今回はヘウリア、ナヒーダ、ドリー、アルハイゼンのスメール四人旅。楽しんでいただけたら幸いです。
「なるほど、ファルザンが偉人とされる前の本当に学生時代に記したものだから教令院の監査を免れていたんですね……」
アルハイゼンから受け取った著書を読みながら、これからどうするか考える。味方は私ことヘウリア、ナヒーダ、ドリー、そして一応アルハイゼン。今ナヒーダが事情を話しているので、現在教令院の学生らしいアルハイゼンは「理性側に振り切れたタイプの変人」であり自分の中で理屈立てた「正しさ」「興味」「安定」「それらのための義務」のみを行動原理としている、エゴイスト半歩手前の個人主義者だから、今の草神=クラクサナリデビを正しさとする彼なら、多分味方になってくれるはずだ。
ただ問題は、これでもぜんっぜん足りないということ。ぶっちゃけスメール中の人間を集めてもアトラスに対抗できるか怪しいレベルなのだ。それに加えて、ナヒーダを匿っている私達は教令院の大賢者たち……つまりスメールを支配している連中にとっては大罪人となる。教令院や雇われているエルマイト旅団「三十人団」とかに追われながら、アトラスを何とかしないといけない。しかもアトラスも単騎じゃなくて、好きなだけ配下を生み出せるとかいう。控えめに言って無理ゲーでは?
「ナヒーダはまだ成長途中だし、アルハイゼンも学生……ドリーは論外として」
「えっと……ごめんなさい?」
「個人的な意見を求められるなら、俺は本を読みたい」
「失礼ぃしまぁすわね、ヘウリア様ッ」
「知恵袋が誰もいないって話ですよ。カーレスかモラクスがいればなあ……」
今まで、他人の知恵に頼っていたことを痛感する。ぶっちゃけ私は誰かに指示してもらって動く方がやらかさないですむのだ。私がアトラスに対抗するには、誰か司令塔がいる。いやナヒーダでもいいんだけど私と同じくらい自己肯定感低いから、もしもの時に躊躇しそうだし……。わかる、わかるよ。自分に自信が持てないからこの判断でいいのかって迷うのわかるよ。まあ私の場合、後先考えず突き進むのだが。なるようになれの精神大事。
「……仕方ない。砂漠に行きましょう」
「砂漠に?何故?」
「少なくとも教令院の支配下にある森側よりはマシですし、砂漠の人間なら協力を仰げるかもしれません」
少なくともディシアとキャンディスはいるだろうし、アアル村を目指すといいかもしれない。しかしそのためには、スメール森林地帯を横断しないといけない。そのために必要なのは。
「さあ出番ですよ、ドリー」
「はいですの!なにをすればよろしぃ~でしょうか!」
「変装に使えそうな服、あとウィッグとかほしいですね。あります?」
「朝飯前でしてよ!」
「俺の分もあるだろうか」
「おや、来てくれるんです?」
意気揚々とドリーが荷物を漁る中で、アルハイゼンが問いかける。ニヤニヤ笑いながら訪ねてみると、相変らずの仏頂面で返してきた。
「ヘウリアという研究材料から離れる手もないだろう。教令院に戻っても、地獄なのは目に見えている」
「神を研究材料とは不遜ですね。ですが、好きなだけどうぞ。それで貴方を引き入れるなら安いものです」
「……どうして塩華女帝ともあろうものが、教令院の学生でしかない俺をそこまで買っているのかがわからない」
「たしかに味方が増えると嬉しいけれど……私も思ったわ。どうしてなの、ヘウリア」
「どうしてって言われると困るんですが……うーん、そうですね」
ナヒーダからしたら私は謎しかない味方でしかない女だ。少しでも、警戒を和らげる言動を……ああ、そうだ。
「これは投資です。未来の大賢者への、ね」
「……俺が?」
「少なくとも、近いうちに今の教令院上層部は瓦解します。その後、ナヒーダを中心に立ちあがるのは若き天才たちです。こうなったら腹は括りますよ」
正直、原作通りにしないとスカラマシュ関連の出来事が発生しないかもしれない。そうなると対【博士】への切札的存在である“放浪者”が誕生しない、つまりはナド・クライで詰むかもしれないのはわかっている。だけど、スメールが滅ぶかもしれない瀬戸際だ。例え原作ブレイクを起こして未来がなにもわからなくなったとしても、もう動くしかない。そして「世界が私をどうか忘れてくれますように」という“彼女”の願いを叶える。それが最善手だ。……最悪、スカラマシュ関連は私がどうにかするしかないけど。
「私は全力をもってナヒーダの1人目の賢者として、スメールを救います」
