今回は今作だと初になる三人称視点でお送りします。楽しんでいただけたら幸いです。
このたび、氷の女皇から「【召使】クルセビナの捜索及び、もし死亡を確認した時はその命を奪ったものを【召使】として迎え入れるので連れてこい」という命令を賜った【隊長】カピターノは、500年前に滅んだカーンルイアの生き残りである。そのカーンルイアには「虹月」を信仰する赤月王朝が支配していたものの、クーデターを起こした黒月王朝により赤月王朝は虐殺されたという忌まわしき過去が存在する。直接的に関わったわけではないがその「赤月」の力を断片的に知っているカピターノは、クルセビナが失踪したとされる
故にカピターノは、資料を読み込みペルヴェーレが赤月王朝の生き残りの末裔であると気付き、クルセビナの消息不明の原因はペルヴェーレにあると確信した。しかしここで問題が生じる。クルセビナと共に行方不明だったペルヴェーレとクルセビナの娘であるクリーヴが、なぜかフォンテーヌ廷の新店舗で看板娘をしていたのである。てっきり、ファデュイの追跡を逃れるために国外に逃走していると考え、一ヶ月ぐらい隣国であるスメールやら璃月やらを捜索していたカピターノも目から鱗。部下から発見報告を聞いた時は正気を疑ったほどだ。
すぐにフォンテーヌに急行し、情報を探ったところ、特巡隊が「塩の残骸」を発見し既に回収していたことが判明。そこから導き出したのは、ペルヴェーレとクリーヴがフォンテーヌに未だ滞在している理由。それ即ち、最近復活したとされる塩の魔神ヘウリアが二人を保護している、という結論だ。それならばファデュイを恐れず堂々と顔も名前も偽ってないことにも説明がつくし、既に【博士】【公子】を打破しているその存在はそれだけでファデュイに対する抑止力となる。
まず間違いなく店主である白亜と名乗る女性がヘウリアなのは確定なのだが、聞き込みによるとペルヴェーレとクリーヴ、保護したという双子を溺愛しているらしく、ちょっとした名物になってるんだとか。カピターノは困った。女皇の命令は絶対だが、塩の魔神ヘウリアを完全に敵に回すことは避けたい。伝承によれば「1人軍隊」とも称される圧倒的な武力を有しているのだ。執行官で一番強いと自負しているカピターノでも、もし戦えば無事ですむかわからない。ただでさえ呪いで朽ちる一方の肉体で無理をしたくはない。
そこで、考えに考え抜いた末に一つ打開策を思いついた。鍵は、同僚である執行官の一人。第三位【少女】コロンビーナである。彼女も「月の女神」と呼ばれる存在であり、七執政ではないとはいえ神が女皇の配下となっている前例である。すなわち、ペルヴェーレとクリーヴの存在を秘匿することを条件に、ヘウリアを次の【召使】すなわち執行官に招き入れるという手を思いついたのである。
これは秘匿性が大事であり、故にカピターノは部下を連れずに単身来訪し、自分は全部知っていることを伝えた上で交渉しようとした。相手も話し合いに乗ってくれたまでは良かった。
ヘウリアが特に武人気質でも何でもない、強者に対して人一倍おっかなびっくりになるビビりであり。
てんぱった結果として想像以上のポンコツを発揮してよりにもよって戦闘を選択してしまい。
確実に口封じすべく、戦闘センスも前世の知識もモラクスから得た技術も総動員して、タガが外れてしまったことだった。
フォンテーヌ廷から放物線を描いて飛んでいく真っ黒な人影が一つ。それを追いかけるように、まるで空中を走るかのように突き進む真っ白な人影が一つ。カピターノと、ヘウリアである。
「ぬうううっ!?」
スレッジハンマーという、テイワットではまず珍しい武器による予想以上の衝撃に仮面の下で顔をしかめさせながら、なんとか空中で身を捩って体勢を立て直すカピターノ。眼下に緑の草原が迫ってきて、咄嗟に宙返りの要領で身を捻って着地。そのまま、直感のままに振り抜いた剣が、音を突き破って飛び込んできたヘウリアの手にした純白の三節棍*1とかち合った。
「音速だと…!?」
「その腕もらいます!」
