グレメリーの正体判明。楽しんでいただけたら幸いです。
「……おかしい」
報告に来た魈からの、自分の命令を受けて見つけたはずの下手人のことを何も思い出せず、ヘウリアが追っているという報告を受けて、鍾離は目的地を目指して歩きながら考え込む。自分はそんな命令を出した覚えがなかった。だが、言われてみればたしかに、得体のしれない、しかして覚えがある気配を感じるのだ。
「覚えがあるのに正体がわからない気配。たしか、そんな記述を残していたはずだ」
辿り着いたのは、往生堂の自室。本棚から取り出したるは、自身が「磨耗」した場合に備えて過去の記憶を記した日記だった。最古参の魔神なだけに、数多の魔神と戦ってきたモラクス。塩の魔神ヘウリアはもちろん、塵の魔神
「煙の魔神シトリウス、初代炎神シュバランケ、夜神……うん?灰の魔神グレメリー……?」
その名前が引っ掛かった。書いているということは、知っているはずの名前。しかしどれだけ考えを巡らせても、そんな名前は記憶にない。他の魔神の名は覚えているのに、これだけ覚えていないのだ。そこに記されている能力は………。
「……元はナタのトゥラン大火山を起原とする元素生命体。元素や燃素、自分に対するありとあらゆるものを焼却し灰化する……?うぐっ」
その瞬間、フラッシュバックする。昨夜、璃月港への侵入者を察知し魈に捜索を命じて、海灯祭が始まる前に月を見てかつて共に生きた天の使いに思いを馳せている時。それは、空からふわりと舞い降りた。
―――――「お前、グレメリー?お前は確か、ヘウリアが死んだ後に失意のまま敗死したと……お前が侵入者か?その気配、かつてのまま……人造魔神か?」
―――――「あてしのこと、覚えてたんだ。やははっ、嬉しいなモラクス。でも寂しいな。今からその記憶を焼かないといけないなんて」
咄嗟に身構える鍾離の顔を逆さまのまま両手で掴み、じっと視線を交わすグレメリーに、そこで初めて鍾離は彼女が、自分に対することなら他者の記憶すら燃やせることを、理解して。そして、グレメリーについてのすべてを燃やされてしまっていたのだった。外付けで知ることで思い出せるようだ。
「不覚。平穏な世で油断し過ぎていたか。……完全に記憶を燃やされていた。グレメリーについてだけ、「認識」が綺麗に消えて、目の前にいてもそこにいることすら気付けなかった……この力。かつて敗死した魔神の力とも思えん。アトラスは例外としても、ヘウリアですら聖遺物を用いてすら全盛期の力はない。人造魔神は論外だ。そのどれでもないとするならば、この数千年間を奴は生き続けていたことになる。天理すら欺いて……まさか。天理の認識すら焼却して、魔神戦争から逃れたのか……?」
テイワットの支配者たる天理を出し抜くなど、容易にできることではない。そんなことができる魔神が野放しになっていて、なにより。
「ヘウリアが危ない…。奴は、ヘウリアの……!」
「相方の心配をしている場合ではないぞ、モラクス」
瞬間。窓を破壊して弾幕が襲い掛かり、鍾離は咄嗟に障壁を展開して防ぎきる。目の前に立つのは、かつての強敵。豹顔で煙を背負った煙の魔神シトリウス。
「シトリウスだと……!?」
「どうした?幽霊でも見た顔をして。とどめだけ持って行った卑怯者が。だが現世はいいな……あの時代にはなかった強力な武器が山ほどある。例えば、こいつとかなあ!」
そう叫んで、背負う煙を操り形成したのは、スネージナヤやフォンテーヌで使われている武装、ガトリング銃。鍾離はそれを認識するなり、槍を手にしてシトリウスに飛び込むも、手回し式による圧倒的な弾幕が降り注ぎ、障壁が耐えきれず破壊され、傷を受けながらもその槍を突き出すが、しかしてそれはシトリウスに素手で握られ受け止められてしまう。
「そうだ。モラクス。それでこそだ。これこそが、戦争だあ!」
「戦争は終わった!今の世に、お前の様な存在は必要とされていない…!あの世に帰るがいい、シトリウス!」
「どうせ死ぬならお前とヘウリアも道連れにしてあの世で永遠に楽しく戦争だあ!今頃、ヘウリアの方には俺の軍勢を差し向けている!璃月港中の仕掛けから配備された俺の軍勢から、民を守りながら戦い続ければいくら奴でも疲弊するだろうさ!」
「お前に対抗できるのはもはや、俺達だけではない。人間を、民を侮らないことだ。彼らはもう、守られるだけではないぞ」
ただでさえ、あの時の下に千岩軍がいた故に本気を出せなかった層岩巨淵の戦いよりも厳しい、璃月港での戦い。それでも鍾離の余裕は崩れない。
「くっ……逃げてください!」
咄嗟に屋台の真白空我真君のお面を拝借して被り、必要最低限正体を隠しながら応戦するが、獣人兵はその手にマシンガンの様なものを装備。スネージナヤの兵器を参考にしたのだろうか。それによる弾幕から、海灯祭ゆえにたくさんいる人々を守ることで精いっぱいだ。以前は数千年前だったからロクな武装なかったけど、時代が進むごとに厄介になるタイプだったあの煙の魔神。今思えば、アトラスと同じ配下が無尽蔵なやつだったか。本体はどこに……?
