というわけで今回はヌヴィレット視点です。フォンテーヌへの偏見が一部混ざってますので苦手な人はご注意あれ。楽しんでいただけたら幸いです。
本日も裁判を終えて、エピクレシス歌劇場の裁判長席にて私は一息つく。
「……あれは」
裁判長席から一番遠い傍聴人席の最奥にて、周りが帰っていくのにも関わらず真っ直ぐ視線をこちらに向けている、世間一般的に見て美女と形容できる純白の女がいることに気付いた。塩の魔神ヘウリア……今は
「……?」
白亜さんの視線が私とは少しずれていることに気付き、視線を追って振り返る。白亜さんの視線は、仄かに青く点滅する諭示裁定カーディナルに向けられていた。私と白亜さん以外誰もいなくなり、私は席を後にして傍聴席まで移動し、なにやら腕を組んで考えこんでいる様子の白亜さんに声をかけた。
「白亜さん?」
「はい?あ、ヌヴィ……レットさん。なにか?」
「既に閉廷時間は過ぎている。長く残ることは推奨しない」
「あ、それは失礼」
にへらと笑って席を立つ白亜さん。やはり、気配こそ確かに魔神なのだが、魔神というよりは年頃の女性に見える。一緒に出ようとすると、ビクッと肩を跳ねさせた白亜さんが鬼の形相で振り返った。少し驚いてこちらもビクッと肩を震わせる。
「私に話があるとはわかってますが、ヌヴィレットさんはあとで出てきてください。最低でも五分後でお願いします」
「そのようなことをする理由がわからないのだが……」
「なんででもです!私が社会的に殺されるので!ホテルじゃないけどホテル帰りみたいになるので!特にこの国パパラッチ多いんですから!いや本当に!」
「??? あ、ああ……承知した」
本当に必死な様子だったので、しぶしぶ了承して白亜さんが出て行ってから五分後に外に出る。ぽつぽつと小雨が降っている中、ルキナの泉*2の前で佇んでいる白亜さんを見つけた。この雨で周りには人はいないため、顔が整っている彼女1人が黄昏ている姿は絵画に切り抜かれた1シーンにも見える。なぜ、そんな悲しそうな一瞥を向けているのだろうか。白亜さんは私が見ていることに気付いたのか、振り返って笑って見せる。
「……ああ、ヌヴィレットさん。来ましたか。多分私があそこにいた理由をお尋ねになると思いますので先に答えますね?ちょっと休日ができたので、せっかくだからフォンテーヌ名物の劇場裁判を見させていただきました」
「ふむ。他国の魔神がこの国の裁判を傍聴したのは恐らく初めてのことだろう。どのような感想を抱いたのか聞いてもいいだろうか?」
「厳粛で厳かで荘厳で格式ある高雅で崇高な尊大たる格調高い礼儀に則った貴い裁判でした。ええ、本当ですよ?」
「それはすべて同じ意味の言葉だ白亜さん。ここには私と貴女しかいない。遠慮なく言ってくれていい」
笑顔を張り付けてつらつらと述べる白亜さんに物申すと、一瞬固まった白亜さん*3は、溜め息を吐くと舌を出して苦手なものでも食べたかのような表情を浮かべた。
「では遠慮なく。いやー、吐き気がしますね!最低最悪の裁判でしたよ!いや私の知る裁判が、トンチキな証人しかいないムジュンだらけの逆転に次ぐ逆転に次ぐ法廷バトル*4と、完璧な立証で無罪を勝ち取ったのに新たな証拠もなしに控訴審を押し切って有罪にした保身塗れのもの*5しかないってのもありますが、素人視点でも民度が最悪で、野次が飛び交うわ、怒号が飛ぶわ、品性を疑う発言もするわ、……終いには人の判決を嘲笑うわ。何がどう転んでもあの被告人は有罪なのが確定している八百長みたいなものでしょう、あれは。諭示裁定カーディナルと言いましたか?証拠など関係なく、傍聴席の人間の感情に左右されるとか欠陥だらけもいいところです。いやまあ言い逃れできない証拠がありましたので異議はありませんが」
