タグに「残酷な描写」「オリジナル魔神」追加。今回は以前少しだけ語られたヘウリアの初陣について。完全オリジナルの魔神が登場します。楽しんでいただけたら幸いです。
「この自己肯定感皆無な性分は死んでも治らなかったとは……どうしたものか」
とりあえずと往生堂を出て、私の住居まで案内するモラクスと共にチ虎岩*1までやってきたところで頭を押さえてため息をついていた。どうしたのでしょう?困っているなら不肖ながらも弟子として力にならなくては。
「モラk……鍾離殿。困っていることがあるなら相談に乗りますよ?」
「
「はて。何か問題が?」
白亜とは私の人間としての名前だ。一応世を忍んでいるモラクス、もとい鍾離殿に倣って、かつて帰終からいただいた呼び名を名乗ることにした。響きもいいので気に入っている。しかし私のことで困っているとは何ぞや。原作ではモラクスに任せるつもりだった聖遺物を自分で回収したからむしろ手間が減ったと思うのだが。なんならファデュイの不届きものも戦闘不能にして置いたし。うん、我ながら貧弱にしてはよくやったぞ、私。
「白亜殿に武芸を教えるまではここまで常識がない者だとは思わなかったのだがな」
「失礼な。私は常識人ですよ」
なんならこの世界の誰よりもテイワットのことを知ってる自覚はあるぞ。あ、ナド・クライまでだけど!
「では、お前は自分がどれだけ影響力を持っているのか自覚しているのか?」
「璃月でも最弱の魔神ですよ。影響も何も」
「では煙の魔神シトリウスは覚えているか」
「ああ、あの戦争大好きおじさんですか?」
覚えているとも。私がモラクスの手で無理やり参戦させられた忌まわしき戦争の当事者だ。豹のような顔となぜかレザージャケットとジーンズの様なものを身に着け口に咥えた葉巻から常に煙を垂れ流しにしていた獣人の様な姿の魔神だ。原作にいたっけ?と首を傾げた記憶がある。
「たしか、ナタの魔神の一人で、炎神シュバランケに敗北して命からがら璃月まで逃げてきた、無尽蔵に生み出せる獣人の軍隊を使役していたやつですよね?」
「そうだ。帰終や仙人たちと共闘してなお、相手にしていた俺も危うく負けかけたほどの相手だ」
「御謙遜を。武神たる貴方が負けるなんてありえないでしょう」
HAHAHA。ナイスジョーク。モラクスも冗談を言えるのか、と笑っていると鐘離は真面目な顔で告げた。
「嘘ではない。俺が過去最も苦戦した相手だと断言する。あの時は、本当に璃月が滅ぶ瀬戸際だった。奴の戦争好きは筋金入りで、致命の一撃を受けようがむしろ楽しんで調子を上げる厄介なやつだった。煙を焼ける炎の魔神以外には、恐らく風系統の魔神しか対抗策も存在しない厄介な相手だ」
「でも、私なんかに負けた魔神ですよ?そんなに強くなかったと思うんですけど……」
「それだ。お前は初陣で、それほどの魔神を討ち取ったんだ」
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あの時のことを、思い出す。それは、モラクスの容赦ないしごきという名の修行から解放されて、一息ついていた時だった。両手で長剣と長物を同時に振り回すのを12時間とか頭おかしいと思う。私はアギトでもなんでもないんだぞ*2。
《「白亜!聞こえる!?」》
「なんですか帰終。私疲れてるんですけど……」
すると、からくりを作ることが趣味な帰終*3からもらった鏡のような通信機から帰終の声が聞こえた。どうでもいいけどこの時代に通信機作ってるのやばいと思う。どっかの第六天魔王が、これがあれば戦争は変わる!とか言いそう*4。
《「煙の魔神の大軍勢に私達の連合軍が押されていて、敵の大将と戦ってるモラクスが大変なの!お願い、力を貸して!」》
「それは困りますね」
それは不味い。モラクスには数千年後までは生きてもらわないと困る。私のせいでなんかイレギュラーが起きて、そう例えばこの無茶苦茶修行のせいで少なからず弱体化していたとか……そんなことが起きているならさすがに看過できない。微力ながら助太刀させていただこう。
