塩の魔神のしょっぱい備忘録   作:放仮ごdz

36 / 90
どうも、放仮ごです。滑り込みセーフ!まだまだ毎日投稿は続けるぞい。お待たせしました、スメール編の開幕です。

スメールで起きた大事件と、スメールにやってきたヘウリアの話。楽しんでいただけたら幸いです。


スメール編 虫食いだらけの二律背反(アンチノミー)
米無しおむすびころりん、まさかの縁


「はあ、はあ……」

 

 

 鬱蒼とした森の中を駆け、隙間から降りそそぐ月光を遮る巨大な影が差すと一転、木陰に隠れる少女。ミシミシミシ、と音を立てて、巨大な甲殻に包まれた鋭い爪が特徴の腕が木々を押しのけて、巨大なさすまたの様な一本の角を押し込んで、ギョロギョロと翠色の満月を思わせる目が動く。ぷるぷると口を押えて震える少女の頭上を角が通過し、地面に突き刺してまるでブルドーザーか何かの様に地面をひっくり返して引っ込まれていく。

 

 

「どこだぁ?草の神ぃ……我から逃れられると思うな……?」

 

 

 角を引っ込めるとズシン、ズシンと足音を上げながら移動する巨大な影。少女は様子をうかがいながら、どうしてこうなったかを考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日まで、500年近く日課のように続けていた夢を操る能力を用いた、夢の世界での旅。それが雷鳴の様な轟音と共に文字通り叩き割られ、目を覚ますと自身を幽閉する密室の壁が崩壊して一度たりとも見たことがなかった本物のスメールの青空が見えていて。感動するのも束の間、崩壊した壁からそれは現れた。

 

 

「見つけたぞ、草の神……少し、縮んだか?」

 

 

 そう首を傾げながら告げたのは、腰まで届く赤い長髪に白目が黒い緑色のツリ目、額から巨大なカブトムシの角が生え、ナヒーダとは対照的な大人らしい豊満な肉体を覆う黒緑色を基調とした昆虫めいた甲殻鎧が特徴の、五メートルはある巨体の女だった。外からは怒号が響き渡り、火矢や法器による元素攻撃が次々と炸裂するが、女は煩わしそうに右手を動かすと、何処からともなく羽虫の大群が現れて恐らく外にいるスメールの兵士に殺到、悲鳴が響き渡る。

 

 

「ああ、五月蠅い五月蠅い……我が配下たる蟲と違って、人間どもは喧しいと思わないか?草の神」

 

「やめて!わたくしの民を襲わないで!」

 

「ああ?赤砂のと、花のと組んでまで我を殺した卑怯者の分際で、「民」だあ?この有象無象共は、我等の餌以上の価値はない。そんなに大事なら守って見せろ、草の神!」

 

「きゃあ!?」

 

 

 苛立ちのままに、巨大な異形の鎧に包んだ右腕を伸ばして、少女を鷲掴みにすると女は背中に展開された薄く平たいながらも巨大な翅を羽ばたかせ、空に舞い上がる。

 

 

「ええい、こんな虫なんぞ焼き尽くしてしまえ!」

 

「大賢者!クラクサナリデビが、あの怪物に!」

 

「怪物とは結構だな?我の名は、蟲の魔神アトラス!悦べ、愚鈍な人間ども。スメールの真の支配者が、復活したぞ。ハハ、ハハハハハハッ!」

 

 

 そう高笑いを上げながら、少女を鷲掴みにしたまま空に舞い上がる蟲の魔神アトラス。どんどんスメールシティが遠のいていく中で、少女は一か八かで草元素を顔に叩き込んで怯ませ、落ちていき―――――今に至る。

 

 

「……だめ、マハールッカデヴァータと違ってわたくしにはあの魔神の記録はない……どう、すれば……」

 

 

 途方に暮れながら、震えながらアトラスの足音が遠のくのを待つことしかできない。その少女の名は、草の神ブエル。またはクラクサナリデビ。または、ナヒーダであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はあ、むし暑い……恨みますよ、わたし……」

 

 

 フォンテーヌとスメールを繋ぐ港、バイダ港からひたすら道なりに南下する私。適当に南下してるけど、サブクエのキャラ名とかは覚えてるのにあれだけテイワットマップで散々見た地図がほとんど朧げってどういうことなんじゃろ。とりあえずあの遠目に見えるデカい木を目指せばスメールシティにつくはずだ。

 

 

「しっかし、モラクスが魂どうの言ってたからもしやと思いましたが、分身にも私の自我を分割できるとは。やってみるもんですねえ」

 

 

 そう、この私は本体……便宜上における、モラクスに彫ってもらった岩塩の身に宿る私ではない。「器」の塩で作る“塩の軍勢”の超精巧Verなのである。フォンテーヌで10年後まで続けないといけない「仕事」があって、そこから本体を動かせなくて、でもスメールでナヒーダいなくなった件とか気になるなあ、どうしようってことでやってみたらできたなんちゃって影分身の術である。ちなみに服装は目立たない様にスメール風の衣装をバイダ港の商店で買っといて着替えてある。え、スメールにこんな異様に白い肌の人いない?……アルハイゼンとか色白だから!

