対するポケスクのムードメーカーチビレルは、必殺のZワザをお見舞いするのであった。
「おわった……」
チビレルは胸の前で両腕をクロスさせながら手のひら側を内向きでピースサインを作り、自陣へ振り向いてポーズを決める。この辺りの茶目っ気も彼の重要な構成物だ。
「あのお調子者め」
「でもいい感じに攻められてるっしょ? アレがチビたんのいいところだし」
「否定は出来ないわね」
ネクストサークルからマヤがなんとも言えない表情をするのにアイリが明るくフォローを入れる。
客席からの歓声もまた、完全にチビレルの勝利を確信してのものだった。
「……ッ!」
「ロイ……」
ドットは歯噛みし、リコは声を絞り出す。
あまりにも一方的な攻勢の中、Zワザを叩き込まれたことで相手側に向いたムードに呑まれかけていた。
「まだまだ! まだいけるよロイ!! ストライクも頑張れーッ!!」
それでも、だからこそと声を張り上げたのはアンだった。
「アン……」
アンとてチームが崖っぷちな状況なのは百も承知している。声を張り上げなければ本当に終わってしまう、そんな思いで腹の底から声を張り上げていた。
「ロイ! 負けないで!!」
リコもアンに同調し、声を上げた。それが信頼であると思えたからだ。
『アン……! リコ……!』
ロイは、絶望的な状況に光が差すような思いがした。先手を跳ね返され、進化からの大攻勢を先に決められたことでストライクは満身創痍。それでもここで引き下がれば、せっかく塗りたくったメタルコートの覚悟が無為になる。
リョウタが駆け寄り、ポケモンチェックに入る相棒に決意の眼差しをつける。
「ストライク! 僕たちの全てを出し切るぞ!!」
「ッ!!」
主人のひと声にうつ伏せで倒れていたストライクは開眼。
両の鎌腕を地面に突き刺すことで支えとして体を起こして見せれば、客席からは大きな歓声が上がった。
『ヤドキングのZワザが炸裂するもストライク立ち上がった!! 凄まじい根性、凄まじい執念だーッ!!』
『分かる! 分かるぜストライクの気持ち! ロイ選手を悲しませまいと持ち堪えたんだ!!』
「なにっ」
ガッツを見せたストライクの復活劇、その相手側に回されたチビレルが慌ててフィールドへ向き直る。
「な、なんだぁっ」
チビレルにさらに驚愕が重ねられる。
ストライクの銀のメタリックボディが、鮮やかなワインレッドに変色していたのだ。
「ストライクの全身に塗られていたメタルコートがZワザのダメージを通して叩きつけられたエネルギーを燃料とし、ストライク自身の闘志とトレーナーの不屈の魂を起爆剤として赤熱化したみたいだね」
この辺りの現象を解説させるならばやはりポケモン博士であるシゲルの領分だ。
「ストライクのメタルコートが赤熱化するということは……見ろ!!」
そしてポケモン博士というならばフリードも同様。見識を口にするとともにいち早く指差す先では、ストライクが眩い輝きに包まれていた。
「くそぅ!! ヤドキング、ヘドロばくだんだ!!」
復活からの発光に焦ったチビレルが指示を飛ばす。
「どぁらッ!!」
ヤドキングは右手を突き出し、凝縮させたどくエネルギーの塊を発射する。進化によりようかいえきがパワーアップしたのだ。
「ッ!!」
光を放つストライクにヘドロばくだんが着弾し、毒々しい紫の爆炎が覆い隠していく。
「やったか!?」
客席のタダノが身を乗り出し、ライカも息を呑む。
「ぬぅッ……!」
チビレルは、慌てながらの一手が徒労に終わったのを察した。
鋼鉄成分を含む真っ赤な外殻に覆われたメカニカルボディを前にしては、いかに進化して強化されたスパイシーな激毒による一撃も意味を為さない。
「いくぞ相棒……ここから反撃だ!!」
「はッ! さむッ!!」
はさみポケモンハッサム……メタルコートを全身に塗布したことで進化を果たしたストライクが紫煙を振り払い、新たな姿を見せた。
『ロイ選手のストライク! チビレル選手のヤドキングに負けじとハッサムへと進化!! ヤドキングのどく技をシャットアウトだーッ!!』
「キタキタキタキターッ!!」
「ストライクがハッサムに進化したーッ!!」
復活からの進化劇にリコとアンは両手を取り合いながらその場で飛び跳ねる。
「よし! コレでまだ分からんぞ」
「ギリギリ間に合った感じだね」
