逆襲のギュネイ   作:黄金鉄塊騎士

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第一章 六話

 

 

アクシズが地球への降下コースに入る直前、レウルーラの格納庫は死神の鎌を研ぐような静寂に包まれていた。

 

ギュネイ・ガスは、完成間近の巨大MA(モビルアーマー)、α・アジールのコックピット・ブロックに潜り込んでいた。

 

 

「ギュネイ、また勝手な改造を……。ナナイ大尉が知ったら今度こそ処罰されるわよ」

 

 

整備士の声を受け流し、ギュネイは端末を叩く。

彼が組み込んでいたのは、サザビーに採用されているものと同規格の「サイコフレーム展開式強制脱出ポッド」だった。

 

原作では、クェスはこの機体と共に宇宙に散る。ハサウェイを庇い、チェーンの放ったミサイルによって。

 

(……二度と、あんな悲劇をさせてたまるか。クェス、お前は死なせない。そして、俺も死なない)

 

ギュネイはさらに、機密回線を使って「ある場所」へ暗号通信を送っていた。

それはシャアもナナイも知らない、未来のネオ・ジオン残党――「袖付き」へと繋がる人脈。

 

前世の知識を使い、まだ小規模な輸送船団を率いているはずのスベロア・ジンネマンへとコンタクトを取ったのだ。

 

 

『……ガランシェールのジンネマンだ。強化人間の坊主が、何の用だ』

 

 

通信越しの、野太く、だが信頼に足る声。

 

 

「預かってほしい荷物がある。この戦争が終わった後、地球圏のどこにも居場所がなくなる二人分だ。代価は、ネオ・ジオンの最新技術データと……あんたが探している『光』の欠片をやる」

 

 

『……フン、面白い。約束の座標で待つ。だが、生きて来られればの話だぞ』

 

 

通信を切ったギュネイは、大きく息を吐いた。

これが、戦後の「生存ルート」だ。

 

 

 

 

 

 

 

無数のミサイル群が迫る。連邦軍が放った核ミサイルだ。

 

 

「大佐の邪魔は、一歩たりともさせん……!」

 

ギュネイはニュータイプ能力の集中力を極限まで高めた。

 

 

空間に浮かぶ熱源、その一つ一つがスローモーションに見える。

ヤクト・ドーガのファンネルと、背部から放たれた有線式シールドインコムが、複雑な軌道を描きながらガトリングを乱射し、核弾頭を次々と撃ち落としていく。

 

 

原作通り、だが原作以上に完璧な迎撃。

爆発の光が、ギュネイの顔を青白く照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 

「来るぞ……! ロンド・ベルの、最後の手出しだ!」

 

 

アクシズの防衛ライン。ギュネイのヤクト・ドーガ改と、クェスのα・アジールが並び立つ。

目の前には、連邦軍が誇る精鋭部隊ロンド・ベル。そして、その中心には白き悪魔、νガンダム。

 

 

「クェス、俺から離れるな。ファンネルは防御と牽制に回せ。ここは俺たちが死ぬ場所じゃない、生き残るための戦場だ!」

「わかっているわ、ギュネイ! 私だって、あんたとの約束、忘れてないんだから!」

 

アクシズが地球の重力に引かれ、大気がその輪郭を焼き始める。

 

ヤクト・ドーガ改のコックピットで、ギュネイ――

俺の脳細胞が、かつてない悲鳴を上げていた。

 

 

(来る……!)

 

 

全天周囲モニターの一角、虚空から放たれた極大の殺気が脳を直接刺し貫く。

直後、モニターの死角から白い閃光が奔った。νガンダムだ。

 

 

「クェス、散れ! 奴を正面に捉えるな、食われるぞ!」

 

 

叫ぶと同時にスロットルを叩き込む。

以前のギュネイなら、このプレッシャーだけで思考を焼かれ、無意味な突撃をしていただろう。

 

だが今の俺は、アムロ・レイという男が放つプレッシャーを「情報の波」として分解していた。

 

 

「……あのヤクト・ドーガ、以前の個体とは気配が違う。こちらの動きを読んでいるのか!?」

 

 

漏れるアムロの声。

ただ、戦場に存在する「イレギュラーな障害」として認識している。

その冷徹な白い悪魔は油断せずに向かってきた。

 

 

「行けッ!」

 

 

俺はファンネルを6機すべて射出した。ヤクト・ドーガの旧式なファンネルでは、νガンダムのフィン・ファンネルには太刀打ちできない。

俺は3機のファンネルを1組にし、三角測量のようにアムロの一機を包囲させた。

 

 

「一機に3機だと……!? 効率が悪いぞ!」

 

 

アムロの嘲笑に近い指摘。だが、そうしなければ当たらないのだ。

3機のファンネルを犠牲にして、ようやく1機のフィン・ファンネルを相打ちで叩き落とす。この時点で、俺のファンネル残数は3。アムロのフィン・ファンネルは依然として5機。

 

 

(……分かってはいたが、これが『英雄』の土俵か!)

