互いに譲れぬもの同士、決死の攻防の果てに勝ち抜くのはどちらか? 決着の時は近いのであった。
『あーッと! ニンフィアがいません!! バンギラスの強烈すぎるギガインパクトを叩き込まれたはずのニンフィアの姿がどこにもありません!!』
「んばぁ……!?」
バンギラスが振り下ろした右拳を顔の前へ運び、不思議そうに首を傾げる。
『感覚としての手応えはなし……つまりはみがわりを盾にした訳ではない。第一、みがわりならばみがわり人形なりニンフィアに模したダミーエネルギーの残滓が舞うはず。なにより輝き続けるテラスタルジュエルを被ったまま隠密行動など出来ようはずもない』
『ギガインパクトは命中していない』……ジャキがそう結論付けると同時であった。
「ニンフィアッ!!」
バンギラスの背後よりリボンが放たれ、背中方面へ伸びていた6対の棘の中段へ結びつけられる。
「ぬううッ!?」
「ふぃぃぃあッ!!」
リボンを短く巻き戻す要領で、地中からニンフィアが飛び出した。その勢いから間違いなく健在であることを満場へ示した。
『あーッとニンフィアは無事!! しかもすかさずメガバンギラスの背面を取ったーッ!!』
『ニンフィアの両前足が土で汚れている……あなをほるを使ったのか。だがしかし、本場のじめんタイプではないニンフィアが素早く地中を移動し、バンギラスの背後へ回るにはそれだけでは……』
「なるほど、そういうことか」
セキガクメンバーで最初に全てのカラクリに気付いたのは、やはりマフィンであった。
「さっき、サンダースがかみなりを連打していたのは闇雲に攻撃していたと見せかけて、実はフィールドの地中へニンフィアが潜りやすいように入口となる表土部分を柔らかくしていたのさ」
「じゃあ、シャワーズのあまごいも掘り進めやすくするために地面を濡らしてたとか?」
「それもある。だけどメインとしての狙いは別にあるんだけど……」
「……バンギラスの誘引」
ミコへの返しを言い終える前にキラリがポツリと呟くのでマフィンは指を鳴らしてみせた。正解の意である。
「あの娘は最初から、バンギラスを釣り出してニンフィアで仕留める算段だったわけか」
「多分ねー」
同じニンフィア使いとして、ホタルはボタンの立ち回りを大いに参考にすることとした。
「凄い……!」
一連の戦術の集合体を大きな戦略として、ボタンが最初からバンギラスをターゲットとしていたことにリコは唸った。
初手の段階から相手を倒すプランをパーティ単位で緻密に組み上げているボタンの思考力に圧倒されてしまっていた。
バンギラスの背中の棘中段部分へリボンを巻き付け、ピンと張った形でその中央部にニンフィアは姿勢を固定している。
「ば、ばがぁ〜!」
当然バンギラスとしては振り解くより選択肢がないのだが、震わせる体の動きにはイマイチキレがない。
「くッ……ギガインパクトの反動が、まだ……!」
バンギラスのギガインパクトは、ニンフィアを捉えてはいなかった。だが間違いなくその渾身の右拳はフィールドを打ち付け、全体の表土をひっくり返すほどの大破壊をもたらした。
コレによりギガインパクトが持つ技としてのデメリットである反動が発生し、バンギラスの全身は強制的なクールダウンを余儀なくされていたのだ。
ここも含めてボタンの想定通りではあった。
「あとは決めるだけ……テラスタルパワー、全開ッ!!」
「あああああ……!!」
ボタンの号令に合わせテラスタルジュエルが激しく発光。同時にニンフィアが口を開けエネルギーをチャージする。
「くらえ!! はかいこうせんだあああッ!!!」
「ふぃあびびびびびぃあああッ!!!」
必殺の念を込めてボタンは右手を突き出す。
ニンフィアのチャージした光線はノーマルエネルギーが赤熱化することで最初は橙色の放出を見せる。そしてすぐに橙色がフェアリータイプの象徴色であるピンクへと変わっていった。
ノーマル技のはかいこうせんが、フェアリー技としてバンギラスの背に突き刺さった。完全に急所へ直撃した。
「ばンがががががぁ〜!?」
「ぐぬうッ……!!」
『ニンフィアのフェアリースキンはかいこうせんが決まったーッ!! 効果は抜群だーッ!!』
『それだけに留まらないよ。メガバンギラスの背中の裂け目はエネルギーの排出器官になっている。そんなところへ弱点となるエネルギーの奔流を叩き込まれたら……』