「生きていてくださいよ、モラクス!」
私が生み出した聖遺物である「器」を逆さまにし、零れ落ちた塩を魔神としての権能で操って巨大な塩の塊にして飛び乗り、浮かばせて空を舞う。さて、戦争をしているというのなら空からでもすぐに場所がわかるだろう。層岩巨淵*5で、崖の上から溢れ出した黒煙から次々と現れる豹の頭に必要最低限の武装しかしていない獣人の軍勢を相手に奮闘する若陀龍王*6と顔馴染みの仙人たち、そして璃月港側の最後尾の帰終に指揮された千岩軍の姿が見える。
「うおお、あの若陀龍王が群がられて追い込まれてる……凄まじい物量ですね」
モラクスは……ああ、いた。黒煙の大元である崖の上にて愛用の槍を手にして、豹のような顔となぜかレザージャケットとジーンズの様なものを身に着け口に咥えた葉巻から常に煙を垂れ流しにしていた獣人の様な姿の……恐らく煙の魔神と戦っていた。全身から燻ぶらせた黒煙を自在に変形させて武器にし、あのモラクスと渡り合っている。モラクスはこの切り立った盆地の様な地形で尚且つ下の方に部下がいるため、得意の隕石を始めとした高威力の攻撃を出せない様子で攻めあぐねている。確かにあれはモラクスでも不味そうだ。
「まずは……雜兵を減らしますか」
まあ雑魚ぐらいなら私でも勝てるだろう。味方がいない場所を見極め、浮かばせていた塩の塊を急降下。小さな隕石の様に地表に激突させて獣人兵を吹き飛ばす。
「な、なんだ!?」
「新手か!?」
『いや待て。あやつは……』
「珍しく苦戦してるようですね?若陀龍王。微力ながら塩の魔神ヘウリア、助太刀します」
砕けた塩の塊の破片から、青龍刀の様な太刀と槍を形作って構える。結局この形が今一番使い慣れてる。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
「何を言っているのかわかりませんね?」
獣人兵の飛び掛かりを身を捩って必要最低限の動きで避け、青龍刀を振るって首を撥ねると、煙となって霧散と消える。なるほど、私程度でも勝てるぐらい弱いと。モラクスのフェイントも織り交ぜた攻撃に比べたらどれだけわかりやすいことか。これならいけそうだ。
「す、すげえ……」
「俺達や仙人様でも、首を断つことは難しいぐらい強いのに……」
「これが、魔神……」
『あやつ……岩王帝君にしごかれたとはいえあれほど化けるとは…!』
なんか外野がうるさいが気にしてる暇はない。斬り、薙ぎ、突き、払い、投げ、再び武器を生成し、それを繰り返しながら戦場を走り抜ける。こんなに弱い相手でも、仙人たちが疲れたら太刀打ちできなくなるとは恐ろしいものだ。
「○!※□◇#△!」
「おっと?」
何分経っただろうか。すると、横に広がった黒煙からいきなり出現した獣人兵が刃を私の首目掛けて振るってきていて。周囲に浮かばせた塩を瞬時に凝固して盾にすることで受け止める。
「危ないですね……殺される前に死んだらどうするつもりなんですか!」
「$♪×□◇!?」
そのまま蹴り飛ばし、無手で振りかぶった腕に斧を形作り、投げつけて頭部を叩き潰して消滅させる。うむ、こんなものか。上を見れば、未だにモラクスが煙の魔神と鍔競り合っている。少し余裕ができたっぽいか?私なんかで助けになれたのなら光栄だが。
「うーん。大元を倒さないとこいつら無尽蔵なんですか。厄介ですね」
広がった黒煙から次々と出現する獣人兵を特に見ることなく迎撃しながら上を見上げる。雜兵とはいえ無尽蔵は厄介だな。どうしたものか。
「ヘウリア殿!これだけ減らしてくれれば、我々だけでも持ちこたえられます!」
「恥を忍んでお頼み申す!どうか、どうか岩王帝君に助太刀を…!」
『我らは帝君にとって足手まといでしかない!だが、お前なら…!』
すると、獣人兵の攻撃を耐えながらそんなことを言ってくる千岩軍や仙人たち。そこまで言うなら、まあ微力ながら死なない程度に手伝おうかな…?
