覇種の使い魔~輝輝臨臨~   作:豚煮込みうどん

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そろそろ第一期終わりそうです。かなり駆け足してますがご容赦下さい。最近ハチャメチャしてないからな…
それと外伝向けアンケートを実施してます。詳しくは活動報告で。

尚、次回予告は次回の内容と違う場合が多々あります。ご理解下さい。



緊急アルビオン迎撃戦 主杖使い魔有り 弁当無しココ!@3

ここはアルビオンのロンディニウム、その酒場の一角で腰に杖を差した一人の貴族の男が酒を呷っていた。

全身に癒えたばかりの火傷後を残してグラスを傾けている男の名前はワルド、かつてトリステインの魔法衛士隊隊長だった男でアルビオン貴族派つまりはレコンキスタへと繋がり国を裏切った男だった。

 

「…虚無とは一体何なのだ…」

 

男の口から溢れたのは先日自分が目にした光景に対する疑問、ウェールズを討ち取った功績からワルドは先日皇帝へと即位したオリヴァークロムウェルと共にニューカッスル跡地の探索を行った。

そこで目にしたのはウェールズを含む多くの死者を蘇生させ己の配下に加えるというクロムウェルの虚無の魔法。

 

ワルドはその御技を目にした時恐ろしいと感じた…同時に抱いたのはどうしようも無い忌避感だった。

 

「よぉ『閃光』の、随分浮かねぇ顔してるじゃあねぇか。」

 

そんなワルドの座るテーブルの向かいに一人の男が無遠慮に腰掛ける。逞しい体躯に赤茶けた髪、片眼を眼帯で覆った空賊の頭といった感じの様相の男だった。

 

「『砂喰い』か…傭兵風情がこの私に何の用だ?」

 

砂喰いと呼ばれた男に興味を持つ事も無くワルドはもう一口酒を呷る。逆に砂喰いもその不遜な態度にかみ殺すような笑いを浮かべるだけで特に気にした様子も無い。

 

「いや、何トリステインの事で面白い噂を耳にしてな。もとトリステイン貴族のあんたに話を聞いて確かめようって話さ。」

 

「ほう…どんな噂だ?」

 

砂喰いの口がニィっと面白そうに歪む…

 

「下の傭兵連中が言うにはトリステインが戦争に備えて傭兵を囲い込んだり兵糧や火薬をかき集めたり、やたらと金が動いてるそうだがその金の出元がちょっと面白そうなんだわ…」

 

「その動き位は知っておるわ、その為の例の作戦であろう。」

 

「まぁ聞けよ、あんた聞いた事があるかい?無限財公爵ヴァリエールってお人が国がひっくり返る様な金を国庫に納めたそうだぜ…」

 

ワルドの眉がピクリと動く、ヴァリエール家と言えば自分にとって大恩ある存在であった。国を捨てる事を選んだ今でも良くしてくれた彼家には捨てたはずの良心が少々申し訳ないと思っている。

 

「じゃあそんな大金どうやって出したかって話だが…噂じゃあ金の卵を産む鶏を手に入れたんだとよ。眉唾話にも程がある…笑えるだろう?」

 

ワルドはその一言にピンと来た。一目しか見る事は叶わなかったがルイズが呼び出した二頭の使い魔…あれが直ぐに脳裏に浮かんで思わず笑いが込み上げる。

 

「ククク、金の卵を産む鶏か…噂というのは尾ひれ羽ひれが付いて大きくなる物が相場だがまさかそれが逆にもぎ取られて小さくなるとはね。砂喰い、その噂鶏じゃあなくて土中を泳ぐ不思議な魚だ。それも特別巨大なね。」

 

「ほう…おもしれぇ、実在するのか…あんたに聞いて噂の真偽を確かめたかったんだが聞いてみて正解だったな。それじゃあそいつを捕まえりゃ大金持ち確定だな。」

 

「フッ悪い事は言わん、狙おうというなら辞めておけ、あれは人が立ち向かっていい生物では無い。」

 

ワルドの冷静な助言を砂食いはフンと鼻で笑うと可笑しそうに笑った。

 