かち合ったまま変幻自在に動かされた三節棍で絡めとられた剣が空中に放り投げられ、端の棍を持っての容赦ないスイングがカピターノの右腕に炸裂する。バキバキバキッ、と嫌な音が鳴り、殴り飛ばされるカピターノは、その先にあった山に突き刺さり、瓦礫の山に埋もれる。瓦礫に潰されながらも不死身の肉体が死なせないとばかりに即座に再生を開始するが、ダメージは甚大だ。
「(これはどうも、参ったな。あの二人がヘウリアの地雷だと気付くのが遅れた。こちらが知っていることを伝えるためとはいえ、詰めたのは選択肢を間違えた様だ)」
殺気を感じ、治りかけの腕も使って瓦礫を押しのけて真上に跳躍するカピターノが、今の今までいた山だった瓦礫の山が、無数の細かい穴だらけになっていた。カピターノはわからないが、ヘウリアの前世における弾痕のようなそれは、シューシューと煙を上げていて。
「おやもう治っている。そうでした、不死身なんでしたね【隊長】。なら、殺す気で攻めてもいいですよね…?」
三節棍を肩にかけ、掲げた右手を空中のカピターノに向けるヘウリア。その顔は、感情を一切感じない冷酷な無表情で。その掌が、水平線に沈もうとしている陽光を浴びて煌めいた。
「ソルトスプラッシュ」
本来は、単なる目つぶしぐらいにしか使えない技。それでもモラクスを怯ませるぐらいはできるそれを、塩の粒を礫に変えて殺傷力を底上げしたもはや別物と化した塩の散弾とも呼ぶべき死の雨が、空中にいて回避ができないカピターノに降り注ぐ。
「うおぉおおおおおっ!?」
それでもさすがは執行官第一位というべきか。自身が有する黒い氷の力を発動し、自身をすっぽり覆える盾を形成。撃ち抜かれた傍から補強することで耐え凌ぎながら着地すると同時。駆け出して落とした剣を拾い上げると、ソルトスプラッシュを致命傷になるものだけ斬り落としながらヘウリアに迫るも、ヘウリアは右手だけから左手も用いてソルトスプラッシュを発動。自身も反動で少し浮かび上がる程の弾幕が、襲い掛かる。
「ぬう!」
これにはたまらず、足元から巨大な氷柱を生成してロケットの様に打ち上げることで回避。しかし、左手の指を黒い氷に食い込ませて片手だけでしがみついていたヘウリアが、首にかけていたものを右手に握った三節棍を振るい、叩き割ることで推進力が落ちて、共に落下。
「逃がしませんよ…!」
「逃げるつもりは、ない…!」
カピターノは氷の残骸を足場に蹴って肉薄。空中で両手を交差し三節棍を回転させて遠心力を加えて叩きつけてきたその一撃を、カピターノは剣先を塩で形成されている連結部の鎖にねじ込ませることで分解させて、連結が外れた先端が空中に吹き飛んでいきそのままヘウリアを組み伏せ、自身の力も合わせて共に落下していく。
「大人しくなってもらうぞ…!」
「貴方がね…!」
「なっ!?」
すると、謎空間から取り出した【器】から溢れ出した塩がカピターノの背に乗る形で、ヘウリアの分身を形成。驚く間もなく、その手に握られたスレッジハンマーが振り下ろされ、地面に激突する直前で急加速してカピターノは地表に激突。しかしカピターノもただではやられず、分身の一撃が叩き込まれる寸前に力の限りヘウリアを投げ飛ばし、ヘウリアも錐揉み回転して近くの水場に着水。大きな水柱を上げて沈んでいき、カピターノから離れた分身も塩となって風に吹かれて消えた。
「はあ、はあ……加減ができなかった……背骨が逝ったな、これは。再生するまで立てそうにない、か……」
緑の草を抉り茶色い地面が露出してクレーターの様になったそこに俯せで倒れ伏すカピターノ。最初は手加減して落ち着かせようとしたものの、不可能なまでに追い込まれた。ヘウリアを掴んだ時の感触から、その肉体が石像の類だと看破した故に水に投げつけることで窮地を脱したが、正気を失ってた彼女が健在だった場合、不死身の身であっても死にかねなかった。少し再生した肉体でなんとか起き上がろうとすると、誰かに手を掴まれて持ち上げられる。見れば、ペルヴェーレだった。
「しっかりしろ。生きているか?」
