レウルーラの格納庫は、アクシズ落としという未曾有の作戦を控え、殺気立った熱気に包まれていた。
巨大なモビルスーツが並ぶ中、一段と異彩を放つ機体があった。
ギュネイ・ガスの愛機、ヤクト・ドーガだ。
その背部には、本来の設計にはない「異物」が装着されていた。
ギュネイは、整備梯子を登ってきたナナイ・ミゲルを待ち受けていた。
彼女の表情には、隠しきれない好奇心と、依然として拭えない
「強化人間」への不信感が混在している。
「待たせたわね、ギュネイ。あなたが提出した改修案……技術局(エンジニア)たちは、正気の沙汰じゃないと笑っていたけれど。ナナイ・ミゲルとして、私はあなたの『変貌』に賭けてみることにしたわ」
ナナイが手にしたタブレットに、ヤクト・ドーガの新たな四肢とも言える武装のスペックが表示される。
「有線式試作大型シールドインコム。……かつてのジオン地上軍が運用したグフカスタムのガトリングシールドをベースに、大出力のスラスターと独立ジェネレーター、そしてサイコミュ対応の有線制御(インコム)ユニットを組み込んだ。ギュネイ、あなたはこれを『盾』でも『銃』でもなく『動く壁』と呼んだわね?」
「ええ、ナナイ大尉」
ギュネイは、ヤクト・ドーガの鈍く光る装甲を撫でながら答えた。
その声は、かつての情緒不安定な少年兵のものではない。
「アムロ・レイという男は、ニュータイプとしての感応能力もさることながら、その戦闘経験に裏打ちされた『予測の裏をかく』戦術が恐ろしい。
ファンネルを飛ばせば、彼はそれを囮にして本体の死角――特にバックパックの推進部を突いてくる。ならば、その死角そのものを、物理的に防御しつつ反撃できるユニットで塞ぐしかない」
ナナイはフッと口角を上げた。
「強化人間特有の攻撃衝動を抑え、生存戦略に脳を割く……。今のあなたの安定した脳波データには、研究所の連中も驚いているわ。まるで、一度人生を終えて、すべてを悟った大人のような落ち着きだもの」
「一度死んだようなものですから。
……大尉、この武装はまだ有線式(プロトタイプ)で構いません。無線ファンネルの遠隔操作に意識を割かれすぎるのは、あの男の前では死を意味する。このインコムは、俺の『過集中』に反応して、自動で射線を遮る半自律防護壁として機能させます」
二人の視線が交差する。
そこには、利用する側とされる側を超えた、奇妙な共犯関係が芽生えていた。
数日後。ネオ・ジオン艦隊はルナツーを制圧し、アクシズを確保するための進軍を開始していた。
その先鋒を務めるのは、ヤクト・ドーガを与えられたクェス・パラヤだ。
「すごい……! 世界が、みんな見えるわ! ギュネイ、見てる!? 私、どこまでも行ける気がする!」
通信回線から流れるクェスの声は、弾んでいた。
彼女のヤクト・ドーガ(予備機)は、天賦の才という他ない機動で、連邦軍のジム・Ⅲを次々と紙細工のように切り裂いていく。
だが、ギュネイの心境は穏やかではなかった。
宇宙に上がったことで、彼の前世からの特性である「過集中」は、ニュータイプとしての「感応能力」と完全に融合していた。
周囲数光年に漂う、戦士たちの恐怖、高揚、そして……これから起こるであろう「悲劇」の波動が、視覚的なノイズとして脳裏に焼き付く。
(……来る。あの巡洋艦だ)
戦場の一角に、連邦政府高官アデナウアー・パラヤが座乗する巡洋艦が姿を現した。
原作では、クェスは自分の父親が乗っているとも知らず、その純粋すぎる殺意で、実の父をその手で葬り去る。それが彼女を深い闇へと突き落とし、ハサウェイの人生をも狂わせる引き金となる。
「あはは! あの大きい船、邪魔よ! 大佐の邪魔をする奴は、私が全部消してあげる!」
クェスの機体がメガ・ビーム・ライフルを構える。銃口に粒子が収束し、死の光が放たれようとしたその瞬間――。
「クェス、止まれッ!!」
ギュネイのヤクト・ドーガが、青い燐光を撒き散らしながらクェスの機体に割り込んだ。
「な、何すんのよギュネイ! 私の戦果を横取りするつもり!? どいて!」
「落ち着け、クェス! よく感じろ、あの艦から伝わってくる『声』を! ……お前が一番知っているはずの、あの男の醜い波動を!」
「……え?」
ギュネイは、自身の過集中のリミッターを外した。
