初戦のダブルバトルはキラリ以上のデータマンであるノアコに読み切られ、完敗を喫するのであった。
アローラ地方メレメレ島にあるポケモンスクールは今年で開講48年目を迎えている。
齢82にしてまだまだ壮健であるナリヤ・オーキド校長のもとで『ポケモンと生徒が一緒に学ぶ』をモットーに、普段の生活からポケモンをボールより出した状態で生徒たちは連れ歩きしながら日々の授業を受けている。
元々は校長の親族に初代オーキド博士ことオーキド・ユキナリがいるというくらいしか特色のない普通の学校であったが、風向きが変わったのは28年前、ポケモン歴1997年のこと。
当時からポケスクにはアローラきってのポケモン博士であるククイ博士が教員として勤務していた。
彼自身もポケモンの技についてをテーマとして多大な研究成果を世に発信した稀代の人物であったが、教師として受け持っていたクラスの生徒6人が在学中、または卒業後に多大な功績を残すところから学校としての躍進が始まった。
初代にして現アローラリーグチャンピオンのサトシ……エーテル財団代表リーリエ……アローラを飛び出し、全国規模のチェーン店となった『アイナ食堂』のオーナーマオ……人類史上初の月面着陸を果たした宇宙飛行士マーマネ……。
彼らに加え、ククイ博士がその年に創設に関わったアローラリーグからチャンピオンリーグまでを主戦場とした強豪で、現在もリーグ創設に合わせてアローラ地方を構成する4つの島に2つずつ配置された公認ジムのうち1つをそれぞれを預かるスイレンとカキを加えた6人は『ククイ6傑』として数えられ、偉大なる卒業生として後の生徒たちの憧れの的となっていた。
彼ら卒業生の出入りやネームバリューを頼りに将来の栄達を企図した有望株が全国から集って一気にポケスクの校門をくぐるようになり、生徒のトレーナーレベルが一気に増大。バトル部も強豪校として全国区にまでのし上がったのだ。
「よーし! いいぞーツキシマ! モロボシもナイスファイトだった!!」
鮮やかな勝ちを収めて戻ってくる2人の頭をカキ監督は遠慮なく撫で回す。
溢れる感情をそのままに、褒める時も叱る時もストレートな人情家であり、掌から伝わるものにいやらしさがこれっぽっちもないのでツキシマもモロボシも監督からのスキンシップを抵抗することなく受けていた。
年頃の女の子の髪をくしゃくしゃになるのも構わず撫でまくるのは正直勘弁して欲しくもあったが、戦勝の高揚がその辺りは打ち消していた。
監督の確かな指導があって試合に勝てるのもまた事実だからだ。
倒れたサメハダーとフタチマルがボールに回収され、キラリとアンはトレーナーサークルを後にする。
「……すまない、アン」
「ふぇ?」
「……既出の戦術に安易に頼った結果からこうなった。敵のリサーチ力を侮っていた」
「そんなの、謝るならあたしスよ!」
年長故に戦術の核を担った結果、敗戦に巻き込んだことを謝罪するキラリにアンはあっけらかんとした顔を見せた。
「あたしだってかみなりを撃ってたのを見てニャースがカットしてくることを全く想定してなかったんだもん。それでまんまときあいパンチを打たせちゃった」
たはは、と頭をかくアンにキラリはキョトンと目を丸くしていた。
アンの態度には、負けを悔しく思えぬ卑屈さは皆無だった。負けたのだから悔しいに決まっている。しかも先のクロ工戦に引き続きアンは連敗している。それも完敗だ。はらわたが煮えくり返っていてもおかしくはない。
それでもチーム全体の空気を悪くしてはならない、とばかりに明るく振る舞っていたのが分かった。
「……なるほど」
「ふぇ?」
キラリはアンからホタルへアイコンタクトを飛ばし、僅かに首肯すればホタルもすぐに返す。
2人が全国を終えた先の方針を同調させれば、やり取りを見ていたナギとミコも気持ちを1つとした。
『自分たちがいなくなった後のセキガクバトル部のリーダーは、アンこそが相応しい』
黒星の1つ2つと引き換えに部の将来設計が固まるというならば悪い話でもない。そう思えた。
「よーし! 僕の出番だ!!」
キラリ&アンのタッグと入れ替わる形でロイがトレーナーサークルへ入る。
「ロイ、頑張って!」
「うん! 必ず勝つよ!」