「ペルヴェーレ…といったか。何故、俺を……?」
「白亜さんの方はクリーヴと双子が向かっている。追いかける道中でクリーヴと話し合ったのだが、貴方からは害意を感じなかったと結論付いた。白亜さんは勘違いしていたが、私達を害する気はないのだろう?それにもし一位まで消息不明になったら、氷の女皇本人が動きかねない。死なれては困る」
「……安心しろ、俺の体は呪われていて死ぬことができない。この程度……と言えればよかったのだが、心底恐ろしいな。お前達の保護者は」
「あれで本人は自分が弱いと言っているんだ。笑えるだろう?」
「そう、だな」
そこに、クリーヴと双子の手で救出されたカナヅチのヘウリアがよろめきながらやってきた。高速で水に落ちてそのまま溺れたのは大ダメージだったらしい。それでもクリーヴたちに引っ張られながらも、手にした片手剣を掲げている。
「ペルヴェーレから、離れてください……」
「待て、白亜さん。【隊長】に敵意はない。今回は貴女の早とちりだ。話を聞くべきだと思う」
「その通りだ、ヘウリア。俺は、交渉をしに……」
ペルヴェーレがカピターノを庇い、それに便乗してカピターノが口を開いたその時だった。
「っ……」
「「ペルヴェーレ?」」
顔をしかめさせ、倒れ伏してカピターノに慌てて受け止められるペルヴェーレに、ヘウリアとクリーヴが声を上げて駆け寄る。もはやカピターノが敵なのかは関係なく、倒れたペルヴェーレの心配に意識が向けられている。
「ペルヴェーレ!?起きて、お願い!」
「……私は大丈夫だ、クリーヴ……」
クリーヴの呼びかけに、うっすら目を開けて返答するペルヴェーレ。しかし、息も絶え絶えで苦痛に苛まれているのは誰の目から見ても明らかだった。
「これは、赤月の…?でも、だとしたらどうすれば……」
「赤月の力の影響なのだとしたら【道化】が何か知っているかもしれない、が……彼女をスネージナヤに連れて行かなければ、…しかし」
カピターノはそこで口ごもる。あれほど警戒していた自分に、ペルヴェーレを預けるなんてヘウリアが信用できるはずがない。そんな思惑だったのだが。
「ならお願いします!ペルヴェーレを、助けて!」
そう、先ほどまでの敵意剥き出しが嘘の様に自身を信頼するヘウリアに一瞬呆けるカピターノだったが、すぐに思考を切り替える。冷静になったヘウリアからしてみれば、隊長の言葉は信頼に値するものでしかなかった。
「任された。女皇陛下に誓って、彼女を助けてみせよう」
その後、様子を見に来たカーレス率いる
「……さて、白亜さん」
「は、はいぃ……」
「どう言い訳するのだろうか?」
肩に置かれたカーレスの手に、【隊長】すら追い詰めた修羅の面影はもはやなかった。
殺意マシマシソルトスプラッシュとかいう、モラクスでも致命傷になるヤバいやつ。武器も持ってない掌をかざしたかと思えば、即死級の散弾の雨が高速で面制圧するってどう考えてもやばい。
隊長の目的は【召使】の後釜にヘウリアを置くこと、でした。可能かどうかは置いといて、上手く行けばファデュイの強化にもなるし、ヘウリア側からしてもペルヴェーレたちを隠せるからWinWinのはずだったのに、ヘウリアがあまりにもアレだった結果がこれだよ。
ペルヴェーレを救うとなると、ファデュイに入ったことで制御できるようになった赤月の力が目の上のたん瘤だったっていう。じゃあどうするかというと……?
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
一応考えてるけど、原作前のスカラマシュは
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ヘウリアと邂逅してほしい
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ヘウリアと会わないでほしい
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ヘウリアに一方的に因縁づけててほしい