「コレがうちと!! ブイブイたちの!! 全力の輝きだあああああッ!!!」
「ふぃあああああらあああああッ!!!」
はかいこうせんを叩き込まれ続けることでバンギラスの背面にあるエネルギーの排出口から爆発が起こり、轟音とともにモヤが見るもの全ての視界を奪った。
「「「「筆頭ッ!!」」」」
「「「「マジボスッ!!」」」」
双方ベンチからそれぞれのメンバーが死闘を繰り広げる我らが大将へ呼び掛ける。
「ほー……」
ナンテ監督は目を丸くし、キハダ監督はゴクリと生唾を飲み込んだ。
『さぁーモヤが晴れてきた先の光景とは如何に!? 決着か!? それともまだ死闘が続くのか!?』
「あ、あぁ〜ッ!!」
モニター越しの光景に指を差し、驚愕のままに声をあげるのはやはりロイだった。
「ふぃぃッ……!」
はかいこうせんを撃ち終わり、爆風に乗る形でリボンを解き、バンギラスから離れて着地したまではよかった。
今度はニンフィアのボディが身動きのままならない状態に陥っていた。ギガインパクト同様、はかいこうせんもまた避け得ぬ大きな反動からのクールタイムを要求する技だからだ。
「どうだ……!」
「見事なり」
ジャキの言にボタンの全身を飛び上がりそうなほどのショックが襲った。背筋が冷え、ブルルと震える。
モヤが晴れた先には、仁王立ちのままのバンギラスがいたからだ。
『た、倒れませんバンギラス!! なんという耐久力!! なんという執念!! 見事ニンフィアの最大パワーの一撃を、ボタン選手必殺の方程式を耐え抜きました!!』
『いや……アレは……』
言葉を濁すカブ。その理由、認めたところはすぐに表面化した。
「……ッ!?」
確かにバンギラスは立ったままだった。が、メガエネルギーが体内から放出されることでメガシンカは解除されていく。
対するニンフィアは、息絶え絶えながらも頭上のティアラは健在。
審判がフィールドインし、バンギラスの円周囲からチェックを重ねれば、その場で宣告を下した。
バンギラスは、立ったまま意識を失っていた。それこそが『帝王』と称される男のポケモンとしての矜持であるとばかりに。
「バンギラス、戦闘不能! ニンフィアの勝ち!! よって勝者、オレンジアカデミー1年ボタン選手!!」
「ふぃ……?」
「えっ……?」
勝ち名乗りを受け、主従でリアクションが重なる。
「俺の負けだ、オレンジアカデミーのボタン」
ほんの少しの沈黙をボタンはジャキと共有する。そこからすぐにボタンはスター団の皆に取り囲まれた。
「やったじゃんマジボス! 大勝利!!」
「マジボスの見事ないくさぶり、このシュウメイ感服致した!!」
「オレ以上にピンクしてるじゃん。流石マジボス」
「オレは最初からからこうなるに決まってると思ってたさ」
生きた心地のしなかったところから勝ちを実感し、ボタンは全身を打ち震えさせながら両腕で星を描くジェスチャーをし、
「勝った……! うちたちが勝ちまスターッ!!」
そのまま天高く両腕を振り上げた。全身より飛び散る汗が眼鏡を濡らすのも気にならなかった。
「すまん。貴様らの信頼と期待を裏切った」
「何を仰ります。最後まで堂々と戦い抜かれたそのお姿、我ら至天王生涯忘れませぬ」
瞑目し、背より感じるメンバーたちへジャキは敗戦を謝罪し、エイケイが代表して返答する。
悔しくないはずはない。それでもアサギ塾の誰もが穏やかな表情でジャキを出迎える。真剣勝負の果ての結果だ。受け入れねばポケモントレーナーの名折れであるからだ。
1つの青春が幕を閉じるのを、ナンテは黙って見届けていた。敗れこそすれど、教え子たちは確かに大切なものを学び取っていたのが嬉しかった。
『準決勝第1試合は2勝1敗でオレンジアカデミーが勝利し決勝進出!! 前回王者のアサギ塾は準決勝で姿を消しましたーッ!!』
「やっぱり、オレンジちゃんたちか。シングル2のアレがドラマチックだったもんな」
ナギが呟くと同時に控え室のドアが開く。
「セキエイ学園の皆さん! 入場準備お願いします!」
「はい。よし、行こうみんな! 次はボクたちの番だ」
「「「はいッ!!」」」
「ウス」
ホタルの号令に1年生たちがそれぞれ応え、セキガクバトル部は控え室を後にした。
次にここに戻る時は、決勝進出を決めてからだと皆で共有しながら……。
