マフィンはセキガクに留まり、マヤはセキガクを後にした。道を分けた2人は、真剣勝負の舞台の下に顔を合わせるのであった。
『さぁ互いに先発を引っ込め、次にどんなポケモンが飛び出してくるのでしょうか〜!?』
「ゲンガー!!」
「げんげぇ〜ん!!」
マフィンはゲンガーを繰り出せば、マヤをおちょくるようにゲンガーが舌をベロベロさせる。
「そのひょうきんさ、ゴースの頃から変わってないみたいね……ゆけッ!!」
クスリと笑みを浮かべてからマヤが投げたボールより飛び出すは、
「らいちう〜!!」
『マフィン選手はゲンガー、マヤ選手はライチュウです!! マヤ選手の手持ちで明らかになっていたのは地方予選からこの試合まで一貫してインテレオン1体のみ! ここで新たなカードを切ったことになります!!』
スタジアムのモニターにはグステンのメガプテラが強襲するのをひらりとかわし、防御の薄い右側面部に至近距離からねらいうちを決めて撃破するインテレオンの試合動画が再生されている。
「元気そうだねその子も」
「えぇ。大事に育てたもの」
マフィンからすれば、マヤのライチュウもまた知らない間柄ではなかった。
まだマヤがセキガクにいた頃、休日の自主トレでトキワの森までロードワークに出た際に出会ったピチューをゲットする現場に居合わせていたからだ。
「別れてからの成果、見せてあげる! ライチュウ、10まんボルト!!」
「ら〜い〜ちううううッ!!」
「ゲンガー、サイコキネシス!!」
「げぇんッ!!」
ライチュウの電撃に対し、ゲンガーは両目に宿したサイコパワーで電撃そのものをキャッチ。両手を振り上げることで電撃の軌道を強引に変えてみせた。
10まんボルトは天井へと軌道を捻じ曲げられ、空中で飛散する。
「でんこうせっか!」
残像、橙影が走る。
「シャドーボール! 近付けちゃマズイ!!」
「げばばばばぁ〜!!」
ゲンガーの大口が開かれれば無数の闇玉が一気に放出される。さながら拡散弾だ。
『ライチュウ速い、速いッ! シャドーボールの雨あられを回避しながら肉薄ーッ!!』
「ちうらッ!!」
「振り下ろせ! アイアンテール!!」
でんこうせっかのスピードを活かしてジャンプ1番。さらに激しい縦回転を加えた空中落下とともにライチュウは硬質化させた尻尾を振り下ろす。
狙いはゲンガーの脳天1発!
「退避だゲンガー!!」
「げぇん!!」
ライチュウの肉薄を許したゲンガーは影の中にその身を沈め溶かす。
ゲンガーが影の中へ逃げの一手を打つことで空振ったアイアンテールがフィールドの地面に直撃し、轟音と共に直撃箇所を中心として表面をひっくり返した。
「ちぃう!」
「ライチュウ! 大丈夫」
『どこ行った!?』とばかりに辺りを見回すライチュウにマヤは呼びかける。
主人からの声掛けでハッとしたライチュウはすぐに落ち着きを取り戻した。
『流石はマヤだ』
依然守勢を余儀なくされているマフィンは舌を巻く。
攻め手を緩めぬのはもちろんのこと、ポケモンのコントロールにも抜かりないマヤの手練手管を厄介この上なしと思った。
だからこそ、この奇襲は決めねばならない。
「いけッ! ゲンガー!!」
マフィンの号令に合わせて姿を見せるゲンガーは、ライチュウの背後。
「マフィンならそうくると思った!」
「さいみんじゅつ!!」
トリッキーファイトが看破されていると突き付けられながらもマフィンはゲンガーへ指示を飛ばす。臆しては押し込まれるのみだからだ。
「げげげげ〜ん……!!」
「カウンターシールド展開!!」
「らいちうちうちう〜!!」
「げんあッ!?」
両目から放った催眠光線に対してライチュウは地面に背を付け、ブレイクダンスの要領で回転しながらの放電。
放電の勢いを前に催眠光線ごとゲンガーはあえなく弾き飛ばされてしまった。
「10まんボルト……でんこうせっかにアイアンテール……最後の1つはまだ分かんないけどカウンターシールドまで……!!」
マヤのライチュウの技構成と立ち回りは、ドットからして既視感の塊でしかなかった。
「間違いない! あの人のライチュウは『マサラタウンのサトシ』のピカチュウのスタイルを踏襲している!!」
「げんッ……!」
弾き飛ばされたゲンガーはフィールドへ身軽な着地を見せる。白い歯を見せた笑みはそのままだが明らかに焦燥が滲み出ていた。
