今回はまさかの呉越同舟。楽しんでいただけると幸いです。
「――――ハッ!?」
「あ、起きた?やっほ」
目を開ける。なすすべなく海の底に沈んでいたはずの私は、灼熱の空気層の中でグレメリーに手を握られてぶら下がっていた。周りを見渡せば、まるで滝の様に海水が雪崩れ込んでいる空洞になっており、見上げればグレメリー越しに空が見える。
「これは…!?」
「ヘウリア泳げないじゃん?あてしも泳げないじゃん?だから、海水を蒸発させて無理矢理?」
「貴女、本当に何でもありですね……グレメリー。助かりました」
「やはは、褒められちった」
そのままふわふわと浮かぶグレメリーの手にぶら下がって、海上まで上がると高熱源が去ったからか一気に海水が押し寄せて元通りの海となる。そしてここはどこだろう、と周りを見渡して。思わず固まった。
「え」
「なになにー?あ」
「貴女は……たしか、長司?風の翼なしで飛べるの……?」
そこは原神という物語が始まった土地。始まりの浜だった。ここまで流れついていたのか。何故か蛍とパイモンとウェンティとジンとディルックが勢揃いし、傍には全身異様に黒ずんでいる様子のトワリンが半身を海に沈めて顔を浜辺に寝かせていた。どういう状況……?
「忘れてた。ヘウリアを助けようとしている間に、あの人たちがドゥリンを何とかしようとしてたけど負けたんだった。ところで長司って?」
「私の偽名です。どうやら貴女は見えてないみたいですね。それっぽく下ろせます?」
「かしこまりー。はあ、どーしよ。王子様に顔向けできないや……」
そんなことをぶつくさ言いながら私を始まりの浜に降ろし、私の頭の上で頭を抱えて悶々とするグレメリー。そしてそんな私に対し、ディルックが大剣の切っ先を向け、ジンも剣を抜いている。蛍とウェンティは助けられたからか警戒はしない様だ。ありがたい、けど私の事どう説明しよう。
「お前が旅人たちを助けてライアー窃盗の罪を被ったという長司か」
「西風騎士団が総力を挙げて追っていたはずだが……よく逃げられたな?」
「まあ、隠し玉がありますので?」
「あ、それもしかして、 あてしのことー?頼られて悪い気はしないぜー、えへへー」
「……熱風?」
あ、ウェンティが怪訝な顔をしている。やっぱり七執政ともなると完全にとはいかないけど察知することはできるのだろうか。えーと、言い訳言い訳……どうせ長司は存在しない人間だし、適当でいいのでは?*1
「改めまして。わたくし、アビス教団……の関係者、長司と申します」
「なんて?え、あてしたちの仲間になるの?大歓迎だけど」
「アビス教団…!トワリンを誑かしてた奴の仲間だって!?」
「貴様…!」
「おわっと」
ウェンティが臨戦態勢になると同時に、ディルックの薙ぎ払いを宙返りで避け、そのままディルック名物である重撃乱舞をひょいひょいと避けていく。ありゃ、もしかして間違えたか。うーん、ゴリ押しでどうにかなりそう*2。
「おち、おちけつ!落ち着いてください!私はあくまで関係者!別にアビス教団の仲間じゃないんです!むしろ、あいつらの後始末を押し付けられた側でして!!」
「なーんだ、ざんねぇん」
「どういうことだか、説明してもらえるかな?」
ディルックが攻撃をやめてくれたものの、弓を構えてそう冷えた声で告げてくるウェンティ。あーこれ、トワリンがやられてキレてるなあ。今私の正体明かしたらただじゃすまなそう。
「アビス教団の姫と古い知り合いでして。貴方達の罪を被って逃げてたところに、ドゥリンが復活しちゃったなんて聞かされて止めに来たんですよ。まあ間に合わず、海に叩き落とされて今出てきたところなんですが」
「話は分かった。君はいったい何者なんだい?あのドゥリンが何者かも知ってるみたいだけど」
「雷電将軍の友人ですよ」
噓は言ってない。一時期殺し合いしまくった仲だけど。シトリウスを倒した時にいろいろ頼み過ぎて頭が上がらないんですよねえ。
「……声色から嘘は感じない。わかった、信じよう。それで、あれは何だい?僕の知るドゥリンによく似ていたけど、あれは別物だ」
「ある意味本物である意味偽物と言いましょうか……あれはアビス教団が人造魔神として復活させた毒の魔神ダスタリオが、ドラゴンスパインのドゥリンの心臓と骨を取り込んで変貌したバケモノです。もはやドゥリンでもダスタリオでもないナニカですよ。無理に呼称するならドゥリン・ダスタリオとでも呼びましょうか」