「○!※□◇#△!」
「っ!らいで……
するとヤバいものが見えたので、雷電影に守りを任せて突撃する。それは、充満する煙が集束して実体化したもの。大砲だった。放たれた砲弾を、塩で覆った足で蹴り上げることで空で爆発させる。すると、大砲の衝撃で動けなくなった私に向けて、マシンガンの銃口が向けられる。まずい……!?
「ナヴィア!」
「オッケー、クロリンデ!」
すると、放たれた弾丸を、私の前に飛び出してきたナヴィアが、数日前フォンテーヌ廷の鍛冶師であるエスタブレに特注で作らせていたショットガン内蔵日傘「ガンブレラ」を広げて、表面に岩元素を展開して弾丸を防御。その横を稲妻の如き速度でクロリンデが駆け抜け、一瞬のうちに雷元素の弾丸と斬撃の嵐を叩き込んで、獣人兵は煙に戻って散った。
「大丈夫?白亜さん。……っと、この国でこの名前で呼んだらまずいかしら。顔を隠しているものね」
「ならば、ヘウリア殿。
「ですが、これは璃月の問題で……」
「貴女の故郷ならば私達にとっても故郷だ」
「大丈夫、これぐらいなら私達でも勝てるから!」
さらに大鎌を手にしたペルヴェーレと、レイピアの様な片手剣を手にしたクリーヴが続く。そして、一応正体を隠すつもりはあるのか降魔大聖のお面を被った雷電影が薙刀を構え、背後から放たれた弾丸を振り返りもせず斬り捨てて、雷元素でできた薙刀を投げて背後のいた獣人兵を貫き消滅させた。さすがです。
「ヘウリア。敵の正体はわかりますか?」
「恐らく、煙の魔神シトリウスの人造魔神だと思います……奴は魔神戦争時代に私とモラクスで倒したはずなので。この兵隊は、本体を倒さない限り無尽蔵で……恐らく、璃月港中の爆弾から発生した煙から現れています」
「では手分けした方がよさそうですね。ヘウリアは本体を探してください」
「わかりました……こんなことになって、申し訳ありません」
「なぜ貴女が謝るのです?文句ならその煙の魔神にいいますよ。あ、全部終わったら戦ってくださいね?契約というやつです」
「口約束でよければ。では」
すぐさまその場を散開する面々を見届け、私は遠巻きに見つめる人々に避難を促しながら、周囲を探る。……何故謝るのか、ですか。シトリウスを倒したのは私とモラクスだ。璃月港が巻き込まれたのは私とモラクスが一堂に会しているからだろう。そして、なんだろうか。視線を感じるのだ。私を見ている、視線を。
「そこですね!」
塩の手裏剣を生成し、視線を感じる方角向けて投げる。それは、璃月港の階段を見下ろせる上層の建物の欄干に向かい、そして、突如炎上して燃え尽きた。
「あてしのことが認識できてないはずなのに、相変らずめちゃくちゃだなあ、ヘウリアは」
そんな言葉が、真上から聞こえる。視線を上げれば、逆さまでこちらを見下ろす少女の燃える瞳と目が合った。そこには直前まで誰もいなかった。私が敵がいるならそこだろう、みたいなメタ視点が無ければ見つけられなかった。気を抜いていると、また姿が消えてしまいそうだ。なんだこいつは。
「手を出すな言われてたけどあっちから来たから問題ないよね。久しぶり。あてしを覚えてる?親友」
「生憎と私に親友はいません。シトリウスの仲間ですか?今すぐ降りてきて、殴らせなさい」
「やははっ、無茶苦茶言うのも相変わらずだあ。懐かしいなあ。殴れるものなら殴ってみたら?」
そう言って合掌し、両手の間に熱線の様なダブルセイバーを生み出して逆さまのまま構える少女。私も塩の剣を手に跳躍し、空中で激突した。
「あてしは、灰の魔神グレメリー!何度でも、あてしの顔と名前を脳に焼き付けてよね!!ヘウリアだけが、あてしを見てくれるんだから!!!」
灰の魔神グレメリー。豊穣の邦があるあの火山出身の元素生命体から変じた魔神です。後述する能力で天理の認識からすら逃れて、魔神戦争時代から勝者でもないのに関わらず生き延びていたバケモノ。天理からすれば、いることすら認識されてないっていう。
ヘウリアの親友を名乗り、ヘウリアだけが見てくれると宣い、顔と名前を焼きつけろと猛アプローチするグレメリー。鍾離やナヒーダが抱いているそれと同等もしくはそれ以上の激重感情を抱えてます。過去のヘウリアは何をしたんじゃろね。
能力は「自分に対するありとあらゆるものを焼却し灰にする」。元素攻撃や燃素でも灰にしてしまう他、他者の自分に関する記憶や認識も焼いてしまって、認識すら不可能になるというチートじみた能力です。イメージは暖炉の火をじっと見つめていると頭がぼやあとしてくるあの感じ。でもこれ、テイワットではそのワードがないから言及はされてないけどいわゆる「魔眼」でして。つまりは……。
そしてなんと第四話以来の参戦、煙の魔神シトリウス。現代だと銃器や兵器まで煙で再現できるとかいう現代に復活した恩恵を最も受けている魔神です。アトラスよりは小規模だけど、よく考えて見なくてもモラクス相手にサシで戦えるやべー奴である。
このナタ魔神二人が過去編ラスボスです。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
旅人の話は……
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旅人視点でモンドの最初から
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白亜視点でモンドの途中から参戦
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旅人視点で璃月で白亜と初遭遇
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白亜視点で旅人の旅路をモンドから見守る