エクシード学園に巣食う闇はともかくとして、次なる試合はすぐそこに迫っていたのであった。
『さぁDグループは共に1勝ずつのチームが激突! この試合に勝った方が決勝リーグ進出を決めます! 白熱のグループリーグ、注目の一戦であります!!』
全国大会ともなると熱心なバトル部に関わる者たちはこぞってそれぞれにスタジアムへ足を運び、客席を埋めるようになる。
ナックルスタジアムにも予選を戦うチームのデータ収集のために他所のデータマンや地元のバトル部が見学に来ていた。
「セキガク頑張ってー!!」
「ほほほーう!!」
そんな客席最前列からフェンスより身を乗り出す勢いで声を張り上げるチャンとオドリドリの後ろ姿をシゲルは穏やかな笑みとともに見ている。
「ここ、空いてますか」
「あぁ。どうぞ」
そんなところにやって来て、隣に座る青年は、どこか沈んだ表情ながらに爽やかな空気が漏れ出ていた。
『なかなかの美少年じゃあないか。僕の若い頃ほどではないけれど』
アメジオの整った横顔に、シゲルは内心呟いた。
ポケモンが絡めば謙虚にもなるが、本質的にはギザでナルシストなのだ。
「やっほーリコっちにアーちゃん! いよいよ対決だね」
「うん。いよいよだね」
「絶対負けないかんね!」
「これよりDグループ予選! ポケモンスクールvsセキエイ学園の試合を行います!! 両チーム、礼ッ!!」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
アイリにリコもアンも短く返す中、引き続き審判を勤めるリョウタの進行により儀礼の挨拶からそれぞれベンチへ下がってゆく。
モニターに映し出されるオーダーは以下の通りだ。
ダブルバトル
ツキシマ&モロボシvsキラリ&アン
シングルバトル2
チビレルvsロイ
シングルバトル1
マヤvsマフィン
控え
アイリvsリコ
「えー? お姉さん控えなのー?」
「ほーう……」
モニターに映し出されるオーダー表にリコの名前が出た、それはいい。しかし控えメンバーでは出番が回ってくる見込みは薄いのでチャンとオドリドリはガックシと肩を落とす。
「きっと今回も秘密兵器なんだねリコさんは」
シゲルからのひと言でチャンとオドリドリはたちどころに表情を明るくしていく。
地方予選でもリコの試合数は準決勝の一度きり。そこでトキワ台のミコトを相手に鮮烈な勝利を飾ったのはチャンの目に焼き付いていた。
「うぅ〜ッ! それでも試合見たいよ〜!」
「ほほ〜う!」
悔しさをストレートに発散させながら唸るチャンとオドリドリ。その表情が晴れやかでもあったのは、リコが出て来たならば必ず凄いことをやってのけるに違いない。そんな確信と信頼があるからだ。
「彼女はセキガクのリコって娘の大ファンでね。試合となればいつもこうなんだ」
「そうなんですか」
シゲルから話を聞くアメジオはセキガク側ベンチを見ている。
円陣を組む中にいるリコの顔色は悪くないとなれば、ただ単にオーダーの都合でしかないのだなと思えた。
「頼むぜ姉さん!」
「みんな頑張って!」
「応! 任せとけ!!」
小さなサポーターがいるのはポケスクも同様だった。
タダノとライカのエールに応じるチビレルは1年生ながらに男子側のチームのムードメーカーだ。女子からはアイリが同じ役割を買って出ている。
「ノアコ。最後にもう1度データを頼む」
「はーい」
ポケスクのメンバーが横一列に並ぶ中、カキ監督の指示でタブレットロトムの映写機能が起動する。
カキが体をよじった先にセキガクメンバーの細かなデータが映し出された。
「このように、セキガクは主力となる最上級生が1人しかおらず、学年配置が極めていびつな形になってます。それでもチームがここまで勝ってこれているのは2年、1年がそれぞれ他チーム以上の成長をしているからでしょうね」
甘いきのみを挟んだ片手サイズのパンケーキを持ちながら講釈するのがポケスクのデータマンである2年のノアコだ。
両親揃ってパンケーキ屋で働いてるが故にパンケーキには厳しいところがあり、彼女的にガラルのパンケーキは口にこそ出さないがイマイチであった。
「つまり学年差があろうとも油断するな、ということだな」
「そういうこと」
「任せてよ」
マヤから視線を向けられるタッグの3年ツキシマは金発のツーサイドアップを揺らしながら胸を張る。
