SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 週末を迎え、リコたちの向かった舞台はセキエイスタジアム。
 資産に物を言わせたエクシード学園にホーム感をすっかり霞まされながらも試合は始まるのであった。


出陣! セキガクツートップ

 ポケモンバトルの団体戦は2人1組のダブルバトルを1回、シングルバトルを2回の計3戦行い、先に2勝した方が勝ちとなる。

 オーダーを決めるホタルがこの初戦に自身を捩じ込んだのは1つの役得と言えた。副部長という立場を超え、ほとんど部長の代理として部の全体を取り仕切る役回りの中で、その責任感を闘争心の発露によって解き放つためである。

 早い話が、普段のストレスを試合の中で存分に暴れ回って発散したいのだ。

 

「それじゃあリコちゃ〜ん! 行ってくるね〜!」

 

「あ、あはは……」

 

 投げキッスを飛ばす部長にリコはなんともいえない表情をさせられる。

 元々はキラリをタッグに据えていたオーダーに自身を捩じ込んできたマフィンだけが、ホタルには唯一想定外ではあった。

 そもそもマフィンが部長としての仕事をまともに出来るならばホタルの負担もなくなるのだが、生まれつきの虚弱体質が執務の足を盛大に引っ張っていた。

 自分がやった方が早いと見かねた故に、ホタルがマフィンの仕事を代行するようになった。

 

「いくぞマフィン」

 

「オッケー!」

 

 そんな駄目部長が、初めて見かけた時より妙にリコに対して入れ込んでいるのはホタルにもすぐに分かったことだった。

 浮ついたものであるのは一目瞭然ながら、リコを見るマフィンの瞳に宿る物の中に確かな『希望』が見え隠れしているのが、ホタルを始め2年生たちには分かったので釘を刺すのは差し控えていた。

 

「なぁキラリンよ。マフィンの野郎、だいぶお熱みたいだな」

 

「……」

 

 ナギにキラリは返事はせず頷くのみだ。

 2人としてもホタルが踏み込まない以上、マフィンの意図するところに対してどうこうしようとは思わなかった。

 それだけホタル副部長の度量を買っているのだ。

 

「あははは……」

 

 そんなマフィンからの熱視線を送られている当のリコには、先輩たちが自分をどう見ているかなど皆目見当もついていない。毎日の練習の中で上達していくのに夢中だったからだ。

 

 

 

「これよりセキエイ学園vsエクシード学園の練習試合を行います! 全体の進行は、ポケモンリーグ本部より定められた中等部向けの公式ルールに則ります!!」

 

 両陣営のタッグがトレーナーサークルに入れば、フィールド中央部端の審判サークルより今日の試合をジャッジする審判員がコールをかけた。

 まだ年若いながらもれっきとしたポケモンリーグ公認のスタッフだ。当然、公認スタッフを呼び込んだのもエクシード学園の財力の賜物である。

 

「たとえ弱小相手、たとえ練習試合であっても本番同様の環境を整えることは大事ですからね」

 

 スピネルからすれば本社の研究部に所属するヤンガたっての話ということでわざわざセッティングしてやったのが今回の試合だった。

 昔会社にいたという『先輩』というのがどんな奴なのか、そのツラを拝みがてらの遠征で、その相手チームにいるはずの監督が不在というのは正直言って不快であった。

 

『この上は圧倒的な力の差を見せ付け、今後の弾みとさせていただくより他ありませんねぇ。ウフフフフ……』

 

 姿を見せぬ件の監督、そこに際して煽りをかましてきたマフィンへの不愉快さを押し込めながらスピネルは口角を吊り上げる。

 カントー遠征は来週以降も続き、全国を狙えるレベルの強豪校との試合が既に決まっている。無論、コレもエク学の財力あってのことだ。

 弱小無名のセキ学如き、簡単に踏み潰してしまえるとスピネルはタカを括っていた。

 

「エクシード社の科学力と財力、コレらをフルに活かしたエクシード学園に敵などいないのですよ」

 

 大企業の力というのは、小悪党が居丈高に振る舞うに絶好の『下駄』となっていた。

 

 

 

『さぁ、いよいよセキエイ学園vsエクシード学園の練習試合! 今年の両校の今後を占う大事な一戦が始まります!!』

 

「流石はエク学……本格的なモンだ。どんだけ金かけたんだ?」

 

 放送席からの『ジッキョーさん』の声を聞くフリードはベンチに入っていないだけで、ずっと前から会場入りし、ポツリと客席の片隅に座っていた。

 ポケモン歴2000年代生まれのポケモン博士第1号として扱われているフリードの研究職への原動力とは、父への反抗心に起因するものだった。

 フリードの父フリーダムは特定の所属を持たず、全国各地の研究施設を転々としながら、受け入れ先のプロジェクトにおける潤滑油の役割を果たすことにやり甲斐を見出す人であった。

 1人の研究者としての成功より、プロジェクトに関わる皆で成功の喜びを分かち合うことを第一としていたその在り方が、息子の立場からは歯痒く思えてならなかった。

 

