末について記されていた。その事件の犯人は、さっき締め上げたお貴族様だった。
「タイミングがいいと言うべきか……いや、あの人のことだからわかっていてよこしたな?」
新聞によると、あのお貴族様はマジックができる孤児の双子を引き取り、自分の子としてパーティーなんかで吹聴して回って見物料として大金をせしめていたらしい。それだけに飽き足らず、マジックのアシスタントでしかなかった孤児の双子の妹の方を、兄には黙って売り渡したのだとか。この妹を買い取った貴族も先日、テロリスト予備軍としてメロピデ要塞に収監されているやつだった。
「おいおい。大丈夫か水の上は」
それを、双子を知っていて心配に思っていた
また、後日に撮られたらしい
この匿名とやらが気になった。この匿名とやらがいなければ、その双子の兄も俺と同じ道を辿っていたかもしれない、と思うとしっかり助けてもらえてよかったな、と思わず笑う。そんなヒーローみたいな人がいれば、俺もここには来てなかったのかもしれないな……。
「公爵様!面会希望者が来ました!如何しましょう?」
「面会希望者?水の下までご足労なことだ。どこの物好きだ?」
看守に呼ばれて、看護師長に新聞を返して地下1階の受付まで歩いていくと、ついさっき新聞で見たばかりの人物がいた。
「俺がここメロビデ要塞の管理人。公爵、リオセスリだ。面会希望者らしいが、名前と職業を明かしてほしい」
「おお、小野Dだぁ……まだ若いのにイケボだぁ……えっと、
小声で早口だったから最初の方が聞き取れなかったな。ザルツ、ザルツね。俺の「リオセスリ」みたいに偽名の匂いがプンプンするが……まあいい。
「ちょうどその元貴族を迎えたところだ。普段なら看守を付けるんだが、新入りなんでな。俺が同行する。問題ないか?」
「いえ、頼もしい限りです。……(貴族の)見張りですか?」
「ああ、(あんたの)見張りだ」
何故か観光しているつもりなのかキョロキョロしているのに、勝手知ったる様子のザルツに首を傾げながらも、元お貴族様の居房に案内する。念のため鍵を閉めた状態で、顔だけ見える状態にした上で俺は一歩下がって壁に寄り掛かる。扉を隔てた向こうで、ザルツを目にした元お貴族様の顔が歪んだ。
「きさっ、きさまっ…!よくものこのこと儂の前に……!」
「元気そうで何よりです。裁判は拝見できなかったのですが、完全アウェイだったようですね?まあ当然ですか。子供を食い物にするなんて、正義の国の国民は許すわけありませんものね?」
そう笑顔で皮肉るザルツの声からは、目の前の元お貴族様だけでなく、フォンテーヌの裁判体制への怒りを感じ取れた。フォンテーヌの外から来たのだろうか。見た目はどちらかというとフォンテーヌ人よりだとは思ったのだが。
「本日面会に来たのは、忠告に参りました。貴方の罪状は、一番重いのが詐欺罪なんだそうです。一応正規の手続きで引き取っていたのだから、まあ文句はありません。なので比較的早くここから出られると思いますが……」
「その時はせいぜい楽しみにしていろ。わしを裏切ったリネともども地獄すら生ぬるい苦しみを……」
反省の色がないな。少し厳しく“指導”するか、と考えていた時だった。一瞬だけ膨れ上がった殺意が、俺が構える間もなくすぐに封じられた。このザルツとかいう女、ただものじゃない……。
「ああ、言い忘れてました。貴方の財産ですが、私が全部買い取りました」
「………は?」
「ちょうど使わないモラがあったので。社会復帰したあなたがリネを自分のものと主張してもなにもできないように、ちゃんとした手続きをした上でです。今の貴方は資産のすべてを私に差し押さえられた、ただの元貴族でしかありません。ここから出た時、貴方の立場は浮浪者になるかと思います。せいぜい過去の栄光に縋ってくださいね?」
「き、きさま!何の恨みがあって……」
「ああ、それと。リネもリネットも私が引き取りましたのでご安心ください。もう二度と貴方たちのようなクズに渡すつもりはありません。まあ貴方個人に恨みなんてないんですけどね……あの子達を引き裂こうとした。それが理由です。命があるだけましだと思ってくださいね?」
そう告げると、恐怖からか崩れ落ちる元お貴族様。ザルツは冷酷な表情で振り返り、俺を視界に入れるとまた笑顔に戻った。恐ろしいな……。
「用はすみました。帰りましょう、公爵様」
「言っておくが、一応ここは監獄だ。囚人の最低限の人権は残っている。あんまりいじめないでやって欲しい。やりすぎるとアンタも収監せざるを得なくなる」
「あの子達を守って捕まるなら本望ですよ。あ、もし水の上に来ることがあれば往生堂フォンテーヌ支店という店がおすすめですよ?」
「覚えておくよ。………あの時、あんたがいればな」
確信した。この人がいれば、俺の様な奴はもう現れない。それは安堵でもあるし、羨望でもある。もしあの時アンタがいれば、俺も救われていたんだろうか。そんな思いが零れる。ザルツがメロピデ要塞を後にするのを見送り、視線を上に向ける。
「往生堂フォンテーヌ支店、ね」
聞いたことのない店だった。今度、お邪魔するとしよう。
メロピデ要塞にまで乗り込んできてとことん絶望させていくヘウリア。この女、優しい性分なせいで自分の庇護下にある人間に対して危害を加える者に対しては、命を奪うまではしないけど徹底的に追い詰める一面があります。(今回のは原作だと死んでるので、変なこと起きないようにという念押しもある)ドットーレは別格扱いだから全力で潰しに行く。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
10年後、ヘウリアは……
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旅人と旅をする
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往生堂フォンテーヌ支店を続けてる
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ファデュイにいる
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メロピデ要塞にいる