塩の魔神のしょっぱい備忘録   作:放仮ごdz

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どうも、放仮ごです。アトラスは真正面から突っ込んでくるだけましだったよねって。

ヘウリアと謎の少女との邂逅。楽しんでいただけたら幸いです。


誰か、ここにいましたっけ?

「魈!金鵬大将!なにがあったんですか!?」

 

 

 気を失っている魈を箱の残骸から引っ張り出してとりあえず地べたに寝かせる。魈は歴戦の夜叉だ。負けることはほぼほぼありえない。それこそ、魔神クラスでもないと……。

 

 

「ヘウリア、この方は?」

 

「モラクス配下の三眼五顕仙人の一人です。並大抵の相手では不覚をとることもないはずの実力者です。雷電影、警戒を願えますか?」

 

「いいでしょう。…む?この、気配は……」

 

 

 すると周囲を警戒していた雷電影が何かを見つけた様で、雷の足場に乗って屋根の上まで行ってしまった。敵は上か。でも、魈を放っておくわけには……そう思っていたら、魈が目を覚ました。頭を押さえながら立ち上がろうとしたのを支えた。

 

 

「うぐ……我は、なにを。……ヘウリア様?」

 

「あ、起きたのですね魈。よかった。一体何があったのです?」

 

「岩王帝君より、海灯祭に紛れ込んだ存在を追うように賜って、それで……」

 

「下手人に会った、と。それは何者なのですか?」

 

「……それが、思いだせないのです」

 

「はい?」

 

「確かに何かに出くわした……そんな記憶はあるのに、敵の顔も、声も……まるでそこだけぽっかり穴が開いているように、思いだせない」

 

 

 頭を押さえ、必死に思い出そうとしているのだろう、表情を歪ませる魈。記憶を消す?いや、違う。会ったことは覚えているのに、顔と声……敵のことの情報だけを思い出せないってなんだ?私の知る原作の魔神にそんな抽象的な能力持ちはいなかった。というかむしろ人々に忘れられている方が多かったぐらいだ。つまり、アトラスみたいに原作に出てすらいない魔神か……?

 

 

「とりあえず、魈はモラクスに報告を。私は敵を追います」

 

「ですがヘウリア様は休日でしょう。我々が成すべきことです」

 

「家族が来ているんですよ。それに友人もたくさんいます。間違っても、海灯祭を台無しにはさせません」

 

 

 そう言い残し、跳躍して壁を蹴り、璃月の建物を駆け上がる。そして雷電影の姿を探すが、どこにもいない。どこに……?上か!

 

 

「貴女は何者ですか……!」

 

「やはは!さっき名乗ったじゃん!もう忘れたのお?バアル……いや、バアルゼブルかな?相変らず、お姉さんとそっくりだねえ!」

 

 

 上空を見れば、雷元素の足場を跳んで空を駆る雷電影と、くすんだ銀髪を花かなにかを髪留めにしてツインテールにしたモノクロの民族衣装の様なものを身に着けた少女がどういう原理かふわふわ浮いて攻防を繰り広げていて。周囲に飛び交う熱線の様なものを自在に操り、それを雷電影が弾き飛ばしながら肉薄しようとして、ふわりと避けられ距離を取られている。あれが魈を襲った下手人……?服装からしてナタっぽいけど……知らない奴だ。

 

 

「雷電将軍!」

 

「ヘウリア!気を付けてください、奴の眼を見てはだめです!」

 

「眼?」

 

 

 あの雷電影が焦っている?遠目に見れば、まるで燃えているような眼が見えた。なんだろう、アレを見ていたらぼーっとしてくるような……。いや、ダメだ。敵の前だぞ!?何を呆けて……!?

 

 

「へウリアじゃん。やっほ」

 

「速い……!?」

 

 

 いつの間にか、逆さまになって私の眼前に顔を近づけてきた下手人が目をかっぴらいて笑う。咄嗟に塩の剣を形成して振るうも、胴体を捉えたはずの斬撃は、まるで霞でも斬ったかのように擦り抜けてしまい、私は振るった勢いのまま体勢を崩してしまった。実体がない……!?

 

 

「話もせずに斬りかかるの、悪い癖だと思うなあ」

 

「うう!?」

 

 

 その口がカパッと開き、そこから灼熱の熱線が放たれる。咄嗟に屋根の上でひっくり返る様にして回避。そのまま蹴り上げるようにして少女に足を突き出すと、「ぐえっ」と短い悲鳴を上げて蹴り飛ばされた。今度は蹴れた……?

 

 

「どこのゴジラですか貴女は」

 

「ゴジラってなに?あてしはグレメリーなんだけど」

 

「グレメリー……?」

 

 

 お腹を擦りながら空中でふわふわ浮きながら不満げにそう名乗る少女。やっぱり、聞いたことがない名前だ。いや、違う。聞いたことないっていうよりかは……前世の知識にあるはずの魔神の名前の元ネタ……ソロモン72柱のことすら出てこない。例えば私の場合はソロモン72柱フラウロスの別名ハウレス(Havres)からヘウリアだとされている。なのに、グレメリーって名前を聞いて元ネタが全然出てこない。知っているはずなのに、そこだけ消されたかのような。なんだ、この違和感。これが、魈と雷電影が言っていた現象か?

