これまで沈黙を保っていたあの勢力がついに登場。楽しんでいただけたら幸いです。
「………王子様。如何様にしますか?」
璃月港が一望できる山岳の上にて、1人の人物と、二人の魔物が璃月港を見下ろしていた。魔物の一人……アビスの魔術師と呼ばれる魔物が、人物に
「今なら、彼女を暗殺することはできる。だけど、そうした場合、七神のうち四人が全力を以て下手人に報復するだろう。まだ
「で、では……やはり、あやつめに?」
「し、しかしあやつはようやく成功した個体です。まだ支配も完全には……」
「支配する必要はないさ。あれは、彼女に対して恨みしかないはずだ。伝承によれば、だけどね。それに今なら、アトラス復活の影響だと偽装もできる」
“王子様”と呼ばれた少年は、不敵に笑む。するとアビスの魔術師のうち赤い方が溜め息を吐いた。
「しかし、まさかあんなことになるとは思いませんでした」
「そうだね。……教令院に御神木の情報を流してアトラスを復活させたまではよかったんだけどな。まさか、こちらで制御する前に、魔神とファデュイが手を取り合って、打ち倒してしまうのは……本当に予想外だった。特に、今の大賢者と……あの、塩の魔神。……アトラスは七神と渡り合える力があったし、天理にも届くはずだった。それが敗北したのは、彼女たちの存在が大きい」
「その通りでございます王子様……」
「アトラスそのものが復活したことすら予想外でした……」
「ああ、あの【博士】は油断ならないとは思っていたけどまさか魔神の複製に成功するとは思わなかった。アトラスも残滓を利用するだけのつもりだったのに本物が復活するなんてね。……もしあの技術が500年前にできあがっていたら、カーンルイアの民はヒルチャールとして生き残ることすら叶わなかっただろう」
金髪の少年は、昔のことを思い出すように遠い目を空に向ける。その瞳に宿るのは決意と覚悟、そして悲哀と憤怒だ。
「でも、人造魔神は計画に利用できる。そのために、この国に来たんだ。今回の実験で手段を確立できれば……アビス教団の戦力は強固なものとなる」
「はっ……すぐに奴を解き放ちます」
「間違っても教団の者が彼女の前に出ない様に。魔除けとも称される妙な力が彼女にはある……アビスの力も無効化できるかもしれない。恐らく、俺以外は彼女に対して無力だ」
「まさか……でもそれがあれば、ヒルチャールにされた者たちも…?」
「わからない。でも、その可能性はある」
“王子様”の言葉に沸き立つアビスの魔術師たちは、すぐに瞬間移動してその場から去り、残された少年は、遠目に胡桃と楽しげに会話しているヘウリアに視線を向けて、真顔になった。
「……そもそも、器が用意されたとはいえ数千年も経って、魂が摩耗していないことが異常なことに気付いているのは何人いるんだろな。器を用意したモラクスすら異常とは思ってないかもしれないか。蛍と旅した世界のどれかで似たようなものを見た気もするけど。たしか、サー……いや、ありえないか。………なあヘウリア。君は、なんなんだ?」
その問いかけは、誰にも聞かれることなく風に溶けて行った。
「それはそうと、
桃ちゃんを抱き上げてそう尋ねると、一瞬首を傾げてから、何かに気付いたかのように懐からそれを自慢げに取り出してきた。これは……!?
「あ、そうか白亜姉は知らないんだ。あたしも神の目を手に入れたんだ!これでお父さんたちの手伝いができるよ!」
「凄いですね、いえでも炎の神の目があるとしてもどうやってあの推進力を……」
「え?こう、両手を合わせてその間に炎元素を集めて、こう、バーン!と」
「……て、天才ですね?」
「えへへ、すごいでしょ!」
どこのかめはめ波だろうか。私の周りは天才しかいないのだろうか。凡人の私は凹んでしまいますよ。
「白亜さん、鍾離殿たちに挨拶を終えたぞ」
「胡堂主からは支店をくれぐれも、って任されたわ。あと白亜さんのことも見張っておいてほしいって」
「私の何を見張るんです?」
「すぐ無茶をすることかな?」
「白亜さん、すぐ無茶をするから……」
往生堂から出てきたペルヴェーレとクリーヴの言葉に問いかけたら、リネとリネットに返された。解せぬ。私は凡人だから無茶をしないとなにもできないんですけどねえ。あ、でも「定規」をシオンに渡したのは失敗したかもしれない。私もエクスカリバーやりたかった。ディシジョンスタートやりたかった…!
「あなたたちが白亜姉の子供たち?」
「ああ、そうだよ。そう言う君は妹さんだと聞いたよ。私達にとっては伯母になるのかな?」
桃ちゃんの言葉に、しゃがんで視線を合わせて会話するペルヴェーレ。なんというか、「お父様」が染みついてますね?