一気に吐き出されたのは、白亜さんがこの国に来てから溜め込んできたのであろう、この国の人間には到底聞かせられない悪態だった。一部意味のわからない言葉もあるが、恐らく正当な感情を持つ人間なら当然抱く嫌悪感なのだろう。私はまだ、感情の学びが足りないらしい。
「……率直な意見に感謝する。やはり、他国の人間から見れば、あの光景は異常なものでしかないのだな」
「この国の人間には、第三者である正義という立場故の、強者の失態を笑い、弱者の惨状を哀れむ自分たちに酔うという悪癖が染みついてます。我が璃月では「契約を何よりも重んじる」モンドで言うならば「貴族たちの支配を受けない自由」のように。モンドでも貴族の末裔たちに対する民衆単位の迫害は酷いものですが、フォンテーヌはもっとひどいです。例え昨日まで笑い合っていた仲のいい隣人であろうとも、罪人になれば手のひらを返してその末路を愉しんでいる。家族や仲間でもないと本気にもならないのでしょう」
「耳が痛いな。何も言い返せない」
「私ならあんなのが民なら見捨てますね。水神様も頑張ってるとは思いますよ。マスコット扱いなせいで民衆の心理を止めることもできなくなってるのはいただけませんが。でも、私は私の身内以外を好きになれる気がしません。せめて、私の身内だけでもまっとうな感性に育ってほしいものです。カーレスはまともな感性の持ち主で本当によかった」
そう悪態を吐いていた時からは一転、本当に安堵しているように微笑む白亜さん。ああ、この人はフォンテーヌが嫌いなだけではないのか。若者世代がその悪習に染まらない様に、と危惧しているんだ。本当に耳が痛い話だ。彼女が例え七執政だったとしても、私は反論できなかっただろう。「魔神一優しい魔神」とも謳われるヘウリアからそこまで言われるとは、本当に酷い状態なのだと理解できる。だが、それでも。
「言葉を返すようで済まない。貴女の身内以外にも、フォンテーヌには素晴らしい人間はたくさんいる。だから私は、見定めている」
カロレ。ヴォートラン。彼らの犠牲を、無駄にできるはずがない。少なくとも、メリュジーヌが迫害されていた過去よりはよくなっているんだ。結論を出すにはまだ早い。すると私のその言葉が嬉しいとばかりに、白亜さんは安堵からかほっと息をついた。
「ええ、失礼しました。私の偏見を聞いても意見を曲げないこと、感服します。それでこそヌヴィレットさんです。あんなこと言いましたが、私はそんなフォンテーヌ人を客としているので悪くは言えない立場なんですよね。愚痴だとでも思ってください。では、私はこれで」
一礼し、心なしか軽やかな足取りで去っていく白亜さん。ふむ。なんというべきか……やはり、彼女は魔神というよりは人間らしい感性の持ち主かもしれない。ところどころ魔神という上位者の視点故の言葉が垣間見えるが、奥底にあるのは単純な「好きか嫌いか」そんな感情なのだろう。魔神と言うだけで毛嫌いするのは反省しよう。
「……そう言えば、聞き忘れていた」
諭示裁定カーディナルへの視線は結局、なんだったのだろう?
諭示裁定カーディナルの中の人「まずいまずいまずい。なんか魔神にめっちゃ見られてるせいで集中できない。お願いだからバレないで!なんならヌヴィレット、お願いだから退廷させて!」(声にできない悲鳴)
諭示裁定カーディナルを見てた白亜「あの中に水神がいるって魔神からしたらばれそうなもんだけど意外とわからないものですね。すごいなあ」(ただ感心してる)
ルキナの泉を見てた白亜「ペルクリとクロナヴィがもう半ば新婚みたいなものだから幸せになってください本当に」(自分は度外視してる)
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
10年後、ヘウリアは……
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