2人は明日の再戦を誓い、リコはミブリムを新たな仲間としてゲットするのであった。
翌12月27日、シュートシティのホテルで目覚めたリコはパジャマとナイトブラを脱いでスポーツブラの上からTシャツを着ていく。
そこから手早く青いセキガクジャージに袖を通す。下はパジャマだけ脱いでそのままジャージだ。
「よし、行こ!」
「にゃろ!」
ボールから出たまま一緒に寝ていたニャローテを引き連れて部屋を出る。
場所は違えども寝起きのロードワークはリコにとってすっかり習慣として根付いていた。
「にゃろあ」
「ココガラの群れだね」
早朝のシュートシティの景色はリコにもニャローテたちにも新鮮であった。普段セキガクの周りの森林地帯を走り回っているのもあり、ガラルの都市部の空気というものもまた違った味わいだった。
都市部といえばパルデアのテーブルシティもあるが、同じ都市部でも印象は変わってくる。
『いよいよだ……エクシード学園との試合』
一昨日の夜にホタルが約束してくれたとはいえ、対戦の組み合わせなどは相手あってのことである。仮にリコが試合に出れたからといって、そこからピンポイントでアメジオとマッチアップされるかどうかの保証はない。
それでもリコとしてはオーダーに選ばれたならば全力を尽くす、ただそれだけのこととした。セキガクの一員として、まず何より大事なのはチームの勝利なのだ。
『セキガクの柱になる』……マフィンから託された思いは、リコの中で確かな芽生えを迎えていた。
ホテルの部屋割りは2人部屋でリコとアン、ロイとマフィン、ホタルとキラリは寮でのものと同一で、ドットはミコと相部屋、ナギは1人で2人部屋を占有する形になっていた。
「おはよーリコ!」
「おはようアン」
朝6時に目を覚まし、30分ほどのロードワークから帰って来ればアンも起きており、ジャージ姿でフタチマルを隣に連れ歩き外に出るところであった。
時間は7時10分前、のんびりいけばちょうどホテルのビュッフェが開く頃合いだろう。
「先行ってるね」
「うん」
入れ替わりに部屋に入るリコはポンポンと衣服を脱ぎ捨ててゆく。備え付けのシャワールームで汗を流してからアンに追い付き、皆と合流する算段だ。
「ふー……」
朝イチの走り込みで火照った肢体、頭からシャワーを浴びることで体はもちろん意識も引き締めてゆく。
「ん……?」
リコは自分の股間に怪訝な視線を向ける。
デリケートゾーンでミディアムヘアーのインナーカラーと同じ青の体毛がほんのり主張していた。
「こっち側なんだ」
生えてくるとすれば外側のネイビーだと思っていた、リコにとっては些細な予想の外れだった。
入学してからずっと寮の大浴場で飽きるほどに同性の裸を見てきたのだ。陰毛の1つ2つ、そりゃあ自分にだって生えてくるだろうという認識でしかなかった。
リコにとってはこんなことより試合の方が大事なのは言うまでもない。
「よし、番号!」
「いち!」
「に!」
「さん!」
「ウス」
ホテルのロビーに8時30分に集合、そのままスタジアムへ向け出発というのは前日の夜のうちにポケラインの共通チャットからホタルにより通達されていた。
ホタルの号令に合わせリコ、アン、ロイにドットが点呼に応える。
上級生は皆点呼するまでもなく集合を済ませていた。
「うむ、出発だ!」
「「「はいッ!」」」
「ウッス」
ジャージの色の通り、群青の一団となりセキガクバトル部はホテルを出て入り口に待機済みの送迎バスへ乗り込んでゆく。
「ようお前ら! よく寝れたか?」
「監督」
気さくな調子でフリードが先に乗り込んでおり、1番後ろの席を占有していた。ともあれコレで全員集合。バスはシュートスタジアムへと向かった。
「熾烈なグループ予選を潜り抜けた4チームが全国制覇の栄誉をかけてここ、シュートスタジアムにて激突します! 全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆様こんにちは! 本日は第98回全国中学校ポケモンバトル選手権大会決勝トーナメント、準決勝2試合の様子をお送りします!! こちら、放送席から実況は私、ガラル担当ジッキョーブラザーズ長男のジッキョー!! 解説はエンジンジムのジムリーダーカブさんに来て頂いております! カブさん、今日はよろしくお願いします!」