「随分と臆病風を吹かすな、流石は風のスクウェアだ恐れ入る。」

 

次の瞬間、ワルドのレイピア状の杖が砂食いの喉元に突きつけられた。正に閃光の二つ名に相応しい早業。しかし砂食いの表情は些かも変わる事は無く、未だにニヤリと口元を歪めたままだった。

 

「この私を舐めるなよ!金で誰にでも尻尾を振るような卑しい傭兵風情が。」

 

「そっちこそ侮って欲しくないな…金さえ貰えりゃ傭兵は雇い主を裏切らないぜ。」

 

ワルドと向き合うこの男、名はオーディー性は無い、その二つ名は『砂食い』

 

レコンキスタ軍陸戦隊筆頭戦力バトラス傭兵団という大勢のメイジを擁する傭兵団の頭であり、土のスクウェアメイジだった…

 

 

 

 

 

~ルイズside~

 

学院に戻った私を待っていたのはアルビオンの凶報と凡そ一月後に控えた姫様とゲルマニア皇帝との婚姻の際の祝詞の歌い手に任ずるという王宮からの命令だった。

 

「何故わたくしが?」

 

「君はアンリエッタ姫殿下にとっての唯一無二の友人であり、王家の血を宿す者じゃ。不思議は無い。それに最近の君は献金の件でも水の精霊の件でも王宮でも噂になっておるからの。」

 

そう問うた私に返ってきたのはオールドオスマンの言葉と白紙の始祖の祈祷書だった。

 

それからの日々はとても長くて短かった。

 

「完成よ、え~『火は空に登って中々降りてこないワールドツアーするな。

水はすぐエリア移動するしアタリハンテイが理不尽だ。

風は使いどころが微妙だ、もうちょっと属性値高くして。

土はジャガイモ。』

どうかしら?」

 

「全く持って駄目駄目です!!」

 

残念な事に私には素晴らしい祝詞を作るような才能が無く、出来上がった物を誰かにチェックして貰う度にその都度溜息と共に駄目出しを頂く日々が続いていた。

 

シルとゴルについては遠乗りでは無いけど定期的に日帰りで散歩に連れ出している。

それとインゴットの作成も相変わらずのスピードで作られてもうかなりの量のお金が王宮に送られた筈である。

それがどういう風に使われているのか私は知らないけどお父様から先日届いた手紙には少々のお叱りと沢山のお褒めの言葉、それと財源は国の為に大いに役立てるという旨が書かれていた事がとても嬉しかった。

 

そんなある日、遂に私は祝詞読みのお役目の為、王宮からの迎えに従って登城する事になってしまった…祝詞?勿論完成しているわ、やっぱり困ってる時に助けてくれるのが友達ってものだわ。

 

シルゴルは学院に大人しく待機させている…流石に王都へ連れて行くのは危なすぎるし…それと呼び出したばっかりの虚無の曜日みたいな事にならないようにかなり強く言い聞かせてあるからきっと大丈夫だと思う。

 

うん、大丈夫な筈…よね?

______

 

 

私が王宮に到着して早速アンリエッタ姫殿下にご挨拶をと思っていたのだけれど何故か王宮内がやたら慌ただしい、仕方が無いので私に宛がわれた王宮の一室でひたすらに祝詞の読み上げの練習をしていた私に王宮の使用人がとんでも無い情報を私に伝えにやって来た…

 

「結婚式が中止ですって!?」

 

「左様で御座います、現在我が国はアルビオンからの奇襲を受けており戦端が既に切られております。その為この度のお輿入れも無期限の延期にと…」

 

「姫様は?今どちらへ!!」

 

私は腰掛けていた椅子から立ち上がると使用人の男に詰め寄る。

 

「はっ、アンリエッタ姫殿下は御自ら軍を率いて出陣なされたとの事で御座います。」

 

頭の中で血が上がったり下がったりで思わず立ちくらみが起きそうになったけれど今はそれどころじゃあ無い。私は考えるよりも早く部屋から飛び出していた。

 