『俺は親父とは違う。誰かの影に埋もれて生きるより、俺自身の名を天下に轟かせてみせる』

 

 『戦うポケモン博士』というフリードに与えられたキャッチフレーズは、学生バトル界の頂点に君臨するアサギ塾出身である以上に父への反抗心が結実したものといってよい。

 その後パルデア地方に渡り高校、大学にかけてポケモン生物学を専攻、これらを主席で卒業したフリードはスカウトを受け、そのステータスを引っ提げてエクシード社へとスカウトを受け入社。

 本来ならば大学院での活動を必要とするポケモン博士の資格すら大学生活の中で飛び級の形で取得したフリードは、大企業からの最大級の高待遇を受けたことでまさしく絶頂の只中にいた。

 そんな中、鳴り物入りで迎え入れられた本社ビルの地下施設で見た異様なる光景は、フリードにこの世の『裏』を容赦なく叩き付けた。

 いくつも安置されているピンク色の物質……それに魅入られる研究スタッフに、実験としてその分泌エネルギーを投与され暴れ回るポケモンたち……それらの光景がトラウマとなり、気が付けばフリードは辞表を叩き付けてエクシード社から飛び出していた。

 

『賭けてもいい……ありゃあ、この世界の理の外から来た存在だ。下手に触っちゃあならねェモンだ』

 

 未知のものに対して恐怖が興味を上回るならば即座に我が身を優先して逃げるべしというのは、アサギ塾にて目をかけてもらっていた恩師からの教えであった。

 ポケモンバトルの実力と同様に、人として『怖いと思えることを正しく恐怖出来る感覚』を養ったことが現状に繋がっているといえた。克服するにしろ逃げ出すにしろ、恐怖とはまず感じ取ることが出来なければ選択すらままならないのだ。

 何かの巡り合わせがズレていれば、自分はあの地下で見た理外の鉱石がもたらす得体の知れない魔力に魅入られていたのかもしれないという『もしも』が、フリードの背筋を何度凍らせたかはもう数え切れない。

 昼行灯をやっているのも、連中に捕捉されるのを恐れてのことだった。

 まぁそれは、今のリコたちから知ったことではないのだが……。

 

 

 

「これより団体戦ダブルバトル、セキエイ学園3年、マフィン選手&2年、ホタル選手vsエクシード学園1年、サンゴ選手&2年、ジル選手の試合を行います!! 試合方式はCDルールを採用し、2C1D! 各種切り札システムは1人1試合につきどれか1つを一度のみ使用可能!!」

 

 

 

「2C1Dだから……使用ポケモンは2体で1体やられたらそこで負け、だったよね?」

 

「うん。シングルは3C1D」

 

「3C!? 確かリコって、まだ2体しかポケモンいなかったんじゃ」

 

 ロイにアンが答えればそのままロイは焦りながらにリコを見る。

 

「だ、大丈夫だよロイ。CDルールで参照される最低限のポケモン数はD(ダウン)側……試合は問題なく出来るから」

 

「でも手の内として不利なことに変わりはない」

 

 ベンチの外のネクストサークルから、フィールドをジッと見つめたままポツリと呟くのはドットだ。

 リコとしてはルール以前に、試合をすること自体に対する緊張感で頭がいっぱいであった。

 

 

 

「遊んでやろ! オニゴーリ〜!」

 

「ゆけッ、サイドン!」

 

「ごぉりぃん……」

 

「さぁいッ!!」

 

 サンゴが繰り出すのは冷気を纏い、角を生やした『鬼の顔面』そのものと形容できる相棒のオニゴーリ。

 ジルはカントーでも馴染みのあるドリルポケモンサイドンが、薄いグレーのパワフルなボディを降り立たせる。

 

「いっけー! ゲッコウガ!」

 

「ニンフィアッ!!」

 

「ふぃぃ〜!」

 

 マフィンがしのびポケモンゲッコウガを、ホタルがニンフィアを繰り出せば、トレーナーの容姿的な雰囲気からどこかミスマッチ感が漂う。

 女の子と見紛うプロポーションのマフィンがニンフィアを、厳格なムードをストレートに放つホタルがゲッコウガを繰り出す方がよほど自然と見えた。

 

 

 

「よーく見ときなよ1年生諸君。ウチの大将と副将の戦いぶりをね」

 

 ナギがベンチに座り込み、リラックスながらにリコたちに話す。

 その口ぶりには2人に対する絶対の信頼が見えたが、イマイチピンと来ないのはリコとロイだ。

 

「実際のところ、マフィン部長ってどれくらい強いの?」

 

「うーん……?」

 

 ロイの問いにリコは答えられない。

 共に今月から入部したばかりの新参者な上、練習でも基本的にマフィンはロードワークにまるでついて来れてない有様なのだ。正直なところ、その実力に関して懐疑的になってしまうのも無理ならぬことである。

 

「どんなもんなのドット?」

 

 この点に関してはアンもマフィンの実力を直に見るのは今日が初めてなため、何度か先当てバトルをやっているドットに聞くよりない。

 

