塩の魔神のしょっぱい備忘録   作:放仮ごdz

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どうも、放仮ごです。今回は鍾離先生視点回となります。書いてる途中でヌヴィレットを引いて何とも言えない気持ちになりましたが。犬猿の仲なのになんかごめん。

お気に入りが600人超えた様で。ありがとうございます、頑張らせていただきます。……拙作で一番伸びてるエヴレムでもここまでの勢いじゃなかったので若干怖いですが。

楽しんでいただけたら幸いです。



岩王帝君の憂鬱

 岩神モラクス。岩王帝君。契約の神。貴金の神。岩の主。戦いの神。岩主天星。歴史の神。仙祖。岩破神。最古の七神。⋯⋯弟子であり友であるへウリアと共に呼ばれる二大武神。俺を呼ぶ名はいくつもある。今は往生堂の客卿である凡人の「鍾離」と、そう名乗っている。

 

 幾千年の時を生き、それだけの出会いと別れを経験してきた。そのなかでもとりわけ輝いている3つの記憶がある。3人の女性がいずれにも関わっていた。兹白⋯⋯白馬の仙人との出会い。帰終⋯⋯塵の魔神ハーゲントゥスとの他愛ない日常。そして、脆弱でありながら眠れる才能と努力で俺に並びうる領域に至った塩の魔神、へウリア。俺にとって摩耗しても忘れることのないだろう輝かしい記憶だ。

 

 特にへウリアは、俺を飽きさせない興味深い神だ。それ以前は貢物を渡して降参しては逃げ続ける、志は高くとも力を持たない、そんなよくいる魔神の一人だと思っていた。それを覆したのは、俺を師と仰いで力を求めてきた時だった。以前とは別人の様に穏やかながらも確固たる意志を見せ、弱音を吐くことなく俺の本気のしごきについてきてみせた。俺はあえて逃げ道を残していた。“俺はヘウリアの願いに協力を惜しまない”。この契約は、ヘウリアが望む限り鍛えるが、望むなら逃げることも見逃す、という契約だ。

 

 しかし、ヘウリアは折れるどころか、最初は幼い甘雨にも負ける程度だった実力をメキメキと伸ばしていった。俺が驚いたのは、権能の使い方の柔軟さだ。俺達魔神は、自身の権能を応用することはあれど、それでも基本力押しがメインだ。俺も得意とするのは隕石だ。しかしヘウリアは違う。驚くべき繊細さで、恐ろしい技術を見せてくる。

 

 俺達の攻撃に対応しきれないからと、対応することを諦めて本人曰く【システム化した】目に見えない塩の粒子を自身の周囲に展開、一定以上の衝撃に反応して自動的に防ぎきれる厚さの盾を展開する「塩の花弁」。

 

 ただの武器はすぐに取りこぼしてしまうからと、自分の手元に塩の粒子を集束させて驚くべき模倣・分析で本物と同じ形状でありながら塩であるために掠るだけで激痛が走る斬撃を繰り出す「塩撫」。

 

 足裏で触れた海水に力を巡らせて塩を瞬時に凝縮し足場を形作る水上歩行に、さらにそれを鋭利に尖らせ不意打ちする武器にする、塩の粒子を瞬時に凝縮させ礫にして飛ばす、地中に広げた塩を龍の形にして打ち上げる、など。例を上げればきりがない。

 

 俺達他の魔神や仙人といった魔神の眷属を、すべて格上と見なしているが故の工夫と容赦のなさ。帰終も見習いたいと言っていた発想力とその構築能力は賞賛せざるを得なかった。本人が「猿真似ですよ」と謙遜するのは本当に理解できなかったが。

 

 

 そして迎えた煙の魔神シトリウスの襲撃。地形を利用されて本領発揮ができず過去最大の苦戦をしていた折、俺は帰終にヘウリアを呼び出すように伝えた。賭けだった。彼女との契約に「俺たちを助けろ」などと言う内容はない。ただ師弟関係にすぎず、魔神戦争においては最終的に戦う敵同士。故に見捨てられてもおかしくない状況で、怖気づくことなくヘウリアはやってきた。

 

 どう見積もっても仙人クラスの強さはあった煙の魔神の尖兵を涼しい顔で蹴散らしてたった一人で形勢を逆転し、あの時代シュバランケに負けこそしたもののかの炎神の追撃から逃れるだけの技量を持ち、厄災とすら謳われた、勝ち残る最有力候補だったシトリウスを相手に「初めて名前を聞いた」と挑発。怒りに身を任せて配下諸共煙を集束させて部下たちの危機を救い、巨大化した故に鈍重となったシトリウスの攻撃を軽やかに躱して一撃入れる。しかし、シトリウスは俺の猛攻に耐えて見せたタフさの持ち主、生半可な攻撃は通じない。

 

