尚うどんはインフルBにかかったもよう。
~アンリエッタside~
「陛下!これは一体どういう事ですかな、虚無を語るばかりか…これ程の強権を断行なさるなど!!」
そう言って議席から声高に声を上げたのは高等法院長のリッシュモン卿、私が幼い頃からトリステインの重鎮の一角として国政に携わってきた男。
今日この日、王城の一室である大会議室にてトリステイン中の名だたる大貴族や各要職に就いている者を集めて会議が行われている。
会議と言っても明確な議題があると言うよりは私とマザリーニ、そしてルイズの父親という最大の理由からヴァリエール公とで行ったとある策における事後報告の様な物ではありますが。
「どういう事も何もありません、既にロマリアには書簡を送りロマリアからも…正確には教皇猊下殿から色好い返答を頂いています。確かにこれ程の案件を内密に進めた事に不満を抱く諸侯もおありでしょうがそれはそれ程の案件であったからでもあります。」
そう、それはルイズが虚無であるという事が判明した後でマザリーニから持ちかけられたアルビオンに対する策の話。至極単純な話結局はこの戦争の根幹もブリミル教にある、それならばブリミル教の総本山ロマリアを巻き込んで味方に付ければ良いのだと…
トリステインとしてロマリアに、もっと正式に言えばヴィットーリオ殿に送った書簡に書かれたのは…
『ルイズがまだ覚醒はしていないが虚無の系統の後継者である事。』
『呼び出された使い魔がリーヴスラシルという始祖の使い魔の一角である事』
『ロマリアが仮にそれを認めずともトリステインは独自にそれを正式に認め、保護するものである事。』
『アルビオン皇帝オリヴァー・クロムウェルが扱うと言われている虚無が水の精霊から盗み出したアンドバリの指輪の効果である事』
『また彼の人物は虚無を語りブリミルの名を汚し、始祖の血に刃を向けた背教者であり、トリステインの女王として破門認定を申請する事。』
『又、それらを認めて貰えるならば始祖の使い魔の恩恵がロマリアにも降り注ぐであろう事。』
『アンドバリの指輪の力で各国の上層部に少なくないクロムウェルの傀儡が存在している可能性が高く、この件を強く反対する人物は操られている可能性を考えて欲しい事。』
『これらについてはラグドリアン湖の水の精霊からもたらされた情報である以上、その信憑性は限りなく高い物であるという事。』
これを読まれになったヴィットーリオ殿から直ぐに返って来たのはそれらをお認めになるという此方が驚く程に色好い返事でした。
但しその条件の一端としていずれルイズには虚無の後継者としてその習得の為にロマリアに巫女として留学して貰い、その使い魔の強大な力でいずれ聖地の奪還、つまりは聖戦の際に尽力して貰うという事。
これらの密約は直ぐに公爵を通してルイズへと伝わり、ルイズからもその旨の了承を受け取る事が出来た…まぁ私達としてはルイズをロマリアに譲るつもりはありませんからその辺はいずれ…
「しかし虚無の名を語るというのは大変な事で御座います、周辺諸国が黙ってはいますまい!」
リッシュモン卿の腹心であるアーランド卿も今回の件に関する不平の声を上げる。まぁその意見は十分予想出来てはいました…が
「それを言うならば既にレコンキスタという前例がある以上は問題無いでしょう…加えてあちらは偽物、こちらは本物です。」
「それが本当だというのが」
「貴公は水の精霊が嘘、憶測を語るとお思いか?」
アーランド卿の言葉を遮りながらはっきりと言って差し上げると流石に言葉に詰まって押し黙る…水の精霊の言葉とはもうそれだけで絶対の真実に違いないのですから。
「しかし、真実だからといってそれが必ずしも国として正しいという訳では御座いますまい。今回の件はお若い陛下の勇み足…いや暴走ですな。特に皇帝への破門要求等最たる物、これではアルビオンとの関係が悪化するばかり、加えて先程申した様に周辺国とも摩擦が生じるでしょう。大方マザリーニ殿の案に乗せられたと言った所でしょうが姫様にはまだ政治は早いのではありませんかな?」
リッシュモン卿のその言葉に頷いたり、賛同の声を上げる貴族も多数いる…まぁ確かに一理あるのでしょう。しかしそんな彼等に一喝を与えて下さる人物が私の隣にはいる。
「無礼者!!陛下に対して何たる口の利き方だ!既に陛下は正式な女王、それを未熟な小娘扱いとは何事だ!」
マザリーニの一喝に会議室が静まり返る…そしてその言葉が染み渡ったのを確認する様に周囲を見回してマザリーニは続ける。
「リッシュモン殿、確かに草案こそ私が出したがそれ等をよりトリステインの為に纏め上げられたのもまた陛下なのだ。」
「しかし…」
まだ何かを言いつのろうとしたリッシュモン卿に私は…
「リッシュモン卿、貴方は先程から周辺諸国、取り分けレコンキスタへの配慮とやらに随分こだわりますね?彼等は我々に杖を向ける敵なのですよ?それも卑怯にも人々を操るわ騙し討ち、挙げ句始祖の名を騙る…何処かに一片の配慮をする余地があるのですか?