その為に必要なのは知恵袋。そして私は、最も手っ取り早く力になってくれると確信している“先輩”を知っている。
「いざ、砂漠へ」
非常に目立つ私とナヒーダをまずどうにかしようということで、ドリーに変装用具を用意してもらった。私はスメール風の衣装はそのままに、黒い長髪のウィッグを付けて肌も少し黒くしてみた。メカクレなので瞳も隠れてるので一目でバレることはないだろう。そして面白いのがナヒーダ。赤い短髪で花の髪飾りを付けたメカクレのウィッグを身に着けたのだが、何処からどう見ても同じ会社の別作品の未知なる宇宙の星々を巡る旅路に繰り出すスペースファンタジーRPG*1のトリアンであった。可愛い。あとは適当に外套やターバンで行商人っぽく見せて、四人で森林地帯を横断する。おおよそ一週間ぐらいだろうか。
「ご丁寧に指名手配してますね……」
道中に立てられた看板に貼られた、クラクサナリデビの姿を誰も知らない故のナヒーダの似顔絵と、アーカーシャを使ったのだろうか、私の似顔絵を見て溜め息を吐く。懸賞金3000万モラとのこと。東の海出身の海賊と同じぐらいの懸賞金とは、湿気ている……わけではなく、モラクスの傍にいたせいで感覚がマヒしていたが普通に大金である。教令院は是が非でも私達を捕らえたいらしい。途中エルマイト旅団や憲兵やらに出くわしたが、特に怪しまれることはなかった。第一印象って大事。
「見えて来たぞ、あれがキャラバン宿駅だ」
「ふぃー、完全徒歩でここまで来るのは疲れましたの。宿を借りたいですわぁ」
「ナヒーダ、歩き詰めですが大丈夫ですか?」
「ええ、ヘウ……シオン。大丈夫よ」
そう笑顔で答えるナヒーダだが、生まれて初めての遠出だ。疲れが目に見えている。ああ、そうそう。人前でヘウリアと呼ぶと絶対バレるので、私のことはシオン……かつて私の神官を務めていた女性の名前で呼ぶことにした。白亜、ザルツ、シオン……どんどん名前が増えてくなあ。ちなみにナヒーダはクラクサナリデビ=ナヒーダの名を知られてないからそのままで大丈夫だと判断した。
「一晩だけ宿を借りましょう。ナヒーダを休ませなければ」
「同感だ。俺が手配してこよう。早く休みたい」
「いえ、宿の手配はドリーに任せます」
「えぇえ!?なずぇ!?」
キャラバン宿駅に入った途端、感じる視線。ああ、これは……誘い込まれた、か。そりゃそうか。教令院も馬鹿ではない。腐っても大賢者だ。私達が教令院の支配下にある森林地帯を抜けて砂漠に逃げようとしているのは、ちょっと考えればわかることだ。最悪キャラバン宿駅にいるエルマイト旅団全員が雇われている可能性もあるな。
「アルハイゼンはナヒーダを頼みます」
「任された。お前はどうする?シオン」
「ああ、私は……少し、お掃除を」
そうにっこり笑い、三人を残して私はふらりと裏道に移動し、壁を蹴って屋根に隠れる。
「おい、たしかにこっちだったか!?」
「ああ、女が一人離れた。絶好のチャンスだ」
「あちらは少女二人と大男一人、まだ泳がせておいて問題はないだろう」
「へへへっ、スメールシティ側から来たのに誰もアーカーシャを付けてないのは自分たちがそうだと言っているようなもんだぜ」
「楽な仕事だな。女と男を殺して、子供二人は教令院に連れて行くだけで5千万モラももらえるなんてよ」
屋根の上から、私を追いかけてきたエルマイト旅団の馬鹿どもを見下ろして聞き耳を立てる。なるほど、私がすぐにアーカーシャに気付いたように、付けてないのは逆に目立つか。しまったなあ……恐らくアーカーシャもつけずに砂漠に向かう四人組ってことで噂が立っていたのだろうか。
「まあ、ヘウリアだとは伝えられてないみたいなのでよしとしましょう」
知られていたら厄介だった。掌から私を形成している塩を抽出して刃を潰しているダガーを形成して握り、外套を翻して音もなく飛び降りる。そして最後尾のエルマイト旅団の一人の首元に背後から手をかけ、素早く引いて頸動脈を圧迫して窒息。崩れ落ちたエルマイト旅団を物陰まで引っ張っていき、外套を謎空間にしまってその衣装を借りて、さりげなく他のエルマイト旅団の最後尾に紛れ込む。よし、「HITMAN*2」作戦成功。このまま、こいつらのリーダーのもとまで……。やってきたのは、酒場だった。
「リーダー、あの女の姿がどこにもありやせんでした。もしかしたら勘づかれたのかも……」
「どうやら切れ者らしいな……まあいい、既にあいつらの泊っている宿は包囲させた。戻ったところを一気に攻めれば、どんなに切れ者でもひとたまりもないだろう」
「さすがボス!」
「俺達の天下だぜ!」