 

 

ビームライフルがヤクト・ドーガの装甲をかすめる。

俺はクェスに合図を送り、α・アジールのメガ粒子砲を連射させた。

空間が熱量で歪み、アムロはたまらずフィン・ファンネルをピラミッド状に展開し、ファンネルバリアを張る。

 

 

「……燃費の悪い技を使わせたぞ! クェス、今だ!」

 

 

だが、横槍が入る。ロンド・ベルのジェガン部隊だ。

彼らの放つミサイルとビームが、俺とアムロの「領域」を汚していく。このままでは集中力が削られ、アムロの『次の一手』を見失う。

 

 

「クェス、予定変更だ! 周りのジェガン部隊を任せる。2分……いや、3分で片を付けろ! その間、俺がアムロを止める!」

「3分!? ギュネイ、あんた死んじゃうわよ!」

「俺を信じろ、行けッ!」

 

 

クェスの機体が離脱し、宇宙に俺とアムロ、二人だけの静寂が訪れた。

三分間のカウントダウンが、今、始まった。

 

「一対一か……時間もない……押し通る!!」

 

νガンダムが加速する。

俺はここで、温存していた秘密兵器――有線式試作大型シールドインコムを射出した。

 

シールドの先端には、超硬鋼のブレードを急造で装着してある。

「行け! シールドインコム!」

 

 

二枚の巨大なシールドが、ワイヤーを引きながらアムロのフィン・ファンネルを物理的に「殴り」に行った。ビームではなく、質量攻撃。

サイコミュで制御されるフィン・ファンネルといえど、高速で迫る鉄板の塊を回避するのは容易ではない。

 

 

ガギィィィン!! と鈍い衝撃音が(振動として)コックピットに伝わる。

ブレードがフィン・ファンネルの一機を捕らえ、その構造を破壊した。

 

 

「ファンネルを物理的に潰すだと!? 小細工を!」

 

 

アムロの焦りを初めて感じた。

だが、その焦りが「怪物」をさらに鋭く研ぎ澄ませる。

 

残り時間、1分を切った。

ここで、原作で俺(ギュネイ)を葬り去った、あの「死の戦術」が発動する。

アムロが背部のバズーカを放り投げ、シールドさえもデコイとしてパージした。

ヤクト・ドーガのセンサーが、無人のバズーカとシールドを「敵機」と誤認する。

 

 

(……知っている。これだ、俺が死んだ理由はこれだ!)

 

 

視界の端で、放置されたバズーカが遠隔操作で火を噴く。

正面からは、アムロのνガンダムが高出力のビームライフルを、最大出力で狙撃。

前方からのバズーカと、後方からの狙撃。逃げ場のない完璧な「挟撃」。

 

 

「もらった!」

 

 

アムロの確信に満ちた声。

俺は叫びながら、全てのレバーを限界まで引き絞った。

 

 

「シールドインコム! 全部……持って行けぇぇ!!」

 

 

俺は二枚のシールドインコムを、武装としてではなく、本来の運用の「盾」として犠牲にした。

 

前方のバズーカを通常のシールドで受け、後方ののビームをシールドインコムで物理的に遮断する。

 

ドォォォォォン!!

シールドインカムに付属していたガトリングに引火し、爆発する。

爆炎がヤクト・ドーガを包む。

シールドインコムの二枚は、アムロの猛攻に耐えきれず粉々に砕け散った。

 

だが、その爆煙の中から、左腕を失い、ボロボロになったヤクト・ドーガが飛び出した。

 

 

「な……馬鹿な! 今ので墜ちないのか!?」

 

 

アムロの驚愕。

それは「予定調和」を愛する英雄が、初めて想定外の事態に直面した瞬間だった。

俺は吐血混じりの呼吸を整えながら、アラートが鳴り響くモニターを睨みつける。

 

 

「……3分、経ったぞ……!」

 

 

俺は通信を開いた。

 

 

「クェス! まだか! 返事をしろ!」

 

 

返ってきたのは、クェスの叫びと、ハサウェイの絶望的な声、そしてチェーンの悲痛な通信が入り混じる、混沌のノイズだった。

「クェス……やめなさい! ハサウェイ、そこをどいて!」

「クェス! やめてくれぇぇ!」

 

歴史の歯車が、俺の手を離れて回り始める。

俺は残された左腕で操縦桿を握り、ポッドの回収地点へと機体を無理やり加速させた。

「待ってろ、クェス……今、助けに行く……!」

アムロを驚愕させ、死の罠を生き延びた一人の男。

だが、彼を待っていたのは、勝利ではなく、あまりにも苦い「悲劇の完遂」だった。

 

 

 

 

 

アムロとギュネイが死闘を繰り広げていた頃。

 

 

クェスとロンドベルのジェガン部隊は順調にクェスが圧倒していた。

 

戦場に割り込んできたのは、ハサウェイ・ノアが駆るジェガンと、チェーン・アギのリ・ガズィだった。

 

 

