チリリ~ン♪ パ~プ~~♪ ♪ ♪
~ルイズside~
「はぁ…」
溜息が零れる…
私は今たった一人で教室の片付けをさせられている…慣れてもいるし自業自得と言えばそうなのだけれどやっぱり気持ちが落ち込むのはどうしようもない。
使い魔の召喚でまさに大成功と言える成果を収めた私は意気揚々と授業を受け、今日の授業で『錬金』の魔法の実演に指名を受けた。
自信があった。
失敗の爆発を恐れて私を止めようとする周囲の反対を押し切ったその時の私の精神は未だかつて無い程漲っていたしむしろ失敗するなどと微塵も思っていなかったわ。
でも残念ながら結局私の錬金は今まで通り、目の前の石を望んだ金属に変える事無く、私の根拠の無い自信と共に派手に爆発して粉々に砕けて消えた。
大体クラスメート達は私がこの失敗魔法を披露すると口々に私を悪し様に馬鹿にするけど今回は私の使い魔についても言ってきた。
見栄えと図体ばかりの張りぼて使い魔、家柄とプライドだけは使い魔と揃いだ、等と…
解っている…この世界で魔法が使えない貴族ほど哀れな者もそういないだろう…
何故ならそれは始祖ブリミルの加護を与えられなかったと言う事に他ならないんだから…
(やめよう…)
私はこのネガティブな思考を切り替えるように深呼吸を一度する。こういう切り替えが上手くなってしまったのも微妙に嫌だ…
再び気落ちしそうになりつつも意識を懐の重みに向ける。其処にあるのは私の使い魔が夢などでは無いと言う確かな証明
「そうよ、魔法は未だに成功しなくても私はシルとゴルを呼び出したのよ。きっとこれからなんだから!」
そうして再び教室の片付けに励みだした私に穏やかな女性の声がかけられた。
「ミス・ヴァリエール、少しよろしいでしょうか?」
「ミス・ロングビル?何かご用でしょうか?」
私に歩み寄ってくる学院長の秘書、ミス・ロングビル落ち着いた印象の大人の女性…
「はい、早い内にご相談させて貰うべきかと思いまして声を掛けさせて頂きました。
お話というのは貴女の使い魔のことですわ。」
「あの子達の?」
片付けの手を止めた私はミス・ロングビルに向きなおる。まぁあの子達に関する事だとは予想は出来ていたけど一体何だろうか…
「はい、あの二頭に関しましては残念ですが現在学院にある施設では到底管理が不可能です。しかし生徒の使い魔の世話のサポートもまたこの学院の務めです。という訳であらたにその為の設備を整えようかと思います。」
そう言って手渡されたのはその新しい設備の概要と思われる物におおよそ必要となるであろう金額の試算が纏められた羊皮紙だった。
私がそれを読み進めているとミス・ロングビルは話を進める。
「勿論学院長には話が通っておりますし私としても最大限思考した物がその仕様です。が、なにぶん大掛かりな話です。はっきりと言えばヴァリエール家からの援助無く行えるとは言えません。急な話ですが捨て置く訳にもいきませんのでどうするかを近日中に決めて下さい。」
つまりは早速あの子達の事で学費に追加が出たと言う事だ…まぁこの旨はまた実家に手紙と一緒に送って相談してみよう。
「ありがとうございます、ミス・ロングビル」
「いえいえ、これも私の仕事です。あなたも大変でしょうけど頑張って下さいね。」
私が礼をするとミス・ロングビルもそれに答えて忙しいのだろう、すぐに教室を出て行ってしまった。
持って来られたお話は確かに頭が痛くなるような内容ではあったけど仕方が無い。むしろ本来なら感謝をするべき何だろう。
取り敢えずは目の前の片付けだ…
(がんばろ…)
私がその手の中にある書類の中に女神像の修繕費という項目を発見したのは大分後の事だった。
_________
私が片付けを終えたのは昼食が終わり丁度庭園でのティータイムの時間に差し掛かっていた頃合いだった。
私は適当なテーブルに腰掛けてケーキの配膳をしていたメイドに声を掛ける。
しっとりと艶やかな光沢を放つケーキを前に私のお腹がキューと泣く、やっぱり疲れた身体には甘い物が必要だわ。
うん、おいしい。
私がケーキを食べ始めた辺りだろうか?何だか騒がしかった男子連中の一団がどうも興奮した様子で走っていくのが見えた。
全く、呆れたものだわ。
と、去って行く男子連中が離れた辺りにシエスタの姿を発見した。シエスタも私に気が付いたのか…ん?何かえらい慌ててこっちに来たけどどうしたのかしら?