「……見てれば分かる」

 

 そのドットからの返答が素っ気ないものなのは、予想の範疇であった。

 アンは、ニヘラ、と苦い笑みを浮かべるよりなかった。

 

 

 

 150cmにも満たない小さな体には余すことなく嗜虐心と暴力性、そして他者を見下す悪意が詰まっている。サンゴという17歳の少女を的確に示すならば、これ以上の表現は見当たらない。

 アゲハントよ、キレイハナ、よとひたすら両親に可愛がられて育った少女の自尊心は肥大化の一途を辿り、義務教育の中で外付けの愛嬌を仮面として被る術を身につけ、それが叩き潰されることはなかった。

 

『おお! ユキワラシか! 進化したオニゴーリはあのマサラタウンのサトシも愛用しているポケモンと聞いたことがあるよ。』

 

『そんなすごいポケモンと仲良しになるなんてさすがサンゴちゃん。お父さんもお母さんも鼻が高いわ。』

 

 最初のポケモンのチョイスもまた、サンゴの増長を大いに助けた。

 確かにサンゴはポケモンバトルにおいて尊大な自尊心に見合う才能を持っていた。ただ、それは決して世界を獲り、己が自尊心を満たしきるに足りるものではなかった。

 14歳の折にポケモンリーグの地方予選に出場したのはいいとして、結果は1回戦敗退……負けた相手がそのまま優勝を掻っ攫ってゆく強豪トレーナーだったらばまだ面目も保てたことだろう。

 が、敗れた相手は2回戦であっさりと敗戦し、その相手もまた次の試合で惨敗を喫しての繰り返しは、それまで振りかざしていたサンゴの自尊心を念入りに粉砕した。

 そこからサンゴの生きる場は裏街道へと流れ、剥き出しになって振るわれ放題であった暴力の中に見え隠れする才能の残滓をエクスプローラーズに買われた。

 その構成員となるための教育として、エクシード学園に放り込まれることとなった。

 サンゴとしては、自分が好き放題できるような力を手にし、引いては自分をコケにしたバトルの世界を逆にコケにし返すことをゆくゆくの目標として定めていた。

 

『先手必勝じゃん?』

 

 サンゴは嗤う。

 カントーの強豪校として『トキワ台中学』や『タマムシ大学附属中学校』の名は小うるさいスピネルから聞かされており、今後練習試合が組まれているが、セキエイ学園などという名はまるで聞いたことがない。

 弱小校相手など軽く捻り潰してやろうと嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

 

「オニゴーリ、ふぶき〜!!」

 

「おんにぃ〜あ!!」

 

 オニゴーリは全身からこおりエネルギーを物質化させたブリザードを発生させる。

 

「うわわ!?」

 

 一応はタッグであるジルへの配慮など微塵もなかった。それでいてジルがミスをしようものならサンゴが一方的にキレ散らかす。

 こんな理不尽が罷り通るのが、エク学の実力主義なのだ。

 

『あーッとサンゴ選手速攻! オニゴーリの強烈なふぶき攻撃だーッ!!』

 

「ホタル」

 

 マフィンに頷くホタルはサッ、と右手を突き出し、ニンフィアを突出させる。

 

「ニンフィア! ひかりのかべ!」

 

「ふぃい〜!!」

 

 ニンフィアのボディが発光すれば、それがそのままドーム状の防壁としてブリザードを四方八方へと散らしてゆく。

 

 

 

「う〜、ちべたい!」

 

 その余波の幾らかは客席にも伝わり、最前列にはひんやりとした冷気が走る。

 

 

 

『ゲッコウガはこっちを狙ってくるはずだが……』

 

 じめん、いわの2タイプを持つサイドンを扱うジルにとって、いわゆる4倍弱点を突いてくるみずタイプのゲッコウガを警戒するのは当然の帰結であった。

 ふぶきが収まれば仕掛けてくるに違いない、そう思い身構えるのだが……

 

「な、なにィッ!?」

 

 ジルを驚愕が襲った。

 

「あ? 何喚いて……ッ!?」

 

 サンゴが苛立ちの視線をジルに送り、ひかりのかべのドームの内部を凝視する。

 そこにいるのはニンフィアのみで、ゲッコウガの姿が消えていた。

 

 

 

「始まるぞ……マフィン部長のトリッキーファイト」

 

 

 

 ドットが呟けば、オニゴーリの背後にて浮き上がる影が二足歩行のカエルのフォルムを作り上げてゆく。

 サンゴは、完全に不意を突かれた形になった。

 

「ゲッコウガ、かげうち!」

 

「こがぅ!」

 

 ファーストアタックは、マフィンのゲッコウガ。影の中で蠢き、オニゴーリの背面に強烈な回し蹴りをぶち当てた。

 




 『サンゴ』
 17歳。エクシード学園1年生。
 一度デビューしてリーグ本戦まで行きはしたがそこで挫折したトレーナー。わがまま放題で自己中心的なチンピラ気質がある。
 パートナーのオニゴーリは経歴に見合った『オニ強さ』を秘めているぞ。
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