ああ、あの日。初めてシオンに出会ったとき、その心を覗いた時。わたくしの名前を何故か知っていた怪しすぎる女。その心は、濁った水たまりのように淀んでいて何も見えなくて、理解できない恐怖というものを初めて経験した。故に、シオンに対して抱いた感情は懐疑心だった。だけど、彼女にわたくしの存在を認められて、彼女の人となりを知って、彼女と共に仲間を集めて行って、わたくしひとりじゃ決して勝てなかった怪物に打ち勝った。
今ではわたくしの一人目の賢者であり、スメールの大賢者であり、そして……わたくしにとって、欠けてはならない大事な人だ。モラクスと話していた時は、あまりの仲の良さに嫉妬してしまった。その間に入ることができないと本能的に悟って、でもシオンはスメールに残ると決めてくれて、本当に嬉しかった。子供の様に遊んでも、悪戯しても怒ることなく受け入れてくれることに甘えていたし、わたくしの我儘に振り回されることに満悦していたこともある。
でも、いくらわたくしの知識が足りなくても、そういう知識は「仲がいい人間同士がやること」として学んでいたから、シオンがコロンビーナと一緒に寝ていたのを目のあたりにして、固まってしまった。揶揄うように離れることでなんとか平然を演じようとしたけれど、サンドローネまでやってきて……、その機会を失った。
サンドローネに説教として一糸まとわず正座させられているシオンを思わず凝視してしまったが、それよりも、サンドローネがコロンビーナを大事に思う気持ちが伝わってきて……思わず訪ねてしまって、ふと。シオンがわたくしのことをどう思っているのか、気になって。覗いてしまった。
そこには、相も変わらず何も見えなかったけど、前と違うところがあった。淀みの向こうから、何かがこちらを覗いて凝視していたのである。それは、シオンの心に根付いていた草元素の塊だった。黒く濁った草元素の塊は、明らかに異物で。茨の様に突き刺さってシオンの心に浸食していたそれは、わたくしの視線を介してこちらに茨を伸ばしてきたのだ。
そこで気付く。シオンは、ヘウリアと違うところがあった。なんというか、ヘウリアは「自由」だったけど、シオンは何か強迫観念に縛られていたような印象を受けたのだ。わたくしのために命を懸けるのは、今思えば明らかに異常だった。その原因は恐らく、これだ。この茨が、シオンの心に寄生して、その行動原理を変えていたのだ。
以前心を覗いた時は、わたくしには見向きもしなかったそれは、シオンよりもわたくしの方が宿主としてふさわしいと判断して乗り移ってきたのだ。あの時と今のわたくしの違いと言えば明白だ。シオンに対する感情の差。わたくしが抱いてしまったシオンへの執着心が、この、本能の様に縋りつくだけだった草元素の茨を活性化させた。
わたくしの心に入り込んできたそれから感じられるのは、シオン……いや、ヘウリアへの愛憎だった。自分の国を破滅させたヘウリアが憎い、だけども愛したい。そんな相反した感情が、わたくしの心を蝕んでいく。
わたくしが未熟だから、制御できないどす黒い感情が生まれて広がっていく。
ああ、シオン!貴方のことは許さないけど、愛してあげる……、愛して愛して愛して愛して殺して愛して傷つけて愛して痛めつけて愛して愛して縛って愛して愛して……永久に逃がしてあげないんだから。
誰かのものになるぐらいなら……ワタシのものに、なりなさい?
フォンテーヌ編直前に戦った「茨の魔神」の性質を覚えているだろうか。一度でもテリトリーに入れば、草元素を対象に付与して、逃げたところで茨で締め上げる、と。じゃあエリゴルスに直接捕まったヘウリアが何もないわけないよね。
というわけで茨の魔神の残滓がシオンの心に潜んでいて、それがナヒーダに乗り移ったのが真相でした。実はフォンテーヌ編からヘウリアの行動原理が微妙に変わっていたりするのだ。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
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