同じく3年で17歳ながら編入の形でチームに加わっている身長180cmの長身を誇るモロボシもツキシマに倣った。
「要はいつも通り気を引き締めてけってことね」
「そそ」
アイリの大雑把な要約に、ノアコはそれでいいと首肯する。
「よしみんな! 気合いだ! 気合いだけは負けちゃあならんぞ!! ポケモンたちにしっかり声掛けしていけ!!」
「「「「「はいッ!!」」」」」
カキが檄を飛ばすのに全員で応え、タッグの2人がトレーナーサークルへ入った。
「キラリが言うにはボクたちのデータは直前のクロ工戦まで取られているらしいが、それはこちらとて同じこと! 今回に限らず全国大会ともなればあちこちからチームのことは丸裸にされると考えるのが自然だろう!」
「「「はい!」」」
「だがそれでもボクたちは決して立ち止まるわけにはいかない! ボクたちの夢は、ここまで負かしてきたチームの夢でもあるんだ!! この試合に勝って、グループリーグ突破をきっちり成し遂げよう!!」
「「「はいッ!!」」」
「ウス」
「セキガクゥゥゥーーーッ!!」
「「「「「ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!!」」」」」
「ウオーーーーーッ!!」
ホタルの掛け声で円陣を切り、マフィンが締め括る。
段々と一連の流れがこなれてきたように思いながらフリードは円陣を見届けていた。
それだけチーム全体が大一番の経験を積んできたということだ。
「さぁグループリーグ第3戦はともに2勝目を、全勝での予選突破を目指す同士の試合となりました! なお、この試合においては団体戦を通して引き分けとなった場合、公式ルールに則って初戦の成績を参照して総合スコアでの勝ち上がりが決定されます」
「対クロ工戦を見返すならばポケスクはストレート勝ち、セキガクは1回負けちまってるわけだからここで同点になったら得失点差でポケスクが予選突破する訳だな」
「そうなります!」
軽妙な言葉のラリーをジッキョーとしながらもキバナとしては控え戦にまでもつれ込んでの同点決着はまずないと思っていた。
「これよりダブルバトル2、ポケモンスクール3年ツキシマ選手&モロボシ選手vsセキガク2年キラリ選手&アン選手の試合を始めます!!」
放送席が団体戦における仔細をテレビやラジオなどに向けて分かりやすい確認を挟む中、リョウタがダブルバトルの試合開始とコールを飛ばす。
「いくよー、なーさん!」
「なッ!」
「ばっちしいくよぅ! ロボ発進!!」
モロボシの投入した紺色の突起物があり、鉛のような鈍色のヘビーボールから姿を見せ、ズシン! とフィールドへ着地するゴーレムポケモンゴルーグの左肩を定位置としてニャースのなーさんが立つ。
ゴルーグことロボのツインアイがキュピーン! と眩く光り、両手を振り上げて見せた。
「うーわ、でっか」
ゴルーグとは通常の個体でも2.8mの高さを持つ巨体ポケモンであるが、モロボシのロボはその2倍、いや3倍の8mにも届かんというほどの特大サイズだ。
「ま?」
コレにはキラリの先発であるサメハダーの背に乗るフタチマルもあんぐりと空いた口が塞がらない。
「……アン」
「あっ、りょーかいッス! フタチマル!」
「たちゃ!」
「……発進」
「しゃあくッ!!」
サメハダーの後部にある十字型のスリットよりみずエネルギーが噴射される。
そこにフタチマルが同じく全身よりみずエネルギーを発散することで2体は相手タッグの視界から消えた。
『あーッと! サメハダーとフタチマル、2体とも姿を消したーッ!! キバナさん、コレは一体!?』
『シンプルな話さ。2体のアクアジェットを掛け合わせた推力をフルに活かして超スピードを発揮したのさ。セキガクの狙いとしては高機動戦によるスピードの差で有利にバトルしていこうってことよ」
「そして、そこからの攻めのパターンは調べ上げてある」
パンケーキを齧りながらノアコは不敵に笑った。故郷アローラのパンケーキやマラサダを恋しく思いながら。
「やるもんだねアーちゃん」
「だが捕まえられない速さではない」
アイリもマヤも、既にサメハダーとフタチマルの軌道を視界に捉えていた。
「……ッ!?」
高速戦の鉄則はスピードを活かして相手の弱いポイントを突くことにある。