 故に生半可でありながら確実に精神を削ぐ「塩撫」を用いて冷静さを失わせて生じた隙を突いて、彼女の力の大半を使って生み出したという聖遺物の「定規」を挿して頑丈な外装ではなく内側から生き地獄を味わせる、敵に回さないでよかったと心底震えあがった冷酷さを見せた。穏やかなヘウリアを怒らせてはいけない、と魔神の間で周知の事実になったのを覚えている。とどめこそ哀れに思った俺がもらったものの、あの煙の魔神を倒して璃月を守れたのはヘウリアのおかげだ。

 

 そこからは獅子奮迅の活躍だ。渦の魔神を始めとした強力な敵を俺達と力を合わせながらも退けていく。かつての弱いヘウリアはそこにはいない。渦の魔神オセルが俺に封印されるのを、まるで「見届ける価値もない」かの如く、巨大な水飛沫を背景にこちらに微笑んで見せたその姿は、酷く幻想的で。

 

 それらの戦いを見ていた千岩軍や民たちから話が伝わり、ヘウリアは璃月の民の間で塩華女帝と称され俺と同格扱いされるようになった。初めて、俺と同格に立ったのだ。彼女の耳に届く前に、あの事件が起きてしまったが。

 

 

 ある日、何故かかたくなに地上に移そうとしなかった地下にある彼女が治める都市で、ヘウリアを信仰する民の最後の王が、ヘウリアを刺殺した。「あとは任せた」と宣う彼女の様子に異変を感じ取り、駆け付けた時には遅かった。王によれば、心優しい彼女がこれ以上誰かを殺めて苦しむぐらいなら、と。彼らなりの信仰だったらしい。彼女が守ろうとした民は、激昂に駆られた俺が岩喰いの刑に処そうとする前に、全員が自害して彼女のあとを追った。

 

 二大武神とすら謳われた、勝ち残れるはずだった塩の魔神は、自ら王の刃を受け入れて恨み言一つもなく、むしろ微笑んで息絶えたのだという。受け入れきれなかった俺は、彼女の亡骸である塩の花から魔神の残滓を回収した。

 

 

 何故だ。何故だヘウリア。お前があの程度で死ぬはずがない。その気になれば刺さったふりして塩の粒子で刃を寸止めするぐらい訳ないはずだ。なのになぜ、抵抗もせず死んだ。お前がいれば、帰終が死ぬこともなかったはずだ。お前がいれば、夜叉たちのような犠牲者を出さずに済んだはずだ。俺一人では、守れなかった。

 

 

 

 

 

 

 魔神戦争終結後、カーンルイアが滅亡して500年。戦災のあとは遺跡となり、璃月は平和となった。もう俺すらいらないと、そう思えるほどに。そこで思い出した、彼女との契約と最期の言葉。恐らく彼女は望んでいないだろうなと思いながらも、俺は契約を大義名分にして彼女の残滓が宿った岩塩を彫った。あの彼女が帰ってくるとは限らない。だけど、だけど。取り戻せるのならば、と。一縷の望みをかけて、精巧に記憶に鮮明に残る彼女の形を取り戻した。目覚めてすぐ俺を視界に入れて不思議そうに首を傾げた彼女を見た時にポーカーフェイスできたことを褒めてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理由を聞けば「殺されるべきだった」と言われ、何故だと苦悩する中で共に往生堂に厄介になって。相も変わらずの破天荒ぶりに頭を抱えながら、平和な世を彼女と過ごす。ここに帰終がいれば、とは思う。だから摩耗することないようにと、噛み締める。そんなある日の夜のことだった。

 

 

「墓参りに行ってきます」

 

 

 それだけ告げて、休暇を利用して璃月を出たのは知っていた。その翌日、往生堂に向かう途中で緋雲の丘の方に慌ただしく向かう千岩軍を見かけ、嫌な予感がしてあとを追った。そこで見たものは、衝撃的な光景で。

 

 

「ヘウリア様!?ヘウリア様!返事を、返事をしてください!!」

 

「ヘウリアって、まさか、塩華女帝……?」

 

「復活なされたというのは本当だったのか、だがこれでは……」

 

「誰か、医者を!いや、不卜廬が近い!白朮先生を!」

 

 

 千岩軍に囲まれた、蹲って泣きじゃくった甘雨の腕に抱えられたヘウリア……往生堂のものではない普段着の白亜の、顔の右半分が崩れて顔がわからなくなっている。恐らく高所から落ちて頭から転落したのだろう。だがおかしい、その身体の全身に細かな罅が入り、胴体に至っては中身の塩がまるで血の様に零れている。俺が作った彼女の今の肉体は、そう簡単に壊れる程やわにしてはいない。なのにこうなっているということは、なにかあったということだ。

 

 

「私が、国宝を返して何て言わなければ………めを、目を開けて……ヘウリア様……」

 

 

