~ルイズside~
あの後、すぐにコルベール先生は学院長の所に私の使い魔に対する対処と報告に行ってしまった。
何かあっても不味い為、私はこの二匹の使い魔を放り出してついて行く訳にも行かないので何をするという訳でも無いけどただ使い魔の事を観察している。
他のクラスメートの殆ど全員は既にそれぞれ使い魔を従えて学院に戻っている。
普段ならこういう時には私が魔法で空を飛ぶ事が出来ない事を口々に馬鹿にしてくる彼等も何も言ってくる事は無かったし、チラチラとこっちを覗いながら私の使い魔達から逃げ去っていく様でちょっとだけ胸がすく思いだったのは内緒だ。
「で…あんた達は戻んないわけ?」
私はその場でくるりと振り返るとさっきから私の後ろで一緒にこの子達を眺めていたキュルケとタバサに声をかけた。
二人とも確かに良い使い魔を呼んだみたいだけど私には及ばない…きっと羨ましいんだわ。
「いくらあなたの使い魔だって言ってもゼロのルイズ一人残したって何かあったらどうしようも無いでしょう?はっきり聞くけどあなたアレを御せるの?」
私の考えとは裏腹にそう言ってキュルケが高慢ちきな態度で赤い髪を掻き上げながらサラマンダーの顎をなで上げる…その相変わらず私を馬鹿にした態度にムッとなった私はついいつもの調子で口を開いていた。
果たしてこの私にあれ程の使い魔達を御す事が出来るのか?冷静になった今だから抱いている当然の疑問を胸の中に押し込めながら。
「出来るに決まっているでしょう!!この子達を呼び出したのは私よ!!見ていなさい……『シル』『ゴル』伏せっ!!」
名は体を表すという格言に従って私は結局はこの子達にそれぞれ銀と金の名前を冠させる事にしていた、シルバーとゴールドから取った愛称だ。
咄嗟に名前を呼びつけて半ば怒鳴る様に出した命令はまるで犬にする様な命令で、それを隣でキュルケに笑いながら指摘された事に私は思わず羞恥に顔を赤くしてしまったけど、私の不安なんてまるで無かった様にシル、ゴルはその場で足を折って器用に地に伏せって見せた。
その事実で私は思わず満面の笑みでキュルケの顔を見返してやった。案の定目を丸くして驚いて居るキュルケに私は満足するとそのまま自分の可愛い使い魔に駆け寄った。
「どうっ?」
キュルケの悔しそうな表情に満足しながら私は二匹の頭をよしよしと撫で回してやる、感触としてシルの方はまるで氷の様に冷たくゴルの方はピリピリと静電気が手の平を時々流れている。
口元からチラリと覗く鋭い黒い牙、この子達は驚く程大人しいけど一体何を食べてこんなに大きくなったんだろう?
「暴れないで大人しくしててね~、良い子にしてたら明日にはきっとご飯あげるからね~」
きっと私の属性はさっきから何も言わずに観察を続けているタバサと同じで『風』と『水』なのだろうと思う。ゴルの方は雷を纏っているというのは明白だし雷を操るのは風の属性以外にあり得ない。シルの方は氷を操っているように感じる。そうじゃないならこの冷たさや現象は説明できない。それに二匹とも魚っぽいもの。魚と言えば水、まさか火龍山脈の溶岩の中を魚が泳いでいる何て馬鹿な話はないでしょうし。
実は長年爆発から関連づけて『火』なんじゃ無いかなと思っていたけどそれは勘違いみたい、よく考えたらキュルケの奴と同属性って嫌だし。
(それにしても可愛いわ…ウヘヘヘヘ…)
と…
「えぇぇぇ~~~~~~っ!??ちょっ嘘でしょっ!!?」
「本当。」
(ハッ!!)
