アルビオン迎撃戦がようやく終わったよー。それと就職活動が終わったので2月入ったら間違いなく更新速度が落ちます。
「来やがったか!!」
前線から距離をとっていたオーディーが部下のサルモスの作り出したゴーレムの肩の上から戦場を見渡しながら嬉しくて仕方が無いといったどう猛な笑みを浮かべる。それも当然だろう、なにせオーディーが心底望んでいたターゲットが目の前に現れたのだから。
その視界の先では武勲を立てる為に突撃していたアルビオンの軍勢が、無論バトラス傭兵団の団員も数多く含まれている、それらがゴルの黄金の巨体に蹂躙されている光景が広がっていた。
「ハハハハッ!おいサルモス、俺がもう一度アントリオンでアレの動きを止めてやる。砲撃要請の狼煙を上げろ!!」
「し、正気っすか?俺達も逃げないとやばいですって!!」
ご機嫌で自分のゴーレムの肩から飛び降りたオーディーを見下ろしながら慌ててサルモスが進言するも、オーディーの機嫌の上昇は止まらない。何かと便利に使われることの多いサルモスはいつもこうだと内心で嘆きと愚痴をこぼす。
「正気で戦争が出来るかよ。それとありったけの火の秘薬を詰めた樽を馬車に積めて突撃させる用に馬のゴーレムの準備をしておけ!!」
それだけ言ってあっという間に喜色満面なオーディーは馬に跨がるとゴルが暴れ回っている前線に進んでいった。
「アレが無限財か、良いじゃねぇか、運が向いてきた!アレを仕留めてバラせば一生遊んで暮らせるぜ!!」
ゴルの姿を見てちりぢりに逃げようとする歩兵達が尾に薙ぎ払われて吹き飛ぶ、渾身の風の刃を杖に纏わせて特攻を仕掛けたメイジは接触と同時に昏睡し、岩すら溶解させる必滅の火球は多少の効果を与えるだけで虚しく胡散する。
正に鎧袖一触のその光景を見て、ワルドがかつて抱いて語った人が立ち向かって良い相手では無いという言葉、オーディーはその時はそれを鼻で笑ったが今は成る程仕方が無い。と思っていた…しかし最後に勝つのは自分だ!
周囲を見上げればサルモスに命じた狼煙が上がり、艦砲がこちらを覗っているのがオーディーには判った。
「巻き込まれる馬鹿は自分を恨めよ!飲み込めっ『アントリオン』!!」
大暴れするゴルの周囲で倒れ伏す味方諸共に流砂が発生する。その流砂の大きさ自体は一度目と比べるまでもなく小規模ではあったが込められた魔力は決して劣ってはいない。砂上の者を飲み込む速度、深さ、そういった物が段違いだった。それは元々敵のアジトや建物を沈める為に作られた魔法だからだ。
それがゴルの足下で作り出されればどうなるか?当然その凄まじい自重でゴルの下半身が砂に飲まれて胸びれより上だけが地上に露出する。少なくない味方をも飲み込んで…
「クソがっ暴れるなよ…化け物が『錬金』!!」
続けてオーディーが唱えたのは錬金の魔法、これも一度目よりも強く、固くを意識した強力な錬金だった。欲を言えばオーディーは更に地面に固定化をかけたかったが流石にそれをするには精神力が足りないという自覚があった。
しかしそれでもゴルを拘束できるのは極短時間である。そもそも固い地面を泳ぐように移動するのはヴォルガノス類として当然の能力、今僅かにでも動きを止めていられるのは不意を打った事と岩盤を砕く頭部を旨く外に露出させる事が出来ているからだった。
当然ゴルはこの状況を抜け出す為に身体全体を上下左右にブンブンと振り回して脱出を計る。時間にして10秒程で限界を迎えた地面が砕けてその巨体が拘束から解き放たれようとしている…
再び錬金で地面の拘束を強めているオーディーにとってもこれは賭けだった。全てが上手くいって運が良ければといった様な…
しかし、天はオーディーに味方した。示し合わせていたとはいえゴルが地上に再び飛び出したまさに絶妙なタイミングで届いたレキシントン、その他の艦から放たれた大砲の雨がゴルの元に降り注ぎ、同時にサルモス以下に命じていた火の秘薬を詰め込んだ馬車がゴーレムに引かれゴルに猛スピードで特攻を仕掛けたのである。