 なんにしろ甘雨が不味い。いつヘウリアの復活を知ったか知らないが、彼女はかつてヘウリアが刺殺された時も取り乱していた。虚ろな目でなにをしでかすかわからない。こうなれば、と物陰に隠れて姿を変える。麒麟と龍が合わさった……岩王帝君としての姿となって空から飛来し、甘雨に近づいた。

 

 

「岩王帝君だ!」

 

「帝君が降臨なさったぞ!」

 

「ではあれは、本当に塩華女帝なのか…?」

 

『気をしっかり持て、甘雨』

 

「帝君……?て、帝君が蘇らせてくれたと言うのに……私は、ヘウリア様を……」

 

『なにがあったかは知らないが、その身は我が彫ったもの。まだ間に合う。我に乗るのだ、甘雨』

 

「はい、はい……!」

 

 

 泣きじゃくり白亜を抱えた甘雨を頭部に乗せ、飛び立つ。璃月港では目立つ。舞い上がり雲を割った俺は絶雲の間に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おや、ここは?」

 

 

 目を覚まして、首を傾げる。見上げても上が見えない岩肌だ。それになんか右目が見えない。というか右目がない気がする。

 

 

「目を覚ましたか」

 

「ヘウリア様あ!」

 

 

 聞こえてきた声に振り向くと、腕を組んだ鍾離……ではなく、フードを被って顔を隠したモラクスと呼ぶべきか、と。涙を流しながら飛び込んできた甘雨が見えて。慌てて受け止める。

 

 

「ううっ、もう目を覚まさないかと思いましたぁ……」

 

 

 甘雨がなかなか泣き止んでくれないし離れてくれない。なにがどうした。モラクスもなんか怒ってるし。よく見れば周りに三眼五顕仙人が勢揃いだ。どうしたんだそんな雁首揃えて泣きそうな顔をして。あと見覚えがあるような無いような感じがする白髪の少女がいる。幼き日の申鶴だったりする?

 

 

「説明してもらおうか、ヘウリア」

 

「何がでしょうかモラクス」

 

 

 マジでわからないので問い返したら、モラクスはいきなり私の服を掴むとめくりあげてきた。きゃーえっち。なわけないか。ばれたか。

 

 

「雑に塩で塞いでいたが胸部に巨大な亀裂、さらに全身に細かい亀裂が走っているぞ。なにをした!?甘雨から聞いた、遺跡守衛程度ではこうはならないぞ!」

 

 

 珍しいモラクスの怒鳴り声に委縮する。本気で怒ってるやつだこれ。雷電将軍に喧嘩売ったの怒られる……。けど正直に言うしかない。

 

 

「えーと⋯⋯オロバシの墓参りに行ったら雷電将軍に見つかって、夢想の一太刀を受けるために自分に定規を刺して塩を全身に行き渡らせました⋯?耐えきれませんでしたが」

 

 

 多分石像でしかないこの身体に、粒子状の塩を流したのが細かい亀裂の原因かな?ああ、だから体にガタが来て階段を踏み外したのか。無茶はするもんじゃないなあ。

 

 

「雷電と……戦ったのか?」

 

「さすがに勝ち目がないので逃げたかったんですけどね。生きて帰っただけでも儲けものだと思いません?」

 

「……生きて帰ってきたことは賞賛しよう。だがすぐに俺のところに来なかった報いだ。頭部右側が損壊している。修復には時間がかかるだろう。幸いなことに、ヘウリアが生きているとは伝わったがお前の顔は見られてない。治るまでは仮面なりで顔を隠すか、人里から離れて活動しろ。いいな?」

 

「え、でも往生堂……」

 

「胡堂主には俺から休養すると伝えておく。いいか?絶対安静だ。もしまた無茶でもしようものなら岩喰いの刑に処す」

 

「ワカリマシタッ」

 

 

 目がマジだ。思わず敬礼する。雷電将軍に続いてモラクスまで敵に回したくないって。モラクスは踵を返して去っていくが、なんか甘雨が怖いんだけど。

 

 

「ヘウリア様……私、休暇をとってきました。この仕事をしていて、初めてのことです」

 

「そ、そうなの?それは、よかったね…?」

 

「つきっきりで看病しますから…!」

 

「え、え」

 

「よろしい。……いい機会だ、お前がどれだけ大事に思われているか思い知れ」

 

「モラクス待って!?」

 

 

 その後、めちゃくちゃ介護された。




くそでか感情を抱えていた鍾離。自分に並びうる存在ってだけでそりゃあ、ね?

不調の原因は無茶のせいでした。シトリウスすら苦しんでたのがノーダメなわけがない。

次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

原作行く前にヘウリアに会ってほしい人物

  • ドットーレェ!!(博士)
  • 判決を下す!(ディルック)
  • 吟遊野郎!(ウェンティ)
  • 荒瀧・唯我独尊・一斗(荒瀧一斗)
  • 俺が払うよ(タルタリヤ)
  • グロシをかかげよ!(フリーナ)
  • あらら~?(スカラマシュ)
  • ハイドロポンプ(ヌヴィレット)
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