「お待ち下さいヴァリエール様!!」

 

使用人の男が呼び止めるけどそんな物に構ってなんて居られない。

 

「馬を貸して頂戴!!主が戦場に赴こうとしているのよ、臣下が続かぬ道理は無いわ!!」

 

程無くして私は足となる一頭の馬を確保する事に成功した。緊急事態故王家の馬も余裕があるとは思えなかったけれど馬や幻獣なんかの兵力がここ最近異様に強化されたらしく退役したばかりの馬が都合良く空いていた。

 

私は鞭を振り上げて馬の手綱を力いっぱいに引くと馬と共に駆けだした。目指すは…

 

「さぁ、行くわよ!!タルブ平原に!!」

 

 

_________

 

 

~エミットside~

 

待ちに待った時が訪れた…

 

「ゲスが…貴様等が誉れ高きアルビオン空軍を名乗るな!!」

 

あの日、私は屈辱と共にアルビオンを脱出して使い魔ベルと共にトリステインに落ち延びた。トリステインへの亡命を受け入れられた私に待っていたのは堕落したトリステイン貴族と弛んだ衛士達からの侮蔑と嘲笑の視線だった。

それでも構わなかった、何故ならレコンキスタ共と戦える、その願いさえ叶うのであればその他の事等どうでも良かったからだ。

 

そして今日、私の目の前には卑怯にも不可侵条約を小賢しい言い掛かりで一方的に破棄したアルビオンの軍勢がトリステインに牙を剥いた。

 

トリステイン軍は虚を突かれた形である以上、はっきり言って戦力が乏しい。私が亡命して以来急速に軍備の増強に備えて来たが今回の様な奇襲ではその力も十全には振るえない…特に航空戦力という一点でその差は歴然だ。

 

既にトリステインの旗艦メルカトールを筆頭に多くの船が先の奇襲の際に轟沈しているし強力な新型砲を備えたレキシントン号のせいで制空権が完全に奪われている。

 

「行くぞベル!!」

 

私はトリステインの空軍の客将として躊躇う事無く使い魔の背に乗って一番槍となった。

アルビオンの船から龍騎士が躍り出る。かつての同輩が駆る火竜だ、私は知っている。その背に乗る同輩は3ヶ月前に私の目の前で敵に討たれて死んだ筈だ。覚えているよ未熟だが良い奴だった。

 

「ライトニングクラウド!!」

 

ベルが羽ばたく度に放出される電気を嫌って火竜の動きが鈍った瞬間にせめてもの冥福の祈りを込めた私の赤い稲妻が騎士を焼いた。

 

 

『冥雷』忌み嫌われた二つ名だったが冥府から蘇った者達を再び葬り去る私にこれ程相応しい二つ名は無いだろう。

 

「…眠れ、安らかに。」

 

再び前を見れば目の前にはかつての仲間達が立ちふさがる…

そのどれもが目の前、ないしは伝達で死んだと聞いていた者達だった。

 

(良いだろう…全員冥府に叩き戻してやる!!)

 

そしてその最奥、其処にはこちらを見る黒い風竜の背に乗ったワルドの姿があった…その姿を見つけた瞬間、ぞわりと自らの放つ殺気で身の毛が総毛立つ。

 

「そして殿下の仇、貴様は殺す!確実にだ!!」

 

 

エミット・ジーエフ・ド・ラ・ギュロスは今日この戦場で命を燃やし尽くすつもりだった…

 




『ベル』  エミットの使い魔、人一人なら余裕で乗せて飛べるサンダーバード。外見はちっさめなベルキュロス。でも乗ってる人間は普通は感電する。
『オーディー』 オディバトラスっぽい人。ジャガイモ大好き。

眩き獣が走る、跳ぶ、吠える。
大砲が唸り、魔法が弾ける。
鉄の牙が地獄の釜をこじ開ける。
土煙の向こうに待ち受ける、揺らめく影は何だ。
いま、解き明かされる、レコンキスタの謀略。
いま、その正体を見せる巨体の謎。

次回「逆襲」

ルイズ、牙城を撃て。

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