セクハラ提督と大淀先生のちょっとためになる話   作:同人誌は純文学

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第五話:悟りを開いた提督と面白くない秘書艦

 提督は抱きしめる力を緩めることなく、口を開く。

 

提督「大淀!聞け!俺のウルトラスーパージーニアスなロジックが、ついに宇宙の真理に到達したぞ!」

 

大淀「はいはい、お聞きしますから、それで、その『真理』とやらは?」

 

提督「ふふん、これを見ろ!」

 

 

【1帰納的視点:「過去、提督に抱きつかれた艦娘たちの反応」から、今後の鎮守府の風紀を予測せよ。】

 

事例1:大淀は今、なんだかんだ文句を言いながらも、俺の至近距離でのハグを最終的に受け入れている。

 

事例2:霞は「クズ!ゴミ!死ね!」と毒を吐くが、ハグを解いて離れようとすると、裾を掴んで寂しそうな顔をする。

 

事例3:金剛は言わずもがな。俺のことがバーニング・ラブである。

 

結果:つまり、ハグは艦隊における「コミュニケーションの円滑化」であり、横須賀の風紀はむしろ、俺の『愛(セクハラ)』によって鉄壁の保持がなされているのだ!

 

大淀「……霞さんの微細な反応を観察しているあたり、無駄に周囲を見ているのが最高に腹立たしいですね。ですが提督、それは統計学で言うところの『生存者バイアス』です。嫌がって主砲をゼロ距離射撃してくる艦娘の事例を、脳内データから意図的に排除していませんか?」

 

提督「痛いところを突くねぇ!さすが俺の秘書艦。だが俺の思考はさらに先、多角的な次元へと突入しているのだよ。」

 

 

【2多角的視点:「今、この食堂に入ってこようとしている憲兵さん」の視点から、提督にかけるべき第一声を考えよ。】

 

提督による憲兵視点:「おい提督、やるのは勝手だが、避妊だけはしっかりしろよ?書類仕事が増えるのは御免だからな」

 

大淀「……そこは『現行犯で逮捕する』でしょうがぁあああ!!!」

 

 鈍い音と共に、大淀の鋭い指先が提督の脇腹にめり込んだ。

 

提督「あだだだだ!ギブ!物理的なツッコミはギブ!」

 

大淀「……まったく。三段論法も帰納法も、貴方が使うとすべて自分に都合の良い言い訳に変換されるんですね。ですが……多角的視点で憲兵さんの心配まで先回りして捏造したのは、ある意味、最悪の方向での天才的飛躍と言えるかもしれません」

 

提督「へへっ、褒められた。じゃあ、明日の『ノー・セクハラ・チャレンジ』のご褒美、期待してていい?」

 

大淀「……明日一日、本当に、万が一にも、奇跡的に一回も私に触れなかったら、ですよ。今、こうしてベタベタ触っている分、明日の反動は大きいでしょうね」

 

 大淀は提督の腕の中からスルリと抜け出すと、空になったカレーの皿をまとめた。カチャカチャと食器が触れ合う音の中、彼女の背中はどこか楽しげで、それでいて夜風のように少しだけ寂しげでもある。

 

大淀「さあ、夜戦……ではなく、夜の事務仕事に戻りますよ。提督、論理的に考えて、明日の仕事に支障が出ないよう早めに寝るのが最善の選択肢です。……わかりましたか?」

 

提督「えー、大淀と一緒に寝るっていう選択肢は論理的にどう?」

 

大淀「それは『論外』という名の独立した概念です。ほら、早く行って!」

 

 

 

【翌朝・執務室】

 

 「ノー・セクハラ・チャレンジ」が始まったはずの執務室。そこには、机に突っ伏して禁断症状に震えながら、昨日大淀に教わった「Whyの5回反復(なぜなぜ分析)」を呪文のようにブツブツと唱える男の姿があった。

 

提督「……大淀にセクハラするのはなぜ?→大淀がちょっと嬉しそうにするから。……大淀が嬉しそうなのはなぜ?→ハグされるのが嫌いじゃないから。……嫌いじゃないのはなぜ?→俺の腕の中に安心感を覚えてるから。……安心するのはなぜ?…………それは、俺のことが好きだから!!」

 

「カチャリ」冷ややかな金属音と共に眼鏡のブリッジが押し上げられる。背後には、いつの間にか出勤していた大淀が冷徹な眼差しで立っていた。

 

大淀「……提督。朝から随分と独創的かつ、おめでたいロジックを展開されていますね。それが貴方の導き出した真実ですか?」

 

提督「おっ、大淀!聞いてた?ほら見てくれよ、論理的思考に基づいた『Why』の積み重ね。結論、大淀は俺が好き!Q.E.D.(証明終了)!」

 

 大淀は深いため息をつき、目頭を軽く抑えた。その手にあるクリップボードが、心なしかプルプルと震えている。

 

大淀「それは論理的思考の形を借りた、ただの『願望』です!提督、なぜ(Why)の掘り下げにおいて最も重要なのは、自分の推測を疑うことなんですよ。私の添削を見てください」

 

【大淀の「Why」掘り下げ添削】

大淀「貴方の『Why』には、客観的な検証が1ミリも含まれていません。真実はこうです」

 

Q.なぜセクハラをする?