「ぬ…うおぉぉぉっ!!」
大爆発に合わせてハリウッドダイブで地面に伏せって身を守るオーディー、その背に爆発で起きた熱風と吹き飛んで来た瓦礫が襲いかかる。
それを何とかやり過ごした後に目に映り込んだのは背びれと頭部に大きくダメージを負い、他にも各所に傷が刻まれ、もはや瀕死なのだろう力無くその場で跳ねる事しか出来なくなっているゴルの姿だった。
「フフフ……フハハ…ハーーーーーハッハッハッハッ!!!!!!!」
両手を広げて天を仰いだオーディーが腹の底から歓喜の笑いを放った。
それも仕方が無いだろう、何故なら彼の目の前には爆発で巻き上げられた大量の黄金の鱗がヒラヒラと舞い落ちてきているのだから。そのギリギリの大勝利を祝福するような黄金のシャワーの前に辛うじて生き残っていたアルビオンの人間も沸き上がった。
『ウオオオオオオオオオオッ!!!!』
その様子は空から見守っていたレキシントンにも歓声があがり、すっかり落ち込んでいた士気もまるでひっくり返したかのように一気に爆発した。
「見たか!バトラス傭兵団が怪物殺しを成し遂げたぞ!!皆の物続け、やりようによってはもう一匹のあの怪物も仕留められるのだ!!左翼を中心に前線を再構築、押し上げよ!敵本陣の守りは今は薄いぞ!」
流石にその光景には戦に消極的であったサー・ヘンリー・ボーウッドもこの期は逃せぬとばかりに興奮を隠す事無くやつぎはやに指令を飛ばす。人格等は最悪なのを知ってはいたがそれでもオーディーがもたらした戦果は正に値千金の英雄の物であったからだ。
しかし…
その希望の後に訪れたのは絶望でしか無かった…
突如、地面が震動した瞬間、ゴルの巨体が盛大に上空に突き上げられた。
『は???』
それは地上も艦上も関係無く、現実を認めたくなかった全てのアルビオン兵の声であった。
ひょっこりと表するしか無い様子で地上に姿を現したのはシル、右翼側を襲っていたにも関わらずこっちに現れたのは彼等アルガノス、ゴルガノスとしての習性故の事だった。
その原理こそ判明はしていないが彼等には特殊な習性がある。それは『モンスター版根性』と呼ばれる物と『心臓マッサージ』と呼ばれハンター達から最も恐れられている物である。
まず彼等は互いに別々の生命体でありながらそれを共有している節がある。彼等を殺すには両方を完全に打ち倒した後で改めて止めを刺す必要がある。それがどういう事かと言えばつまり両方の個体を同時に瀕死に追い込まない限り彼等は死なないのだ。
そしてどちらかが力尽き、満足に動く事が出来なくなった場合相方に対して乱暴すぎるとも言える地面からの頭突きによってどういう理屈か再び力を取り戻して大暴れを再開させるのだ…
無論、その永久機関じみた行動も限りがある…連続して心臓マッサージを行えば行う程蘇生を受けた個体は復活した後の体力が極端に減少するのである。
通常は…
「総員、退艦せよっ!!」
シルによって上空に打ち上げられたゴルの巨体がどうなったかと言えばそれは不運にも砲撃の為に接近していたアルビオンの戦艦に向かって文字通り飛んでいたのだ…
勢いに任せ、まるでB級の巨大モンスターパニック映画のお約束の如く、その巨大な顎が戦艦の胴体を食い破る。無論、船が轟沈したのは必然だ。
その身体にはあれだけの攻撃を一身に受けていたにも関わらず殆ど傷の無い美しさを放っていた。
その光景にアルビオン軍の戦艦のクルー達は顔を青ざめさせる…今までシルゴルの攻撃は上空にいる自分達には決して届かないだろうというある種の安心感があったのだがそれがいとも容易く覆されてしまったのだから。
『神の心臓リーヴスラシル』
二匹に与えられたルーンは二匹の習性を最大限……否、必要以上に発揮させていた。
なにせ通常は僅かに体力を回復させるそれが流石に伝説と謡われる始祖のルーンの力を得たせいで『完全回復』という悪夢に昇華されているのだから!