 

 

「本体と違って水に滅茶苦茶弱いのがまあ弱点と言えば弱点ですかね?」

 

 

 小雨ぐらいならどうにかなるけど、土砂降りはさすがに雨合羽なり傘なり使わないと無理である。ちなみに、こうなるまでの記憶はあるけど、別たれて以降の記憶は共有されてない。今の私を構成している塩が一粒でも本体に渡れば共有はできる仕様である。だから今頃リネとリネットの、エピクレシス歌劇場を借りての初舞台を見ている本体の記憶は共有されないのである(血涙)。

 

 

「ええい、なにが起きたのかをさっさと調査して本体と一つにならねば……」

 

 

 ようやっと山を抜けて、小高い丘のような場所に出た。見晴らしのいい先を見れば、前世でもよく見たスメールシティを一望できる絶景が広がって……おんや?スメールシティを構成して居る巨樹の上部分、スラサタンナ聖処がなんか壊れてね?もしかしなくてもナヒーダの力じゃ中から開けることは不可能なはずだし、これもしや失踪じゃなくて、もしかして外部による誘拐かなにかか?

 

 失踪とされてるのは、大賢者たちが失態をもみ消そうとして、せめてクラクサナリデビ様のご遺志によるもの、にするためとか?相変らずクズである。私の場合、スメールから国外追放されても特に問題ないからこのままアザールを仕留めるのも手か?いや、ナヒーダに対する「前草神であるマハールッカデヴァータより劣っている」という考えは、教令院及びアーカーシャが当たり前になってるスメールシティにおける深層心理に近い。アザールが消えても第二第三のアザールが出てくるだろう。それに、スカラマシュが七葉寂照秘密主にならない場合、ナド・クライで詰むからこれは悪手か。スメール辺りだいぶ原神のストーリーにおける分岐点だよねえ。

 

 

「しかし、この時代にナヒーダを攫うようなの、いましたっけ?」

 

 

 第一容疑者はドットーレだ。デミ・オロバシやデミ・エリゴルスの時もそうだったけど、魔神の残滓の研究をしているアイツのことだ、現七執政にもちょっかい出さないという保証がない。第二容疑者は赤砂の魔神アモンことキングデシェレト派であるエルマイト旅団の過激派。スラサタンナ聖処の壁を破壊できるか?という疑問はあるが、火薬なりでどうにかならないかな?第三容疑者は、なんか暴走した遺跡重機辺り。スメールは特に、遺跡重機が多い国だ。デカい奴の残骸もあるし。ミサイル打てるし壁を破壊できる可能性はある、けどこいつらの場合ナヒーダが失踪した動機がなくなる。……いや、490年も幽閉されてたら出たくもなるか…?

 

 

「あっ」

 

 

 そんな推理をしていたら、いつの間にか足場がなかった。スメール名物、高低差が激しい断崖絶壁である。足を滑らせて、真っ逆さまに落下していく。あかん、身体がバラバラになるぅ!?璃月の甘雨と再会した夜の時もそうだけど、私足元がおろそかすぎないか!?

 

 

「ぐふう」

 

「きゃっ!?」

 

 

 すってんころりと崖を転がり落ちて、頭から地面に叩きつけられる。痛い。本体でもない塩の塊なのに痛いとはこれ如何に。あ、でも四肢が取れてなくてよかった。さすがは当社比三倍の塩を詰め込んだ特性の体である。

 

 

「あ、あの……大丈夫かしら……?」

 

「頑丈なのでお気になさらず……はえ?」

 

 

 小さな手を差し出されたので、ありがたく握って起き上って、目が点になる。小さな手におみ足。緑色の瞳に、銀髪。ちょっと心配になるぐらい薄着の神聖な服を身に着け、如何にも神様ですとわかる人間離れした可憐な容姿。そしてこの癖になる田村ゆかりボイス。間違いない。

 

 

「ナヒー……ダ?」

 

「え?」

 

 

 しまった、と口を押えてももう遅い。初対面なのに名前を、しかも世間に知られているクラクサナリデビじゃない方を呼んでしまった私に、訝しむ様に指で四角の形を作る指フレームで私を見るナヒーダ。あかん、終わった。




蟲の魔神アトラス。人間を餌と見なしていて大事にしない、大人の女性の姿なのもナヒーダとの対比になってますが、草の魔神のアンチテーゼとして蟲の魔神を選んだのは知識の「虫食い」からとなります。魔神戦争の時代にスメールで独り勝ちしそうだったのを、先代草神と花神と赤砂の魔神が手を組んで倒したとかいうバケモンです。なんで現代にいるんですかね?

そして、スメール編の主役はヘウリア(分身)。白亜とザルツの名はフォンテーヌで使っているので、現在は名無しの旅人、になります。地味に魂を分割するとかいう離れ業を思い付きでやってるバグが起きてるけど仕様です。

ナヒーダはスメール限定だけど元素スキルで心を読めるので、原作知識(ある意味での禁忌の知識)を全部知られる可能性があるので、ヘウリアが絶対に会ってはならない存在なんですよね……さあどうなるか。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

スメールにてヘウリアに関わって欲しい人(年齢は憶測含まれていて、また既に出会うことが決まってるキャラもいます)

  • アルハイゼン(15歳)
  • カーヴェ(17歳)
  • セノ(16歳)
  • ティナリ(15歳)
  • ファルザン(110歳)
  • ニィロウ(9歳)
  • ディシア(18歳)
  • キャンディス(18歳)
  • ドリー(19歳)
  • ドニアザード(12歳)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。