スメールシティを舞台にアトラスとの決戦。楽しんでいただけたら幸いです。
アアル村を救援してから、数日経った。この間戦った炎の神の目使いのエルマイト旅団のボス……ゲブというらしい彼とも共闘してキャラバン宿駅を守ったり、パルディスディアイに立てこもっていた教令院の人間を助けたり、蟲の軍勢の攻勢を何とか押し返していった。蟲どもの弱点が元素攻撃なだけあり、ナヒーダのお願いを聞いたウェネトで空から風蝕弾をばら撒いて、炎・雷・水・氷元素で拡散させる戦法がまあ効果的だった。むしろウェネト、蟲どもの天敵では……?ちなみに私がお願いしても言う事を聞こうとしなかった。解せぬ。
「ようやく、戻ってこれたわね……」
高台から私を連れてスメールシティを眺めるナヒーダ。自分に自信がなかった最初のころとは打って変わり、決意のこもった視線を向けている。その視線の先には、スメールシティのシンボルである大樹の上に鎮座して湯水のごとく蟲の魔物をばら撒いているアトラスが見える。もうなんというか、10年後のスメールシティを知ってる身からしたら世紀末の如き光景である。
「抑えられた被害も一時的です。大元を倒さないと話になりません」
「わかっているわ。でも、アトラスを相手にただの人間を相手にさせるわけにはいかない。神の目を持っていて、ギリギリよ」
「飛蝗の将軍相手でもきついですからね……」
「その飛蝗も、ヘウリア以外だとウェネトがいないと対抗できないわ」
「ウェネト強すぎないですかね……?」
「あの子はいい子よ」
そんなことを言いながら、準備体操していると、集まってくる仲間達。ドリー、アルハイゼン、ファルザン、ディシア、キャンディス、セノ、そしてゲブ。他の仲間はウェネトに援護してもらって蟲の軍勢を対処してもらっている。少数精鋭でアトラスに挑む、それがファルザン先輩の考えた作戦だった。言い方が悪いが有象無象がいても、犠牲になるだけなのでそれはわかる。ゲブに関しては炎元素を扱えるのと言うのと、本人の希望で連れてきた。まあ実力はあるから大丈夫だろう。
「セノ、教令院にも神の目持ちの実力者がいるのね?」
「ああ、頼りになる先輩や同級生がいる。恐らく、中で立てこもっているはずだ。2人とも聡明だからな」
正直本当にいるのが予想外だったセノの言う二人は、多分学生時代のリサとティナリだろう。あとは、カーヴェとかもいるかな?あとはニィロウとかも10年後だと神の目持ちだけど、多分この時代本当に子供なんだよな……。ニィロウいると開花パーティーが本当に強いんだけど、さすがに期待はできないかあ。
「で、ファルザン先輩。作戦は?」
「わしらでアトラスの動きを押さえて、ヘウリアの最大攻撃を叩き込む、じゃ」
「私がメインウェポンなのやめません?」
ファルザン先輩が言うなら本当にそれしかないんでしょうけども!
「大丈夫よ!わたくしの一人目の賢者で塩華女帝なのよ?」
「私らが苦戦した飛蝗野郎を瞬殺したのはどこのどいつだって話だよ」
「お前ならできるんじゃないか?俺はできないが」
ナヒーダ、ディシア、アルハイゼンの談。アルハイゼンは信頼するのか煽っているのかどっちかにしなさい。多分私を怒らせてその気にさせようって策略なんだろうけど!
「ああ、もう!やったりますよ!」
散弾ソルトスプラッシュが効かなかったから別のを用意しないとだけど。やるしかないかあ。
「じゃあいくわよ、みんな!わたくしに、力を貸してちょうだい!」
「アベンジャーズfromスメール!アッセンブル!!」
「「「「「「「おう!!」」」」」」」
私、ナヒーダを抱えたアルハイゼン、セノ、ディシア、ゲブ、ファルザン、ドリー、キャンディスの陣形で南門からスメールシティに突入する私達。本来は人並みで賑わっていただろう道から迫りくるは、蟻型を始めとした巨大な蟲の軍勢。飛蝗は今のところ見えないから、あれ作るにも結構リソースがいると見た。
「ええい、ソルトスプラッシュ!」
私が塩の散弾をばら撒きながら全身、剣を振るって足を斬り飛ばして達磨にしていくアルハイゼンの背中からぴょこっと顔を出したナヒーダが草元素を付与させ、そこにセノ、ディシア、ゲブが雷元素や炎元素を叩き込んで過負荷反応や燃焼反応、激化反応を引き起こし、それをファルザン先輩が拡散。傷ついたらドリーが治癒してくれながら、キャンディスが殿を務める。割と最適解なのがさすがファルザン先輩である。
「騒がしいな……なんだ、お前ら?」
「奴が気付きました!きます!」
すると騒ぎを聞きつけて、大樹の上からこちらに気付いたアトラスが視認。眉をしかめさせ、翅を羽ばたかせて飛翔する。飛翔するだけでなんて圧だ。サイズがでかいとそれだけで脅威ですね!
