旅人視点後編。楽しんでいただけたら幸いです。
風が吹く野原。アンバーに出会い、ヒルチャールの群れと出くわすまでの間に立ち寄った、見上げるほど巨大な大樹が聳え立つ草原。その大樹の根元に、彼はいた。
「おや、来たんだね。そろそろ来るだろうな、って思ってたんだ」
「単刀直入に聞くよ、ウェンティ。貴方が……風神バルバトス?」
「ええ!?そうなのか!?」
驚くパイモンだが、多分ほぼ確定なんじゃないかなと思う。トワリンは元々風神バルバトスの仲間だと言うし、あの時トワリンと会話してたのはそういうことなんだろう。結晶持ってたのも、そう考えると違和感はない。しかしウェンティは認める気はないようで、首を竦めた。
「まさか。バルバトスならモンドにいないよ。隣の璃月には岩神と塩神……二大武神が、同じく武神と称えられる雷神が稲妻にいるけど、モンドの人々はもう長いこと風神とは会ってないんだ」
「……塩神って?」
岩神と雷神は前にパイモンに聞いたことがある。風神、岩神、雷神、そして水神、炎神、氷神、草神……この七人の神がテイワットの七国に根付いていて、神の目などから与えられる元素の力もその七神に由来していると。でも、塩神だなんて初耳だ。
「ああ、それならオイラ知ってるぞ!すっごく美味い料理を開発したっていう料理の神様だ!」
「あははは。そんな風に伝わってるんだね彼女は。まあ、それも事実さ。彼女の料理は酒が進むからおすすめだよ!」
「お酒を飲むんだ……何歳?」
「何歳に見える?」
「……15歳?飲んじゃダメだよ」
「もっと歳を喰ってるから大丈夫だよー。伊達に酒場にツケがたくさんあるわけじゃないんだよ?」
「褒められたことじゃないと思う……」
料理が得意な神様……お兄ちゃんを連れ去った神は、なんというかどちらかというと食べる側に見えたから多分違うかな。七神じゃない神様もいるのか、覚えておこう。
「ちなみに、僕が風神だったら何を聞くつもりだったんだい?」
「兄を連れ去った神のこと……もだけど、今は。トワリンが暴れるのは、毒の血や偽トワリンだけじゃないよね?」
「そう思った根拠は?」
「そもそもトワリンが過剰に反応する偽トワリン自体が、誰かの策謀を感じるから」
少なくとも、あれはトワリン由来のものじゃない。むしろトワリンを刺激しようとする誰かの手のものだろう。
「御明察だ。毒の血によって何年も穏やかに寝られていないトワリンが目覚めた時に、アビスの魔術師が呪いをかけたんだ。――――アビス教団。人ならざる者によって結成された、人類の敵となる組織さ。人間の世界に悪意を抱いている様だけど、僕も詳しくは知らない。だけど、君達が襲われたヒルチャール……彼らは奴らの指揮で動く手足の様な魔物だ」
「じゃあ、アンバーが襲われたのも……?」
「ああ、いや。それに関しては不注意な誰かさんのせいなんだけど……まあそれはいいや。実は僕も、不注意からトワリンと同じ毒に蝕まれていたんだ。彼ほど重症じゃないけどね。今僕たちがいる「英雄の象徴」はモンドのすべての源だ。君と一緒にこの下にいると、毒が消えていく実感がある」
「なんでウェンティまで毒をもらってるんだ?さっきの話を聞いた限り、ドゥリンの毒を受けたのはトワリンだけなんだろ?」
「ああ、彼と会話を試みた時に誰かさんに邪魔されちゃって。そのせいでトワリンの毒に蝕まれちゃったんだ。気にしなくていいよ?」
「あ、私達の……ご、ごめんなさい」
「いいよ気にしなくても。それよりさ。お詫びにと言っちゃなんだけど、僕と一緒に大聖堂に来てくれないかな?