「にへへ、血は繋がってないけどね!白亜さんに子供ができたって聞いた時は血の繋がりなんだなあ、と思ったけど、そうじゃなかったんだ!一緒だね!みんな白亜姉が大好きなんだ!」
「うん、大好き」
恥ずかしげなく頷いて見せたリネットが可愛すぎる件について。こんな私を好きだと言ってくれてありがとう……!
「あ、そうだ。白亜さん!僕たち、行きたいところがあるんだ!」
「リネが積極的にそう言うなんて珍しいですね?どこですか?」
「マジックで使う花弁で、璃月のものを使いたいなって。それでさっき聞いたら、花弁だけなら花屋よりいいところがあるって鍾離さんが言ってたんだ」
「ほう?そんなところありましたかね?」
まあ、花屋……は原作で送仙儀式の際に尋ねたところが嫌な人だったのでそこを頼らないのは全然いいんですけど。あれ、あれ花屋でしたよね?石屋の次に向かった奴。
「
「不卜廬!?あ、じゃあ私も行く!」
「え、桃ちゃんもですか?リネを連れて行くのはいいんですけど……」
不卜廬か。私が階段から落ちた時にお世話になりそうでならなかったところだな。私の傷は一般人とは違うからなあ。しかしなんで桃ちゃんが……あー。思い出した。そういやあそこには「親友」がいたっけ。
「今日こそは
「桃嬢。また七七嬢を怖がらせたら承知しないぞ」
「わ、わかってるってば鍾離さぁん……」
鍾離からも釘を刺されてる辺り、もう既にやらかしているのだろう。まあ仕方ない、連れて行くとしよう。
「いらっしゃいませ。処方箋、あるか?」
不卜廬に訪れると、カウンター越しに頭の先端しか見えないキョンシーの少女、七七が他のお客さんの相手をしているところだった。
「こんにちは。処方箋はないんですけど、ほしいものがありまして」
「わあ、ちっちゃい……」
「七七ちゃん!遊びに来たよ!」
「むっ……七七、拒否する……」
リネが驚き、桃ちゃんが元気に挨拶すると、七七は嫌そうな顔をして頭を引っ込めた。すると、騒ぎを聞きつけたのか奥から首に蛇を巻いたメガネの青年、白朮が出てきた。
「どうしたんですか七七?あ、お待たせしましたテスカさん、これがうちにある在庫いっぱいの薬草となります。ご確認ください」
「気にしないでくれ。大して待ってねえからな」
そう言って白朮から紙袋いっぱいのミントを受け取る青年をよく見ると、璃月人じゃなかった。金髪で色白、サングラスをかけてジャケットにジーンズと妙に現代的な男だった。この感じはナタ人だろうか。はて、どこかで見た様な。
「じゃ、俺はお暇するぜ。またな、白亜さんよ」
「は、はい…?」
紙袋を手に背を向けて去っていくテスカさんとやらを見送り、首を傾げる。なんで私の名前を……?
「白亜さん、知り合いなんですか?」
「いえ、ナタ人に知り合いはいないはずですけど……」
「七七ちゃん、そんなに怖がらないで!前みたいに墓を案内したりしないから!」
「七七、お前は拒否する……!」
すると視界の端で両手と片足を上げて威嚇する七七と、それに謝り倒す桃ちゃんの図があって。微笑ましいのでそれを横目に、白朮に話しかける。
「こんにちは。今日はうちの子が花弁が欲しいと言うのでここにきました」
「こんにちは、モラさえ用意できればすぐにでも用意しますよ。……おや、どうしました長生?いつもなら文句の一つでも垂れるのに」
すると、私と目が合ってからずっと黙っている白朮の首に巻き付いている喋る白蛇である長生に疑問を抱いた様子の白朮。まあ仕方ないだろうな、顔見知りだ。
「ああ、前は失礼しました。名も知らない相手だと思っていじめてしまい……」
「お前ッ!あれは虐めるの範疇を超えているぞ!!!」
「ちょ、長生?」
「喋る蛇だ、すごい!」
リネが楽し気に手を叩く。そんな、魔神戦争時代に無名の魔神だと思って剣で刺してご飯にしようとしただけじゃないですか。気づいてすぐ開放したのに嫌われているなんて私は悲しい。まあリネが楽しいならいいか。
というわけで、アビス教団の王子様、登場。これにて旅人は蛍で確定です。アトラス復活に関与してたと判明しました。アザールが御神木を知ったのは本人が優秀ではなく、リークのせいでしたというオチ。
七七と胡桃の関係がすごい好きです。最近になって七七の新事実が判明してましたが、また明かされる時にはぜひとも胡桃に関わってほしいところ。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
旅人の話は……
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旅人視点でモンドの最初から
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白亜視点でモンドの途中から参戦
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旅人視点で璃月で白亜と初遭遇
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白亜視点で旅人の旅路をモンドから見守る