今回はとある夜の邂逅。楽しんでいただけたら幸いです。
次の演劇の脚本を覚えるために、深夜まで劇場にいたその帰り道。送迎を買って出た共演者たちの提案を遠慮し、1人で夜のフォンテーヌ廷を歩きパレ・メルモニアまで歩く。
今回の演劇も素晴らしいものになるだろう。脚本も主演も演出監督もこの僕なのだから!ふふん、この才能が恐ろしい……ああ、恐ろしいとも。「演じる」ことにかけて僕程の才能を持つ人間はこのテイワットに存在しないと断言できる。
なにせ、このおよそ500年。……正確には490年ぐらいか?ただの人間でありながら老いることもできず彼女と命を共有する呪いをかけられた僕は、今日まで「民が望む尊大な水神」を完璧に演じてきた。台本もない、完全なアドリブでここまで来た。今や演じている「水神フリーナ」こそが僕であり、元の僕を思い出せなくなっている。
先日、街が一つ沈んだと報告を受けた。滅びの予言の時は刻一刻と迫ってきている。されど、彼女からの言葉はまだ聞こえない。民から「対策を」と聞かれても、でたらめを並べるしかない。ただ信じて、悟られることなく演じ続けることしかできない。
ああ、だけど。たまに不安になってしまう。永遠に終わらないのではないか、これだけ演じ続けても結局は滅びの予言が実現するだけなのではないか、と。
「こんばんは。いい月夜ですね、お嬢さん」
ベンチに座って一息吐いていると、足音。暗がりの中から誰かが歩いてやってきた。フォンテーヌ人、じゃない。璃月の意匠が入った体に張り付く衣装を身に着けたすらりとした身体だけ見えるが、顔だけ見えない。声からしてくぐもっているようだが女性だろうか?そう眠気もあってぼんやり思っていると、その人物の顔が見えて、一気に眠気が覚める。真っ白な大きな複眼と目が合った。怪物を思わせる仮面にぴっちり服の変態だった。
「へ、変態だー!?」
「し、失礼な!?いや私も同感ですが!なんですか留雲借風真君のやつめ!ファッションの聖地フォンテーヌの神にこの反応されるとかファッションセンス終わってますよ!?」
思わず声を上げると、仮面の女は体を両手で隠すような体勢を取り反論する。思わず身構える。僕は無力だけど、神と知られているなら僕の完璧な演技で怯ませるぐらいは……。
「推しの貴女にそんな警戒されたら私、ショックです。よよよ……」
「えっと、それは……ごめん?と言うべきなのかな?」
「まあいいです、気にしていませんし私でも警戒します。なのでまずは自己紹介をば。私は真白空我真君。ヘウリアとも呼ばれている、しがない旅人です」
「ヘウリア……ヘウリアだって!?」
ヘウリアと言えば璃月の二大武神の一人、塩華女帝!璃月の歴史をもとにした劇にてこの僕が演じたこともある人物だ。僕とは違う凛とした女傑の魔神で、たった一人で戦況を覆したという。しかし、遥か昔に、なんなら初代水神が死ぬ前にヘウリアは死んでいるはずだ。偽名か、とも思ったが最近読んだ新聞に「璃月に塩華女帝復活か!?」という記事を読んだ気がする。ただものではないオーラも出ているし、本物なのか……?正直心底ビビりながらも、尊大な態度をとることにした。
「ふ、ふーん!ヘウリアの名を騙るような愚か者はいないと仮定すれば、君は本物なのだろう。だけど、魔神戦争の敗北者が今更何の用だい?まさか、七執政の座を奪いに来たなどと、この偉大な僕を相手に宣うつもりじゃないだろうね?」
お願いやめてそれだけは僕は戦えないんだもし本当にヘウリアだとしたら僕なんか指一本でけちょんけちょんにされてしまうやだやめてお願い許して助けてヌヴィレット!
