カウンターシールドの発展系すら見せて来るメガライチュウXを前に、マフィンは3体目のポケモン、ドラパルトを投入するのであった。
「確かにのろわれボディの力により今のライチュウは頬の電気袋を介した10まんボルトでの定点攻撃や、カウンターシールドのための精密な放電は出来ない……しかし!! 溢れる5000万ボルトをそのまま叩き込むことは可能ッ!!」
「らぁぁぁいらいらいくす!!」
「そうか! あのライチュウ、サトシスタイルにおけるホウエン・シンオウ型なんだ!!」
全身を強烈な帯電状態へと移行させたメガライチュウXにドットは得心をする。
マサラタウンのサトシのエースであるピカチュウの技構成には大まかな区分づけがされていて
10まんボルト
でんこうせっか
こうそくいどう
かみなり
この4つの技構成を『初期型』とし、
10まんボルト
でんこうせっか
アイアンテール
ボルテッカー
この4つの頃を中期スタイルの『ホウエン・シンオウ型』、
10まんボルト
でんこうせっか
アイアンテール
エレキボール
そこから後期に『イッシュ・カロス型』へと変容し、
10まんボルト
でんこうせっか
アイアンテール
エレキネット
現在に至る完成系の『チャンピオン型』と、合計4つの『型』が存在している。
どの『型』を模倣するかはそれぞれトレーナーと、その指示に従うポケモンの性質や意欲次第であるのは言うまでもない。
これらの技構成、戦闘スタイルはピカチュウはもちろんのこと、進化系であるライチュウにもそのまま転用が可能であった。種族上のステータスは単純にピカチュウの上位互換であるので当然だが。
ピカチュウに出来ることの大半はライチュウにも出来るのだ。
『マフィンはやはり抜け目のないことをしてくる。ダラダラと時間をかければ足元を掬われるリスクが高まるばかり』
帯電状態で構えるライチュウの背にマヤは全幅の信頼を預け、開いた右手を突き出す。
旧交を温める一戦に幕を引くためだ。
「ライチュウ! 5000万ボルトのフルパワーをこの1発に込めて!!」
「らいくすッ!!」
『あーッとメガライチュウX、自慢の電磁浮遊を解き、四つ足を地面に付けたーッ!!』
『いい判断だぜ!! 一気にケリをつける気だ!!』
トリッキーな戦い方をする相手に長期戦へ持ち込むのはそれだけ術中に嵌るリスクが増す。その観点からキバナはマヤの決断に太鼓判を押した。
「ならばこちらも!!」
「ぬううッ!?」
マヤが驚かされるはマフィンの左手首、Zパワーリングを見せて来たことだ。
去年の5月から6月にかけて、2年生だったマフィンは他地方交流でアローラを訪れ、ポケスクを拠点として島巡りを一部行った。
そこでマヤがマフィンに顔を合わせに行かなかったのは、黙ってセキガクを離れたことからくるセンチメンタルが優ったからだ。その辺りはマフィンも理解していて、互いに会おうと動くこともなかった。
マフィンがZワザを使うのはいいとして、よりによってアローラのチーム相手にお披露目してくるというのがまさしく『ぬけぬけとよくもまぁ』といったところだった。
「影の中より掴むは勝利……セキガクの柱として今!! ゼンリョクの魂をば見せる時ッ!!」
「部長……」
輝くZパワーを放出するマフィンの背中をリコは脳裏に焼き付けてゆく。
結果がどうなろうとも、セキガクの柱を謳った以上はその継承を願われた者として見届ける義務があると思えたからだ。
「ライチュウ!! フルパワー・ボルテッカー!!」
「らいらいらいらいらいーッくす!!」
マフィンのお化けを模したようなゼンリョクポーズからZパワーが放出される……そこにライチュウが四つ足で大地を踏み締め、通り抜けるフィールドを荒らし散らかしながら迫ってゆく。
「「いざ!! 尋常に勝負、勝負〜ッ!!」」
シャウトすると同時に、ライチュウが全身を弾丸としてドラパルトのお腹めがけて着弾。
「ぱるるるるぁ〜ッ!!」
「もらったッ!!」
握り拳を作りながらマヤが確信を持つ。
が、すぐに違和感に気付く。
『ドラメシヤたちが、いない!?』
ドラパルトの頭部にある突起部分はもぬけの殻……繰り出されてからずっと喧嘩していたドラメシヤたちが忽然と姿を消していたのだ。
「フフフ……ドラパルトはあくまで囮! 体力の全てで以てライチュウを受け止め、動きを止めるのが役割!!」
「じゃ、じゃあ注がれたZパワーはどこへ……!?」