「承知しました。ご武運を」
そう言ってお辞儀をしてから、鉱山故に豊富に存在する岩塩から抽出した塩を集束。簡易的な昇り龍を再現して私の足元から出現させ、一気に上昇する。なんか下から歓声が上がっている。士気が高いのはいいことだ。
「むっ。来たか、ヘウリア!」
「塩の魔神か……?俺の兵を蹴散らすとは。この俺、煙の魔神シトリウスと戦う権利があると認める!歓迎するぞ!」
そう言って、黒煙を巨大な腕の形にしてモラクスを鷲掴みにして岩盤に叩きつけながら両手を広げて口に咥えた葉巻から吸い込んだ煙を「ぷはあっ」と吐き出す煙の魔神。それらは獣人兵となり襲い掛かってくるが、片手剣を形成しモラクス仕込みの体術も織り交ぜて斬り捨て、崖下まで蹴り飛ばす。
「これはどうもご丁寧に。貴方の名前は聞いたことなかったので助かります」
「なに……?」
豹の顔で眉を顰めるシトリウス。いや、シトリウスには悪いが本当に聞いたことないのだから仕方ないだろう。シトラリと響きが似てるから
「……俺を知らないとは。ここまで舐められたことがかつてあっただろうか。シュバランケにこそ負けたが、俺は「戦士」として立ち続ける。この誇りに傷をつけたこと、死して後悔するがいい!」
何故か怒り狂ったシトリウスが、今の今まで獣人兵の補充に使っていた黒煙をモラクスを拘束しているもの以外を自らに集束させ、レザージャケットっぽい服が破れて上半身がパンプアップさせるとその手にククリ刀みたいな漆黒の刃を手にして獣の如く飛び掛かってきた。確かに速いし力強い。だけど、なあ。
「でかくなったせいで大振りになってますよ」
「ぐっ、ああぁああああああっ!?」
モラクスに比べたらあまりにも見え見えな動きを見切ることは容易く。避けた上で一撃叩き込むぐらいの隙があった。結構強く振るったのだが掠り傷しかできないとは。はあ、無名の魔神に掠り傷程度しか加えられないとは……これだから貧弱な我が身が恨めしくなる。だけど、だけどだ。絶叫を上げて傷口を押さえるシトリウスに向き直る。
「痛い、痛い、痛いぃいい!?なんだ、これはぁあ……今まで受けたことのない激痛がぁあああ!?貴様、なにをしたぁ!?」
「いや私貧弱でしてね?斬る時は少しでもダメージが入る様にと、刃に塩を塗ることにしているのです。「傷口に塩を塗る」とよく言うでしょう?まあまあ痛いですよね?」
「ヘウリア。それは傷口に塩を塗るどころか、塩で切り刻むだ。俺ですら痛いぞそれは」
モラクスがなんか言ってるがこれぐらい許してほしいのだけども。弱いから工夫するしかないのだ。
「貴様ッ、戦士としての矜持はないのか!?」
「んなもんありませんよ。私、戦士じゃないですもん」
「おのれええ!」
「よっ、ほっ、はっ。だから見え見えですって」
「ぐあああぁぁぁあぁうあああああっ!?」
性懲りもなく大振りで両腕を振り回してきたので、遠慮なく避けてから斬撃を叩き込み続ける。塵も積もれば山となるとはよく言うが、少ないダメージでも何十回も叩き込めば傷にはなるだろう。なんか大袈裟に痛がってるけど、騙されないぞ。私を油断させるつもりだろう。そんな硬い体していて卑怯な奴め。
「こんな、戦士の誇りを踏みにじる戦いなど、俺は知らないっ!許さん…!」
「貴方、硬すぎですよ。まるで岩のような……あ、そうだ」
疲れてきた辺りで、岩で思い出した。私は剣を投げ捨てて代わりに「定規」を取り出して。奴の大振りの一撃を屈んで避けてから、立ち上がるのと同時に手にした「定規」を奴の脇腹にサクッと、軽く突き刺した。
「ふん、痛くもかゆくもないわ!」
「殺傷能力はありませんからね」
思った通り、すんなり定規は挿さってくれた。すると、すぐにシトリウスは悶え苦しみ、膝をついた。背中から倒れて全身をかきむしり、両腕を振り回して両足をバタバタとさせる。
「ぐ、う、おおおおおおおおっ!?全身が、痛いぃいい!?なんだ、なにを刺したアアア!?」
