グレメリーの過去。楽しんでいただけたら幸いです。
あれは何千年前だろうか。長いこと眠っていたから、正確な年数はわからない。だけど、魔神戦争の真っただ中で、私は私に挑んでは私の「眼」を見て、私が見えなくなった敵に対して何の感情も抱くことなく、ただただ静寂を生きてきた。私に魔神戦争に参加しろって五月蠅かった天理とか名乗った誰かは、私が一瞥しただけで私が認識できなくなったらしい。ああ本当に、うんざりする。
私は灰だ。例え燃え尽きてもなお、煌々と熱を保ち続ける灰だ。故に、近づくものは全て私の熱に耐え切れず炎上してしまう。私の眼を見た者は、私に対する全てが焼けて私を認識できなくなる。これは不可抗力で、私には制御できない。せいぜい熱を集めて放つぐらいしかできない、呪われた力だ。だから、初めて私の熱に耐えて見せた炎神シュバランケも、私を忘れてしまった。私に意気揚々と挑みかかってきたシトリウスも。みんな、みんな。私は、1人だった。そこにいるのに、誰も私に気付かない。
静寂が好きだ。誰の声も聞こえず、私を無視することもない、誰もいない空間。でも私のいるナタは、何時だって戦争していて。剣がぶつかる音が、爆音が、喧噪が、悲鳴が、五月蠅くて五月蠅くて五月蠅くて。静寂なんていつまでも訪れない。
そうだ、旅に出よう。そんな漠然とした考えで、ナタを旅立った。月が大きくて素敵だったけど何処に行っても「誰か」を感じて落ち着かない土地。吹雪の音が五月蠅い氷の土地。一面の水と島が美しい土地。おおよそナタでは見られない鬱蒼とした木々に覆われ蟲がそこら中に飛び交う土地。雷鳴轟き桜の花が散るいくつもの島が連なる土地。嵐が吹きすさぶ落ち着かない土地。そして、辿り着いた荘厳たる岩山が連なる土地、璃月。
そこで、私はこれまでと同じように空をふよふよと浮かびながら魔神戦争を見物していた。「静寂」を探すか、魔神同士の争いを見るしかない私にとっては娯楽に等しかった。その戦いは、少し珍しかった。魔神が三人も手を組んで戦っていたのだ。「螭」というらしい強大な魔神に対し、巨岩を浮かばせ、からくりを操り、武器を砕いた傍から次々と形成して猛攻を叩き込み、人間の兵と共に戦う三人に、興味が出た。だから、どうせ認識されなくなるんだろうなと思いながらも、私は彼らに近づいたのだ。
結論から言うと、顔を出した私を三人とも警戒するなり、すぐに私を認識できなくなった。まあここまでは予想通りだ。どの土地でも、どんな神でも人間でも、例外なくそうなる。動物すら私を認識できないのだ。そんな私を認識できる人なんて……。
「むっ……?あの、初対面でなんですがどうしてそんなに悲しそうな顔をしてるんです…?」
「えっ。なんで、今の今まで私を認識できてなかったのに……」
なのに、その魔神は……ヘウリアは、初めて私を忘れてすぐに私を認識してくれたんだ。なんでかはわからない。あとで聞いたらもしかして?とヘウリアが首を傾げていたのでなにか心当たりはあるみたいだけど。
「認識できない?そういうスタンド*1ですか?」
「スタ……なんて?」
「えっと、初めまして?ヘウリアと言いますけど……貴女はどなた?*2」
「えっ、あの、私、グレメリー……初めて、名前を名乗ったよ」
「おや、なんかその綺麗な目を見てたらぼんやりと……あー、そう言う能力です?魔眼*3とか?とりあえず見なければいいですかね」
「や、でも見てほしい……」
「うーん、我儘……ちょっと待っててください?夏に帰終に頼んで作ってもらったのが……あー、ありました。よし」
謎空間……とヘウリアが呼んでいるスペースからあーでもないこーでもないとぽいぽい投げ捨ててたヘウリアが取り出したのは、サングラスというらしい黒いメガネ。それをかけたら、私の眼の効果が発揮されないらしい。つまり直視しなければいい、ということを私はその時、初めて知った。自分の呪われた力を知ろうなんて、思わなかったから。
「ふむ。自分に対するありとあらゆるものは燃えてしまって、貴女に対する記憶……認識?も全部燃え尽きてしまうと。なんですかその人生ハードモード。いやでもそんな力があるなら私が知らなくてもおかしくないから、もしかして原作キャラだったり……?」
「げんさく…?」
「ああいや、気にしないでください。うーん、そうですね。とりあえず、そこに貴女のことが認識できてない二人がいるので色々実験してみましょうか」
「え、友人……じゃないの?」
「いや友人ですし師匠ですけど、使えるものは使わないと。減るもんじゃないんですから」