「うん。よろしく」
白髪交じりの髪に年季の入った顔立ち、その視線には勝負の世界に生きてきたが故の険と、彼自身の人当たりの良さがないまぜとなっている。
「さて、学生バトル、それも中学生部門の大会ですがカブさんとしましてはなにかありますでしょうか?」
「ぼくとしては真剣勝負に学生とかエキスパートとか、そういう区別はあまりしてないかな。誰でも10歳になればポケモントレーナー。心・技・体を鍛え抜き、ポケモンとの絆を深めたものが勝利の栄光を掴み取る……コレはバトルの世界ならどんな環境でも変わらないと思っているよ」
「流石は『いつまでも燃える男』のキャッチコピーの通り、ガラルのジムリーダーたちにとって素晴らしいお手本として慕われているカブさんらしいですね!」
「いやぁ、そんな……」
困ったように笑みを浮かべる『可愛らしさ』もまた、カブの魅力であろう。事実、その辺りのファンも数多くいる人物だ。
『さぁもうすぐ迎えます10時ちょうどより準決勝第1試合! アサギ塾vsオレンジアカデミーの試合が始まります!! 両チーム共に予選グループを盤石の体勢で突破し、勢いそのままにシュートスタジアムまで乗り込んできております!!』
「実際のところ下馬評としてはどうなんだ?」
「……7:3でアサギ塾有利」
「そんなところだろうな」
屋内の控え室にて、ホタルとキラリは備え付けのテレビモニターを見つつ言葉を交わす。
第2試合を控えるセキガクバトル部は出番待ちの待機状態であった。
「あっ、出てきた!」
にわかに歓声が強まる中でロイが反応する。
スタジアムにて選手入場が始まったのだ。
『威風堂々、西側通路より姿を見せますは去年の王者アサギ塾!! データベースによりますと2005年の本格始動から今年で既に18回の出場を誇っております超強豪! ジョウト、ホウエン、カロスの3地方にリーグチャンピオンを輩出した名伯楽であるナンテ監督指導のもと連覇を狙います!!』
『頑張ってくれよ先輩たちー!!』
「はは、ウルトの奴よく響く声だなぁ。中継越しでもすぐ分かったぞ」
アサギ塾は学校組織全体としてバトル部の活動を行っており、塾生全員が選手なりマネージャーとして組み込まれている。
当然選手層も厚くなり、いかにウルトがなかなかやるものとして将来性を評価されているにしても現状としては2軍のままでしかない。
最高の舞台を目の前にして客席から声を張り上げるしかないウルトの歯痒さをロイは理解し、今後より飛躍してくるであろうことを予感した。
善きライバルの飛躍は、ロイにとって喜ばしいことである。
『さぁ続きまして東口から入場しますは創立800年を越える伝統とチームの団結力を武器にここまで勝ち上がって参りましたオレンジアカデミー!! データベースによりますとチームを預かるキハダ監督はアサギ塾出身で、同じくアサギ塾出身でセキエイ学園の監督を務めるフリード氏とはチームメイトとして2010年の第85回大会から2012年の第87回大会までを制してV3を達成しているとのこと!! 時を経て今、かつての選手が監督として恩師に戦いを挑む構図であります!!』
「随分とまぁ小っ恥ずかしいこと掘り返されてる気分だぜ」
「全国制覇V3なんて普通は胸を張る以外ないことなのにね」
学生時代を経て現在に至るまでに恥ずべきところがあるから小っ恥ずかしいのだろうが、とマフィンが言外にチクリと刺してくるのでフリードは苦笑いするよりない。
「あれ?」
「どしたリコ?」
「あの人、ユニフォーム着てる」
「わわ、ホントだ」
入場するオレンジアカデミーにおいてマネージャーとしてベンチに鎮座しているボタンが自分たちと同じ1年生ながらに部長を務め上げているというのは、テラスタル研修においてナッペ山ジムへ向かう最中にビワから聞いていたことだ。
「もしかして戦うのかな?」
マネージャーといえども部長である以上先頭を歩くのは当然として、ボタンが選手用のユニフォームを着用しているのは、リコやセキガクの皆にとってはもちろんのこと、オレンジアカデミー以外の全てにとって青天の霹靂としか言いようがなかった。
試合記録の動画で見た限り、予選の段階では他地方交流の際に見た黒のパーカー姿のままであったからだ。