リコに応える背中には、気合いはあれど気負いはない。待ち望んだ全国の舞台、存分に楽しんでやろうという気概に満ちていた。
「俺で勝って予選突破を決めてやるぜー!!」
ロイ同様にテンションを高くし、トレーナーサークルに入る坊主頭のチビレルもノリにノッていた。
「ノアコ。チビレルに対戦相手のデータは渡してるのよね?」
「もちろん。ただああいうタイプは下手にデータを頭に叩き込ませるより好きにやらせた方が案外上手くいくモンだと思いますよ? 部長さんみたいに」
「私はノアコのデータをありがたく活用させてもらってるわよ」
ネクストサークルから声をかけてくるマヤに対してノアコは歯に衣着せることはない。
マヤとしてもデータマンの仕事を任せている以上、言葉を選ぶような余計な気を回す輩よりはハッキリと物を言ってくるタイプの方が信を置くことができるというものであった。
「これよりシングルバトル2、ポケモンスクール2年チビレル選手vsセキガク1年ロイ選手の試合を始めます!!」
『さぁーダブルバトルはあっという間にポケモンスクールが1勝を奪い、このまま連勝となれば予選グループ突破決定! 追い込まれた側のセキエイ学園から出て来ましたロイ選手ですが1年生ながら緊張はしていない模様! 凄い胆力による凄い試合を期待しましょう!!』
「いくぞ! ヤドン〜!!」
「やぁん」
「頼むぞ! ストライク!!」
「しゅとらいッ!!」
チビレルはまぬけポケモンヤドンを、ロイは相棒のストライクを繰り出すが、どちらも普段見られるものとは様子が違っていた。
『おっとー? チビレル選手の先発であるヤドン……ガラルの姿はなにやら頭に木製の冠を被り、ロイ選手の先発ストライクはなんと! 全身が銀色メタリックに輝いております!』
『ありゃあ、ガラナツリースにメタルコートだな。ポケモンてのは大体ああいう外付けのアプローチを嫌うモンだが、一部例外もいるんだよな』
「メタルコートとは……ロイの奴、いつの間に」
「あぁ。オレが文化祭の時にさ。散々サービスさせちまった埋め合わせってことでな」
ホタルが訝しめばあっさりとナギが白状をする。
文化祭の折、フリーマーケットで並べる物品を集める中で入手していたのをナギはロイに手渡していたのだ。
「しゅッとらぁい!」
カキンカキン! と両腕の鎌を打ち鳴らすストライクの全身を覆うシルバーメタリックの塗膜は、見るものの視界に否応なく煌めきを押し付ける。
ロイは、全国大会デビューに逸る気持ちが故にメタルコートを昨晩のうちに相棒へ塗布していた。せっかくの晴れ舞台という高揚と、どうせならば島の皆にも一目で分かるようなことがしたかった気持ちが合わさってのことだった。
ストライクが会場中の視線を釘付けにしている気配を察すれば、それがきっかけとして満足感となり、気分もクリアなものになっていた。
「かげぶんしんだ!」
「やぁん?」
ぐでっ、とフィールドにうつ伏せで寝そべったままのヤドンが分類通りに口元が弛緩している周囲を、眩い銀影が瞬く間に取り囲んでゆく。
頭頂部や尻尾の先端部が黄色く変色しているのが特徴であるヤドンのリージョンフォーム。千切れ落ちた尻尾が燻製としてカレーの具材に使われるほどスパイシーな風味を放つのに反して、ぼーっとした顔付きのまま何を考えているのか皆目見当もつかないのは原種となんら変わっていない。
「かかれーッ!!」
「らぁぁぁいッ!!」
数多の銀影が一斉に飛びかかる。その本体を見定める必要はチビレルにはなかった。
「サイコキネシスだ!!」
「やぁ〜ん!」
刹那、ヤドンの周囲でサイコパワーがドーム状に展開され、一斉に飛びかかったストライクが振り下ろす鎌腕を弾き、そのままかげぶんしんたちをまとめて吹き飛ばした。
「らがッ!?」
『ストライクの奇襲をヤドン、サイコパワーで防いだーッ!!』
ストライク本体もまた弾き飛ばされるも翅を素早く動かすことで空中にて姿勢を取り直す。
「ダブルウイング!!」
「らぃぃッく!!」
翅の羽ばたきによる勢いを活かしてストライクは全身を回転させ、再度ヤドンへ襲いかかる。
「ようかいえき!!」
「やぁん」
ヤドンはものぐさに尻尾を上げ、ストライクへ向ける。
ドシュウ! と尻尾の先端から発射された毒液の狙いは、ヤドンの見た目に反して正確だった。