「ぶいぶい」
ホタルは腕組みしながら何度も頷き、相棒を膝に乗せたミコは口角を吊り上げる。
「……ハッサムに進化したとはいえ体力は依然として危険域。長くは保たない」
「さっさと決めちまえば済むことさ! やっちまえロイ!」
キラリの分析をナギは笑い飛ばし、ロイを囃し立てた。
ネクストサークルのマフィンは、マヤへ自慢の眼差しを向けていた。全国を戦うに相応しい最高のチームを見せることが出来て嬉しくなった。
『コレが、セキガクバトル部というものか』
試合を黙って観続けていたアメジオは、セキガクのチームとしての纏まりを羨ましく思っていた。同時に、自身のリーダーシップのなさを悔やんだ。
夏休みの合同合宿から帰って以降、アメジオはチームの空気を少しでも良くしようと奔走したが、身を結ぶことは決してなかった。
実力主義を背景に誰彼構わず当たり散らすサンゴに、自発的な行動を取らず他人に興味を示さないオニキスといった主力は終ぞアメジオに同調することはなく、スピネルの用意したラクリボールも勝てるならそれでいい、とあっさりと受け入れてしまった。
ポケモンにどんな影響があるかも分からない道具の使用を是とするスピネルのやり方を、学園理事長でもあるエクシード社社長の父に報告することも考えたが実行は出来なかった。
いかにも会社の御曹司然とした親へ泣きつくとも取られるようなことだけはしてなるものかというアメジオの意地だった。
『本当にいいチームだな……』
アメジオは、心の底からセキガクと戦いたいと願った。その為ならば大嫌いなスピネルに頭を下げることも受け入れることが出来た。
「どくがダメなら激辛パワーだ!! ヤドキング!!」
「やぁど!!」
ヤドキングが息を吸い込み、僅かに背を反らせば、
「かえんほうしゃだ! くらえーッ!!」
「やどぼぼぼぉ〜!!」
灼熱のブレスを発射する。体内のスパイス成分をほのおエネルギーに変換したのだ。
「輝け! 夢の結晶!!」
ロイはテラスタルオーブを勢いよく投げ込む。
「はッ、さぁぁぁむ!!」
クリスタルに包まれ、3色風船のひこうジュエルをハッサムは被った。テラスタルの発動だ。
「ダブルウイングだ!!」
「はぁぁぁッ!!」
テラスタルジュエルが輝けば、背中の翅の羽ばたきによりハッサムの全身に大きな力を加えてゆく。
「やどぁぁッ……!?」
『ハッサムがここでテラスタル発動! ひこうタイプのパワーを増量させたダブルウイングでかえんほうしゃをはね返したーッ!! ヤドキングが逆に火だるまだーッ!!』
「くっそ……!」
「ハッサム! 突っ込むんだ!!」
「さむはぁッ!!」
ヤドキングへ向かい、ハッサムは翅を羽ばたかせメカニカルボディを突っ込ませる。
「ヤドキング! サイコキネシス!! ハッサムを近付かせるな!!」
「どぉ〜やッ!!」
どうにか全身の火を消したヤドキングが両手を前へ突き出せば、自身を中心とした紫色のドームを展開する。
ヤドンの頃はまだ朧げだったエネルギードームが進化したことで増量されたサイコパワー分より鮮明かつ強度も増しているのは明らかだった。
「僕たちは止まらない! ハッサム、れんぞくぎり!!」
「はッ! さむッ!!」
ハッサムは黒と黄色の目玉模様が付いたカニバサミでドームを切り付ける。
何度も……、何度も何度も……、何度も何度も何度も……。
「ま、まずいッ!!」
チビレルがロイの狙いに気付き目を見開くも、ここに至ってはどうにもならないことだった。
「さむッはぁッ!!」
れんぞくぎりでカニバサミのラッシュを叩き込み、ハッサムはエネルギードームを真っ向から粉砕したのだ。
「ポケモンのタイプ相性はそのままタイプエネルギーの優劣に直結する。よほど明確なレベルの差がない限りは有利相性のエネルギーが打ち勝ってしまう」
マヤからすればヤドキングとハッサムのレベルはほぼ同格。ならばエスパータイプがむしタイプを弱点とする以上、サイコキネシスの応用であるエネルギードームがれんぞくぎりに破られるのは当然としか言いようがなかった。
『ハッサム猛進! サイコキネシスで作られたドームをぶち破ってヤドキングに肉薄するぞーッ!!』
「まだだ!! ハッサムだってストライクの時に受けたダメージはある!!」