あのドゥリンからはダスタリオの臆病さが消えていた。本物のドゥリンもどちらかというと幼子みたいな性格だったみたいだし、なんか別の人格生まれてるみたいですね。どちらかというと傲慢で強気になったダスタリオ、って印象でしたが。
「ダスタリオ……ハクアが倒したと報告していたが、やはり生きていたのか。あいつめ、だからあれほど確認をしろと……」
「ハクアもドジっ子なんだなあ」
「ダスタリオは不定形な肉体の持ち主です。ハクアとやらが見過ごしたとしても無理ないですよ、はい*3」
「……人造魔神って?」
「テイワット各地に眠る魔神戦争で敗れた魔神の残骸を利用して復活させる技術だ。ファデュイの【博士】が生み出した技術で、10年前にスメールで大災害を引き起こすきっかけともなったとリサさんから聞いている。アビス教団もその技術を得ていたとは……」
「あてしがあのいけ好かないやつから設計図?を盗み出したんだけどねえ」
「貴女の仕業でしたか(小声)」
あの博士がそう簡単に技術を安売りするわけないと思ってたけど、認識できないグレメリーがやったのなら納得だよ。
「……話は分かった。今はトワリンを助けたい。ドゥリンに対抗する以前にそれが僕の目的だからね。旅人、お願いできるかい?」
「うん、任せて。でも時間がかかるかも……」
「すっごーく、でっかいもんな!」
「その間にドゥリンが復活したら、トワリンなしで対抗しないといけないのか……すぐにモンド城に戻って対策を練ろう」
「ウェンティの力を借りれば空中戦はできないこともないが、あの質量差はどうしようもない。長司、何か手はあるか?」
「ひとつ、思い付いてはいます」
私がそう言うと、目の色を変える面々。蛍もトワリンを浄化しながら視線をこちらに向けた。あれはわかりやすくいうと、ドゥリンの心臓と骨を「仮面ライダーオーズ」*4のコアメダル*5に例えると、ダスタリオがセルメダルみたいな感じです。アンク*6曰く棒アイスの棒とアイスの関係ですね。で、あれの猫系ヤミー*7から中の人間を取り出す方法としてあったのが、とにかく外殻を引きはがす、です。
「あれは先ほども言った通り、ドゥリンの心臓と骨のダスタリオが肉付けしている状態です。ドゥリンに変貌したのは、特に心臓が原因なので、それさえ取り除くことができればダスタリオは元に戻ると思われます」
「ダスタリオちゃんは元がヘドロスライムちゃんらしいから、それはいい考えかも?」
「つまり、とにかく削るという事か」
「まあそれができる質量ではないんですが……今回は逆に、毒の魔神で助かりました。協力者曰く、ダスタリオはもともとスライムなんだそうです。本来は存在しないヘドロスライムらしいですが……でもそれなら、簡単な方法がある」
「それは?」
「あ、オイラわかったぞ!ドロドロを洗い落とすんだな!」
「そうです、パイモン!」
「あれ、オイラ名乗ったか?」
「そんなことはどうでもよろしい!*8そう、水元素で洗い落とせばあの質量もなんとかなるんじゃないかと!……思ったんですけどね」
「……ああ。君も知っているんだな。我がモンドで水元素の神の目を持つのは、我が妹バーバラと助祭ダリアだけだ」
「どちらも戦闘は一応できるが、ドゥリンを相手にさせるには荷が重いな」
そうなのだ。序版も序盤であるモンドでは、水元素はまだかなり珍しいキャラで、実装当初はバーバラと恒常星5であるモナのみだった。そのモナもこの時期にはまだモンドに来ていない。あ、でも一応出身はモンドなんだっけ。ダリアはだいぶ後に追加されたキャラである。なんなら全員、ヒーラー、バッファー、シールダーとアタッカーですらない。璃月に行秋と夜蘭と、あと一応タルタリヤがいるけど、いずれも坊ちゃんだったり暗部だったりそもそも璃月に定住してるわけでもなかったりとあてにならない。詰んでる。せめてヌヴィレットが欲しい*9。
「ファルカがいれば……いや、いない者を頼っても仕方ない。こうなったら、僕の風域で騎士団のみんなを飛ばして総力戦するしかない……?」
「待ってくれ、そんなことをしてバルバトス様は耐えれるのか?」
「モンドを守るためなら惜しくはないさ。あれはここで止めないと、そのうち璃月やスネージナヤまで……」
「それは、看過できないわね」
「「「「!」」」」