「とらが!?」
「ストライク!?」
緩い雰囲気ながらに鋭い勢いで放たれた毒液がストライクの左の翅を撃ち抜いて見せる。
制御を失ったストライクはたまらずフィールドへ不時着してしまう……。
『あーッとチビレル選手のヤドン、巧みな一手を積み重ねてストライクの攻め手に対し丹念にカウンターし続けています!!』
「まぬけポケモンだからって甘く見てたらケガするぜ! 俺のヤドンはサイコパワーもスパイシーさも天下一品よ!!」
「やぁ……やん?」
チビレルが吼えているのに応えたのかただボーッとしているだけなのか判然としないヤドンが頭に被っていたガラナツリースがずるりとズレては彼の視界を塞ぐ。
同時にヤドンの全身が眩い光に包まれた。
「な、なんだぁっ」
「キタキタキターッ!!」
困惑するロイとストライクに対してチビレルはガッツポーズと共に飛び跳ねる。
この状況はある程度想定の上であったようだ。そのためのガラナツリースなのだが。
「やどどどど……!」
頭に毒々しく変容した2まいがいポケモンシェルダーが深々と口上まで噛み付き、本体に代わり目の役割を果たすはおうじゃポケモンヤドキング、ガラルの姿。
立ち上がるストライクを不敵な笑みとともに睥睨していた。
『あーッとヤドン、このタイミングで進化です!! ヤドキングに進化だーッ!!』
「よしよし、目論見通り。ベストタイミング」
通常種のヤドンはレベルアップを重ねる以外にも頭なり尻尾なりを全身から滲み出るエキス目当てのシェルダーに噛み付かれることで刺激を受けるのが進化の大きなきっかけとなりやすい。
コレと似た作用をもたらすのがガラルの姿が好みとしている『ガラナツのえだ』を加工したアクセサリーだ。
チビレルに事前に渡していたガラナツリースが最高のタイミングで役割を果たしたことにノアコはほくそ笑む。
「だが向こうも狙いは同じようだぞ」
「うん。ロイロイも全然これからって感じ」
マヤは表情を緩めることなく戦況を見つめ続け、アイリもそれに同調していた。
先手を跳ね返されながらも尽きぬどころかより燃え上がるロイの闘志を現すように、ストライクは依然としてメタリックボディでファイティングポーズを取っていた。
「このまま一気に決めてやるッ!!」
ストライクにメタルコートを塗布する意味を把握していないチビレルではなかった。
Zパワーリングを起動させ、ゼンリョクポーズを決めることでZパワーを全身から放出する。
『チビレル選手、進化の勢いのままにZワザを発動!! フィニッシュまで持っていけるかーッ!?』
「くぅッ……ストライク!」
「すッとぅ」
ロイに応え、ストライクは鎌腕を防御のために構える。
強烈な1発を叩き出すZワザを前に、下手な回避運動は直撃をもたらすことにしかならないからだ。
「あばれてやろうぜヤドキング! 俺たちのゼンリョク、見せつけるんだ!!」
「や〜どぉ〜!!」
ヤドキングに進化前のとぼけた空気は微塵もない。
Zパワーリングを通して主人から注がれるZパワーを前に、肉体も精神も充実していた。
「すぅッ!?」
ストライクのボディが宙に浮く。ヤドキングのサイコパワーにキャッチされたのだ。
「らぐゥッ!!」
「なッ!?」
宙へ浮かされ、自由もなく飛ばされたストライクが何もないはずの空中で壁にぶつかったかのように反射し、その先でもまた何かにぶつかり跳ね返るのを繰り返す。
『こ、これはーッ!? ストライクが空中で弄ばれているーッ!!』
『エスパーZによるZワザだな。完全に決めにかかってるぜ』
キバナには、フィールド中に張り巡らされている無数の光の壁がハッキリ視認できていた。
サイコパワーで体の自由を奪い、光の壁に衝突させ続ける……コレぞ、
「マキシマムサイブレイカー!!」
「やどどどどぉ〜ッ!!」
叫ぶチビレルに合わせてヤドキングは右手を勢いよく振り下ろす。
ストライクは空中で1回転半して頭部をフィールドに強打する形で落着させられた。
『ノアコ』
11歳。ポケモンスクール2年生。
チームのデータマンを務める才女で、その分析力はキラリ以上。
常に頭をフル回転させているので手元にスイーツは欠かせないらしい。
cv想定は小清水亜美さん