「私の聖遺物の一つでして。岩盤などに挿して使うのですが、これ別に硬さとか関係なく挿すことができるみたいで。まあ、挿した部位から塩を無尽蔵に生成するしかできないんですけど」
体内に直接塩をぶちこまれているみたいなものだ。まあ間違いなく痛い。これで動きは止まるはずだ。すっごく大袈裟に苦しんでるけど。そんな涙を出してまで私を油断させたいのだろうか。殺傷能力はないから死ぬことはないのに。
「むじんぞう……?それは、何時収まるのだぁああ……!?」
「抜くまでですかね?」
「痛い、苦しい!いやだ、こんな!戦士の誇りも、なにもない……ぐううおおおおおおおおっ!?殺してくれぇええええ……」
「硬すぎるので無理ですね?」
「そこまでだ。ヘウリア」
すると。私では掠り傷しかできなかった煙の魔神シトリウスの首を、ただの槍の一振りで撥ねて見せたモラクス。拘束から解くことはできたようですね。よかった、このまま千日手になるところだった。
「……すまないシトリウス。俺がお前を攻め切れなかったばかりに……せめて冥福を祈る」
「さすがモラクス。優しいんですね?」
「俺はお前が怖くなったぞ。だが、礼を言うヘウリア」
―――――――――――――――――――――――――
全部、思い出した。だけど、やっぱり物申したい。
「シトリウスを仕留めたのはモラクスの間違いでは?」
「お前……いや、もはや何も言うまい」
呆れた様子の鐘離に首を傾げると、どうやらついたらしい。お、万民堂*8が近くにあるのはいいですね。いい立地だ。鍾離殿には感謝しなくては。
ヘウリアの人間としての名は白亜に決まりました。見た目は胡桃と同じ服を着たFGOのガラテア。
・煙の魔神シトリウス
戦争が大好きで「戦士の誇り」を何より大事にするナタの魔神の一人。初代炎神シュバランケに敗れた後、他国を蹂躙しながら璃月までやってきた災厄の様な魔神。黒煙を生成して自在に操る力を持ち、獣人兵を無尽蔵に生み出したり、そのまま自らの武器にもできる。相性的に炎か風系統の魔神ぐらいしか勝ち目がない最強格の魔神……のはずだった。皮肉にも「えん神」にして自身と同じ無尽蔵の力を有するヘウリアを前に戦士の誇りを踏みにじられ耐えがたい激痛に襲われながら死を懇願した挙句にモラクスに介錯される末路を辿った。
モチーフは他の魔神と同じくソロモン72柱のひとつである豹の悪魔シトリーと、FGOのテスカトリポカ。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
緊急アンケート。白亜がアルベドと被ってたことが判明したので変更したい
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白亜のままでいい
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汐音(シオン。ヘウリアの神官の名前)
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白愛(ハクア。文字を変えただけ)
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白夜(ビャクヤ)
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銀嶺(ギンレイ)
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明星(ミョウジョウ)
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渚沙(ナギサ)
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汐莉(シオリ)
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縁(エニシ。塩→えん→縁→エニシ)