なんというか、価値観と言うか、今まで出会ってきた魔神達とは考え方がまるで違うヘウリアは、私の情報を文字や口頭で伝えれば、再認識できるという事実を見つけて。私はヘウリアとモラクスとハーゲントゥスと友人になった。認識できなくなったら、思い出もリセットされてしまうと気付いた時は切なかったけど。基本的に持ち歩いているサングラスをつけて、誰かが認識できなくなったら誰かが再認識させてこれまでの思い出を伝えたり、モラクスの日記に残したりと。知恵を絞ってくれた。それでも、ヘウリアは私を忘れてしまっても、すぐ見つけてくれるのだ。
「ヘウリア、お前はなぜ俺達が伝えずともグレメリーを見つけられた?」
「そうだよね。私のからくりでも根本的な解決はできないのに」
「うーん?そうですね……貴様ッ!見ているなッ!*4みたいな?」
「気配を感じ取っているということか……?」
「気配と言うか……なんでしょう?元素視覚とは違うんですけど、うーん……?」
「なんでもいい。ヘウリアが私を見つけてくれるから、もう一人じゃない」
そう抱き着いて伝えたら、ヘウリアはなぜか悲しそうな顔をした。なんでかわからないけど、まるで、自分がいなくなることを知っていた、ような。*5
「それじゃダメですよ。私達がいなくても、目立つように心がけましょう!嫌というほど目立てば、例え認識できなくても気づいてもらえるかもしれません!」
「えっ……目立つって……どうするの?」
「例えば奇抜な格好をするとか?」
「私、そもそも服着てないんだけど……燃えるから。これは灰をそれっぽく纏ってるだけで」
「帰終、むしろグレメリーが着れる服を用意するべきだろう」
ヘウリアが発案し、ハーゲントゥスが意見を出し、モラクスが苦言を呈す。いつもの流れだ。これで大体の物事が決まる。ちなみに周りからは三人だけの会話に見えているらしい。
「今のグレメリーは大人しすぎるので、はっちゃけちゃいましょう!そうですね……一人称を「あてし」なんてのに変えてみましょう。そうすれば、少なくとも印象に残るはずです!」
「あ、あてし?」
「そうそう。それによく笑うといいですよ。ギャルみたいですし、目立ちます」
「「「ぎゃる?」」」
「おや失敬。あ、笑い方もそうですね、印象に残るのがいいかと。……うーん、コログ*6……いや、えっと、妙に耳に残る「やはは」なんてどうでしょう?」
「やははっ!……こう?」
「うん、いい感じにムカつきます!」
「それはダメなんじゃない?」
「だがたしかに、印象には残るな」
「やははっ、あてし頑張るね!」
こうして今の「あてし」はできあがった。それからは、誰にも認識できないのをいいことに奇襲を担当して三人の戦いを手伝った。三人には生きていてほしかったから。そんな気は全然しないけど、ヘウリアは自分が最弱で負けなくない*7って言うから、全力で援護した。
毎日が楽しくて、「静寂」なんかどうでもいいぐらい充実していて、心の底から笑っていた。でも、そんなある日。ヘウリアの誕生日が近いから、ハーゲントゥスと一緒に特別な品を設計していた時のことだ。モラクスが、焦った顔で私達のもとにやってきた。そして言ったのだ。「ヘウリアの様子がおかしい」と。なんでも、「後のことは任せた」とモラクスに伝えたらしい。最近は璃月でも最大勢力を誇っていた渦の魔神オセルをみんなで撃退したところで、もう璃月に強敵は残っていなくて。モラクスも「ヘウリアは自分が最弱だと思っているから負けると思っているだけで、ヘウリアの実力なら問題ない強敵でもいたのだろう」だと思っていたらしいが、ヘウリアがあまりにも覚悟を決めてた様子だったので嫌な予感がして私達に伝えに来たらしい。
嫌な予感がした私たちは、手分けしてヘウリアを探した。そして、ヘウリアの治める地下の国に手掛かりはないかと私が訪れたその時。
ヘウリアが、自分の治める国の王に、自ら体を差し出して刺される瞬間*8を目撃してしまった。
「ヘウリア!?」
慌てて駆け寄る。今のヘウリアはサングラスをかけているわけがないから、その目を見てしまうと忘れられるかもしれないが、そんなこと気にしている余裕もなかった。崩れ落ちるヘウリアを慌てて抱き上げ、傷口を焼いて塞ごうとする。なんで、なんで、なんで。ヘウリアが優しいから自分の民に手出しできないのは知っている。でもヘウリアの強さなら、例え自分の民に襲われても手を出さずに避けるぐらいはできたはずなのに、なんで、なんで。なんで……?
