いい天気だ、空が青い。
雲一つない快晴の中、星守アルマは古い旧校舎の近くで散歩をしていた。
少し前、
『そんな状態で仕事をするのは機能的じゃない。私がある程度やっておくから、休んできて。』
やってもやっても終わらない書類仕事に憔悴しきり、机に突っ伏していた所を
見るに見かねたエイミ先輩に掛けられた言葉である。
ヒーローの姿か…?これが…。
「やっぱ、ここは静かでいいな。」
そう1人心地ながら人気のない道を歩き続ける。
ここは旧校舎、ミレニアムの端に位置する場所であり滅多に人が来ることはない。
アルマがサボる場所…否、休憩所を見つける為にミレニアム中を散策し見つけた場所である。
今日はどこでサボろうか。
旧校舎はもうほとんど使われておらず、空き教室や部室がそっくりそのまま残っている為
休む場所には事欠かないのだ。
そんな事を考えていると。
「…ん?」
前から足音が聴こえた。
…珍しいな、こんな所に人がいるなんて。
ほんの珍しさと好奇心を感じながら、足音が聴こえる先に足を進める。
そうしてアルマは、『彼』に出会った。
※
きっちりと整えられた黒い髪髪、落ち着いた印象を持たせるスーツとネクタイ
片手にはタブレットを持ち、腕には連邦生徒会の腕章が付けられている。
初対面でも優しそうな印象を抱かせる整った顔立ちは、見惚れるには十分な理由だろう。
そして何より、頭の上にヘイローが存在しない。
…そんな人はキヴォトスでは1人しかいないな。
進めていた足を止め、お互いに顔を見合う。
つまり、この人こそがーー
ドガァァン!!!
突然旧校舎から落ちて来た物体は見事に彼の頭に直撃し、鈍い音を立てながら地面へと落ちた。
頭にダイレクトアタックを決められた彼はそのまま重力に従って崩れ落ちる。
「ごめん…つい投げちゃった…。え、誰か倒れてる…って先生!?先生に当たっちゃった!?」
「プライステーションは無事!?」
「ミ、ミドリ…そっちなの?」
上から聞こえてくる声は同じミレニアムの生徒だろうか。
かなり焦っている様子が伝わってくる。
…つまりだ。
目の前には倒れ伏した『先生』、近くには上から落ちて来たと思われる電子機器。
そして落とした実行犯達の声。
ーどう考えても事案です、本当にありがとうございました。
※
「ーーよかったぁ!もう目を覚まさないかと思ったよ、先生。」
「本当に無事で良かったです。お姉ちゃんが投げたプライスステーションが先生の頭に命中した時は…このまま殺人事件の容疑者になってしまうかと思いました。」
「お姉ちゃんの代わりに謝ります。ごめんなさい、先生。」
「ふーんだ。そう言うミドリだって、私が『先生に当たっちゃった!?』って叫んだ時、第一声は
『プライスステーションは無事!?』だったじゃん。」
「そ、それは、私達ゲーム開発部の財産第一号だから、つい…。」
倒れた先生を治療する為、実行犯達の声がした部屋に先生を移動させてしばらく後。
先生が起きた事に安堵し、何やら言い争いを始めた2人を尻目にアルマは先生の介抱をしていた。
「…先生、本当に大丈夫か?当たった時だいぶエグい音してたぞ。」
“あはは…大丈夫、私もそれなりに鍛えてるからね。これくらいへっちゃらさ。”
「そういう問題でもない気もするが…まぁいい。できたぞ、痛くないか?」
”ありがとう、全然痛くないよ。むしろ前より元気になったくらいさ。“
そう言って先生は頭に包帯を巻かれた姿で力こぶを作ってみせる。
痛々しい姿のそれを見てアルマは苦笑いを浮かべた。
「そりゃあ上々。さてーーー
ーーこれはどう落とし前つけんだ、えぇ?」
アルマは未だに言い争っていた目の前の2人に向かい、ドスを効かせた声でそう言った。
…彼も怒りたくて怒っているのでは無い。ただ、怪我をさせた相手が『先生』なのが問題だった。下手をすれば連邦生徒会とミレニアムでの間での問題になりかねない。
目の前にいる2人の為にも、先生の機嫌を損ねないよう叱る必要があったのだ。
…どれだけの効果があるかは分からないが。
「ひっ、そ、それは「なんでもします。お姉ちゃんが。」ミドリ!?」
“私は大丈夫だから。落ち着いて。”
アルマの突然の豹変に1人は怯え、1人は瞬時に姉を売る判断をし、先生は必死に宥めようとする。
「…先生がそう言うならいいけどな。」
先生からの言葉で纏っていた剣呑な雰囲気を解き、その場に居た3人は安堵した。
アルマは予想していなかった反応をする先生に困惑しながら口を開く。
「そういえばなんで先生はこんな所に?ミレニアムの部活を視察しに来るってのは知ってたが、こんな辺境に見るもんなんてないだろ。」
「失礼だな君は!ここはれっきとした部室だよ。先生だって私達が呼んだんだから!!!」
はぁ?
そう言いたげな顔をしながら、アルマはもう1人の妹?の方に目線をやる。
向けられた本人は少し居心地が悪そうにしつつも口を開いた。
「…はい。私達ゲーム開発部が先生に手紙を出したんです。」
どうやら事実らしい。
ーシャーレの『先生』がたかが一部活の為にミレニアムに来た?そんな事があり得るのか。
…というかここって部室だったのか…散らかりすぎて分からなかった。
そんな事を思いつつも、半信半疑の表情で横にいる先生へと顔を向けて問う。
「…シャーレの先生ってのは随分フットワークが軽いんだな。」
“うん、生徒が困ってるなら助けないと。私は先生だからね。”
その迷うことの無い返答に、アルマはしばらく呆気に取られたような顔をしていたが。
「…そいつはまた、お人よしなことで。」
どこか安心したような表情で、アルマはそう口にするのだった。
※
「あらためて…ゲーム開発部にようこそ、先生!」
「来ていただけて、嬉しいです。」
「私はゲーム開発部、シナリオライターのモモイ!」
「私はミドリ。イラストレーターで、ゲームのビジュアル全般を担当しています。」
「あと、今ここにはいないけど,企画周りを担当しているユズも含めて…
「「私たちが、ミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部だよ!」」
「あとは…チラ」
モモイが伺うような視線でアルマを見る。
「俺か、俺は…ヴェリタスの星守アルマだ。よろしくな。」
“みんな、よろしくね。”
数瞬、弛緩した空気が流れるが、突然モモイが立ち上がってこう言った。
「よしっ!じゃあ自己紹介も済んだ事だし、『廃墟』に行くとしよっか!」
“廃墟…?”
“あの、できればもうちょっと詳しく状況を説明してくれる?”
「廃墟…。」
展開についていけず困惑する先生達を見て少し冷静になったのか
頬を若干赤らめながらモモイが説明をし始める。
「あ、うん!…えっとね、まず私たちゲーム開発部は今まではずっと、16ビットのゲームとかを
作ってたんだけど。」
「ある日、セミナーから襲撃を受けたんです。」
「そうそう…!しかも一昨日にはセミナー四天王であるユウカから最後通牒を突きつけられて。」
“「最後通帳?」”
アルマと先生の声が重なったその瞬間だった。
「それについては私からご説明しましょうか?」