「めしゃあーーーッ!!」
「しゃめぇーーーッ!!」
2体のドラメシヤの咆哮がそのままマヤへの答えとなった。
眩いZパワーを全身から放つドラメシヤがライチュウの影へ突っ込めば、影がライチュウ全身を包み込む闇の世界への入り口とリンクする。
「ら、らいくす!」
「ぱぱぁッ……!」
たまらず離れようとするライチュウにドラパルトが掴み掛かる。
「ら、らいい……!」
ライチュウは振り解こうにもボルテッカーの反動ダメージにより身体に力が入らない。
「来たれ!! 怨念の触手よ!!」
「めぇしゃあ!!」
「しゃあめぇ!!」
影から飛び出して来たドラメシヤたちが競うようにライチュウの周囲を旋回。彼らを追うようにして伸びていく漆黒の触手がライチュウを絡め取る。
「『無限暗夜への誘い』の果てに……」
マフィンは右手を高々と突き上げ、
「爆ぜろ!! 怨念よ!!!」
ギュッ、と力強く握る。
強烈な闇色の爆発が、フィールドを漆黒に染め上げた。
『ドラパルトのZワザ炸裂ーッ!! ドラパルトは先にメガライチュウXの強烈なボルテッカーを受けていましたが、コレは見事なクロスカウンターの形でありましょう!!』
「群体系ポケモンの強みを活かしたね。本体にドラメシヤ2体を含めて、初めてドラパルトというポケモンは成立する」
シゲルは、隣に座るアメジオの内情を尋ねはしなかった。
ただ、フィールドで繰り広げられている戦いに目を輝かせている分にはバトル好きなところと、純粋で誠実な人間であるのはなんとなく推察できた。
そんなアメジオが抱くのは血湧き肉躍る高揚感……とにかく熱い試合をしたいと心から望んでいた。
セキガクの面々とならきっと楽しい勝負が出来るという確信もあった。
エネルギー爆発のモヤが晴れてゆくので誰しもが息を呑む。
「ぱるぅッ……!」
ドラパルトはうつ伏せに沈黙し、
「ぐッ……!」
マフィンは右膝を突いた片膝立ちに崩れ落ちてしまう。滝のような汗が噴出していた。
「部長!」
「Zワザはトレーナーの体力と精神力をゴッソリ持っていくからな。虚弱体質なマフィンにとっては辛いはずだ」
「……それでも、チームの勝利のために使用に踏み切った」
ロイが身を乗り出して叫ぶ中、ホタルとミコもコレには頭が下がる思いであった。
「あぁッ! 見てアレ!!」
アンが指差す先には、ボロボロながらもドラパルトを見下ろすライチュウの姿。
「……ッ!!」
「部長…!!」
ドットは絶句し、リコは呟くよりなかった。
「よぉぉぉし!! 姉さんの勝ちだ!!」
「予選リーグ突破だね!!」
ライチュウが健在であるとなればタダノはガッツポーズを作り、ライカは飛び跳ねる。
「Zパワーをきっちり50%ずつ、ドラパルトから切り離したドラメシヤたちに注ぎ込んでZワザの起点にした、か」
「昔、一緒に観た試合でマヤたちの大先輩がやってただろ。親を囮にするやつ」
ポケモン歴2024年の第7回PNTTのことだった。
アローラ代表チーム<マナーロ>のイリマ選手がおやこポケモンガルーラで見せた戦術とは、母親と子供で1セットであるが故の撹乱、親を盾として子供による決死の攻撃を通していたのを生中継で見ていた。
「上達の近道はエキスパートの模倣……か」
道は違えても、同じ思いからマフィンも歩み続けていたことを知るマヤは、爽やかな笑みを見せる。
それと同時だった。
「ちゅぐふぅッ……!!」
ライチュウのメガシンカが解除され、仰向けに倒れ込んだのは。
すかさずリョウタが両者の間に駆け寄り、ポケモンチェックを開始する。
ドラパルトも、ライチュウも目を回しダウンしているのを見てコールを飛ばす……
「めぇしゃ〜……」
「しゃめぇ〜……」
直前に踏み止まった。
倒れたドラパルトを気遣うようにドラメシヤ2体が寄り添うのを認めては、コール予定の内容をすぐに改める。
「ライチュウ、戦闘不能! ドラパルトの勝ち!! よって勝者、セキガク3年マフィン選手!!」
困惑の声がちらほらと上がるのにもリョウタは物怖じしなかった。
確かなジャッジに自信を持てなければナックルジム所属の名折れだからだ。
「ご説明します! ドラパルトは本体であるドラパルト1体と、そこについて回るドラメシヤ2体を合わせて1体とカウントする群体系ポケモンであります!! 故にドラメシヤ2体が残っている以上、公式ルールにおいてドラパルトは戦闘不能とは見做せません!!」
リョウタは、毅然と言い切った。
