新エリー都の誠実な何でも屋 作:─────
その夜、邪兎屋は順調に依頼を達成し、車の逃走劇を終えたところだった。その時、突然アンビーが
「……ニコ、もっとスピードを出せる?」
「ん?何よアンビー、もう他の車もあるしあんまり出せないわよ」
「後ろを見て」
ニコがカーブミラーを覗くと、一つのヘッドライトが同じ距離を保って邪兎屋の車を追い続けていた。
「つけられてる」
「んもう、またアイツら?……ほんっとにしつこい───」
ニコの言葉はそこで止まった。
一瞬、ほんの一瞬だけ街灯が追跡者の姿を照らしたのだ。
のっぺりとした黒いマスク、ロングコートの中から反射した光、尋常な相手ではなさそうだとニコは察した。追跡者はフードを深く被っていることもあり、周囲の一般人はこの存在に気がついていない。
「……なんかヤバそうね、飛ばすわよ。掴まってなさい!」
アクセルを踏み込み、車が急加速する。
その反応すらわかっていたかのようにバイクも加速し、追跡者は同じ距離を保って追いかけてくる。距離は縮まらず、離れる気配もない。
「…っ!ビリー!──はダメね、銃なんて撃ったら治安局が黙ってないわ。……もう、なんなのよ!」
ニコは大回りしながら元来た方向へ戻る道を選択した。
それもそうだ、渋滞にハマってしまえばあのバイクが真横に来て車窓から頭を一発──なんてこともあり得る。
車の多い都心から治安局の動員も車も少ない郊外方面へと走って追走するバイクを撒かなければならない。
段々と車の通りが少なくなり、カーチェイスを始めようとニコがハンドルを切ろうとしたその時
「っニコ、反対に!」
アンビーの声に反応して咄嗟にハンドルを切ると、銃声と共に先ほどまで通ろうとしていた通路に一発の弾丸がめり込んだ。
「親分、ヤベェぞ!撃ちやがった!本気で殺しに来てる─────!」
「うっさいわね!言われなくてもわかるっての!」
車を限界まで加速しながら走る。
「……右!…………左に避けて!」
バイクの追跡者が銃を構えるたびにアンビーがそれを報告し、ニコは言われた通りに避ける。
しかし、いくら走ってもバイクは淀みない動きで追跡を続ける。
「……あいつ、しつこすぎるでしょ!誰に雇われたワケ?」
「なぁ親分、もしかしたら落としたハンカチを拾ってくれただけだったり……」
「んなわけないでしょおバカ!そんなこと言ってる暇あったらビリーも撃って!さっさとアイツのタイヤをパンクさせちゃいなさい!」
「おう、任せろっ!」
ビリーが銃を構え、車窓から発砲するがバイクは滑らかな動きでそれらを回避して追走してくる。
「……っニコ、前!」
そう言われてカーブミラーから目を離したニコは、迫り来る壁を前に急ブレーキを踏む。
「ニコ、私たち……追い込まれたみたい」
バイクの音は、背後から迫っていた。