「…逃げるぞっ!!撤収だ!!」
顔を青ざめさせたのはなにも戦艦クルーだけでは無い…むしろ地上の部隊の方が深刻だ。それはそうだろう、さっきのオーディーの奇策で上げた戦果によって下がったトリステインの士気が再びうなぎ登り、加えて当然の如く落下してきたゴルがシルと合流する。
ならば、もう一度アントリオンと砲撃でとは行かない。奇策は所詮奇策、何度も行える物でも無ければ例えそれが実行され成果を出したとしてもそれこそ次の瞬間には徒労と化すのがついさっき目の前でこれ以上無いと言う程に証明されてしまったのだ。
撤収を決断したオーディーとバトラス傭兵団の動きは素早かった…足下の黄金の鱗を回収すると迷う事も振り返る事もせず一目散に逃走を開始した。
「逃げる敵は追わなくて良い。」
知るよしは無いがそう厳命されていたシルゴルを前にその素早い判断は正しく、再び二頭が巻き起こした巨大な大嵐が残存していたアルビオン軍を薙ぎ払ったのはその直後であった…
既に弾薬が尽き、士気を完全に折られたレキシントン号から白旗が上がったのはそれから3隻の戦艦が爆散した直後だった。
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~ルイズside~
『トリステイン万歳!トリステイン万歳!我等が守護獣ゴールス万歳!シルバ万歳!!』
戦場一帯から響き渡る熱に浮かされた兵士達の唱和、自分でも信じられない戦果だった…
「ルイズ、貴女の使い魔は素晴らしいわ…勿論それもそれを御する貴女あってのことですが。私は生まれて初めて奇跡という物をこの目で見ました。トリステインは守られたのです!」
「姫様…私…私…」
涙と嗚咽混じりで言葉に詰まるルイズへユニコーンの馬上から飛び降りたアンリエッタが熱い抱擁を行い、その功績を純粋に讃える。
「貴女は紛う事なき英雄です!!」
その時、アンリエッタと抱擁を交わしていたルイズは気が付いてしまった、見えてしまった。こちらに向かって飛来する一本の矢。それはひどくゆっくりにも見えたが誰もが反応できなかった…それが描く放物線の最終地点は間違いなくアンリエッタの背中であることをルイズは直感で確信する…
「姫様っ!!!…!!!」
咄嗟に…そう咄嗟にアンリエッタの身体を突き飛ばしたルイズであったがその代償に己の左胸を貫くように矢が突き刺さる。
「ルイズっ!?ルイズゥゥッッ!!」
響くアンリエッタの悲鳴が薄れ行く意識のルイズに最後の言葉として届く。
最後の抵抗を行っていたアルビオンの奇襲部隊、その一兵が苦し紛れに放った出鱈目の矢がいとも容易く一人の少女の命を奪った…
希望から絶望に叩き落とされたのは何もアルビオン軍だけでは無かった…
トリステインとアルビオンによるタルブ戦役は幕を閉じた。
この魚達やりたい放題である。
再生の為の停戦。(圧倒的力で)
破壊の為の建設。(有り余る金の力で)
歴史の果てから、連綿と続くこの愚かな行為。
ある者は悩み、ある者は傷つき、ある者は自らに絶望する。
だが、営みは絶える事無く続き、また誰かが呟く。
たまには散財も悪くない。
次回『終戦』
神もピリオドを打たない。