ちょっと思考がトリップしていた私の頭がキュルケの驚愕の叫びで現実に呼び戻された。
見ればちんちくりんのタバサが手の平台の大きさのゴルの鱗を持ってキュルケと話をしていてキュルケの手がプルプル震えている。
「ちょっとタバサ!あんた私の使い魔の鱗剥がしたの!?何してんのよ!!」
「落ちていたのを拾った。」
私の憤慨にタバサは首を振って簡潔に答えながら鱗を私に返してくれる。ん…意外と重いわね。
この子はいつもこんな感じだ、こんなだから普段キュルケ以外とまともに会話しているのを見た事が無い。その会話すらキュルケの奴が一方的に喋っているだけだけど…
「そんな事より、ルイズ!!あんたの使い魔一体どうなってんのよっ!!??」
「え、何っ?」
とっ、いきなり血相を変えたキュルケが私の両肩を強く掴んで詰め寄ってくる。
とっさの事にたじろいだ私に構う事の無いキュルケ。
「何?じゃ無いわよ!!あんた分かってないの!?その鱗はね「純金…」
「……え…」
キュルケの言葉を遮ったタバサの言葉に私の思考は一瞬止まってしまった…
「正確に言えば高純度の黄金、それもスクウェアメイジが作る金より上質と思われる。」
「は?…え?」
タバサの淡々とした説明で私は手にした一枚の鱗に視線を落とす…隣でキュルケが何か騒ぎながらぎらついた視線を私の使い魔達に向けているけど…
私が手にしている鱗はヒレ辺りのなのか、小さい方だけど胴回りの鱗なんて優に私達の頭位の大きさがある。
「まさに生きた財宝…」
硬直してしまった身体をぎこちなく動かして私はタバサとキュルケが見つめる二匹に視線を向ける…
ギラギラと輝くこの子達…よく見れば薄い鱗が時々剥離して宙を舞う事で光を反射している、そのせいかしら?何だか視界がぼやけて白む…
「ねぇ、ルイズ…私達って親友よね?」
「…友達」
「…ふざけん…な…」
魔法を成功させたせいで精神力が尽きたのか色んな意味でのショックが原因なのか…わざとらしい二人からの猫なで声に辛うじて悪態を吐きながら私は意識を手放した……
~コルベールside~
「ふむ、今年はまたどえらいのが呼び出されたのぅ…一言で表するならばまさしく化け物じゃのう…わしもかつては若い時にワイバーンを魔法で退けた事もあるが…例え片割れだけだとしてもまともに立ち向こうてあれはどうにか出来るとは思えんわい。お主もそう思うじゃろうミスタ・コッパゲール?」
「コルベールです!!しかしですな、学院長…」
「分かっておるわ、君の言いたい事なぞ。いくら使い魔が驚異的であろうと我等教師の生徒に対する接し方を変えるなどと言う事はない。我等の務めは生徒達を正しい方向へと導く事じゃて…」
ミス・ヴァリエールの召喚した規格外の使い魔について私が報告と対応の相談にこのトリステイン魔法学院の最高責任者オールドオスマンの部屋を訪ねた時には既に遠視の鏡で事態を把握しておられたのだろうか、学院長は私の伝えたい事を把握し、教育者として欲しかった答えを直ぐに指し示してくれた。
普段秘書であるミス・ロングビルにセクハラをして仕置きを受けて喜んでいるだけでなく教師としてのそのあり方はやはりこの人が素晴らしい人物なのだと再認識させてくれる。
「しかし…現実的な問題としてあの使い魔の住み処をどうにかせねばならんのぅ…厩舎になぞ到底収まらんぞ。仮にあれの寝床となる設備でも拵えよう物ならどれくらいの金を動かす事になるやら…」
とは言え、現実的な問題に目を向けた途端パイプを口に付けて学院長は盛大に溜息を漏らす。それはそうだろう…私でも簡単に想像が付くのは目玉が飛び出す様な恐ろしい金額だ。
私と学院長の視線は揃って隣の机で何やら計算を行っているミス・ロングビルへと向いていた。それにしても今日も美しい…
「ふぅ…ざっと計算してみましたが恐らくはこれ位の金額が必要かと思われます。」
言って差し出された書面を見て私は思わずうなり声を上げてしまった…それは学院長も同じであった。
「随分と安くつくのう?わしの見積もりじゃったら後2桁は0が足りんぞ?ミス・ロングビル?」
「錬金で穴を掘って柵と堀で周囲を囲う形で済ませれば水を張る事も考えてそう高位のメイジの力も要りませんわ。生徒の中から土と水のメイジ数名を実技講習とでも伝えて納得出来るだけのご褒美を与えれば十分かと。」
「ふむふむ、成る程な。」
(ミス・ヴァリエール、こちらでも最大限の助力はさせて頂きます。ですから貴女も頑張ってあの使い魔達を従えてみせてくだされ。)
~ルイズside~
私が再び目を覚ましたの学院内の医務室であれから数時間立っているらしく外はもうすっかり夜だった…
私が起きた事で慌てて駆け寄ってきた医務室にいたメイドの一人が言うには私を運んで来たのは案の定キュルケとタバサらしい。
案の上というかちゃっかりゴルの鱗はタバサが持って行ったらしい。全く油断も隙も無い…
(あの子本当に落ちてた鱗を拾ったんでしょうね?)