「あいつ……言うようになったじゃあねェの」
コレにはたまらずキバナも八重歯の見える笑みを見せる。
長い付き合いであるジムトレーナーの一員だったリョウタの名采配に、そして確かな勝利を得たチームに拍手を送った。
『け、決着です!! マフィン選手、群体系ポケモンの特色を活かして最後の最後に奇襲炸裂!! コレにより、全国中学校ポケモンバトル選手権大会、Dグループ予選を突破したのはセキエイ学園!! セキエイ学園に決まりましたーーーッ!!』
リョウタの説明によりジャッジの意図を理解した客席は団体戦の勝者決定に一気に湧き上がる。
「勝った……お姉さんたち勝ったんだよね!?」
「ほほぉう!」
「みたいだね」
チャンとオドリドリが手を繋いで飛び跳ねる中、アメジオは静かに席を立つ。
「もう行くのかい?」
「はい。見るべきものは見れましたから」
シゲルがアメジオを引き止めるのは本当に軽い調子に留めた。
確かな信念を胸に秘めた者の歩みを止めるのは野暮であると知っているのも、色男の条件であるからだ。
「お疲れドラパルト。ドラメシヤちゃんたちも」
「マフィン!!」
「わわ!」
ドラパルトをボールへ戻すマフィンの肩を抱き起こすのはナギだ。
すぐにマフィンの周りにセキガクバトル部みんなが集まる。
「やったなマフィン。コレでベスト4進出だ」
「優勝まであと2勝ね」
ホタルとミコの明るい表情にマフィンはようやく戦勝の実感を得た。正直な話、マヤが強すぎて無我夢中であったからだ。
「Dグループ予選、ポケモンスクールvsセキエイ学園の試合は2勝1敗でセキエイ学園の勝利とします!! 両チーム、礼ッ!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
儀礼の挨拶から、校歌演奏と校旗掲揚が行われる。
ナックルスタジアムの天辺にて、ガラルの寒風にセキガクの校旗が吹かれるのも2度目となった。
「目一杯あばれて来いよなッ!!」
チビレルがお調子良く賞賛する。
「リコっち。今度は目一杯やり合おうね」
「うん」
白い歯を見せながら右手を差し出すアイリにリコは快く応じた。同じ1年生同士、近いうちに今度こそ激突する予感を共有しながら。
「おめでとうマフィン。それにセキガクの皆。決勝トーナメント、きみたちの勝利を祈っている」
「あぁ。マヤたちや、クロ工の人たち、それに地方予選で戦ったライバルたちの分まで俺たちは戦い抜いてみせる」
儀礼の挨拶とは別に、マフィンとマヤは熱く握手を交わした。
『敗れた人たちの分まで……』
リコは心の中で反芻した。ここまで下して来た熱きライバルたちに恥じない戦いをしなければと誓ったのだ。
「そんな……姉さんたちが、負けたなんて……!」
完全に勝ったという確信をひっくり返されたタダノとライカのショックは大きかった。
それでも、晴れやかなマヤの表情を前にしてはいつまでも落ち込んではいられない。
「俺、姉さんの仇を取るために死ぬ気で頑張る!! そして全国制覇してやるんだ!!」
「あたしだって!!」
小さくも、確かな決意が2つ芽生え、燃え上がるのを長姉は微笑みながら見届けていた。
『さぁコレにてナックルスタジアムを舞台に行われるDグループ予選の全試合が終了。同時に決勝トーナメントを戦う4チームが出揃いました!! まずは準決勝第1試合、アサギ塾vsオレンジアカデミー!! 昨年王者と参加校内で最も歴史の長いチームが激突します!!』
「ビワさんたちがアサギ塾と戦う……」
モニターには今後の予定として対戦カードが映し出されてから、各チームのハイライトが流れている。
『そして準決勝第2試合は地元ということで地の利を活かして勝ち上がりましたエクシード学園と、強豪2校を見事破ったセキエイ学園の試合となります!!』
「地の利を活かして、ねぇ……」
ナギの乾いた笑いは、言うまでもなくエクシード学園の強さのカラクリを知るが故だ。
「リコ……」
「うん。分かってる。オーダー次第だけど……」
アンに笑みを向けるリコ。その心内は燃えに燃えていた。
今度こそ、アメジオにリベンジする。その一点にて燃えていた。
『群体系ポケモンの状態是非』
複数の個体で1体として扱う群体系ポケモンはその個体の全てが倒されない限りは戦闘不能とは扱われない。
加えてトレーナーごとにどの個体に主導権を持たせているか千差万別なため、バトル上のジャッジは難易度が高い。