「かふっ……ああ、グレメリー……だめですよ、死に際で友人の顔を忘れたくありません……」
「死に際って……ふざけないでよ!?あてしが傷口を焼くから、すぐにモラクスたちも来るから!こんな刺されたぐらいで、死なないで……」
「ああ、ダメですよ……今の私、王たちを巻き込まないために全身全霊込めてるんで……生きようと思ってないんです」
「なんで!?こんな裏切り者……私が灰にしてやる!」
「それだけはやめてください、そしたら私が刺された理由がなくなってしまいます……。こうなるのはわかってた………だから、私がいなくなっても貴女が一人にならない様にって、思ってたんですけど……こふっ」
ヘウリアに生きる気がまるでなくて、ヘウリアを刺した王たちを灰にすることもヘウリアに止められて、私は何もできずに看取ることしかできなかった。
「ああ、グレメリー……あなたのかおが、おぼろげになっていく……いやです、わすれたく、ない、のに……ああ、グレメリー……わたしがもし、またうまれかわったら、またともだちに……」
その言葉を最期に、ヘウリアは力尽きてただの塩の山になってしまった。炎が燃える瞳は涙を流すことすら叶わず。ただ悲しみのままに、衝動的に王たちを焼き殺そうとして。信じられないものを見た。ヘウリアの死を見届けたその場の全員が、自らの腹に塩の刃を突き立てて、介錯もなく苦しみながら、死んだ。駆け付けたモラクスが、信じられないものでも見るかのように絶句している。それでも、理解した。
王たちも、私と同じようにヘウリアが大好きだったんだ。その亡骸を焼く気にもなれなくて、私は問いかけてくるモラクスに、少しずつ返答することしかできなかった。
ああ、わかってるよ、ヘウリア。貴女が死んだのは、貴女が優しいからだ。王たちはそれがわかっていて、オセルを倒して、もうほとんど敵がいなくなったからモラクスやハーゲントゥスと争わせないために刺したんだ。そしてヘウリアも二人と戦いたくなかった、だから王たちが自分を殺そうとしたのを受け入れた、そうでしょ?
じゃあなんで、死ななきゃならなかったんだ。そんなの決まっている。魔神戦争なんてものを強いる天理……あいつのせいだ。許さない、許さない……絶対に許さない。
「グレメリー……お前、なにをするつもりだ」
「天理を焼き殺してやる。私から大事なものを奪ったアイツを……!」
怒りのままに、空に飛び出そうとした私をモラクスが止める。私の攻撃を防ぐことしかできないモラクスのサングラスは既に砕け散っていて、私を忘れるのも時間の問題だった。
「ぐうっ……無理だ、誰も天理には敵わない……それに、俺はヘウリアに託されたんだ。平和な世になれば、アイツを復活させることができるかもしれない」
「……本当に?」
「ああ、俺は魔神戦争に勝ち残り、アイツを蘇らせる。お前は理外の存在だ、生き続ければあいつに再会できる……だが、天理に挑めばもう二度と会うことも叶わないかもしれないんだ!頼むグレメリー、俺はもう友を失いたく、は……」
その言葉を最後に、モラクスも私を認識できなくなって。私は迷った。復讐はしたい、だけどそうしたらヘウリアと再会できない。ヘウリアと再会したい、だけど平和な世なんていつ来るんだ、それまで私は我慢できる気がしない。
そうして決めたのは、私の封印だった。私が生まれたあの火山で眠りに就こう。ヘウリアが復活する時まで眠り続けるんだ。ヘウリアの気配を感じ取って目覚めればいい。そしたら、私達はまた再会できる。私のことは忘れているかもしれないけど、ヘウリアが教えてくれた「あてし」で、気付かせるんだ。ヘウリアなら気付いてくれる。ヘウリアなら見てくれる。
「お前はいったい何なんですか!グレメリー!」
「もっと私の名前を呼んでえええ!」
やははっ。うっかり一人称が戻っちゃった。気を付けないと。私は「あてし」だからね。
実は前回の最後の台詞だけ一人称が「私」になってたっていう。
ヘウリアとモラクスと帰終と共に青春を共に過ごしていた四人目、それがグレメリーでした。強力な能力は制御できるものじゃなくて、孤独だった自分を見てくれて友達になってくれたヘウリアは特別。そう言う意味ではナヒーダに近いかもしれません。モラクスにも親しげなのはこういうことでした。
そしてヘウリアを看取ったのもグレメリー。モラクスがなんで王たちが自害したのを知っていたのか、という謎へのアンサーでもあります。まさか自分が復活するとは思ってないから、本気で生まれ変わったらまた会おうと言ってたヘウリアにとっても親友でしたと。
じゃあなんでシトリウスと一緒に璃月襲ってるんじゃろね?ってことにはなるけども。そのアンサーもすでにこれまでの話に書いてます。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
旅人の話は……
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