空っぽの魔神は、今の世に何を見る。楽しんでいただけたら幸いです。
絶雲の間の洞窟で。甘雨に食事から移動まで付きっ切りでされるという、原神ファンからしたら天国みたいな状況で一週間。まずいな。することないと、なんかしなければという焦燥感がすごい。気づいてなかったが私はワーカーホリック気味だったようだ。今も私の枕元で寝ている甘雨のことを悪く言えないな。
正しくあそこで死ぬためにがむしゃらに頑張ってきたから生前は休む暇がなかったけど。復活後は、正直言ってやることがない。なんなら原作には私は登場することないから、十年経って旅人がやってくる前に死ぬべきではとも思う。思うの、だが。何故か知らないけど甘雨にめちゃくちゃ懐かれてしまっていて、私が死んだら後追いしそうで怖いから死ねなくなっちゃった。どうしよう。
「………まあ、死ぬのは……嫌ですね」
王を始めとした民たちが私の殺害を企てた時。あの時点で限界だった。それまでは知らない名前の魔神ばかりだったから割と気を楽にして戦えていたが、オセルなんていう原作でも出てきた魔神の登場でこれ以上戦ったら原作ブレイクするんじゃないかと、それでもあの時点で死ぬわけにはいかないからと死に物狂いで戦い抜いた。
私の目的はただ一つ。「あの場で確実に王に刺殺され、民を巻き込まないこと」そのための前提条件とは、その時まで私が生き残ること、力の漏出で民を巻き込まないために自分の力を鍛えること、この二つだ。前世の記憶を取り戻すまで戦いを避けてきた私にはほとんど不可能なこれを、恥を忍んでモラクスに弟子入りすることで解決したが、生き残るためには戦わなければいけない。
それはつまり、敵の命を奪わなくてはいけない。……正直、無理だった。戦うぐらいだったら、民に手を出さないことを条件に自ら身を捧げる方がいい。私はそう言う魔神だった。例え煙から生まれる命を持たない尖兵だったとしても、首を撥ねた感覚は手に残り続ける。人知れず隠れて吐いたことも両手で数えきれないほどある。それを数世紀続けて、正直限界だった。だから、王たちがようやく殺しに来てくれて、本当に嬉しくて自分から刺さりに行ったのだ。痛かったけど。
「それで終わりだと、思ってたんですけどね」
この時代で目覚めた時のモラクスの、何とも言えない泣きそうな顔が頭から離れない。なんでよみがえらせたのかと怒鳴ることもできたが、文句を言うだけでそうしなかったのはあの顔を見たからだ。モラクスの友人たちが軒並み死んでることは知ってたから、かつての弟子が生き返っただけでも彼が救われたのだと察するのは簡単だった。まあなんで私なんかを、とは思うが。私より優先する子いない?モラ帰*1大好きなんだけど私。彼女が生き残れるように代わりに戦ったりするぐらいには好きなんだけど。
「うーん……」
正直、原作より数世紀前に、それこそカーンルイア滅亡より前に死ぬことは確定してたからそれ以降のことはなんも考えてなかった。いやまあ、やりたいことがないのかと言われたら嘘になる。原神という物語はあまりにも悲劇が多すぎる。ちょっとしたサブクエでも当たり前に人死にが起きているのが原神だ。その運命を少しでも崩せたら、と考えたこともなくはない。
500年前にいたなら、傾奇者とか丹羽久秀とか、カーンルイアに介入できたならそれこそレリルとソリンディスとかを救えたかもしれないがもう過ぎたことであり、不可能だ。傾奇者の場合は救った場合、ナド・クライで恐らく詰む。本当に詰むから手出しができない。本編時間軸なら反乱軍の相棒とか。……いや他にもフォンテーヌの彼らとかいるが、相棒があまりにも印象的すぎて。あ、あと万葉の親友とかも多分これから死ぬのかな?あれはたしか目狩り令発令後だったか。
「………最弱の身でありながら全部救おうだなんて、傲慢ですね」
でも。だけど。私は原神が好きだ。この物語を愛していて、彼等彼女たちが大好きだ。この未来に持ってくるために戦って、魔神を殺して、殺害されたのだ。なら今の私の生きがいとは何だろう。
「少しでも、よりよい未来を」
私が傷ついて推しが笑顔になれるのなら。私はこの身を犠牲にしてでも、見たい光景を見ようじゃないか。
月夜が明るい夜更けになってから。甘雨に毛布を被せて、外に出る。左目しかない視界だと見張りがいないか確認するだけで一苦労だな。一つ、違和感を思い出したのだ。地中の塩にて倒したファデュイについてだ。私なんかの力を欲しがるファデュイの上官なんて誰だろう、とふと考えたのだ。原作では「神の心」と呼ばれる七執政の象徴のようなものを集めていたが、あれはモラクスたち魔神戦争の勝者に天理が与えたもののはずで、敗者である私には存在してない。では、最弱の魔神の力なんかファデュイの元締めたる氷の女皇は興味がないはずだ。
ではファトゥス*2の中の誰かだが、無限の塩による富(そんな価値が高いかは知らない)を欲した「富者」か、純粋に魔神の力を研究しようとした「博士」この二択だ。後者ならば放置ができない。なぜって、私の聖遺物の一つである「定規」は今、凝光が有している。それを知った「博士」が手段を択ばず強奪に来た場合、最悪凝光が死ぬ原作ブレイクが発生する。それはダメだ。
「出歩くときは仮面を被れとのことでしたね」
手元にないので、取り出した「器」の塩を固めて作ることにする。仮面、仮面かあ。思いつくのは夜叉の仮面だが、夜叉と勘違いされるのは降魔大聖に失礼だ。なら前世の知識で原神とは関係ないのを使うしかないだろう。仮面と言えばバイク乗りが思い付くが、もうこれでいいか。真っ白な未確認生命体第4号の仮面を形作り、顔を隠すように被る。服装は着ていたのがもう襤褸で、往生堂のものを着るわけにもいかないから………………。
「……少々不服ですが、仕方ない」
謎空間に仕舞っていたそれを取り出し、身に着ける。恥ずかしいので上から塩で適当な装甲を身につけておくのも忘れない。泉に映せば、そこには複眼が白い空我の仮面を被った甘雨と同じぴっちりな服を身に着け白い塩の装甲を身に着けた人物がいた。なんか偶然にも白い複眼のグローイングフォームみたいな見た目になったな。これなら正体はバレないな、よし!