彼が捉えたアデナウアー・パラヤの「自分だけが助かればいい」という保身の念、娘を交渉道具としてしか見ていない打算。それをニュータイプの共鳴(サイコ・フィールド)を介して、クェスの脳内へと強制的に流し込んだ。
クェスの動きが、凍りついたように止まる。
「パパ……? 嘘よ、あの中に、パパがいるの……?」
「殺してしまえば、それでおしまいだ、クェス。憎しみすら残らない。……いいか、奴を生かして捕らえ、その正体をこの目で見届けてからでも、決着をつけるのは遅くないはずだ!」
クェスが戦慄している間に、連邦の護衛艦がギュネイへと牙を剥く。
無数のミサイルとビームの雨。
「邪魔だと言っている……!」
ギュネイの背部から、二枚の巨大なシールドが射出された。
有線式のワイヤーがシュルシュルと伸び、ヤクト・ドーガの周囲を円を描くように旋回する。
「行け! シールドインコム!」
二枚のシールドに備え付けられたガトリング砲が、火を噴いた。
バラバラバラッ!! と凄まじい発射音が真空の宇宙に(振動として)響き渡る。
飛来するミサイルを網の目のような弾幕で迎撃しつつ、シールド本体が「動く盾」となり、護衛艦からのビームを物理的に弾き飛ばす。
「なんだ、あの機体は!? ファンネルではないのか!?」
連邦軍のパイロットたちが驚愕する。
ファンネルのような繊細な攻撃ではない。
暴力的なまでの鉄の質量と、ガトリングの連射。
ギュネイは、シールドを交互に機体の前面に展開させながら、最短距離でアデナウアーの巡洋艦へと肉薄した。
「墜としはしない……エンジンだけを、いただく!」
ヤクト・ドーガがビーム・サーベルを引き抜き、巡洋艦のメインスラスターを精密に切り裂く。
同時に、シールドインコムのガトリングがブリッジ周辺の対空砲座をすべてなぎ倒した。
「各機に告ぐ! この巡洋艦は、ギュネイ・ガスが拿捕した! 攻撃を禁ずる!」
全周回線に、ギュネイの毅然とした声が響く。それは、シャア・アズナブルへの牽制でもあった。
拿捕した巡洋艦を曳航し、ネオ・ジオンの管理下に置いた後。
ギュネイは、震えるクェスを連れて、ブリッジへと乗り込んだ。
そこには、豪華な椅子にしがみつき、腰を抜かしているアデナウアー・パラヤの姿があった。
「おお、クェス! クェスじゃないか! 私を助けに来てくれたんだな! さあ、早くこの野蛮な連中を追い払ってくれ!」
アデナウアーは、娘の姿を見るなり、父親としての権威を振りかざそうとした。
だが、その瞳には娘の安否を気遣う色は欠片もない。ただ、自分の地位を保つために「ネオ・ジオンのパイロットになった娘」をどう利用できるか、という醜い算段だけが渦巻いていた。
「……パパ。私は、パパに会いたかったんじゃない。私は……」
「わかっている、わかっているとも! 寂しかったんだろう? 帰ったら好きなものを買ってやろう。だから、私を安全なところへ連れて行ってくれ!」
「黙れッ!!」
クェスの叫びが、ブリッジに響き渡った。
彼女の肩は、激しく震えていた。
追い求めていた父性。自分を導いてくれる強い大人。
だが、目の前にいるのは、あまりにも小さく、保身のために娘すら売る、ただの「出来損ないの大人」だった。
クェスの瞳から、生気が急速に失われていく。
原作では、この絶望が彼女をシャア・アズナブルという偽りの父性へと走らせた。
(……ここで、手を離せば、歴史は元通りだ)
ギュネイは、クェスの細い肩に、そっと手を置いた。
29歳の社会人として、何人もの「醜い大人」を見てきた彼には、彼女の絶望が痛いほど理解できた。
「クェス。こいつを見ろ。……これが、お前が執着していた男の正体だ」
ギュネイの声は、どこまでも優しく、冷徹だった。
「お前はもう、こいつの所有物じゃない。お前は自分の足で立ち、自分の
目で世界を見るんだ。……行こう。ここはもう、お前の居場所じゃない。俺が、新しい居場所(セカイ)を見せてやる」
クェスは、ギュネイの腕に縋り付くようにして、嗚咽を漏らした。
アデナウアーを独房へと連行させる兵士たちの足音。
それは、クェス・パラヤという少女が「子供」を終え、過酷な「大人」の世界へと踏み出す葬送の音でもあった。
にわかなのでツッコミどころは満載かもしれません。
ユニコーンやフェネクス、ライジングフリーダムのシールドファンネル系の武装が個人的に大好きです。
有線式のインコムならファンネルよりは実装ハードルが低いだろうという独自解釈です。