なるほど、馬鹿丸出しの物量作戦か。厄介だな。うーん。引き出せそうな情報はここまでかな?両手をだらんと伸ばし、両手に塩の小槌を握る。暴れるかあ。
「もしもし」
「あ?お前、誰だ?こんな美女がいたっけな……」
「はい邪魔ですよっと」
トントンと肩を叩き、振り返ったところに顔面に小槌を叩き込み、殴り飛ばす。横に吹き飛んで乗っていた酒や料理ごと机を滅茶苦茶にしながら転がった仲間に注目が集まったところに駆け抜け、すれ違いざまにかつーんこつーんと小槌を叩き込んでいく。
「ぐえっ!?」
「ぎゃっ!?」
「ぐはあ!?」
「なんだ、どうした!?って、貴様は…!?」
「はいこんにちは!」
小槌を合体させ、スレッジハンマーにしてボス野郎目掛けて振るうも、間に現れた炎の壁に防がれ、たまらず後退する。神の目の所有者か……。大方、大層な夢を抱いていたのに挫折して落ちるところまで落ちたってところか。
「お前、例の女か……部下に紛れ込んでここまで来るとは、やるな?」
「仲間の性別が変わったのにまるで気付かない阿呆な部下を持って可哀そうですね?」
「いいや優秀さ……お前をここまで引きずり込んでくれたからなあ!」
そう言ってカウンターの上に乗ってた酒瓶を手にして投げつけてくるボス。スレッジハンマーで叩き割るも、中身の液体が降りかかる。っ、まずい…!
「燃えろ!」
匂いからアルコールだと察した私はスレッジハンマーで床を叩き割って軒下に飛び込み、同時に火炎放射が頭上をかすめていった。危ない。
「飛んで火にいる夏の虫だ…!」
「そちらがね!」
穴を覗き込んで手にした槍から炎を放とうとしていたボスに、スレッジハンマーを投げつけ、咄嗟に身を捩って避けたところを飛び出して酒場に舞い戻る。そのまま馬乗りに組み敷いた。
「ぐっ、くそっ……」
「私、重いでしょう?見た目の三倍は重いんですよ。失礼しますね!」
「うわあ!?」
抵抗しようとするボスの真横の床に拳を叩きつけ、叩き割る。目に見えて恐怖で顔を歪ませるボス。
「仲間の数と、配置は?」
「ま、待て!俺は確かに命令したが、数と配置なんて把握は……」
「仲間の、数と、配置は?」
「まって、やめて!思い出す!思い出すからあ!」
口答えするたびに床を殴って尋問すれば、ボスは泣きながら吐いてくれた。なるほどなるほど。
「じゃあ、ナヒーダが寝ているうちに終わらせますか」
「おはよう、アルハイゼン。いい朝ね」
「ああ、おはよう。よく眠れたか?」
「ええ、ばっちりよ」
「わたくしはまだ眠いですのぉ……」
「お前には聞いてない」
「レディに対して失礼じゃありませんこと!?むきーっ!」
翌朝、ナヒーダがアルハイゼンとドリーを連れて出てきたのを見て。引きずっていたそれを物陰に蹴り飛ばして私は合流する。
「おはようございます。ナヒーダ」
「おはようシオン。すっかり元気になったから心配ないわ。それより……みんな寝っ転がって、疲れているのかしら?」
キャラバン宿駅の各所に寝っ転がっているエルマイト旅団を見て首を傾げるナヒーダ。その後ろで、アルハイゼンがそっぽを向き、ドリーは苦笑いを浮かべて私を見ている。私に言えと?
「ああ、夜遅くまでどんちゃん騒ぎしてたんですよ。寝かせてやってください、死ぬほど疲れているので」
「そうなの?」
「ええ、大騒ぎでした」
ナヒーダが知るには、まだ早い。
キャラバン宿駅に潜んでいたエルマイト旅団およそ40人、一晩で壊滅!!!!
せっかくだからナヒーダをトリアンにしてみた。似てるよね。なんでトリビーやトリノンじゃないのかって?A.趣味。
・エルマイト旅団ボス
かつて、幼馴染と共に砂漠の民の立場を変えるべく旅に出た。その炎のように熱い信念から神の目を得て、実力で教令院に取り入ることができたが……なにがあったのか幼馴染が廃人のようになってしまう(教令院による神の缶詰知識の実験)。大事な人を失った彼は堕落し、教令院の犬となった。なんて裏設定が一応ある。名前はない。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
スメールにてヘウリアに関わって欲しい人(年齢は憶測含まれていて、また既に出会うことが決まってるキャラもいます)
-
アルハイゼン(15歳)
-
カーヴェ(17歳)
-
セノ(16歳)
-
ティナリ(15歳)
-
ファルザン(110歳)
-
ニィロウ(9歳)
-
ディシア(18歳)
-
キャンディス(18歳)
-
ドリー(19歳)
-
ドニアザード(12歳)