今回は偽トワリンの正体判明。楽しんでいただけたら幸いです。
旅人たち神殿組と別れ、ミカを連れてやってきたのはドラゴンスパインの入り口にある、途中で崩れている橋。直そうにも極寒の環境と強靭な魔物が邪魔してそれもできない、んでしたっけ。
「いやあ、またここに来ちゃいましたか」
「ハクアさんはドラゴンスパインは苦手ですか?」
「苦手ですねえ。前に来たのも挨拶に立ち寄っただけですし」
いやまあ寒くはないんですけどね。多分深紅の石もいらないなこれ。氷雪に強い塩の体、万歳。単純に前世で嫌というほどノーヒントで探索してたから苦手意識が強いだけなんですよね。ゲームと違って全然大きいし。
「それよりも、ミカの力を借りたいんです。偽トワリンはドラゴンスパインに落ちました。もしもあの巨体が偽物だというのなら、何かしら痕跡は残るはず」
「それで僕を起用したんですね。お任せください!」
ミカは西風騎士団が誇る測量士、地図の作成と土地の位置・状態調査が主な仕事だ。日本でいうと伊能忠敬が有名だろうか。日本地図を歩いて測量して作ったとんでもないお方である。ミカって聞くと別ゲームのピンク髪の天使*1を思い出すし、可愛らしい顔をしてるのだけどだが男だ。それがいいと言う人もいるんだろうけど。私、女の子の方が好きだから多分前世は男よりだったんかな。ただ美少女好きな可能性もあるけど。本当に、原神とサブカルチャー、あと現代常識以外についてはなんも思い出さないんだよな。自分自身の知識がなんもないのだ。
「まあその原作知識もあんまり役に立たないんですけど」
「何か言いましたー?」
「独り言ですよー」
豪雪の中を先を歩くミカの呼びかけに返しながら、考える。いやほんと。エウルアはいるしミカもいるしクレーもいるし、序章当時にはいなかったキャラがいっぱいいるし、正体不明の偽ドゥリンは出るしアンバーは重傷を負うし。四風守護の神殿をどうにかした後も原作通りになる気がしないなあ。どうしよ。原作通りにトワリンの涙探しを適当に手伝って、トワリン撃破を足場作りとかでフォローしようとか思ってたんだけど。
「むっ。ハクアさん、来てください」
「なにかありましたか?」
「これ、雪が……」
「……!」
ミカが指さした先、岩肌が雪に埋もれていた広場みたいな場所になっていたはずのそこは、大きく岩が拉げ、その表面がシューシューと蒸気を発していて、落ちた雪が片っ端から溶けて蒸発していた。高熱のなにかがここに落ちた後だった。
「これは……変な匂いが」
「……なるほど?ミカ、口を覆って今すぐ撤退してください」
ミカが袖で顔を隠したので、何事かと深呼吸して。喉が溶けたのを感じて理解する。この蒸気、猛毒の類だ。それも、生物が耐えきれない濃度の。私に少し馴染むってことは塩素……に炭素と酸素の化合物、たしかホスゲンでしたか。過去の大戦で兵器として使われたぐらい結構な猛毒と同じやつだ。
「これは毒です。少しでも吸ったらお陀仏ですよ」
「で、でもハクアさんは!」
「私以外は耐えられないので、応援は結構です。私が戻るまで誰もドラゴンスパインに近づけない様にジンに言ってください。もし来るとしても風元素使いは絶対連れてくるように!いいですね?」
「……任されました。どうか、ご無事で!」
私が代理団長のことをジンと名前で呼ぶのはおふざけ無しの本気、というのは今や西風騎士団ではよく知られている。納得してくれたミカは足早に来た道を戻っていった。さて。
「……平気と言っても痛いものは痛いんですけどね」
とりあえず、先を進む。死にはしないが普通にきつい。私みたいな作りものの体じゃないと例え七執政でもお陀仏になりそうだ。えげつないな。こんな毒は、テイワットには中々存在しない。スメールの毒キノコ*2とかフォンテーヌで暗殺に使われる毒とかあるっちゃあるけど、こんな強力なのはまずない。だとすると、考えられるのは……。
「魔龍ドゥリンの猛毒……もしくは、毒を操ることに長けた者」
瞬間、今の今まで影すら見えなかった豪雪に包まれた上空から、その身に受けた雪を溶かしながらやつ……紫色のトワリンが現れて、私を大口で飲み込まんとし……その口の中が、ただ口の形なだけで食道も何もないことを確認したうえで、私は喰われた。
「グルルウル……ふ、ふん!や、やった……塩の魔神を倒したぞ!わ、わたしを殴った報いだー!こ、これで王子や姫も褒めて、く、くれますよね?」
「ああ、聞く前に答えてくれてありがとうございます。アビス教団の手の者でしたか」