「も、申し訳ありません!ミス・ヴァリエール…私のせいで大変な事に。」
目の前までやって来たシエスタの突然の謝罪に私は思わず首を捻ってしまう。一体この娘はどうしたのだろうか…
「このままじゃ…どうなっちゃうのか私にはわかりません~!!」
またしても要領の得ない事を言ってシエスタが泣き崩れる。なんだか大変そうに見えるけどしっかりして欲しい。
取り敢えず私はシエスタを宥めて話を聞く事にした。
~ギーシュside~
全く昨日といい今日といい本当に驚かされる日が続くもんだ。
昨日の事と言えば当然あのゼロのルイズが呼び出した巨大な二匹の魚の事だけど今日驚かされたのはさっきのメイドとのやり取りで発覚した衝撃の事実のことだ。
____それは数分前
ぼくは今日もいつもの様に仲の良いクラスメート達とテーブルを囲って優雅なティータイムとしゃれ込んでいたのだ。
会話の話題は互いの呼び出した使い魔の自慢であったり、気になるレディの事であったり、まぁ女性を楽しませる事が務めである薔薇の僕もこの気心の知れた学友達の前では一人の男だ。
そして当然の会話の流れというか昨日ゼロのルイズが呼び出した使い魔が話題に上がってきた。
皆、あれをどう思うか?
率直な意見を言えば僕はあれが恐ろしかった…だって常識じゃ考えられないだろう?
あれだけのサイズなどゴーレムで作れば間違いなくトライアングルでも腕利きじゃないと無理だ…それに昨日の吹雪と雷がアレが引き起こした物ならば想像しただけで恐怖で手にしたカップが震える。
それと同時に今日の彼女の失敗魔法を見て思ったのがやっぱりゼロのルイズが呼び出した使い魔だ。
実際には大した事も無い図体だけの魚なんじゃないのか?と言う事だ。
他の同席者の意見も殆ど同じ、いや、むしろ僕と違って恐ろしい等という感想は一切上がらなかった。
勿論、僕もそんな感想は口には出してない。ここでそんな事を口走ったら良い笑いものだ。「臆病風に吹かれてやがる」ってね。僕の家は軍人の家系、そんな事言わせもしなければ思わせてもやる物か!
結局、満場一致で所詮は見かけ倒しだと話がつきみんなで大笑いしていた所に黒髪のメイドがハーブティーのお替わりと焼き菓子を持ってきた。
少しだけ前屈みになった彼女の中々に大きな胸に視線が行ってしまった僕だったが、彼女のポケットから不意に何かが転がって地面に落ちたのを僕は気が付いて拾い上げるとついつい声を掛けてしまった。
決して頭を下げてスカートを覗こうとする口実にしたわけじゃあないぞ。僕は紳士だからね。
「おいメイドの君、何か落としたぞ。…これは…鱗か?しかしこれは…」
「あ、申し訳ありませんありがとうございます。貴族様。」
慌てて僕から鱗を受け取ったメイドが深々と頭を下げると学友達がまた女を口説いてるだの囃したてる。ひがむなひがむな…
「何、気をつけたまえ。所でその鱗はどうしたのかね?」
「今朝方ミス・ヴァリエールから頂戴致しました。一緒に使い魔に食事を与えた際にその礼だと言って剥がれ落ちていた物を一枚。危うく落として気が付かない所でした。ありがとうございます。…」
その言葉に周りの奴らはその鱗の大きさに物珍しいと興味を少し持ったみたいだけどその程度だ。だけど僕の中の驚愕はそんな物じゃあ無かった。
そりゃあそうだろう?僕は土のメイジ、触れた物がどんな金属なのかなんてすぐに解る。
「君、今の話は本当かい?」
「はい。」
僕は絶句した…その話が本当ならば…
「…その話が本当ならばゼロのルイズが召喚したあの魚の化け物…少なくとも銀色の方…アレの鱗が全て白銀だっていうのか…?」
僕の独白に周りの奴らも目の色を変える。だってそうだろう?もしそうならもう一匹は黄金だと言う事じゃあないか…
____
戸惑うメイドに興奮さめやらんままに僕たちは問い詰めた…
聞けば実際にあの使い魔は大食らいで雑食であるが非常に大人しくこちらの言葉も何となくは理解しているらしく何と頭を撫で回すことも容易く行えたと言うでは無いか。
誰が一番に駆けだしたのかは解らない…もしかしたらほぼ全員同時だったのかも知れない…
それでも勢いの付いた僕たちが目指したのはあの使い魔が我が物顔で昨晩から転がっているヴェストリの広場だ。
自慢じゃあ無いが僕の家は結構高い家柄だ。でも貧乏だ。
な~に、ちょっと魚の鱗を数枚頂いて来るだけさ。楽勝楽勝…
全く…誰だよ、ゼロのルイズの使い魔なんだから大した事無いだろうなんて言い出した奴は…
全滅必至である(;_;)
ギーシュの決闘は無いと言ったな?アレは嘘だ。(筋肉)