私がそんな事を考えながらちょっと難しい顔をしていたせいだろうかまるで怯えているような様子でさっきの黒髪のメイドが私に声をかけてくる。
「あの、ミス・ヴァリエールあちらの広場にいる大きなお魚がミス・ヴァリエールの使い魔というのは本当なのでしょうか?」
そう言ったメイドの視線の先、窓から見える広場に私の二匹の使い魔は広場中央の噴水を互いの間に挟むようにして無防備に寝転がっていた。
それにしてもただそこにいるだけで月明かりと松明の明かりを照り返してこれでもかと自己主張している所が主の私にはちょっと微笑ましい。
それでも誰もあの子達に近づくような真似をしないのは恐ろしいからだというのは私だって理解出来た。きっとこのメイドも同じだろう。
「本当よ。あぁみえてとっても大人しい良い子なんだから…タブン。」
「多分!?今小さく多分って仰いましたよね!?」
ヒ~ンと声に出して胸の前に両手を寄せて嘆くメイド…何がとは言わないが私には無い物を持つこいつがちょっと妬ましい。
とは言え今日の私は史上かつて無い程に機嫌がいい。笑って許してあげようと思う。
それに丁度いいしこのメイドにお願いしておこう。
「あ、所であんた名前は何?」
「はぁ、シエスタと申します。」
首を傾げて不思議そうにシエスタが答える。言外に何故メイド風情に名を訪ねられるのか?と言いたげに…
「それじゃあシエスタ、明日の朝朝食を支度しておいて貰えるかしら?」
「朝食ですか?それは食堂では無くミス・ヴァリエールのお部屋に持って来いという事で?」
ベッドから降りてマントを羽織る私に確認をするような質問。一流のメイドならば貴族の要望をしっかりと察して欲しい。
「違うわ。私の使い魔の食事よ。変な物与えられても困るし私も立ち会うから明日の朝、あの広場に集合。」
そう言った瞬間、メイドの顔が青くなる。全く失礼な反応だ。
「え、あの、ミス私がですか?」
「あんた以外誰がいるって言うのよ、それじゃあ頼んだわよシエスタ。」
そう言って私は医務室の扉を開けて自分の部屋に戻る為に歩き始めた。まだシエスタは大分混乱している様だったけどもっとしっかりして欲しい。
それにしても今日は本当に素晴らしい1日だったわ。
(そうだわ、部屋に戻ったら早速小姉様やお父様達に手紙を送ろうっと…)
きっとこれからはこんな毎日が続くんだろうと思うと私の歩調は自然と軽くなった。
それにしても魚なのに陸上で眠りこけてシャボン玉みたいな物を頭の上に出しているだなんて我が使い魔ながら本当に不思議な生き物だわ…
名前結局アルゴルにしようと思ったんですけどシルゴルにしました。
作中明記する機会無いかもですけどゴルガノスの方が『ゴールス・ラ・ヴァリエール』
アルガノスの方が『シルバ・ラ・ヴァリエール』として戸籍表登録が行われました。
ていうかほんとあいつ等は何食べるんだ?