気にしてないと言いつつ、ちらっちらっとこちらを見てくるウェンティから見て、多分最初からそれが目的で話したのだろう。なんとも食えない人である。神ならまあ当然なのだろうか。
「大聖堂ってモンド城の?何しに行くんだ?」
「トワリンを救うために、ライアー【天空】を取りに行くのさ」
綺麗な夕暮れを背景に、彼は笑った。
えー、結論から言うと。ライアー【天空】は国宝らしく、貸してもらうにも団長の許可他、厄介な手続きががいるらしく。ウェンティは泣き落としだったり、自分がバルバトスだと名乗ったり、私の栄誉騎士の立場を利用したりと色々試したのだが、シスターは梃子でも動かなかった。仕方ないのでいったん大聖堂を出る私達。
「いやあ、参ったねこりゃ。取り付く島もないとはこのことだ。彼女から聞いたおねしょた?も試したけどダメかあ。そんなに僕は胡散臭いかい?」
「やっぱり、ウェンティがバルバトスなんだね」
「あれ?君は信じてくれるのかい?」
「むしろさっきはぐらかしたのいらなかったまであるだろ。オイラでもわかるぞ」
「あはは、悪いね。聞きたいことがあるなら全部終わった後にいくらでも答えるよ。それで、貸してもらえないなら仕方ない……」
「ジンに言って手続きしてもらうしかないね……」
時間はかかるらしいけどそれなら確実に借りれるらしいし。そう思っていたら、ウェンティがとんでもないと首を横に振った。
「ダメだよ。トワリンはもう限界なんだ。一週間もかかる手続きなんてしている暇はない……問題はどうやって盗むかだ。あ、でも元は僕のものなんだから取り返すだけか。うん。その言い方の方がいいね!」
「盗みたくないよ!?」
「はははっ、君。最初からそれは勘弁してくれよ。真面目に言うとさ、全身緑でどうしても目立っちゃう僕より君の方が向いていると思うんだ。だって僕は歌うことしかできない弱った風神だよ?捕まっちゃったら冤罪を晴らしてくれる人なんて……一人いるけど、今はこの国にはいない。きっと重罪になっちゃう。でも君は栄誉騎士だ。モンドに貢献した大スターなんだから、ミスしても誤魔化せるかも。あ、潜り込むなら衛兵の大半が帰る夜が良いと思うよ!」
「私も金髪で目立つよ!?それに栄誉騎士の立場を悪用するのはさすがに……」
「泥棒するなら冤罪でもないだろ。ちゃんと捕まっておけよ」
でも、確かに急いでいるなら盗みするしかないのも手かもしれない。肝心のバルバトス本人があまりに説得力ないし。それに……。
「わかった。天空を持ってくるよ」
「旅人!?正気か!?」
「それしか方法がないんでしょ。それに……別れはもう見たくないから」
「……さっき言ってた兄を連れ去った神の話かい?わかった。この一件が終わったら僕の知ってることを話そう。頼んだ、旅人」
話していたらいつの間にか夕暮れも更けてきて、夜はすぐそこだ。
大聖堂に静かに入ると、先刻までが嘘の様に静まり返っている。誰もいない。パイモンと一緒に奥まで進む。たしかウェンティの説明だと、ここに秘密の地下室への入り口が……。
「見つけた」
「ううっ、ドキドキするな。気を付けるんだぞ、旅人っ」
「パイモンこそ、静かについてきてね」
中に入ると、数名の衛兵が見回りしている複雑な作りの場所に出た。あの最奥にあるのが天空のライアーかな。視線から逸れるようにしゃがんで隠れながら進んでいく。なんというか。ジンには悪いが、あまりにもざる警備だった。特に困ることなく一番奥まで来れたんだけど……。
「お、あれが【天空】か?早く持ってこうぜ」
「うん……でも、おかしいな。ウェンティが言っていた人数より衛兵が少ないような……」
「そうでしょうね。ボクがおねんねさせて隠しておいたもの」
「「!?」」
本当にすぐ傍から聞き覚えのある声が聞こえて、たまらず剣を抜いて警戒する。今の、あの【淑女】と一緒にいたルネウの声……?でもどこに?と思っていたら、【天空】がひとりでに浮かび上がり。まるで、景色が崩れるように【天空】を手にしたルネウが姿を現した。
「なっ…!?」
「驚いたかしら。ボクはね、赤青緑の三原色のバブルを生み出すことができるの。それを組み合わせて透明になってたってわけ。ここに来るまでの通路にはゴロゴロと透明になった衛兵が転がっているわ。まさかボク以外に盗みにくる奴がいるとは思わなかったけど」
「それを渡して!」
「いやよ。ロザリーのお願いだもの」
私の繰り出した刺突が、ルネウの掲げた掌との間に現れたシャボン玉で受け止められる。割ることが……できない!?あの時、ハクアを捕まえていたのと同じ……そう思ったのも束の間、私は弾かれて床に転がった。
「この程度?ボクには及ばないわ」
「旅人ぉ!?」
「なんだ?今の音」
「奥から聞こえたぞ!」
衛兵が駆け付けてくる音が聞こえる。不味い。このままじゃ……そう、なんとか立ち上がるも、ルネウは笑顔で【天空】を抱えて手を振りながら透明になって消えてしまっていた。やられた……。
「動くな!そこでなにをしている!?」
「まずい、逃げろ!」
衛兵の一人がやってきて槍を構えたので、思わず助走をつけて飛び蹴り。衛兵を蹴り飛ばして無理矢理退路を作り、駆け出す。もう見つかるのも仕方ないので全力疾走し、大聖堂に出て、出口を目指す。