「え、え?なんで、ドロドロに溶けているはず、なのに……!?」
偽トワリンの姿のまま可愛らしい声で喜んでいたそのお腹の中から声を出すと露骨に驚かれる。いやまあ、生物なら溶けるんでしょうね。でも私、塩人形なんで早々溶けないんですよね。ええい、ドロドロと鬱陶しい。正体は見抜いたので、こんなところにもう用はない。
「ええい、脱出!!」
「ひえぇええええっ!?」
絡みつくドロドロを振り払うように、全力でストレートパンチ。偽トワリンのお腹に大穴が開いて、外に出れば偽トワリンはその巨体を維持できずにドロドロと溶けていき、構成していたヘドロの様なそれから顔を上げたのは、雷電将軍のものよりくすんだ紫色のボサボサの手入れしてない髪を腰まで伸ばし、やはり髪留めも何もない前髪で右目を隠した、割れたメガネに紫色のノースリーブワンピースだけを身に着けた裸足の少女だった。背丈は旅人……蛍とあまり変わらない。ヘドロに塗れた少女は悲鳴を上げてヘドロの影に隠れ、そして寒かったのか「へくちゅん!」とくしゃみをした。そりゃこんな雪山にノースリーブで裸足は寒いじゃすみませんって。
「毒の魔神……ですかね?名前を窺っても?」
「だ、ダスタリオ……お願いだから痛くしないで……」
「能力は毒液を身に纏っての擬態、と言ったところですかね。それもかなり精度が悪い。大方、ドゥリンに化けようにも骨しか残ってないからイメージできず、トワリンを真似たら色までは変えれなかったとかそんなでしょう?」
「し、失礼な!濃度ぐらいは変えれるんだから!色とかも白ぐらいには変えれるよ!」
それで、のちのちびドゥリンっぽい偽トワリンになってたのか。擬態はできても色まで変えれない上に、この根暗と言うか引っ込み思案な性格だと魔神戦争を生き残るのは難しかったんでしょうね。
「目的は何ですか?」
「と、トワリンを仲間にするために仲間の振りをしろって王子様と姫様が……こんな私なんかを必要としてくれた、から」
「仲間の振り?……あ、ああ……」
わかったかもしれない。姫様……グレメリーはあれで身内以外にはだいぶドライだ。一応仲間だったシトリウスをあっさり見捨てたところからもそれは明らかで、王子様……空もどちらかというと、魔神に対しては敵意を抱いている。それで、こんな毒だけは強力だけど戦意もなく戦力になりそうもない魔神を蘇らせたところで使えるのは、トワリンを焚きつけてアビス教団に与しやすくするための……生贄、それがダスタリオなんだろう。トワリンめちゃくちゃ偽トワリンをドゥリンだと勘違いして殺したそうにしてたもんなあ。
「貴方、騙されてますよ」
「そ、そんなことない!あの人たちはわたしを必要としてくれた!ちょっとした集落の民からすらも期待されず、見捨てられて1人だけ寂しく死んだわたしをよみがえらせてくれて、仲間だと言ってくれたんだあ!」
そう激昂し、その全身からヘドロの様な粘度の毒液を染み出して包まれ、瞬く間に変形して偽トワリンに変貌するダスタリオ。この巨体で、しかも猛毒付きとは。私以外に戦わせられませんねえ。
「そ、そんなひどいこと言う人は、し、死んでしまえばいいんだあ!!」
「おおっと!?」
翼を羽ばたかせ、空に舞い上がった偽トワリンに噛みつかれ、連れていかれる。やばっ、触れたところから毒が浸食してきて……これは時間をかけて居られませんね。
「さすがに同情しますけど、聞き分けのない子には……こうです!」
「あぎゃあ!?」
掌を目につきつけてソルトスプラッシュを浴びせると、たまらず悲鳴を上げた偽トワリンがドラゴンスパインの頂上に落ちていく。さて、どうしますかね!
毒の魔神ダスタリオ。元となった72柱はダンタリオン、多くの男女の顔を持つ悪魔が由来です。毒液で擬態するのはスワンプマンをイメージ。最初は沼の魔神でした。自身から様々な毒液を分泌して纏うことで他者に擬態できる、が能力。
ヘウリアとは別ベクトルで、実は強いのに自分に自信が持てないせいで根暗みたいになってしまった、ある意味ヘウリアのIFともいえる魔神です。アビス教団に蘇らせてもらって依存してる模様。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
一番好きなオリジナル魔神は?
-
煙の魔神シトリウス
-
茨の魔神エリゴルス
-
蟲の魔神アトラス
-
茨の魔神の残滓ダークナヒーダ
-
灰の魔神グレメリー