チビレルの言は正しい。勢いこそ掴み返してはいるもののハッサムの体力は残り僅かなのは間違いない。ストライクの時に受けたZワザのダメージは甚大である。
「迎え撃ってやろうぜヤドキング! しねんのずつきをぶち当てろーッ!!」
「どやぁぁぁ〜ん!!」
ヤドキングの双眸……正確には深く被った変型シェルダーのそれがサイコパワーを宿した紫色の光を放ち、グイ、と頭を後ろに下げる。
毒々しさの塊である貝頭を思い切りぶっつける算段だ。
「……ストライクはハッサムに進化し、重さが56.0kgから118.0kgとほぼ2倍に増した。それ即ち、残像を生み出すフットワークは失われたということ」
「「えぇッ!?」」
キラリが呟くので驚愕するリコとアンの声が綺麗に被る。
「だが失って余りあるモノをハッサムは手に入れている。そして、ロイの奴はそれに気付いてる」
ナギは変わらず不敵な笑みだ。その視線は、ロイをセキガクに招き入れた張本人として満足気な笑みであった。
「そっちが貝頭ならこっちは鉄頭!! パワーなら負けるもんか!!」
「はぁッ!!」
進化によってかげぶんしんを生むステップを忘却の彼方へ追いやり、ハッサムは頭をはがねエネルギーで硬質化させてゆく。
「アイアンヘッド!!」
「さむぅぅぅッ!!」
そのままヤドキング同様振りかぶってから頭突き攻撃を敢行。
「さむむむむ……!!」
「やどどどど……!!」
文字通りに両者額を突き合わせ、至近距離から睨み合いながら押し合いとなった。
互いのタイプエネルギーが激しくスパークする。
「しねんのずつきとアイアンヘッド、自慢の頭と頭が激突だーッ!!」
「うーん、初撃で押し切れないのは辛いわな」
キバナとしては、激突の瞬間で鍔迫り合いの様相を呈した時点で結果が見えた。
それはある程度の猛者ならば誰しもが辿り着くさほど複雑でもない帰結だった。
「や、ッどッ……!!」
「ヤドキング……!!」
『競り勝ったのはハッサム!! ヤドキング、のけ反ってしまったーッ!!』
「今だぁぁぁッ!!」
ロイが吼え、ハッサムは両腕を下手に構える。
「きりさくッ!!」
「はぁぁぁッ!!」
下手に構えたカニバサミは、のけ反り無防備となっていたヤドキングのお腹を下から上に斬り上げた。
「やど、どぁぁッ……!」
さながらちゃぶ台返しにも見えるダブルアッパーカットの1発でヤドキングの体が宙に浮き、背中から倒れ込む。
すかさず駆け寄るリョウタがポケモンチェックに入れば、ヤドキングは目を回していた。
「ヤドキング、戦闘不能! ハッサムの勝ち!! よって勝者、セキガク1年ロイ選手!!」
「大逆転!! ロイ選手のストライクもヤドキングに負けじとハッサムに進化してからの猛攻を仕掛け、見事戦況をひっくり返しました!!」
「ヤドキングはかえんほうしゃをはね返された時にやけどを負っていた。だからしねんのずつきをぶつけてすぐに押し切るしかなかったんだがその押し切る分のパワーもやけどで減退させられてたんじゃあな」
キバナのような一定の猛者からすれば、当然の帰結が無事フィールドに現出している話であった。
そこに至るまでの若者たちの頑張りは、とても尊く思えた。
「よおーしッ!!」
「くそーうッ!!」
トレーナーサークルでの反応は綺麗に対照的だった。
ロイは喜びを爆発させながら飛び跳ね、チビレルは悔しさから片膝を突いて握り拳を地面に打ち付ける。
「「お疲れ」」
ひとしきり喜びロイの肩をマフィンが、ひとしきり悔しがるチビレルの肩をマヤがポンと掴めば2人は相棒をボールに戻す。
「あとは俺に」
「あとは私に」
「「任せて」」
『さぁいよいよシングルバトル1ヘ突入! 両チームともに部長が堂々とトレーナーサークルに陣取ります! Dグループ予選を勝ち抜き、決勝トーナメントへ駒を進めるのはポケモンスクールか!? それともセキエイ学園か!?』
可愛い後輩をベンチへ送り返し、トレーナーサークルへ入る2人の意識は既に直接対決へと向かっていた。
引き分けなどというつまらない想定などしているはずもないのだ。
『チビレル』
10歳。ポケモンスクール2年生。
父のヒロキはポケモンスクールのOBで、あのマサラタウンのサトシと同じ世代。
チームを明るくするムードメーカーで、お調子に乗りすぎるところがたまに傷だそうな。
cv想定は古張裕起さん。(あばれる君)