「急ぎましょう」
璃月港に急ぐ。杞憂であればいいのだが、言いようのない確証があった。私が復活したと世間にバレたと聞いた。なら、私の知る「博士」なら確証を得て用意を整えてから襲撃にかかるはずだ。急がないと……!
夜更けの璃月港。その一角から、火の手が上がっていた。その原因は、正体不明の襲撃者。ファデュイの、それも役立たずの烙印が刻まれ捨て置かれるはずだった「落伍者」の一団だった。こんな、例えファデュイだとバレても自分たちは関与してないと簡単に切り捨てて言い逃れできるこすい戦力を用意する者など、1人しかいない。目元を隠した仮面でも隠し切れない下卑な笑みを浮かべる彼の名を、ファトゥス執行官第二位「博士」またの名をドットーレだ。
「ふぅむ。これが、塩の魔神ヘウリアの聖遺物か……なんとも貧相なものだ」
「返し、なさい……それは、塩華女帝に返却すべき、モノ……」
血まみれで倒れる凝光を踏みつけにしながら「定規」を手に取り興味深そうに眺める「博士」。周りには護衛の千岩軍が転がり、第二位からお言葉をかけてもらったと興奮状態にあるファデュイの構成員が周囲を警戒している。
「違うな。これは私の研究材料だ。魔神の力が内包された聖遺物など、そうそうお目にかかれないのでな……これを見つけてくれて礼を言う。無能な部下では無理だったものでな?」
「くっ……」
手が掲げられ、炎属性を得意とする銃主のファデュイが手にしたライフルが向けられ、凝光が死を覚悟した、その時だった。
「凝光に、なにしてるんです?」
「え、あ?」
冷え切った声と共に、銃主はマヌケな声を上げた。自分の手に握られたライフルが、なくなっていたのだ。それどころか、手首から先が、血飛沫を上げて―――
「う、うわああああ!?」
「なんだ!?」
「誰の仕業だ!?」
遅れてやってきた激痛に悲鳴を上げて倒れ込む銃主に、他のファデュイも各々が武器を構えて周囲を警戒。その中心に、儚げにそれは立っていた。
「なにをしてるんだと、聞いてるんですよ。ドットーレ」
「ほう?私を知るとは……何者だ?」
怒る鬼を思わせる大きな目の仮面を被り、上半身だけ純白の装甲を身に着け闇夜に紛れる黒衣で四肢を覆った謎の人物に「博士」が興味深げに下卑な視線を向ける。「落伍者」たちは、自分たちの中心に立つ謎の存在の放つ怒気に怯んで動けない。
「私は、…………
名乗ったかと思えば途中でせき込み、誤魔化すように咳払いする謎の人物に怖気がとれた「落伍者」たちが襲い掛かる。天権になりたての少女は、伝説の再来を目にする。
伝説は、塗り替えるもの。
仮面ライダーネタ入れるつもりはなかったけど、仮面で顔を隠して戦う優しい英雄なんてこれしか思いつかなかった。甘雨のぴっちりタイツに白い装甲とかグローイングフォームじゃん!って発想からこうなりました。
命を奪うたびに苦しんでいたヘウリア。できるだけ殺さないためにスリップダメージを与えることになってるけどしょうがないね。
遂に登場ドットーレ。この男なら狙いかねないという確信がある。ナド・クライでの所業はマジで許さないからな。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです。よければ評価や感想、誤字報告などもいただけたら。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
原作行く前にヘウリアに会ってほしい人物
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ドットーレェ!!(博士)
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判決を下す!(ディルック)
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吟遊野郎!(ウェンティ)
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荒瀧・唯我独尊・一斗(荒瀧一斗)
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俺が払うよ(タルタリヤ)
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グロシをかかげよ!(フリーナ)
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あらら~?(スカラマシュ)
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ハイドロポンプ(ヌヴィレット)