しかし頭の中に出来上がってるイメージを文章として出力するのって難しいですね。
~コルベールside~
ミス・ヴァリエールが呼び出した二頭の使い魔…
私は既に何度も何度もその異常とも言える存在の事を調べる為に学院の図書館、その最奥、学院の許可を得た者しか閲覧できないフェニアのライブラリーであらゆる資料に目を通していました。
成果は?と問われれば情けない事ではあるけれど私には頭を掻いて笑って誤魔化す事以外に出来ませんな。何せ一切の情報、それこそ使い魔のルーンについてすら何も判明させる事が出来なかったのですから…
「…ふぅ…なんと言う事だ…」
そして先日ミス・ヴァリエール達を連れて立ち寄る事と成ったラグドリアン湖で私は望外の福音と巡り会っていた。つまり水の精霊との邂逅…
水の精霊はかの使い魔を前にしてこう言っていた。『リーヴスラシル』、そして『かつてはガンダールブであった』と…
リーヴスラシルという言葉が一体何なのか?という調査を終えても特に成果を上げる事が出来なかった私が次に探したのは当然の如くガンダールブという存在について。
「…ガンダールブ…神の左手、始祖の使い魔…」
そうして辿り着いたのはどれ程の古い物かも分からない古代ルーン語で書かれた始祖の使い魔について記された魔法書、辛うじて翻訳出来た一文には確かにガンダールブの文字。
始祖の四人の使い魔、その一角と記されたガンダールブ、その力はあらゆる武具を使いこなして千の兵を薙ぎ払う無双の守り手…使い魔のルーンの図と共にそう記されていた。
ではリーヴスラシルとは何なのか?私が読み解いたその書物ではその核心には届く事が出来なかった…なにせ殆どの事がまるで語る事すら憚られると言った具合に記されてはいなかったのだから…
…それでも
「神の心臓…か」
書に書かれていたリーヴスラシルのルーンの意味を紐解いて得られたのはその曖昧な言葉のみ…
流石に始祖ブリミルも思わず溜息を溢した私を責めはすまい。何せ私が辿り着いたのはミス・ヴァリエールの使い魔が始祖の使い魔の一角であるという可能性なのだから…
(む…)
ふと恐ろしい想像が脳裏を過ぎる…
この世界で始祖とは絶対だ。その始祖の使い魔であろう存在、今でさえその鱗には恐ろしい価値があった…それも唯の貴金属としてだけでだ…そこにもし仮に、万が一この事実が誰かに知られ始祖ブリミルの使いというハルケギニアでも絶対と言えるブランドが付加されたとしたら……
これ以上考えるのは止めよう…そんな恐ろしい事が世間に、否教会に伝わればどんな事になるかは私には想像できないししたくない。
このままこのことはミス・ヴァリエールだけとの秘密にするべきだろう。
もし万が一、いや億が一にでもあの使い魔達が戦場なんかで圧倒的な武勲を上げでもして救国の英雄としてそのままなし崩し的に神格化されたり、あまつさえそのルーンの秘密をロマリア等に察せられる等と言う事はあり得ないはずなのだから…
「うむ…少し気分を落ち着かせる為にも何か飲みますかな。」
一人呟いてカップに注がれた紅茶を口に含む…その瞬間、誰かの慌てて走る足音が図書館に近づいてきた。ここはやはり教師として一言注意をしなければなるまい。
そう思って紅茶を口に含んだまま立ち上がろうとした瞬間、私の前に飛び出してきたのは慌てた様子のメイドのシエスタ君だった
「ミ、ミスタ・コルベール大変です!!」
何をそんなに慌てる事がありましょうか?先ずは落ち着かせて話を…そう思った私にシエスタ君はとんでも無い報告をもたらした…
「シルちゃんとゴルちゃんが…脱走しました!!!」
ブバッ!!!
思わず始祖の使い魔の書に思い切り紅茶を吹き出した私を始祖は…いやこの場合学院長は果たして許してくれるだろうか?
__________
「これは…」
見上げるその巨体にアンリエッタが思わず口から溢したその言葉は、実際にはその光景を目にしたこの戦場に居る殆ど全ての人間と同じだった
大地を食い破り天へと躍り出た二匹の巨大魚が巻き起こした動揺は凄まじく、必勝の流れに乗った神聖アルビオン帝国の蹂躙の為の進撃が一瞬で停止する。
無論、混乱を来したのはアルビオン側だけでは無くトリステイン軍も一様にその足を止めている。目の前に現れた怪物がどの様な存在か等、この戦場に立つ人間の中に知るものなど殆ど居ないのだから。
そんな中でルイズは…
「……シル…ゴル…」
主の力と成るべく現れた使い魔達の偉相に自然と溢れる微笑みを止められなかった。
己の主の国に攻め込み、あまつさえその刃を向けた愚か者、それは即ちシルゴルにとっては自分達の縄張りに入り込み、群れて襲いかかって来たかつてのハンターと同じだ。
しかし今は自分達の主君はルイズ、ならばどうするか?聞くしか無かろう?
