覇種の使い魔~輝輝臨臨~   作:豚煮込みうどん

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ゼル呼んだよ(棒)誰が呼ぶかなんて話はしてなかったからいいよね?
私は書く時は流れが頭に出来たら一気に書き上げてるので期間が空くとどうしても書くのが難しくなりますね。

内容と後書きをちょっと編集


外伝~烈種の冒険~天空の閃槍者

その年、その運命の日、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラヴァリエールは己の生涯の伴侶となる一人の使い魔を召喚したのだった。

 

 

「いてて…ん?…此処は一体何処だよ?」

 

ルイズの召喚に応じたのは盾と剣を持った一人の少年、ハルケギニアでは見る事の無い様な徹底的な機能性を求めた装束、それは『狩人』の世界に足を踏み入れしルーキーに与えられる『希望』。

それはホープシリーズと呼ばれる異世界の装備だ。

 

彼の名は『サイト』

 

元の世界で在籍するハンター協会、その教官からようやく一人前になったと認められ初めての独力での狩りへの出発の際、銀色の光というエラーによって何の因果か突然異世界に召喚された。

彼の視界に飛び込んで来たのは密林でも砂漠でも無ければ雪山でも無いレンガ造りの要塞じみた建築物に囲まれた平原という未知のフィールド、そして自らをサイト、つまりは自分の主人と名乗る桃色髪の美少女…

 

そして…

 

 

 

「ゼル…レウス…だと…?」

 

 

 

短い青色の髪の少女の傍に大人しく寄り添い、付き従っている白い鱗と甲殻を纏い全身にサファイアの様に青い結晶を纏った、サイトの世界に存在する神格化すらされている異形の飛竜…

 

それは通称『輝界竜』『白き天空の王者』『黒き飛竜と対を成す者』数多の二つ名を持つ正真正銘のモンスター

 

 

 

その年、トリステイン魔法学院には伝説として語り継がれる二つの使い魔が世界の壁を越えて現れたのだった…

 

 

__________

 

 

タバサは自分の呼び出した使い魔を一目見た時に確信していた。

 

(強い…否、強すぎる…)

 

一般的な風竜、火竜を一回り以上大きくした様な全長、前腕が進化した翼を持つ事から基本的に高い知能を持つ竜種(ドラゴン)では無くその亜種、いわゆる飛竜(ワイバーン)である事は察っする事が出来たがそれでも自分の使い魔のような飛竜をタバサは知らなかった。

全身を覆う白と青の美しいコントラストに対してルビーの様な赤い瞳は暗闇では残光を引きそうな輝きを放ち、青い結晶の爪は常に自分では理解出来ない何かが常に流動している。

 

「ちょっとタバサ!貴女の使い魔凄いじゃ無いっ、こんなに立派で美しいワイバーン私見た事無いわ!!」

 

手放しで自分の使い魔を褒めるキュルケにタバサはいつも通りの無表情を通すが内心では色々と思う所が多かった。

仮にではあるが、いっそ召喚されたのが風韻竜等であったなら普通の風竜としてその素性を隠す事である程度目立つ事を防げただろうかこの竜は大きすぎるその存在感を誤魔化しようが無い…

 

「名前は何にするの?もう決めた?」

 

「………」

 

キュルケの問いにタバサは無言で首を振る、そもこのワイバーンがどんな竜なのか分からない以上は良い名前など付けようが無い…まぁ自分の真の名前を捨てて生きているタバサにとって使い魔に良い名前を考えるというのも皮肉な話ではあったが…

 

 

 

「ゼル…レウス…だと?」

 

そんな中、ふと聞き慣れない少年の声が聞こえたタバサは何の気なしに声のした方へと視線を向けるとそこにはルイズの呼び出した使い魔らしき少年がいた。

召喚からの何が起きたのか分からないという呆然とした表情とは裏腹に、明確な驚異に対する脅えの視線は真っ直ぐタバサの使い魔に向けられている…そこに込められているのは既知の視線でもあった。

 

(ヴァリエールが呼び出した彼は…私の使い魔の事を知っている?)