A.反応が面白いし、シンプルに可愛いから。(提督の主観)

 

Q.なぜ大淀は嬉しそう(に見える)?

A.毎日毎日、隙あらば抱きついてくる提督に対し、いちいち全力で怒っていては艦隊の指揮に支障が出ます。「業務効率化」の結果、ハグを受け流す高等スキルを習得したに過ぎません。

 

Q.なぜハグされるのが嫌いではない(ように見える)?

A.呆れ果てて抵抗する気力が失せたからです。

 

Q.なぜ安心感を覚えている?

A.安心感など覚えていない。むしろ心拍数は上がっており、それは恐怖や血圧上昇の可能性があります。

 

Q.結論:俺のことが好き?

A.論理の飛躍。宇宙の膨張速度より速い飛躍です。

 

提督「うわぁぁ!俺の積み上げた幸せなロジックが、大淀に粉砕されたぁあ!!」

 

大淀「ふふっ。でも、そうやって少しでも頭を使うようになったのは進歩ですね。……さて、提督」

 

 大淀はスッと一歩近づいた。ストッキングの擦れる音が聞こえるほどの至近距離。今日の彼女は、いつもより少しだけ、パーソナルスペースの境界線が甘い。

 

大淀「今日は『ノー・セクハラ・チャレンジ』の当日。今、私の『Why』の第5段階を全否定されて、貴方はどう感じていますか? ……本当の答えは、論理ではなく貴方の直感が知っているはずですよ?」

 

(……う、動悸が……! これ、多角的視点で見たら、大淀がわざと俺の理性を試しにきてる『誘惑のトラップ』視点も含まれるんじゃね!?)

 

 大淀は提督の耳元に顔を寄せ、熱い吐息が触れる距離でささやいた。

 

大淀「おや、手が震えていますよ。チャレンジを捨てて手を出しますか? それとも……このまま論理の壁に引きこもって、独りで震え続けますか?」

 

(や、やばい……理性が、全速前進で蒸発していく……。こ、こうなったら……!)

 

 数秒後。煩悩の塊であったはずの提督は、驚くほど綺麗な結跏趺坐(けっかふざ)で事務椅子の上に鎮座していた。

 

提督「……(スゥ……ハァ……)。大淀くん、見えるか。俺の周囲に漂う、この研ぎ澄まされた知性のオーラが。もはやセクハラなどという低俗な概念は、今の俺のイベントホライゾンには存在しない……」

 

(……本当に本格的な坐禅を組んでいる……!?しかも足の組み方が完璧なのが逆にムカつきますね。普段のズボラさはどこへ行ったんですか)

 

 大淀は手に持ったクリップボードで、提督の肩をパシッと叩いた。

 

大淀「雑念が口から漏れていますよ、提督。ですが、姿勢を正し、呼吸を整える『マインドフルネス』は、前頭葉の機能を活性化させ、認知能力を向上させるのに非常に有効です。静寂の中で自分を客観視する時間は、今の貴方に最適ですね。……まぁ、その格好がいつまで続くか見ものですけれど」

 

提督「……ふっ。大淀、俺は今、宇宙と一体化している。もはや君の挑発すら、さざ波のように脳を通り過ぎていく。……で、いつものように問題があるんだろう?今の俺なら、フェルマーの最終定理だって解ける気がするよ」

 

大淀「大きく出ましたね。では、完全な『静』の状態にある今の貴方の脳へ、この特大の矛盾を投げかけましょう」

 

【問題】

今、提督は「坐禅」を組むことで煩悩を断ち切り、地頭を良くしようとしています。

一方で、大淀は「今日の提督はなんだか遠い存在に見えて、少しだけ面白くない」と感じています。

 

この状況において、「地頭の良い提督」として、以下の2つの条件のどちらかを選択しなさい。

 

1「静」の修行を継続し、知的生産性を高めること。

 

2「動」の要素を取り入れ、目の前の大淀の心理的満足度を向上させること。

 

大淀「さあ、宇宙と一体化した司令官殿。論理と感情、静と動。この矛盾をどう解消しますか?」

 

提督(うっ、大淀が『面白くない』って言った。それって実質、『宇宙なんかと一体化してないで、もっと俺を構え』ってことじゃね!? 宇宙が……俺のコスモが……スーパーノヴァしそうだ……!!)

 




作中で出てきた『生存者バイアス』について解説します。

生存者バイアス:失敗した人たちの声が消えてしまい、生き残った(成功した)一部のデータだけを見て「こうすれば成功する」と勘違いしてしまうこと。

【例】
帰還した戦闘機の機体を調べると、翼や胴体に弾痕が多い。多くの人は弾が当たりやすい翼や胴体に装甲強化しようとする。ただし実態はそこを撃たれた機体は帰還できず、観測対象から消えている。つまり弾痕がないエンジン周りを強化するのが正解となる。
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