「これより準決勝第1試合、アサギ塾vsオレンジアカデミーの試合を行います!! 両チーム、礼ッ!!」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
「塾長、今日はチーム一同、胸をお借りします!!」
「それじゃあ足りませんな。せっかくこうしてやり合うんだ。胸を食い破り、突き破るつもりで思い切り来なさい」
「押忍!!」
儀礼の挨拶から監督同士も一言を交わし、スタジアムの大型ビジョンには両チームのオーダーが映し出される。
ダブルバトル
センクウ&ラセツvsピーニャ&シュウメイ
シングルバトル2
マンジマルvsビワ
シングルバトル1
ジャキvsボタン
控え
エイケイvsオルティガ
「やっぱり試合するんだ。あのマネージャーさん」
「しかもシングル1じゃん! あたしたちの前じゃあ全然そういう雰囲気出してなかったよね」
オーダーに名を連ねているのが現実であり全てである。そんなことは百も承知だ。だがアンにはどうにも他地方交流の折に見かけたマネージャーとしてのボタンのイメージが強いままだった。
「この大一番で出てくるってこたぁ十中八九……」
「秘密兵器だね」
「ぶーい」
ナギやミコら上級生は事前に姿を見ていない分、ボタンの実像に辿り着くのが早かった。
「こんなことになって、本当にごめん。特にメロちゃんにはなんて言っていいやら……」
「なに言ってんだよボタン。今更お前の決定に反対する奴なんかオレたちの中にはいやしねェよ。戦力的に見て、どう考えてもお前が出た方が勝率が高いからこのオーダーにしたんだろ?」
「マジボス殿の前線復帰は我ら選手一同もとい、スター団全員にとってなによりの悲願。このシュウメイ、轡を並べて大いくさへ挑めるにコレ以上の喜びはござらぬ」
「シュウメイ……」
「それにボクたちさ、ずっと前から知ってたんだよね。チーム練習にマネージャーとして参加した後、夜遅くまでマジボスがブイブイたちと猛特訓してたこと」
「ピーちゃん!?」
柄ではないから、と秘中の秘としていたことがあっさりバレていたと知り、ボタンは飛び上がりそうになるほどビックリしてしまう。
「秘密特訓のつもりだったんだろうけど全然隠せてなかったからな? まぁ、だからこそオレたちももっと頑張んなきゃ、って奮起できたんだけどさ」
「オルくんまで……」
ボタンの肩に優しさと親愛を込めて大きな手を回すのはビワだった。
「大丈夫。みんなボタンちゃんの頑張りを解ってる。わたしたち、ずーっと一緒の仲間なんだもの!」
「ビワ姉……」
右の肩を抱いてくれるビワの手にボタンは左手を重ね、ほんの少しの瞑目から気持ちを切り替えた。
眼鏡の奥の瞳にボタンは決意の火を灯す。
「みんな。ここまで来たら全力あるのみだ!! 誰が相手でも勝ち抜いて、全国制覇という最高の『宝物』をパルデアへ持って帰ろう!!」
「「「「「やってやりまスター!!」」」」」
円陣を仕切るボタンはいちマネージャーではなく、紛れもなくアカデミーのバトル部の、いや……スター団のマジボスとしての風格を放っていた。
「あなたたち3号生にとってはとっくの昔に耳にオクタンな話でしょうが、コレを言い聞かせるのが私の仕事なのでまぁ聞き流しておいてください」
アサギ塾の円陣にて柔らかい口調で塾長ナンテが塾生たちに語りかける。
ジャキと至天王4人は至極真面目な表情を崩さない。
「いついかなる時であろうともいざバトルとあらば真剣勝負。真剣だからこそ勝てば楽しいし、負ければ悔しい。ポケモントレーナーとは、人生とはバトルの連続です。真剣であるからこそどう転がるにせよ行くべき道が見えてくる」
「ちう」
ナンテの語る足元にはライチュウのテディがあくびをしている。
「皆さん……『楽しい試合』をしましょう」
「「「「「押忍ッ!!」」」」」
塾長に応えてからタッグの2人はトレーナーサークルへ向かった。
『さぁ決勝戦へ駒を進める1番乗りは前回覇者か古豪か、いよいよ試合が始まります!!』
『スター団のマジボス』
それは、いじめられっ子たちにとっての『希望の星』だった。
5つのチームのボスたちを束ね、敢然といじめっ子たちに立ち向かったマジボスの存在はやがて時の流れと共に風化していった。
団の教義の元にかつての仲間を打ち倒させ、マジボスは青春の申し子によりその役目を終えたという。