 

 

これがタバサがルイズとその使い魔サイトに興味を抱いた最初の瞬間であった…

 

 

その後サイトを通じてタバサは己の使い魔がどんな存在かを聞き学び知っていった。

 

「火竜を狩った事があると言ったけど貴方はゼルに勝てる?」

 

それを通じてタバサがサイトに文字の読み書きを教えたり、病に伏せる自身の母の助けにならぬか?と異世界の薬等の知識の教えを請うたり…タバサには珍しく少ないながらも他人との交流を持ち始めるのだった。

 

「無茶言うな、凄腕のハンターが集まってようやく戦えるってモンスターなんだぜ。俺みたいな駆け出しハンターなんかじゃ死にに行くようなもんさ。」

 

これには偏に純朴で穏やかな性格でありながら、ルーキーではあるもののハンターとして命がけの極限の環境を何度も生き抜き闘ってきたサイトとタバサの相性が良かったと言うのもある。

 

 

その後、タバサはルイズとサイトを中心とした運命の歯車に巻き込まれるように使い魔『ゼル』と共に数多の事件に巻き込まれていく事になる。

彼等を救った事も、逆に救われた事も何度もあった…背中を預け己の命運を託すに値する友人を確かに得たタバサ。

 

フーケ事件…アルビオン事件…水の精霊事件…上げていけばキリが無いし、又タバサ自身周囲の友人達に知られる事無くゼルと共に母国ガリアから下される任務をその類い希な力と知恵でこなしていた。

凡そ1年にも満たないその短い期間はまさに濃密な時間であり、幾ら感情を殺して生きる事を誓ってきたタバサにとってもその胸に宿る者は確かにあった…

 

 

 

そんなタバサの元にある日ガリア王家からの使者、憎き父の仇にして母の心を壊し、あまつさえ人質とするジョセフ、その使い魔シェフィールドに言い渡された命令…それはサイトを足止めし虚無の担い手となったルイズの誘拐を援護せよという非情な物だった…

 

友情と恋心、母親との天秤に悩みに悩むタバサであったが母を救う為に友へと杖を向ける事を選んだ…選んだのだが…

 

 

「行くぜ!ゼルゥッ!!」

 

千人斬り、神の左手…あらゆる戦場をルイズを守る為に戦い続け、生き抜き強くなったサイト自身とガンダールブの力と神剣デルフリンガー、対する揺れ惑うタバサの心を映し出すようにまるで本来の力を発揮する事の無いゼルレウス…

その情けないゼルの闘い振りはギルドから弱個体と烙印を押されてしまうかのような物であった。

 

烈昂の気合いと共に繰り出されたサイトの斬撃がゼルの尾を一閃して半ばから斬り飛ばす…

 

結局迷いを抱いたままだったタバサとゼルレウスはルイズとサイトの必至の説得を前に任務の失敗と同時にその放棄を決める…

そうなれば何よりオルレアンの屋敷に眠る母をガリアの…ひいてはジョセフの魔の手から守らなくてはならない…

 

そして迷いを振り切った小さな主を背に乗せたゼルレウスは尾の損失などまるで無かったかのように空の王者として威風堂々と雲を切り裂いて空を駆けるのであった。

 

 

 

_______________

 

 

 

先程までは小雨が降り続ける曇天の空であったがゼルが雲を切り裂きオルレアンに舞い降りた事で雨雲は霧散し、切れ間から覗いた眩い太陽の光が雨に濡れた荒れ果てたオルレアンの庭園を明るく照らす…

 

其処には一人の人物がタバサ達を待っていたかのようにひっそりと佇んでいた。

 

「ほう…それが音に聞こえし『光の竜』か…成る程確かに、しかし解せないな?その竜、何故風の精霊の加護を持たぬ?」

 

「母様は何処!?」

 

母が眠る筈のオルレアンの屋敷の庭先でタバサを待っていたのは母でも無ければ執事でも無い、帽子を目深に被った長身細身の美男、ジョセフの側近である男、その正体はエルフ、ビダーシャルだった。

普段のタバサからは考えられないような激昂した怒声での問い掛けに一切の感情を表す事も無くエルフの男ビダーシャルは視線をゼルレウスに向けたまま応える。

 

「お前の母は今頃は東のアーハンブラ砦だ。そして私はそこにお前も連れて行けとジョセフに言われている。大人しく付いて来て貰えると…」

 

そこまで言ってビダーシャルの言葉は遮られた…タバサのありったけの精神力の込められたアイスストームが襲いかかったからだ。

しかし…

 