そして、堂々たる姿で立ち上がった二匹の使い魔の視線がルイズを捕らえ、雄弁に語る。
『命令を!!』
『主の縄張りを守る許可を!!』
『闘いをっ!!』
と…
「ルイズ?」
一瞬時が止まった戦場で俯いたルイズの直ぐ隣でアンリエッタがルイズに問い掛ける。目の前の怪物がルイズの使い魔である事を知っているのはここでは極少数、その一人がアンリエッタだったからだ。
次の瞬間、勢いよく顔を上げたルイズの視線が真っ直ぐにアンリエッタに突き刺さる。それは強い覚悟を秘めた正に貴き者、貴族の瞳だった。
「姫様、忠勇なる我が使い魔の力をお見せ致します!!…行きなさい、あんた達!!今!この場所!アルビオンの軍勢に対してのみ、『闘う』事を許すわ!!」
ルイズの言葉にアンリエッタが頷くと同時、ルイズは杖を振り上げてレキシントン号、延いてはアルビオンの軍勢を指し示すと遂にシルゴルにその命令を下した。
次の瞬間、どこからともなく響いた角笛の音色に互いの軍勢が混乱からの硬直から解き放たれた。
同時アルビオン軍の最前線、正に槍衾と言える様なランスを持った突撃兵の隊列の突進と後方からは弓矢が飛来する。
本来ならばここでトリステイン軍も歩兵による進撃が行われるべきであったがそれが行われる必要は既に無くなってしまっていた。
それは何故かと言えばシルとゴルがその場半径で言えば100メイル程を互いが互いを追い回すように這いずり始めたからだ。徐々にアルビオン軍方面へと移動するように。
互いが放つ雷と氷のエネルギー…それが高速で絡み合い、瞬時に成長し、圧倒的に暴走するとあっという間に巨大な竜巻が生まれ、それが無慈悲にアルビオン軍に向かって放たれる。
「逃げろぉ!!!!」
「後退だ!!」
「ば、化け物ぉ!!」
矢の雨も魔法も悲鳴諸共尽く産み出された乱流に飲みこまれ、鉄壁の壁と表せた筈の槍を構えた騎士達が上空に巻き上げられた瞬間その身体は驚異的な風の勢いによって無残にもバラバラに引きちぎられた…
シルが司る冷気によってその血しぶきは一瞬で凍結し、ゴルが司る雷撃は遠く離れて辛うじて難を逃れたと思っていた兵士達に降り注いでいる。
それはアルビオン軍にとっては正に一方的な阿鼻叫喚の地獄絵図だろう…しかしそれはさっきまで一方的とも言える砲撃によってトリステイン側が味わっていた事でもあるのだ。
「何という…」
しばらくの間の蹂躙の後ようやく嵐が収まった時、トリステイン軍の前に広がっていた光景にマザリーニは絶句しながら身体の震えを押さえる事が出来なかった…それは多くの将兵も同じであった。
「進言致します殿下!先程の一撃で敵中央が崩れ浮き足立っております。この期に隊の総力で中央を突破するべきかと!」
一人の将官貴族がアンリエッタに進言する。
「それではこちらの両翼が危険では無いか!?脇腹を突かれる。ここは一度退くべき所ぞ!」
かと思えば別の将官が別の作戦を持ち上げた…が、ここで声をあげたのは以外にもルイズだった。
「恐れながら、両翼は我が使い魔にお任せを!」
「ルイズ…良いのですか?」
ルイズの進言に一瞬の迷いを見せたアンリエッタではあったがルイズは力強く頷いた。その様にアンリエッタの周囲の将官達も響めきながらもそれぞれ周囲に命令を下して戦力を集め始める。
その間にもシルとゴルは戦場を這いずり廻りながら、あるいは潜行しながら、それぞれ片っ端からアルビオンの歩兵連隊達を蹂躙している。
「シル、ゴル!あんた達はそのまま敵の両翼の部隊に廻って!!敵が逃げるなら追わなくて良いからね!」
「ミス・ヴァリエール、よろしいか?こちらの左翼側に恐ろしく腕の立つ敵メイジがいるようです。」
「大丈夫です、我が使い魔は無敵ですから!!」
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~ボーウッドside~
「砲撃手、両翼のあの魚の化け物に砲撃を集中させろ地上の戦線の再構築の援護だ!!操舵手、高度を下げすぎるな!先程の大嵐直撃すればこのレキシントンとて墜ちるぞ!!」
王家への反乱からこの度の遠征、上に従いながら此処まで来てしまった…
与えられてしまったアルビオンの象徴ロイヤルソブリン号の…いや、今はレキシントン号か…その艦長という名誉も最早虚しいものだ。それでも私は軍人として部下達の為にも戦わなければならない。
多くの艦や竜騎兵に被害を出しながらもようやく冥雷を退け、空はもとより地上でも流れを掴んだ。と思ったら突如トリステインの戦列に現れた二匹の魚の怪物、上空からでも一目で理解出来るその異常性にはまるでこれが罪深い我々に与えられた始祖の裁きなのではと錯覚しそうだった。
「報告します!現在地上の戦線は混乱状態、既に勝手に撤退すら始めている部隊まで出ております。」
「判った。一刻も早くアレを止めるぞ!!」
物見兵からの報告…見れば分かる。何せこちらの新型の大砲があの化け物には通用していないのだ…30メイルの巨体でありながら馬以上の早さで進み、ゴーレムすら足止めにならない上、地中すら進むせいで地理的遮蔽物の一切を無視するわ、運良く命中した大砲でも一時怯ませることが精々でとてもでは無いが致命傷にはほど遠い。
既に派遣した竜騎士隊も吐き出された雷球状のブレスで墜とされた。そんな怪物が這いずり廻る地上は非道い光景が広がっている…
「艦長、何をしている!はやくあの化け物を仕留めんか!!」
「はっ!只今我等の総力を持って当たっております、どうかご安心を!」
「アレをどうにかすれば我等の勝ちなのだ!くれぐれもよいな!?」
溢れそうな溜息を堪えながら、同乗しているアルビオンの議員閣下からの突き上げを適当にやり過ごして深く帽子を被り直す…
(…これは我々の負けだな…)
右翼に展開するバトラス傭兵団からの砲撃要請の狼煙を確認しながら私はせめてこの負け戦の撤退の支援をする為に部下に指示を廻した。
次回でタルブ戦が終えられると良いなぁ…前回も同じ様な事書いてたような気が…