それとも…もしかしたら貴方は操られているのかもしれませんね。」
私の発言に会場中がザワリと騒ぎ出す。
「確かにトリステインの利を考えれば良い策ではありますな。そしてリッシュモン殿の発言は明らかにそれを阻害しようという意図がありましたが…」
誰かの呟く様な言葉に会場中の視線がリッシュモン卿に殺到する。
「私としても本意ではありませんが…リッシュモン卿、一度貴方の身の潔白を証明して頂けますか?」
「私をお疑いですか!?…長くトリステインに仕えてきてこれ程の屈辱は初めてですぞ!!」
顔を赤くして怒りを露わにするリッシュモン卿、そしてそれに賛同するか諫めようとする周囲…
「エミットも申していましたがレコンキスタの最も恐ろしいのは裏切る筈の無い人物を次々と裏切らせる事です。ワルドの前例がある以上、私としても忠臣の誉れ高い貴方を疑う事はまさに断腸の思い…逆に言えば私はそれだけ貴方に信を置いているのです。」
「ぐ…そこまで仰られてお断りする事は出来ますまい…」
苦々しい表情でそう仰るリッシュモン卿。
「では、銃士隊に屋敷の捜査に向かわせます。捜査が完了するまでは申し訳ありませんがリッシュモン卿には城に滞在して頂きます。」
「は?私が操られていないかだと言うのに何故屋敷にまで…?」
明らかな動揺を隠す事も出来ずに立ち上がったリッシュモン卿…
「貴方は先程『身の潔白の証明』をして貰う事に納得して下さいましたよね?まさか今更それを断ると?」
勿論私だって知っている…大抵の貴族には知られたら困る隠し事の一つ二つ位は必ずある物でしょう。今回の件もリッシュモン卿がここまでアルビオンへの配慮とやらを訴えたからこそでもあります。
そんな調子でリッシュモン卿に退席して頂くと何名かのリッシュモン卿の所謂派閥
の貴族が顔色を青くしていますが…まぁ色々とあるのでしょう…色々と。
「ところでヴァリエール公爵殿、虚無に目覚められたのは三女殿とお聞きしましたが一つお伺いしたい。」
ここで今まで沈黙を貫いていたヴァリエール公に一人の貴族が問い掛ける。それはグラモン元帥だった。
「何かな?」
「公爵家は始祖の血を引く名家、其処に加えて今回の件です。もし仮に公爵家に叛意があればそれは最早国が割れる事態となりましょう。故にその辺りを今この場で聞かせて頂きたい。」
無礼な。普段の公爵ならば、相手が互いをよく知るグラモン元帥でなければそう激昂していても可笑しくない質問にヴァリエール公爵は余裕の笑みを浮かべて応える。
「我がヴァリエール家は王家へ忠誠を誓っている。叛意等持とう筈も無い。娘のルイズにしてもそれは同じだ。むしろ陛下には虚無が忠誠を誓う程の人物であると周辺に知らしめれば箔が付くと喜んでいる位だ。」
「それは重畳ですな。」
そのどこか演技じみたやり取りの後に各諸侯へのある程度の細かい説明で今回の説明は閉幕となった…リッシュモン卿の事もあってかあれから異を唱える者が極端に減った事が大きかったのかも知れない。
この数日の後、予想通りというか何というか…リッシュモンが関わった犯罪の証拠が出るわ出るわでマザリーニと一緒に頭を痛める事になってしまった。
レコンキスタへの内通以外にも国内での汚職や癒着、加えて何でもルイズの使い魔のお陰で色々と大損をしていたらしくその復讐にルイズにも手を出す事を画策していたらしい…
呆れて物も言えない…
まぁ取り敢えず死刑の執行はアニエスにお願いしましょう。
『コロコロ』 新モンスターのヴァルサブロスのキャッチフレーズで丸いサボテンを転がす事の意。持ってるだけでえぐいスリップダメージが入るがそれをヴァルサブロスに奪われたらそれはそれで大変な事になる。