「…やはりこうなったか、こうなれば多少手荒く行くしかあるまい。」

 

「っ!!?」

 

タバサの魔法が強力であればある程、皮肉な事にタバサを襲った反撃も又強烈であった。

ビダーシャルが纏っているのは精霊魔法『カウンター』あらゆる攻撃を反射させる恐ろしい魔法。

その効果によってあっという間に進行方向を変えた氷の嵐に巻き込まれ、軽いタバサの身体が吹き飛ばされて背を強かに打ち付けたのは己の使い魔ゼルレウスの体だった…

 

グルル…と喉を鳴らし、血を流し身体を凍てつかせ倒れ伏した主人の顔をゼルが優しく舐め上げる。ただしその赤い瞳の視線は主を傷付けたビダーシャルを睨み付けたままだ。

ゼルレウスはタバサを優しくその場に置いて守るように前に出る…

 

「獣風情が手向かうか?私は争いを好まぬのだが…仕方あるまい。」

 

精霊の加護を持たぬ者など幾ら竜種であろうとエルフにとっては獣と同じだ。何ら驚異では無い。

ゼルレウスの敵意を受け、呆れながらもビダーシャルが何やら呪文を紡ぐと庭の木々が鋭い槍に石畳は石つぶてとなってゼルレウスに襲いかかる…が、木や石程度ではどれだけ鋭かろうがゼルレウスに傷を付けるなど出来よう筈も無い。これが一般的な竜種であったならば多少はダメージにもなっただろうが…

 

同時、ゼルレウスは踏み込みと共に一瞬にして中空に舞い上がると脚爪でビダーシャルを引き裂くように急降下を行った。それこそサイトと闘った時の様な府抜けた攻撃では無い、着地点そのものを容易く砕くような威力。

 

「ゼル駄目!!」

 

「無駄だ…」

 

タバサの悲鳴にも似た声とビダーシャルの嘲りの声と同時にゼルの青い脚爪が粉微塵に砕け散り足回りの皮膚が裂ける…

ビダーシャルのカウンターの効果がそのままゼルレウスに襲いかかったのだ…

それでもゼルの攻撃は止まらず今度はその鋭く強靱な顎がビダーシャルに襲いかかり…牙が肉を裂こうかというその寸前で再び砕け散るゼルレウスの牙、同時にやはり頭部へもカウンターのダメージが襲いかかったのか鱗が砕け血が噴き出す。

 

「…恐ろしい破壊力だな…だからこそ己を痛めつけるだけだというのが分からぬのか?」 

 

今度は薙ぎ払うように吐き出された極光とも呼べる火と雷の性質を持つ熱閃のブレスさえもカウンターによって反射されゼルレウスの甲殻を焼き、それならばと繰り出された馬鹿げた破壊力の突進さえもカウンターの前にはただただ無意味だった…

 

「…もういい…もう止めて…ゼル…」

 

牙は砕け、爪も折れ、尾を失い、まさに満身創痍のこの状況。杖を支えに何とか立ち上がろうとしているタバサにとっても己の相棒のその姿はまるで我が身を引き裂く様でとても黙って耐えれるようなモノでは無かった…

 

(化け物か…)

 

一方相対しているビダーシャルはその場から一歩も動いていない。まさに圧倒的優位であったが内心ではゼルレウスの持つその攻撃能力に内心で焦り、舌を巻いていた。

そもそも一撃一撃が桁外れの破壊力であるからこそゼルレウスの強靱な肉体にダメージが通るのだ…その威力は未だかつて破られた事の無いビダーシャルのカウンターでも油断は出来ない、仮にもう一歩、否半歩踏み込まれればそれはもう危険な領域だ。

 

(なによりあのワイバーンは何故一向に諦め様としない?あれだけの傷を負えば無駄と分かるはずだろうに…)

 

ビダーシャルの焦りは己が傷つく事を全く躊躇う事無く攻撃を続けるというゼルレウスの行動から不信感から徐々に大きくなる…何かが告げるのだ、このままでは不味いと…

 

 

再度の突進によって遂に翼爪までもが砕け散った事でここに来てダメージの蓄積が祟ったのか遂に足下がふらつき、倒れそうになったゼルレウスであったが何とか再び足を踏ん張り戦闘態勢を維持する…

全身の傷口から血と青い光の粒子を吹き出すその様は痛々しい事この上なかった…がその瞳は未だ輝きを衰えさせる事無くビダーシャルを捕らえて離さない。

 

「もう止めて!!無理だから!あなたは逃げて!!ゼル!!」

 

再び立ち上がったタバサのその声にゼルレウスはチラリと視線を送るとまるで何も心配するなと言うかの如く僅かに口元を歪ませた。笑ったのだ、確かに竜が。

 

その次の瞬間だった…

 

「何!?」

 

翼を広げ、天に向かって咆哮を上げたゼルの全身から強烈な閃光が迸る!