 

 

「はああああ!」

 

「あてしは斬れないよバアルゼブル」

 

 

 空から雷電影が飛来し、紫電を纏った斬撃を空中のグレメリーに叩き込むも、やはりすり抜けてしまい、雷電影は私の隣に立つ。私なんかの攻撃はともかく、七執政の中でも最強格の雷電影の攻撃が効かないってなんだ?奴の能力がわからないとろくにダメージを与えられないのか。

 

 

「ヘウリア、奴は危険です。共に討ちましょう。モラクスも異変に気づくはずです」

 

「そうですね。モラクスのおひざ元でこれだけ暴れておいて…………あれ?」

 

 

 こんだけ熱線をぶっ放し、紫電が瞬いているのに、魈が報告にいったはずなのに、モラクスが来る気配が一切ない?それどころか、下で一切騒ぎが起きてないのも変だ。言ってる傍から、グレメリーは両手の間に炎のダブルセイバーの様なものを形成し、クルクル振り回して踏み込み、雷電影と斬り合っている。おかしい、雷電影が斬り合いで押されているなんて、おかしい。

 

 

「ぐっ……なんで、斬る瞬間が見えない……!?」

 

「……貴女はなんなんですか。また【博士】が蘇らせた人造魔神ですか?」

 

「人造魔神ー?あてしをあんなのと一緒にしないでよねー。あてしは正真正銘、魔神戦争時代より以前から生きてる魔神だよー?」

 

「馬鹿な。私も含めて、七執政以外の魔神は全て……!天理が見逃すはずは、ない……?」

 

 

 いや待てよ。地下深くに眠っていたビフロンスは見逃されていた。マルコシアスみたいな力を失って休眠したのが脱落扱いの魔神もいる。天理の認識から逃れれば、生きていてもおかしくはない?いや、考えている場合ではない。グレメリーを倒さなければ。

 

 

「この……!」

 

「おっと」

 

 

 打撃は効くのではと判断し、私の踏み込んでのスレッジハンマーによる薙ぎ払いを、まるで体重なんてないかの様な身軽さで跳躍して避けて、スレッジハンマーの上にチョンと乗るグレメリーに、雷電影が三連撃の斬撃を叩き込むも、ダブルセイバーを消したかと思えばやはりすり抜け、すぐさまダブルセイバーを展開してスレッジハンマーの上で一回転し、私と雷電影を薙ぎ払うグレメリー。ケラケラ笑っていて、完全に遊ばれている。

 

 

「ソルトスプラッシュ…!」

 

「裁きの雷…!」

 

「おっとお。危ない危ない。あ、あてしを直視しない方がいいよー?」

 

 

 必殺の一撃たる技を叩き込む私達だが、グレメリーが手をかざしたかと思えば私の塩の散弾と雷電影の紫電の斬撃が、ライターで火をつけた紙の様に崩れて消えた。理解できない現象に目を白黒させながら、空中にふわふわ浮かぶグレメリーを追って、その目と視線が合った。その目の中は、空洞の様な真っ暗な闇だった。闇の中で、轟々と篝火の様に燃え盛る炎の揺らぎから、目が離せない。思い出すのは、前世で見た復讐の精霊*1の贖罪の目。だがあれとは違う、これは……!?

 

 

「あーあ、だから言ったのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付くと、私と雷電影は建物の屋根の上で立ち尽くしていて。2人して、顔を見合わせる。私はスレッジハンマーを、雷電影は愛用の薙刀を手にしていて。雷電影も困惑している様だった。

 

 

「……雷電影、下手人は?」

 

「気配を感じて、来たのですが。何も……」

 

「では、なんで私達は武器を……?」

 

「わかりません……」

 

 

 なんだろう。大事な何かが頭からすっぽり抜けたかのような。

 

 

「やははっ。よき【静寂】を」

 

 

 目の前から声がする。聞いたことのない少女の声だ。でも、そこには誰もいない。はて。

 

 

「誰か、ここにいましたっけ?」

*1
ゴーストライダー




少女の名はグレメリー。明言しますが、ナタの魔神の一人です。なんの魔神か言ったら多分答えにしかならないから黙っておくけども、原作にいてもおかしくないタイプの魔神ではあります。属性は明かせないけど、司る在り方は「静寂」。「戦争」の煙の魔神、「束縛」の茨の魔神、「繁殖」の蟲の魔神と並んでこの小説を考えた当初から考えていたオリジナル魔神の一人となります。アンチテーゼになるのはマーヴィカ……ではなく、ヘウリアです。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

旅人の話は……

  • 旅人視点でモンドの最初から
  • 白亜視点でモンドの途中から参戦
  • 旅人視点で璃月で白亜と初遭遇
  • 白亜視点で旅人の旅路をモンドから見守る
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