「スメールシティを返してもらうぞ…!」
すると、屋根を蹴り壁を蹴り空に舞い上がったのは、アヌビスの様な元素装甲を身に纏ったセノ。紫電を纏った槍が投擲され自らも突撃するも、アトラスはまるで意を介さず手で払いのけるがしかし、そこに雷元素が付着する。
「ナヒーダ!」
「ええ!すべて、丸見えね!」
「むっ!?」
そこにナヒーダが草元素を付着。激化反応を起こすとわかりやすく顔をしかめさせるアトラス。やっぱりか。ファルザン先輩から聞いた残された伝承によれば燃焼反応でキングデシェレトたちは対抗してたからもしやと思ったけど、単純な元素攻撃は効かないけど元素反応は通じると見た。
「貴様、マハールッカデヴァァアアアタァアア!!!」
するとナヒーダをマハールッカデヴァータと重ねたのか、咆哮を上げて自分の腹部に鋭い指を突き刺すアトラス。すると傷口から溢れた血肉が次々とカブトムシ型の魔物に変わり、炎を纏って神風してくる。いやあ、使い捨ての誘導爆撃をローコストで使えるとか便利だな!
「しっかり掴まっていろ、クラクサナリデビ」
「ええ、わたくしの三人目の賢者!」
するとナヒーダをしがみつかせたアルハイゼンは元素スキルによる瞬間移動で爆撃を回避。ディシアが大剣をバットの様にしてかっ飛ばし、ファルザン先輩が撃ち落とし、キャンディスが盾でパリィし、ゲブが槍に纏った炎を蛇のように動かして打ち払い、爆撃の余波で負った傷をドリーが治している。素晴らしい仲間達である。
「もらいますよ!っと!」
一方私は、落ちてきたカブトムシの角を引っ掴み、大樹の壁を駆け上って宙返り。こちらに視線を向けたアトラスにカブトムシを叩きつけ爆発させた。爆煙で顔が見えなくなってる間に飛び降りて家屋に隠れる。やっぱり、全然効いてないか。
「ええい、ちょこまかと……」
そう言って自分の脇腹に鋭い指を突き刺すアトラス。そこから引きずり出すように巨大な、前に見たやつよりさらに長大な百足型の魔物を手に取ると、グルングルンと振り回してまるで鞭のようにして空中から周囲を薙ぎ払ってきた。私のいた家屋も丸ごと吹き飛ばされる。
「なっ!?」
「みんな、私達の背後に!」
咄嗟にディシアが元素スキルを発動し、キャンディスが盾で受け止めなんとか防ぎきる仲間達。アルハイゼンは瞬間移動を繰り返してるナヒーダともども避けているけど、かなり無茶をしてるようで息が荒い。不味いか。動きは止めれてないけど、アイツは傲慢というべきなのか自分が負けるはずないと考えているのは目に見えている。その油断を突くしかない。
「一点集中、ソルトスプラッシュ…!」
「あっ?」
「こっちです!」
指を拳銃の形にして放つ、一点に絞ったソルトスプラッシュで鎧を撃ち抜く……といっても浅くめり込んだだけだが……と、明らかに苛立った視線を向けてくるアトラス。巨大百足を投げ捨てて他の面子の殲滅に向かわせたかと思えば、再び自傷して今度はカブトムシの角の様な馬上槍の様な武器を引っこ抜いてきた。私の塩装備と原理は同じなんだろうけど、別格過ぎませんかね?