「上達の近道はエキスパートの模倣……だったかな」
マヤの信条、トレーナーとしてのスタイルを知っているマフィンに驚きはない。
その双眸が見開かれたのは、マヤがメガリングを装着したことが理由だった。
『あーッとマヤ選手! 左腕にメガリングを装着!! そのまま起動だーッ!!』
『マフィン選手は意表を突かれたかな。ポケスクの選手はここまでずーっとZワザを切り札にしてきたから』
「姉さん、一気に決めるつもりだ!!」
「いけいけ〜!!」
応援団以上にタダノとライカは湧き立った。姉の見せ場がやってきたのだ。
「アローラより来たりしは世界に我らの雷鳴轟かせんがため!! ものどもよ、今こそ聞け! 『Xの雷鳴』を!!」
弟妹たちのエールを背にマヤはメガリングを起動。ライチュウは虹色の繭へ包まれてゆく。
「らぁぁぁぁぁいッくす!!」
赤いほっぺに黄色のシャツ……ギザギザ模様の『ツインピカテール』が長く伸びたライチュウの耳と合わせて『X』のシルエットを作り出す。
『マヤ選手、ここでライチュウをメガシンカ! メガライチュウXの登場だーッ!!』
「こごえるかぜッ!!」
『メガシンカして来ない?』
マヤとしては、メガシンカを切ったならばマフィンも同じメガシンカで対抗してくると踏んでいた。が、そのような様子は見られない……。
「一気にいく以上はッ!」
ゲンガーでそのまま継戦するマフィンに、マヤはすぐ『見』の思考を振り切った。攻め手を握り続けている有利な現状のまま押し切る以上、逡巡は大敵なのだ。
切り札を使ったならばその勢いを活かす。それがセオリーだ。
「カウンターシールド・ストームアタック!!」
「らいらいらいぃぃぃッくす!!」
ゲンガーが口から放つ冷風がライチュウの放電ブレイクダンスの前にあっという間に霧散する。
そのライチュウの背は、地面に触れていない。
「メガライチュウXはメガシンカにより発達した尻尾と耳から5000万ボルトに及ぶ強力な電磁力をスパークさせることで反発力を利用した電磁浮遊を起こし、そのまま高速での移動はおろか空中戦まで出来るようになっている。そんな状態でカウンターシールドをすれば……」
「カウンターシールドそのものが巨大な『嵐』となる」
シゲルの解説を繋ぐ形で呟くアメジオは慄然とするのと、ぜひ戦ってみたいという欲求とがないまぜになっていた。
マヤが率いているポケスクもまた、全国の舞台を勝ち上がるに相応しいチームであるとリスペクトを向けた。
「らいッくす!!」
「げやぁ〜ッ!!」
電撃を纏う竜巻となったカウンターシールドごとライチュウは電磁浮遊状態のままゲンガーを襲い、派手にぶつかり、かち上げる。
『嵐の如き強烈な一撃ーッ!!』
直撃の手応えを得たと同時だった。
「ちう?」
突如として放電がパッタリと止まり、ライチュウはお腹から地面に着地させられる。
「げぇん……!」
ボロボロになりながらも立ち上がるゲンガーは不敵な笑みを絶やさない。ここにきてようやく相手が術中にハマッたのだ。笑わない理由などない。
「そうか、のろわれボディか! メガライチュウXお得意の電撃を封じたんだな」
マフィンがゲンガーのままメガシンカもさせず敢えて粘った意図も丸ごとフリードは読み取った。
肉を切らせて骨を断つの要領でゲンガーはライチュウ最大の武器を奪ったのだ。
「でも……」
ライチュウの電撃を封じたのはいい。しかしリコとドットからすればハッキリ言ってこの盤面、敗色の方が強かった。
「部長がああも追い詰められてるの、初めて見た」
ドットは苦い顔で呟く。ゲンガーは既にボロボロで、ゲッコウガのスピードも見切られているのだから。
タマ大のヒカミやアサギ塾のエイケイにはどこか強者の余裕を保持したまま勝っているようにすら見えていた。
そんなマフィンが、マヤを相手に脂汗を流している……。
「そっか、リコたちはまだ見たことねェのか。マフィンの3体目」
「僕は知ってるよ! 部長がお世話してるの見てるから」
ナギに返すロイはどこか自慢げだ。同じ1年の中で、自分だけ知っていることがあるという優越感からだ。
「最後にマフィンがあの子たちを出したのっていつぶりだ?」
「……去年11月の練習試合以来出番なし」