『さぁ第1試合を戦い抜いた両チームが引き上げ、清掃ロボットロトムによるフィールド整備も済み、いよいよ第2試合が始まります!』
「ぷくく……! 前回王者とか偉そうにしてたくせに、いざ負けちゃったら声も出ないでやんの。鬼ダサッ!!」
引き上げるアサギ塾に対し、入場口ですれ違うエクシード学園のサンゴから嘲笑が投げ付けられる。が、そんな安い侮辱に激昂するジャキでも至天王でもない。
アメジオは、敗れてなお凛と背筋を伸ばしたまま立ち去る彼らの姿に色褪せることのない王者の風格を感じ取っていた。
「いくぞ」
誘導スタッフのGOサインに従い、アメジオは先頭を行く。そこにサンゴらは無秩序に続いていった。
『さぁ西口より出てきましたグループC通過のエクシード学園! 予選は1年生部長兼キャプテンのアメジオ選手を温存しながら全戦全勝で突破し、強豪校の仲間入りを果たしておりますこのチーム!! 準決勝でも有無を言わせぬ強烈な戦いぶりを発揮するのでありましょうか!?』
『なんだか少し尖った印象を持ったチームだね。マリィちゃん一筋のエール団みたいな』
「そんな可愛い連中ならいいんだけどね、っと。どうやら間に合ったみたいだ」
カブの解説としての言に軽く反応しながら客席にやって来たのはシゲルだ。
チャンを連れてホテルを出たはいいが運悪く渋滞に巻き込まれてしまい、ようやくスタジアムに到着したのだ。
『続きまして東口より入場して来ましたはセキエイ学園! Dグループでの2戦はいずれも3戦目までもつれ込みながらもしっかり勝利。元ジョウトチャンピオンであるワタル氏在籍以来、41年ぶりの全国制覇を狙います!!』
「セキガクー!! ファイトー!!」
「ほほーう!!」
いつものように客席最前列より前のフェンスへ齧り付くようなポジションを取るチャンとオドリドリだが、いつもと違うのはその出で立ちであった。
黄色と白のチアリーダー服はチャン自身のお手製で、オドリドリと一緒にこれまた手製のポンポンを振るう。
本来ならば予選の時点で間に合わせる予定だったのだが、そこは初めての裁縫で不慣れな部分の目立つチャンの手際の問題であった。
ともあれセキガクにとってたった1人と1体の応援団が華やかな装いとなったのは確かだ。
そんなチャンたちのエールを受けながらセンターサークルで一列に並ぶセキガク、純白のユニフォームに相対するは漆黒のユニフォーム……エク学メンバーの視線は冷ややかで、どこか格下を見下す類のものであった。アメジオを除いては。
「練習試合の結果は何かの間違いだし! あれからオニ強くなったサンゴちゃんの実力思い知らせちゃうから!」
「今日はよろしく頼むぜアメジオ」
「はい。よろしくお願いします。マフィン部長」
「サンゴちゃん無視すんなや!! オニムカつく〜!!」
マフィンとアメジオは、サンゴを無視してにこやかに言葉を交わす。
サンゴが激昂する中審判がコホン、と咳払いをするのでオニキスはサンゴの首根っこを掴んで突っかかるのを止めた。
「これより準決勝第2試合、エクシード学園vsセキエイ学園の試合を行います!! 両チーム、礼ッ!!」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
儀礼に際してセキガクは全員腹から声を出しながら一礼をし、エク学で真面目な挨拶をしたのはアメジオだけであった。
「ま、今日はよろしくお願いしますよ」
「こちらこそ」
監督同士の挨拶も生徒たちとあまり様相は変わらない。スピネルの一方的に見下してくる視線をフリードは受け流していた。
そうしてモニターに表示される対戦オーダーは以下の通りだ。
ダブルバトル
インディ&ルーベラvsミコ&ロイ
シングルバトル2
サンゴvsナギ
シングルバトル1
アメジオvsリコ
控え
オニキスvsキラリ
「……!!」
リコの中で熱いものが一気に噴き上がった。宿命のライバル対決が叶うからだ。
仲間たちが連敗するなどとは、これっぽっちも考えていなかった。
『カブ』
48歳。ガラル地方エンジンシティのジムリーダー。キャッチコピーは『いつまでも燃える男』。
キャッチコピーの通りに若い頃から自己研鑽を欠かさず、ほのおタイプのエキスパートとして精進し続けている。
ストイックな部分の中に垣間見えるお茶目さが可愛らしいナイスミドルでもあるぞ。