「虫けらが、調子に乗るなよ?」
そう言って、空を飛んで旋回したかと思えば、カブト槍を旋回速度のままに薙ぎ払ってきて、咄嗟に跳躍して回避。したところに、奴のもう片方の腕が振るわれて殴り飛ばされ、巨樹の上まで吹き飛ばされる私。それを追いかけて飛んできたアトラスが、次々と刺突を叩き込んできて、私は巨樹を駆け上って回避していく。
「あの時と同じだ!草のも、花のも、赤砂のも!矮小な虫けらに過ぎないのになぜ抗う!?」
「私なんて虫けらより小さい塩粒ですよ!それでもね、守りたいものがあるんだ!お前みたいにただ強いだけの奴に、ただ蹂躙されてたまりますかっての!」
「お前らは我等が餌に過ぎない!餌であることにこそ悦べ!お前らの命は無価値ではないのだと噛み締めろ!」
ああだめだ、独自の思想を持っていて会話はできるのに話が通じない奴だ。ある意味、神を作り出すという偉業を自分たちが成すということに酔いしれていたアザールに近い。スメールを危機に陥れるのってそういう頭のいい馬鹿だけなのかね、皮肉なことだ。
「ヘウリア…!」
「今、助けるわ…!」
すると、樹の下から私を見上げていたゲブが、炎を纏った槍をアトラスに投げつけてきた。さらにナヒーダが指フレームで草元素を付着させる。それを見て血相を変えたのがアトラスだ。
「キングデシェレト!?貴様か……卑怯者どもめ!」
恐らく、キングデシェレトに負けた時のことをフラッシュバックしたのだろうか。翅を羽ばたかせて、衝撃波で炎を散らされた槍が、私の足元に転がり、アトラスはそのまま再びカブトムシ爆撃を仕掛ける。その視線は私から完全に外れていた。
「借りますよ…!」
ゲブの槍を手に取り、私の中の塩をありったけ槍を基点に集束させる。完成したのは鉱石を粗削りしたかのような純白の槍。陽光を受けて輝くその槍の名は。私の塩の特性を考えれば、これしかあるまい。
「一説によると「槍を以て相手を傷つければそれは決して癒えない傷となって相手を苦しめ続ける」だそうですよ?」
「なに……?」
「ロンギヌスの
投げた瞬間に、掌から塩を噴出して超加速。遠く離れた空中で真下を見ていて私に気付くのに遅れたアトラスの、塩に対して弱くなる草元素が付与した胴体に炸裂し―――――
「うぉおぉおおおおおおっっ!?」
胴体に突き刺さった瞬間、内包された塩が弾けて爆裂。アトラスは、胸部に巨大な風穴を開けて落ちて行き、スメールシティ横の川に巨大な水しぶきを上げて落ちたのだった。
「やりましたの……蟲の魔神アトラスを倒しましたわ!」
「さすがはクラクサナリデビの第一の賢者じゃ!」
「あっけないものだな……」
「やった!ざまあみやがれ!」
眼下で喜ぶナヒーダたちが見え、私は構成が結構希薄になってしまった体で樹木を背にして座り込む。リソースのほとんどを注ぎ込んだ、誰にも想像できないアドリブの一撃です、これでやられなきゃ嘘でしょう。しかし、ふと視線を向けたナヒーダが難しい顔で考え込んでいるのが見えて。そして思い出す。
あの三神でさえ、アトラスの「力」を封印しないと、勝てなかったことを。
「……まさか」
ではその力とは何か。私はとっくにその正体を知っていたのに、目を背けていた。最初に直感したじゃないか。奴は、蟲の魔神アトラスは………
「みんな、安心するのはまだ早いわ!まだ、アトラスの配下である蟲たちが活動休止していない!つまり、」
ナヒーダもその結論に至ったのか、蒼い顔で固唾を飲んで視線を川に向けると、凄まじい水蒸気の煙を上げながら、それは飛び出した。
「アアァ、気持ちいいものだなァ……再誕するのはァ」
現れたのは、まるで今生まれたばかりかのように全身を紅く光らせ赤熱化させたアトラスその人で。私の場所から見えるのは、確かに活動を停止しているもう一人のアトラスの亡骸が。間違いない、蟲の魔神アトラスの反則的な力とは………
「「どうした?笑えよ、虫けら?」」
目の前でさらに、脱皮するかのように二体に分裂するアトラス。「繁殖」の絶望が、襲い来る。
少し前に負けたエルマイト旅団ボス、ゲブ君参戦。名前はエジプト神話から持ってきました。
そして明かされた衝撃の事実。やっぱり繁殖能力持ってました。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
結末に行く前に蟲の魔神アトラス及びその配下の詳細、いる?
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いる
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いらない
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結末後にほしい