「「あの子たち?」」
ホタルの問いにキラリは簡潔に答える。リコとアン、ドットは首を傾げるよりなかった。
『あの子たち』という言い回しから、リコはなんとなく群体系のポケモンであろうことは予測がついた。
「まぁ見ておくといいさ。ボクたちの部長はまだまだこれしきで終わるようなやつではない。終わられるようでは困る」
リコたちに語るホタルの口振りは力強かった。
真冬の寒風は、汗の止まらぬマフィンにはむしろ心地よかった。
「ご苦労様、ゲンガー」
ゲンガーを引っ込め、腕で額の汗を拭う。
マヤにとっても、この先のマフィンの手の内は全く未知ということはなかった。ノアコから提供されているデータとは別に過去のマフィンの試合記録をチェックしているからだ。
3体目のポケモンに関しては存在こそ把握しているものの、データの絶対量が問題であるだけだ。
「らいちうくす!」
『どこからでもかかってこい!』とばかりに吼えるライチュウにマヤは気持ちを重ねるのみである。メガシンカによるパワーアップで気を大きくしていた。
「さぁ、出番だぞッ!」
ゲッコウガのものではないボールのボタンを親指で押し、開閉可能サイズとしてからマフィンが放り投げ、繰り出されるは……
「めしゃ〜い!」
「しゃめ〜い!」
ボールから飛び出して早々に空中を飛び回る2体のうらめしポケモンドラメシヤ、
「ぱるぅらぁッ!!」
やんちゃ盛りな2体を嗜めるように怒鳴り、全翼機を思わせる頭にある二対の突起へ戻すステルスポケモンドラパルトだ。
『マフィン選手、ここで3体目のポケモンを投入! 強力なドラゴンタイプのドラパルトですがキバナさん、どうですかね?』
『そりゃあ昔と違ってドラゴンポケモンを最終系まで育てるのも現代ではそこまで難しいことでもないが、学生レベルで間に合わせて来れるのはなかなかの育て上手って言っていいんじゃあないか?』
「キタキタ! ドラパママさんと元気なチビちゃんたちだ!」
ロイにとってドラパルトは顔馴染みであった。同室で暮らしている以上、マフィンのポケモンはリコたちよりずっと身近な存在だったからだ。
「しかし、なんで今までずっと部長はあんな強力なドラゴンポケモンを出して来なかったんだ? まさか、言うことを聞かないとかじゃあないだろうな?」
ゲットされたポケモンは基本的に主人に対して従順であり、命令に従って動く見返りとして寝食の場を提供するのがポケモントレーナーの義務である。
しかしレベルアップを重ね、主人のトレーナーレベルを大きく超えた場合はその限りではなく、指示を無視するなどの反抗行為に走るようになる。こうなってしまった場合、主人の取るべき手段は自身のトレーナーレベルを引き上げるべく鍛錬を重ねるか、ポケモンに見合ったトレーナーレベルの持ち主へその子を託すかの2択となって来る。
トレーナーレベルを引き上げるにはシンプルな話、心・技・体の向上に尽きる話だ。
ゲットしたポケモンが制御下から外れて苦労する話は、ドットが憧れるマサラタウンのサトシですら体験した出来事であった。
「いや、ドラパルトはちゃんと部長の言うこと聞くよ。ドラパルトは、ね」
ドットにロイは指先で頬を掻きながら苦笑い。
ロイの言葉尻に『見てれば分かるよ』というニュアンスの意図を察したリコたちは、聞き返すことなくフィールド上のドラパルトを見ることにした。
「め〜しゃッ!」
「しゃめあ〜ッ!」
1度大人しく突起へ引っ込んだドラメシヤたちが、すぐまたドラパルトの頭の上で飛び回り始めてしまう。
「こらこら、試合中だぞ〜?」
マフィンにとってドラパルトの制御そのものは問題ない。だがドラパルトが引き連れているドラメシヤたちのすぐに喧嘩を始めてしまうやんちゃ振りが泣きどころであった。
「なかなかユニークじゃない」
「でしょ? マヤがアローラに行った後にゲットしたんだ」
マフィンのポケモンチェンジから改めてなされる試合再開のコール。
それと同時にライチュウは全身からけたたましい響きとともに発電をしていた。
『ライカ』
8歳。アローラ在住の女の子。
マヤ、タダノの妹であり、タダノ同様姉を目標にポケモントレーナーの特訓を重ねている未来のポケスク生。
マヤ曰く甘えん坊だがしっかりしている部分もあり、頼りになる妹とのこと。