聞こえた声に、振り返る。私はちょうどその方向を見ていたので来ていたのは気づいていたが、バレてないよね?と冷や汗だらだらでそれどころじゃなかった。【淑女】シニョーラとルネウ、それから雷蛍術師に氷蛍術師にデッド・エージェント、ファデュイ先遣隊がそれぞれ複数のかなりの大所帯で始まりの浜まで来ていた。こんな大所帯で戦争売りに来たわけではないと思う。
「あれー?なんでルネルネがいるの?」
「知り合いですか?(小声)」
「ヘウリアに会う前、旅した時にちょっと知り合っただけだよ。覚えてないと思う」
「【淑女】、何の用だ…!」
「ごきげんよう、代理団長様。貴方達が不甲斐ないから私達で奴を始末しようと思ったのだけどね。うちの部下も軒並みやられたわ。生き残ったのはこれだけ……忌々しいことにね」
「ロザリーは悪くないわ。ボクもドラゴンスパインじゃ本気を出せなかったもの」
「いいのよルネウ。それで提案なのだけど、今は国が違うとか国政なんて言ってる場合じゃないわ。スネージナヤ本国にまで被害が及ぶのなら猶更ね。手を組まない?私も、モンドがこんな形で滅ばされるのは不愉快だわ」
その提案にジンたちは驚いているけど、まあ、そうだろうなと。だってシニョーラは他でもないドゥリンによる災害で恋人に家族や故郷をすべて失ったのだから。その再来とか悪夢以外の何物でもない。恨んでいるウェンティと協力してでもあれは倒さないと、ということなのだろう。なら私も助け船を出すか。
「おや、奇遇ですね。私は知り合いでしかないですが、アビス教団にとっても自分たちの不始末です。あれは放っておけないので協力するとのことですよ。……ね?」
「え。あ、うん。あてしが命令すれば言う事聞くと思うけど……報酬にトワリンくれたりしない?」
「報酬も何も貴女の不始末でしょうが(小声)」
「やはは、ごもっともです……」
「へえ、アビス教団も……いいじゃない。それだけの戦力があればなんとかなるかもしれないわ」
ディルックの視線が私に、ジンの視線がシニョーラに向けられる。信用できないのだろう。でもそんなこと言ってる場合でもないのも事実だ。すると、意外なことにこの膠着状態を動かしたのはシニョーラだった。
「わかったわ。協力の証に……浄化はできないけど、外傷の治療ぐらいはできるわ。ほら、手伝ってあげなさい」
「合点でさあ」
「お任せを」
「え……」
シニョーラがトワリンを指し示すと、水の重衛士と呼ばれる大柄な巨漢二人が、ヒーラーとしての本領を発揮して旅人が浄化しているトワリンの治療を手伝ってくれた。これに一番驚いたのはウェンティだ。
「なんで……」
「……遅かったとはいえ、かつてドゥリンを打ち倒した龍よ。これぐらいの敬意は払うわ」
「ロザリーは優しいのよ。感謝しなさい」
ツンデレみたいな物言いに、ああ。やっぱりシニョーラは優しい女性なのだと。ただの悪女ではないのだと、再認識した。
「わかった、貴殿を信用しよう。我々モンドの西風騎士団と」
「ファトゥス【淑女】及びその配下と」
「私は関係者にすぎませんが、アビス教団は」
「「「ここに同盟を誓う」」」
ジンとシニョーラ、そして私の手が交わされる。10年前、アトラスを相手に七執政とファトゥスだって手を組めたのです。ならば、ならば!モンドとファデュイとアビスだって、手を取り合って災厄に挑んでもいいでしょう!原作ブレイクすぎるけどもう気にしません!!!!
「ヘウリア…仮面の下、絶対凄い顔してるねえ。とりあえず魔術師たちに通達しとこっと」
そこ、五月蠅いぞアビス教団の姫!!
本当に原神序盤、水元素少ないですよね……僕も夜蘭くるまではバーバラがメイン水アタッカーでした。バーバラがあまりにも初心者に優しすぎる。なお素材。純水精霊とマッシュルーム、特にマッシュルームを許すな。
というわけでアトラス戦に引き続き、呉越同舟。今回はモンド陣営と【淑女】の部隊と何故かヘウリアもとい長司が代表を務めるアビス教団です。姫の不手際なんだから責任取ってもらわないとね?ヘウリアは何時からアビス教団になったんだろう?
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
ダスタリオの末路は?(ストーリーに関わるかどうかは未定)
-
新たな邪龍ドゥリンとして倒される
-
倒されるも弱体化しグレメリーに回収される
-
本音を吐露してヘウリアに同情されて救済
-
博士に目を付けられてファデュイに鹵獲
-
アルベドが何とかする
-
グレメリーに処刑される