今回はシトリウスメイン回。楽しんでいただけたら幸いです。
煙の魔神シトリウス。シュバランケに敗れ、それでも戦争こそ生物の本能だと確信し、各地を蹂躙していった。戦争こそが我が生きがい、勝利こそが我が誉れ。敗北しても、それが真の戦士ならば悔いはない。
そう思っていた彼の価値観は、たった一人の魔神を相手にして、脆くも崩れ去った。塩の魔神ヘウリア。当時は名無しも同然な自称最弱であり、戦士ですらないと称した女の卑劣な手により翻弄され、最後の最期まで侮られた挙句に、弱音を吐いたところを別の魔神に殺された。屈辱だった。誇りも自尊心もめちゃくちゃにされた。屈辱のままに、後悔と憎悪をヘウリアと自身を討ったモラクスに抱きながら、死んでいった、はずだった。
何故か、自分は生き返った。何故か所有していた「シトリウスの右腕の化石」の残滓と【博士】の技術を用いて人造魔神としてアビス教団が復活させたのだという。「王子」を名乗った少年は、一目見るだけでわかる程に強かった。シトリウス……否、デミ・シトリウスは興味を引かれたが、それよりも優先することがあった。
「貴方はヘウリアとモラクスに深い恨みがあると聞いた。特にヘウリアは俺達にとっても脅威だ、始末してほしい」
その言葉に、断る理由はなかった。魔神戦争は終わり、モラクスは勝ち残ったのだという。そしてヘウリアも自分に勝った後に死んだはずなのに、生き返ったのだという。理由はどうでもいい。自分の誇りを穢した二人が、今も生きている。それだけで十分だった。
どんな手を用いてでも奴らに打ち勝ち、誇りを取り戻す。その為の戦いだ。
「ハハハハハハッ!どうしたモラクス!最強の武神の名が泣くぞ!」
「厄介だな……」
往生堂から離れた池が美しい庭園で、鍾離……から白装束に戻ったモラクスは、障壁と柱を展開して弾幕を防ぎながら、どうしたものかと考えていた。デミ・シトリウスが手にしたガトリング銃なる代物は、凄まじい破壊力を有していた。鍾離として培った知識は装弾数に限りあると言っているが、どうやら煙で弾丸を無限装填しているらしく、弾幕に切れ目が存在しない。しかも、一撃一撃が高威力で、障壁も数発受ければ崩れてしまい、柱も長くはもたない。こちらから攻撃しようにも、モラクスの攻撃は基本的に広範囲でそうでなくても接近戦しかないので、璃月港を巻き込まずに致命傷を避けながらとなると、かなり厳しい。
「シトリウス!貴殿は誇り高き戦士のはずだ!璃月港を巻き込まない場所での戦いを求める!」
「ああ、そうだ。俺は誇り高き戦士だ。だがお前とヘウリアは、その誇りを穢した。故に手段は選ばぬ。俺を殺したければ、お前の守りたい街を壊す覚悟で来い!俺を相手に、犠牲なく戦えると思うな!」
「……やはり恨みは深いか」
モラクスとしてはあれ以上苦しまない様に慈悲のつもりの介錯だったのだが、デミ・シトリウスは気に入らないらしい。だが璃月港を犠牲にするのは論外だ。どうにかしてこの街から追いださなければならない。
「隙さえあれば……むっ?いない……?」
すると、弾幕は続きながらも視線を向ければデミ・シトリウスは消えていて。ガトリング銃が煙から姿を現した獣人兵に持ち上げられて撃ち続けている。本体はどこに、と鋭い視線を周囲に向けるモラクス。
「ハイホー!」
「むっ…!」
瞬間、上空から落ちてきたそれを右手で受け止めるモラクス。しかしそれはすぐに悪手だと気付く。手榴弾だった。爆発と閃光と共に飛び出した礫が、常人より遥かに堅い肉体に服越しに打ち付けられて、柱の影から追い出されるモラクスに容赦なく襲い掛かる弾幕をまともに受けて石畳を転がっていく。
「ああ、いいよなあモラクス。今の世の戦争は、素晴らしい…!」
そう言ってポケットに左手を突っ込みながら葉巻を吹かしつつモラクスの背を踏みつけにし、右手に握ったクロリンデのものと酷似している拳銃をモラクスの後頭部に突きつけるデミ・シトリウス。
「これだけの武器があって、なんで戦争していない?水面下の争いなんて野暮ったいことを言ってるんじゃねえ。人間とアビスの争いなんて言うありきたりな戦いでもない!血沸き肉躍る戦争が、なぜ起きていない?生物は争ってこそ、価値がある!テイワット中の人間が女子供問わず戦士になれば、どれだけ素晴らしいかわかるか?」
「……武器は己が身を守るためにあり、他者を傷つけるためのものではない。戦争は、あってはならないものだ」
「だが聞いたぞ。お前、魔神戦争の勝者で七人いる管理者なんだってなあ?その一角が死ねば、どうなると思う?戦乱の世はすぐそこだ……!」
「……断じてさせん!」