自らが開発した2体の馬力を合わせての『ダブルジェット戦法』が、ゴルーグの背後に回ったところで読まれていたことをキラリは悟った。
ゴルーグが完全にサメハダーたちの移動先を看破していたからだ。
「パワー注入ッ!」
モロボシの声にゴルーグはツインアイの発光で応え、全身にエネルギーを蓄積し始める。
『……きあいパンチ』
キラリの額からダラリと嫌な汗が流れた。
「……きあいパンチの阻止を最優先」
「りょーかいッス!」
「サメハダー、あくのはどう」
「しゃばばばばぁ!!」
すぐさまサメハダーは口からあくエネルギーの奔流を発射する。
「なーさん! かみなり!!」
「なぁぁぁらぃあッ!!」
『サメハダーのあくのはどうがニャースのかみなりに迎え撃たれて相殺だーッ!!』
『なかなかやるじゃねーの』
放送席からしっかりキバナは見ていた。
索敵をゴルーグに任せていたニャースが他の個体と違って表情変化を窺い知れない黒と白の丸目ながら『悪いことを考えていた』のを。
ポケモンの特殊攻撃力をぐーんと上げるわるだくみの技を使っていたからサメハダーの攻撃を迎え撃つことが出来たのだ。
「先輩! 行きます!! フタチマル!!」
「たぁぁぁッちゃいッ!!」
フタチマルが二刀流を構え、サメハダーの背から飛び降りる。
シェルブレードでゴルーグに切り掛かる算段だ。
「なーさん!」
「ななァッ!」
なーさんが両手の爪6本を展開して飛び上がり、
「みじゅまぁッ……!」
空中にてフタチマルのシェルブレードにきりさく攻撃を合わせる。
ホタチから伸びるみずのエネルギー刀と6本の爪から伸びるノーマルエネルギーとが鍔迫り合いを起こす中でバチバチとスパークが起こる中、ロボのツインアイがこれまでになく激しい輝きを見せた。
「いっけ〜ッ!」
「……ッ!」
モロボシの気の抜けるような甘ったるい声音に反して、ロボの振りかぶる右拳の勢いは鋭く、重かった。
バチコォン!!
「しゃめぐは!?」
ロボの鉄拳を叩き込まれたサメハダーは盛大に吹っ飛ばされ、客席へ飛び込むコースであったので流れ弾防止のバリアフィールドでバウンドしてからセンターサークル付近に落着させられる。
「サメハダーが!」
「隙アリッ!!」
「ッ!?」
殴り飛ばされたサメハダーにアンの視線が向いたところにツキシマはZパワーリングを起動。
ノーマルZのゼンリョクポーズを決めたツキシマから放たれるZパワーがなーさんへ注ぎ込まれては、フタチマルの頭を両脚で挟む。
『あーッとツキシマ選手Zワザを発動! しかしコレは従来のノーマルZにおけるZワザとは流れが違うぞーッ!?』
『要はZパワーの応用だな。 増大したパワーを活かし、相手に多大なダメージを与えられるならば既存のスタイルにこだわることもない』
「コレぞキャプテン直伝の必殺!! スイレン・スペシャル!!」
「なぁぁぁッ!!」
「ふた、ちゃまぁッ……!」
「フタチマルッ!!」
なーさんは落着時に逆立ち状態でフタチマルの首に4の字固めを極めて着地。
着地時の衝撃で首に首4の字の腿での締め上げと、落着時の衝撃が加わることでの強烈なダメージがフタチマルを襲った。
「ななッ!」
必殺の一撃を決めたなーさんは素早く身を翻しニュートラルポジションであるロボの足元へと舞い戻る。
サメハダーはきあいパンチの直撃を左顔面部から中心に受け、完全にノビてしまっていた。
「サメハダー、戦闘不能! ゴルーグの勝ち!! 」
「ふ、たぁ……!」
サメハダーへジャッジをしてからリョウタは素早くフタチマルへ駆け寄りポケモンチェックに入る。
片膝立ちから両足で立ち上がることが出来たなら戦闘続行可能となる。
「ちゃがッ……!」
が、そこまでが精一杯であった。
フタチマルはホタチを落とし、仰向けに倒れ込めば目を回してしまった。
「フタチマル、戦闘不能! ニャースの勝ち!! よって勝者、ポケモンスクール3年ツキシマ選手&モロボシ選手!!」
リョウタによるダブルバトル終了のコールは、試合開始からようやく3分経った頃合いになされた。
『カキ』
38歳。アローラポケモンスクールポケモンバトル部監督。
ほのおタイプのスペシャリストとしてアローラリーグ公認ジムのジムリーダーも担当している。
扱うタイプ通りの熱血指導で生徒たちと共に頑張る名監督だぞ。