「そんな愚行を侵すつもりは毛頭ありませんよ。知っているかと思いますが私、数千年前に生きていたものでして。せっかくモラクスのおかげで復活できたので、今のテイワットを回って旅をしているのです。このフォンテーヌ廷に来たのも、その一環なんですよ」
「へ、へえ!それは光栄だ!君ほどの女傑を迎え入れるなんてね!あらかじめ言ってくれれば盛大な祭りを開いてもてなしたというのに!残念でならないよ!」
「そんな大した人間じゃないですよ私は。私なんかより、貴女の方がよっぽどすごいです。この正義と罪が跋扈するフォンテーヌという国を500年も運営してきたのでしょう?今の繁栄は貴女が成したものだ。私は、自国の王に刺されて死にましたので」
ああ、そうだ。ヘウリアの物語は、心優しい魔神で民を守るべく奮闘した末に、自分の民の反逆に遭い、王の手で刺されて無念の死を遂げたとされている。ああ、それは……僕が至る未来の一つかもしれない。すると仮面の下で笑っていたヘウリアは、どこからともなく瓶一本とグラスを二つ取り出した。
「ああ、そうだ。さすがに手ぶらで水神と会うのも気が引けたので、手土産を持ってきたのです。バブルオレンジジュースです。如何ですか?」
「喜んでいただくよ!うん、気分がいい……グロシをかかげよ!……あ」
ヘウリアからグラスを受け取り、注がれたバブルオレンジジュースに気分を良くした僕はいつもの調子でグラスを掲げて、噛んでしまった。ああ、穴があったら入りたい……グロシってなんなのさ。今どき古文書の解読でもそんな誤字しないよ……?
「……フッ」
「笑わないでほしかったな!?」
すると笑いを堪えていた様子のヘウリアが失笑したことで羞恥心が決壊する。あ、しまった……こんなのは、偉大な水神の台詞ではない……。
「フフフッ、失礼……。でも、元気は出たでしょう?」
「……きみっ」
「それ以上は言わないでもいいですよ。これは先輩魔神のおせっかいだとでも思ってください。私も、民のために立派な魔神であれと頑張っていたのでなんとなくですが、わかるのです。気負いすぎるな、とはいいません。ですが、貴女の努力はきっと報われます」
そう告げたヘウリアは僕の真実を知っているのか知らないのか。それでも、その言葉に。思わず涙が出そうになって、堪える。泣いてはダメだ。笑顔を演じるんだ、フリーナ。
「あ、王に刺された私が言っても説得力がありませんねえ!これは失礼。あ、その瓶はどうぞもらってやってください。どうせ余りものなので。では夜も遅いので今宵はこれにて」
「あ、あの!また、会えるだろうか?」
そのまま一礼して踵を返すヘウリアに、思わずそう問いかける。するとヘウリアはいったん静止し、仮面の頬をカリカリ掻いてから、小さく頷いた。
「しがない旅人ですので。縁があれば、また会いましょう」
そう言って、ヘウリアは夜の帳に消えていった。思いがけない手土産をもらってしまった。封はさっき開けたばかりだし、これを一人で飲みきるには量が多すぎるな……。そうだ、ヌヴィレットやメリュジーヌたちにもあげてみよう。きっと喜んでくれる。
それは、僕に秘密の友人ができた夜の話だった。
今日のヘウリア「明日の仕込みしてたら偶然フリーナが思いつめた顔してるのを魔神アイで見ちゃったからさすがに放っておけなかった。手土産にまだ封を切ってないバブルオレンジジュースもってこ。あくまで知らない体でいくぞ!グロシを掲げよ!!!」
実は似た者同士なフリーナとヘウリア。フリーナは本当に幸せになってくれ。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
一応考えてるけど、原作前のスカラマシュは
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ヘウリアと邂逅してほしい
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ヘウリアと会わないでほしい
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ヘウリアに一方的に因縁づけててほしい