ビダーシャルが驚愕の声を上げたのも仕方が無い、目が眩む様な閃光の中でゼルレウスの砕けた爪、牙、欠けていた甲殻その全てが光の中、一瞬で再生を果たしていたのだ…

傷こそ癒えてはいない、しかしただ再生しただけで無く欠損した各部位、その全てがより強く、長く、固く…挙げ句切断されて欠損していた筈の尾の部分は、それを補うように断面から血しぶきの様に吹き出す青白い閃光がまるで尾を模すように存在していた。

 

この異世界の飛竜であるゼルレウスというモンスターには一つ、他のモンスターとは隔絶した特徴を持っている…それこそが『適応変化』である。

要は傷を負えばそれに対応した肉質を得、圧倒的防御能力と外敵に対する最適な攻撃手段を得るのである。

これらについての再生と形態変化はゼルレウスの生態としては当然の事ではあったのだが皮肉な事にタバサに召喚されてから今まで、ハルケギニアでゼルレウスにまともにダメージを与える事が出来るような外敵がいなかった以上その力が生かされなかったのは仕方が無かったのだ…

 

『グォォオオオオッ!!!』

 

ここからが本番だと言わんばかりのゼルレウスの強烈な咆哮にタバサもビダーシャルも思わず咄嗟に耳を塞いでしまう。如何にカウンターとて音を反射する様な代物では無いのだ。

そしてその瞬間に勝負が決まったのは仕方が無い、本来ゼルレウスなどの大型モンスターと闘うならば耳栓が必須なのだ。少なくともサイトならばそう理解している。

 

ゼルレウスが羽ばたいて宙に浮いた瞬間、掬い上げるように振るわれた尾…同時、その射線上にあった全てが超圧縮されプラズマ化する程の超高熱の体液に薙ぎ払われる…

そんな物を反射など出来よう筈も無く、否、本来であれば可能だったかも知れないが『カウンター』への『適応変化』を果たしたゼルレウスの前にそれは余りにも無力で、地面の膨張と爆発と共にいとも容易くビダーシャルの身体が消し炭となって消し飛ぶ…

 

タバサにしてみれば思わず耳と目を塞いでいて目を再び開いた時には全て終わっていた…

 

いや…なにも終わって等いない…

 

 

「アーハンブラ砦…そこに母様が…」

 

 

タバサの闘いは今ようやく本当の意味で始まったのだ。

 

__________

 

 

この後、運命に翻弄された人形の名を持つ薄幸の少女タバサは友人達の協力を経て数多くの困難を乗り越えて行く事となる…それはまぁまた別の話ではあるが…

 

その隣には生涯を通し、虚無の守り手として後世ハルケギニアに語り継がれる最強の戦士と共にその盟友、最強の飛竜として語り継がれる事になる『烈種』の使い魔が傍に控えていた…

 




『ゼルレウス』 塔の最上層に生息するリオレウス系統の飛竜。最大の特徴は全身の白い甲殻と青い結晶、ダメージを蓄積させるとその内容に応じて肉質や行動パターンを変質させる。レーザーやビーム弾を発射したりと機械的な動きを見せる為メカレウス等と揶揄される事も。
武器属性は『光』火と雷の複合属性である。

スキル『ガンダールブ』
豪放+3、一閃+3、真打+3、剣術+2、業物+2、武器裁き、ランナー、絆、生命力+3、ブチギレ、の複合スキル。但しその他のスキルを発動させる事は不可能。

ゼルの尻尾はサイトが加工してランスとして使う事になりましたとさ。



ジョセフ「この無敵戦艦シャルル号に勝てるかな~?」

ゼル「下からドーーーン!!!!」

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