「クェス! 戻ってくれ! シャアなんかと一緒にいちゃいけないんだ!」

ハサウェイの必死の呼びかけ。だが、クェスの意識はチェーンに向けられていた。

 

チェーンが持つサイコフレームの輝きが、クェスには「アムロの隣にいる女の傲慢さ」に見えていたのだ。

「あんた……! アムロの側にいて、わかったような顔をして! どきなさいよ!」

クェスがα・アジールでチェーンを追い詰める。

チェーンはアムロを援護するため、ハサウェイに叫ぶ。

「ハサウェイ、下がって! その子はもう、私たちの言葉が届く相手じゃないわ!」

「違うんだ! クェスは……!」

 

 

三人の感情が、極限まで高まったサイコフレームを介してスパークする。

その時、ネオ・ジオン側の流れ弾――迷走したミサイルが、ハサウェイのジェガンへ真っ直ぐに向かった。

 

「……っ、ハサウェイ!!」

 

クェスは反射的に動いた。

恋情、父性、そして純粋な友情。

ギュネイとの日々を経て、少しだけ大人になっていた彼女は、原作通りに自分を慕う少年の命を優先した。

α・アジールがハサウェイを庇うように割り込む。

同時に、チェーンが放ったリ・ガズィのミサイルが、α・アジールの装甲を直撃した。

 

 

ドォォォォン!!

α・アジールの頭部が、巨大な爆炎に包まれる。

 

 

「クェス……!? クエスーーーッ!!」

 

 

ハサウェイの絶叫。

彼の目には、クェスが自分を庇い、チェーンの攻撃によって爆散したように見えた。

だが、その炎の中で、ギュネイが仕込んだ「強制脱出ポッド」が火を噴いていた。

サイコフレームの光を纏ったポッドは、爆発の衝撃波を利用し、ハサウェイたちのセンサーを焼くほどの高熱を放ちながら、超高速でギュネイのヤクト・ドーガの方向へと射出された。

 

 

「……回収したぞ、クェス!」

 

 

ギュネイは、飛来したポッドをヤクト・ドーガの腕で力強く受け止める。

衝撃で気絶したクェス。だが、生体反応は生きている。

 

 

一方、戦場に残されたハサウェイは、狂乱していた。

 

 

「チェーン……あんたが、あんたがクェスを殺したんだ!!」

 

ハサウェイのジェガンが、味方であるはずのチェーンのリ・ガズィに体当たり(タックル)をかます。

 

「殺しちゃ…殺しちゃダメだったんだよ…」

 

原作のような殺害(銃撃)には至らなかったが、その憎しみと悲しみの深さは変わらない。

 

 

クェスは死んだ。自分を守って、連邦の女に殺された。

まだやりようはあったように思えるのに。

ハサウェイは目の前で初恋の人が死ぬ姿をトラウマとして植え付けられてしまった。そしてこのトラウマはこの連邦に対する不審感の小さな「種」となり、将来マフティー・ナビーユ・エリンを産む苗床となることになる。

 

 

「大佐……あとは、あんたの番だ」

 

 

ギュネイはクェスのポッドを抱えたまま、アクシズから離れた位置で観測していた。

そこでは、サザビーとνガンダムが、もはや兵器の枠を超えた「魂の殴り合い」を演じていた。

やがて、アクシズが真っ二つに割れる。

一方は地球へ。もう一方は宇宙へ。

絶望的な状況の中、世界が緑色の光に包まれた。

 

 

「……これが、サイコフレームの光。アクシズ・ショックか」

 

 

ヤクト・ドーガの全天周囲モニターが、虹色の輝きに塗りつぶされる。

地球へ落ちるはずの巨大な質量が、無数の名もなきパイロットたちの意志によって、押し戻されていく。

その光の中に、アムロとシャアの気配が溶けて、消えていった。

 

「ギュネイ……? ここ、どこ……?」

 

 

腕の中のポッドから、微かな声がする。

目を覚ましたクェスが、モニター越しに広がる虹の光を見て、涙を流していた。

 

 

「……終わりだ、クェス。いや、これから始めていこう。

俺たちの、本当の自由な生活を」

 

 

ギュネイはアクシズの影に身を潜め、混乱する戦場から静かに離脱を開始した。

目指すは、ジンネマンが待つ秘密の座標。

アムロ・レイも、シャア・アズナブルもいない。

歴史は動き、ハサウェイは絶望を背負った。

だが、ギュネイ・ガスの手の中には、死ぬはずだった少女の命が、確かに温かく残っていた。

 

 

「行こう。……もう、誰にも利用されない場所へ」

 

 

虹色の光が遠ざかる中、ヤクト・ドーガ改は、暗い宇宙の彼方へとその姿を消した。

 

 

 




閃光のハサウェイキルケーの魔女は今週末見にいきます。
逆シャア見てたら勢いだけで書きたくなったんで、色々雑です。

この後はユニコーン編、閃光のハサウェイ編を書いていく予定です。

おさらいでユニコーンを見ながらになるのでちょっとゆっくり書いていきます。
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