「長司……?君はいったい何者で、この国でなにを………」
「ウェンティ!」
「気付かれた!走れ!」
さらに扉から外に出ると。謎の狐面に着物の女性がウェンティと対峙していた。ウェンティは私達に気づいてすぐ逃げようとするも、目の前の人物が気になるらしく躊躇している。
「おや。それならこの場は私に任せて、貴方達はどうぞお逃げください」
「え、だれ……?」
「君……まあいいや!旅人、こっち!今は逃げるよ!」
「またお会いしましょう」
バルバトスとしての力なのか風域を出したウェンティに連れられ、空に飛び立つ私達が最後に見たのは、衛兵に囲まれた狐面の人物と、騒ぎを聞きつけたのか駆け付けたエウルアが、それぞれ両手剣を激突させる光景だった。
「ウェンティ、彼女は?」
「わからない。長司と名乗っていて稲妻人っぽいけどアレも変装かも。だけど敵じゃないらしい。この先にいい場所がある!彼女が犯人ってことになってるかもだけど、一応そこに隠れよう!」
ルネウ。狐面の女。考えることはいっぱいあるけど、ひとまずやれることを頑張らないと。
「……さすが、やりますねえ……!」
「私の一撃を簡単に受け止めている奴の台詞とは思えないわ。この恨み、忘れないわよ」
「おや手厳しい。これでもいっぱいいっぱいなんですがねえ」
狐面の女、長司は両手剣でありながら舞う様に苛烈に叩き込んでくるエウルアに冷や汗を流していた。別に負けそうだからではなく、エウルアが強すぎて痛くせずに負けた振りができそうになかったからだ。力を使う暇もないので、やられ役の分身を作るのも無理だった。なので、いつもの手を使うことにした。
「それで本気ではないでしょう?見せてくださいよ、ローレンス様?」
「……死んでも知らないわよ。氷浪のように唸れ!」
元素爆発。氷の神の目が光り輝き、【氷浪の光剣】と呼ばれる一撃が振るわれる。それに対して長司は手にした理屈責めで迎え撃つ、ふりをして。上手く間に理屈責めを挟んで一撃をまともに受け、天高く吹き飛ばされた。
「ぐはあああああっ!?やりますね!しかし【天空】はいただきました!これ以上痛い目に遭いたくないので、私はこれにて失礼します!あ、空を飛べるわけじゃないですよ。落ちてるだけです、かっこよく」
そう演技染みた捨て台詞を吐きながら、放物線を描いて巨大な水しぶきを上げながら湖に落下した長司に。エウルアはしてやられたと気付きながらも、先ほどまでの態度が嘘の様に自分を褒める部下たちに「ドーンマンポート方面に逃げたと思われるわ。すぐに追跡を」と指示を出しつつ、視線を向けた。
「……その喰えない態度、私の知人にそっくりだわ。この恨み、預けておくわ」
「おーいたた、完全には防げませんでしたね。咄嗟に塩の塊を湖に落として誤認させながら自分は水飛沫に紛れて塩の足場で空に逃げる。最弱の身ですけど、上手く行きましたねえ」
狐面を外してお腹を擦りつつ一息つくヘウリアが大聖堂の屋根の上にいることには、誰も気づかなかった。
本来なら英雄の象徴のところで中ボス戦があるんですけど、さすがに狂風のコアを、風元素片手剣の蛍だけで戦わせるのはどう考えても無謀でしかないのでカットです。どう考えても旅人単騎で旅をするなら無理なところがたくさんあるよね。
そして、まさかの【天空】奪取者。ファデュイなのは変わりませんが、雷蛍術師ではなくルネウに変更です。淑女と一緒にいた彼女です。原作のあのシーン、大物感があって好きなんだけどあとからフィールドに普通に出る雑魚敵って知って衝撃が走った記憶ある。透明にもなれるとかいう暗躍にはかなり便利な能力持ち。なんの魔神なんでしょうね。
長司VSエウルア決着。元素ありで暴れるエウルアを、元素無しで普段使わない(一番使わないのは過去一回しか使ってない弓。多分誰も覚えてなさそう)両手剣で押さえてるのにまだ自分のことを最弱だと思ってる神がいるらしい。
次回はディルック登場……に当たるのですが。さすがにまた各地を巡るのを描写したくないので、ダイジェスト風味になるかも?原作からだいぶずれますとは言っておきます。次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
現在へウリアと旅人のW主人公制ですが……
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ヘウリア視点メインで進める
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旅人視点メインで進める
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今みたいに交互にそれぞれの視点を進める
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交互だけど同じ時間軸じゃなく、進めていく
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作者の塩梅(ノリ)でやってどうぞ