瞬間、モラクスの横の石畳に斜めに展開された柱が、デミ・シトリウスを吹き飛ばす。モラクスは起き上がると同時にデミ・シトリウスの拳銃を持つ手を掴み、捻り上げて、自分に放たれる弾幕の盾にした。元が煙であるためか、当たる直前に煙と化したそれはデミ・シトリウスにダメージは与えていないが、隙はできた。見た目に見合わぬ剛力で天高く投げ飛ばし、麒麟と龍を合わせた様な姿に変身してデミ・シトリウスを加えて人のいない方角へ飛翔しようとするモラクス。
「この国は、あと少しで俺から……神から脱却できる…!俺の国と民に危害を加える不届きものは、璃月を守る契約に則り排除する…!」
「いいね!そう来なくっちゃつまらねえ!お前の首を手土産にヘウリアのもとに連れて行ってやんよ!」
そう言って、煙を広げて頭上にファデュイの有する小型戦艦を形成、落下させモラクスを撃墜、同時に解放されてモラクスごと璃月港に落下する船の上で両手を広げ、璃月の景色を見下ろして笑みを浮かべるデミ・シトリウス。
「見ていろモラクス!こんなつまらない平穏な世など、俺が破壊して………ぐあはあっ!?」
「破壊者ならただ通りすがりなさいよ」
しかしそれは、いつの間にか駆け付けていたヘウリアに頬を殴られることで中断された。前味わった剣と同じ、沁みつくような痛みが襲い、頬を押さえるデミ・シトリウス。因縁の相手を前に、落下する船の上で睨み合う。
「よう、久しぶりだなヘウリア。俺の部下はどうした?まさか放ってきたとか言わないよな?」
「そのまさかです。今の時代の人間たちは、強いですよ?」
「馬鹿言え。魔神がいないとなにもできない弱者のことなどどうでもいい……屈辱を晴らさせてもらうぞヘウリア!」
そう言いながら両手に拳銃を手にして乱射しながら突進するデミ・シトリウスに、ヘウリアは焦ることなく取り出した塩の剣を振るい、弾丸を逸らして背後に流して防御。そうしている間にも、戦艦を背負ったモラクスがヘウリアとデミ・シトリウスを乗せて璃月港に落ちていく。
「モラクス自らの手で、大事な街を破壊する!最高だと思わないか!?」
「思いませんね」
「だが誰にも止められない!そう、誰にもだ!」
「そうでしょうか?残念ながら、今璃月港にいる魔神は……私達だけじゃない!モラクス、人型に戻ってください!」
「なに?」
ヘウリアが不敵に笑んだ瞬間、それは起きた。璃月港の沖合、孤雲閣より、紫電が迸った。
「ヘウリア、この借りは高くつきますよ――――」
そこに移動していた雷電将軍の夢想の一太刀が、空中で戦艦のみを粉砕するという神業を見せたのだ。
「なに…!?雷神バアル…!?なぜ、ここに……!?」
「はっ!復讐しようとしているやつの思考パターンなんて、アホ程見て来たんですよ!それだけじゃありません!雷電将軍!必ず約束は守ります!だから……」
そうヘウリアが叫んだ瞬間。ヘウリアを、モラクスを、デミ・シトリウスを、紫色の雷光が包み込んだ。そこはもう璃月港の上空ではなく。雷雲立ち込め、鳥居が次々と並び立ち、渦巻き状の枯山水が足元に広がる……雷電将軍の精神世界、一心浄土。
「な、なんだこれはあ!?」
「そっちが璃月港を人質にするから禁じ手を使っただけのことです!」
「貴女以外を入れるなど、今回だけです。この私、雷電影が見届けます――――一心浄土へようこそ。ここでなら、被害はいくら出しても構いません。存分に死合なさい。モラクス」
「礼を言うぞ、雷電!決着をつけるぞ、シトリウス!」
「くっ……望むところだ!モラクス!」
モラクスが―――最強の武神が槍を構える。デミ・シトリウスも銃を構え、煙を広げて配下を生み出す。そして……
「やははっ。見届けたよケムリン。貴方にも、よき静寂がありますように」
グレメリーとヘウリアがどうなったのかは次回にて。被害を出すから戦えないなら、被害がないところで戦えばいいじゃない。なおもしモラクスとヘウリアを倒したとしても、その状態で休みなく、ヘウリアが倒されたせいで気が立っている雷電影と戦わないと出られないとかいう完全にチェックメイトである。
詳しくは言えないけど、時事ネタというか今の世にも皮肉を込めた存在になりましたシトリウス。その最期を見届けるグレメリーですが……?
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
旅人の話は……
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旅人視点でモンドの最初から
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白亜視点でモンドの途中から参戦
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旅人視点で璃月で白亜と初遭遇
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白亜視点で旅人の旅路をモンドから見守る